虚数の中の君 作:むいてんぺん
________高専内、帳の中にて。
何故、東堂葵が虎杖悠仁に黒閃をキメさせようとしたのか。
伏黒恵は虎杖の動き、そしてその戦い方を見て、少しではあるが理解した。
「水面を叩いて姿を隠しての、迅速な蹴り技……しかも」
________
虎杖が死んでいる間に何があったかは知らないが、明らかに以前と比べて呪術師として次の段階に進んでいる……!
だが速いだけじゃ特級呪霊……花御には傷は付けられない、素の身体能力ではトップクラス、だがその動きのキレに呪力の動きがついて来れていない。
並の呪霊ならそれだけで祓えるとしても、特級にもなれば有効打になるとは言えない。
「時に伏黒、黒閃をキメた事はあるか」
「……
「そうだ。あの五条悟ですらそれは不可能……だが見ろ、
……は?
疑問を一度思考の隅にやり、伏黒は改めて虎杖を見て、気付く。
そしてそれは、目の前で相対している花御が一番良く理解していた。
________凄まじい集中力!
涎が出ている事に気づいてない様子で、ただひたすらに虎杖悠仁は集中した。
ただただ抑えたソレに怒りはなく、雲一つも雑念が無い。
それは数週間前、虎杖が不定期的に教えを受けてもらっている夏目鮮花に言われた言葉が、その雑念のない集中力を可能にさせていた。
「このままじゃ虎杖君はだめだめだね」
「そうっ……すか」
「一度、全てを忘れて。無心になりなさい、雑念が無いほど呪力の流れを掴みやすい」
「が、頑張ってみます!」
最初は何言ってるんだろって思ってたけど。
今はわかるよ、夏目先生。
________黒閃。
打撃との誤差0.000001秒以内に呪力が衝突した際に生じる空間の歪み。威力は通常の2.5乗。
黒閃を狙って出せる術師は存在しない。
だがしかし、黒閃を経験した者とそうでない者とは呪力の核心との距離に天と地程の差がある。
虎杖の涎が落ちる、その刹那に迫り来ると判断した花御は臨戦態勢を整え、そして虎杖はそれに向かって、その拳を振るう。
打撃との誤差0.000001秒以内に呪力が衝突した瞬間、空間は歪み________呪力は黒く光る。
『ナッ……!?』
黒閃、その黒い閃光はその呪力を迸らせ花御のガードの片腕諸共吹き飛ばす。
今ここに虎杖悠仁は黒閃を経験し、成った。
「今のが黒閃……!」
自身に満ちる呪力の流れを、今までとは全く違うソレに虎杖は困惑する。
呪力の“味”、黒閃を経て呪力という食材の味を理解した虎杖は、呪術師として3秒前の自分とは別次元へと立っている。
それを伏黒はその目で観測し、そして一度目を閉じた後、大きくため息をついて________虎杖悠仁の隣へと並んだ。
そして東堂葵もまたそれが自然である様に、反対側の虎杖悠仁の隣に並ぶ。
「俺の呪力はさっきの戦闘で大分減ってる、あんま当てにすんな」
「おっけー……うげっ、治んのかよ腕……!」
「呪霊の体は呪力で出来ている、人間と違い治癒に高度な反転術式は必要ない。特級ともなればあの程度の怪我わけないさ」
「だからって確実に呪力は削れるし
「その通り!さぁ調理を開始しようか!」
三位一体、それぞれの戦闘準備が始まる。
そしてそれは、明確に自らの体に傷を付けられた花御もまた、その刃を尖らせることを決定した。
『あなた方には多少本気を出した方が良さそうだ』
迫り来る呪力のおこり、地面から急成長する様に聳え生える広範囲の木の根が虎杖達に向かって襲いかかる。
ソレを虎杖、東堂は自らの身体能力で木の根の上に、伏黒は「鵺」を呼び出す事によって上空に飛ぶ。
強大な木の根から生えるように現れる花御にいち早く察知した虎杖と東堂は背後を向いて、間髪入れずに放出される極小の木の根を体を捻って回避し、反撃。
________重い!
両者の拳を受け止めた花御はその拳の重さに驚く。先刻の黒く光る打撃程ではないが各々が確実に私にダメージを与えるだけの威力がある。
花御の意識が虎杖と東堂に向かう。
その意識の外から現れる、第三の牙が花御の意識の外、上空から降り注いで、影絵をその手に組みながら声を出す。
「合わせろ!」
その短い声に虎杖と東堂は瞬時に花御に向かって駆け出す。
上からの声に花御が上空からの襲撃に気付いた頃には、既に伏黒の影絵は完成していた。
________特級呪霊相手に何処まで
「満象!」
空から飛来する強大な式神。
その質量を咄嗟に花御は両手で受け止めた。
アフリカ像の体重は成体で3〜6トン程の重さにもなる、実際の生物ほどリアルに再現されている訳ではないが、しかし十種影法術によって生み出された満象であってもその重さは呪霊である花御であっても両の手で受け止めなければならない程で。
________っまずい!
虎杖と東堂の拳が花御に向かうよりも先に、足場にしていた木の根がパッと瞬く間に消える。
実物に呪力を通し操っている訳ではなく、今までの質量の全てが花御の呪力で具現化、顕現させたもの。
呪力の指標が満象に向かうのを察知した伏黒は即座に式神を影に戻して破壊されることを防ぐ、ソレ自体が花御の目的。
フェイク。本命は重力に逆らう術の無い下に落ち続ける呪術師二人!
「っまずい、避けろ!」
「「ブラザー!」」
花御が足場にしている螺旋に丸まった木の根から放たられる鋭利な木を、両者のタイミングを合わせて足と足を合わせて互いに蹴り出すことでその攻撃を躱す。
花御は上空に飛ぶ伏黒のマークを外していたつもりは無い。しかしソレでもなお攻撃の隙を見計らいって鵺の背に乗りながら、伏黒自ら攻撃を加えようと接近する。
迫り来る式神使いに反撃をするように意識を向けたその瞬間、花御の視界が白に染まる。
「脱兎」
圧倒的な物量により視界を奪い、押し潰す様に現れるソレもよって足場から体が上空に浮かぶ。
無防備、チャンスと捉えた伏黒が影から呪具を引き出すのと同時に、より早く花御が木の根を操って追撃をされるよりも早く地面へと着地する。
________先程の攻撃を躱すあの二人、そしてこの黒髪の式神使いの攻防!だがなんだ、この気持ちは!
いつかに言われた、仲間である真人の言葉が蘇る。
気付けば欺き誑かし殺しいつの間にか満たされている、人間が食って寝て犯すようにこれが呪いの本質だと語り、俺達は理性を獲得したかもしれないがでもそれは本能に逆らう理由にはならないと。
まさにその通り、あの時の言葉が理解出来てきた。
真人、私は今________戦いを楽しんでいる!
「ッ!」
特級呪霊のギアが段階を上げていくのを伏黒の経験が、虎杖の嗅覚が、東堂の頭脳が。
それぞれ三者が異なる理由で察した。
地面に降りた花御が自然の花弁を展開させて虎杖と東堂に飛ばす、ソレに気取られ、一瞬の隙が出来た瞬間を見計らって地面から木の根の質量にて猛攻を開始する。
迫り来た木の根を回避し防ぎ、だが止まらない質量を、だがそこに伏黒が召喚した満象による水流の質量と相殺させる
呪術師と呪霊、互いに仕切り直しの状態。
「やるな伏黒!大丈夫か虎杖!」
「
「重畳!では、俺の術式を解禁する……!」
「は?!使えるなら最初から使って下さいよ……ッ!」
「逆に伏黒は使い過ぎだって!呪力大丈夫なのかよ」
「これ以上満象は使えない、だから任せるぞ虎杖」
「押忍……ッ!」
________第二ラウンド開始。
その最初のコングは花御による、東堂の動き出しに合わせた地面から生えた木の根。
木の根のうねりが東堂の体を大きく吹き飛ばし、それに気を取られた虎杖の前に向かって花御は拳を突き出した。
その拳を伏黒が両の腕でガードし、目の前に現れた花御に反撃を試みる虎杖その攻防はしかし、パンッ!という音がした瞬間止まる。
花御は自ら生み出した木の根の棘が全身に刺さっており、虎杖の拳が何故か東堂の頬を殴っていた。
「東堂!」
そうか、入れ替え……!
伏黒、そしてその術式を体験した花御はほぼ同じタイミングでその術式の正体に気付く。
「そう、俺の術式は相手と自分の位置を入れ替える
東堂は虎杖、伏黒と位置を入れ替えながら花御へと接近する、パンパンと手を叩く音が空間を支配していく。
________東堂という男と他2人の体格差、入れ替わり後の差異が大きい!私と入れ替わるか宿儺の器と入れ替わるか伏黒と呼ばれている少年に入れ替わるかの三択で思考が鈍る!
まずい、これは。
抜け出せないッ!
そしてこの瞬間、まるで測ったかの様に虎杖悠仁の集中力が増していく、それをいち早く察知した花御は、
だが黒く光るその空間の衝撃、虎杖悠仁の打撃は、その呪力の守りを破壊する様に叩き出す。
________黒閃。
そして、立て続けに放つ、二度目の黒閃。更に集中を加速させた虎杖悠仁の拳は、三度目の黒閃を成功させる。
『調子に乗るな!』
受けきれない事を悟り守りを反撃にシフトチェンジさせた花御の視界に、東堂の姿が現れる。
手と手を合わせようとする動き、位置の入れ替え________今警戒すべきは。
そう判断をし、音が響く、しかし花御の視界にはそこには入れ替わると思っていた虎杖の姿はなく。
「手を叩いたって術式を発動するとは限らない、単純だけど引っかかるよな」
その言葉と同時に、虎杖悠仁の放つ拳は黒い閃光を生み出し、四連発の黒閃を成功させた。
________決め切れる。
黒閃の連続成功を決めた虎杖を見て伏黒恵はセーブしていた自分の呪力を解放する。それは今まで出さなかった式神、伏黒恵の切り札の一つ、貫牛。
”距離を取るほど威力が上がる突進“の縛りを持つその式神を、10メートル先に召喚し、自らに向けて突進する様に命令する。
その様子を見た東堂はニヤリと笑って手を叩く、花御は自身と伏黒の入れ替えだと察知し呪力で身体を守る。
入れ替えが発動する、だが花御は予想外にも目の前に伏黒がいた事に驚く、その思考の隙にもう一度手を叩く音がした。
________まずい!
背後を振り返るとほぼ同時に、貫牛の突進が花御の体を吹き飛ばし、その質量が呪力を含めた肉体をボロボロに破壊する。
追撃あるのみ、誰よりも先に虎杖は花御に向かって駆け出し________その駆け出した動きを東堂が抑えた。
「東堂?!何で止めんだ」
「見ろ、大地が萎れている」
吹き飛ばされた花御が身体を呪力で再生させながらも、肥大化させた右肩に位置する花のようなものから、瞳が生える。
『植物は呪力を孕みません、私の右腕は植物の命を奪い呪力へ変換する。それが私に還元されることはない、その全てはこの供花へ』
出来る事なら使いたくなかった。
だがこれ程追い込まれては、もはやそうも言ってられない。
あの東堂という男の術式では簡単に避けられるでしょう、だからこれはダメ押しの________呪術戦の極地。
『領域展開』
瞬間、漂う圧倒的な呪力量に虎杖は危機感を覚え、何が来てもいい様に臨戦態勢を取る。
それよりも早く東堂は思考よりも先に、簡易領域を展開する構えをする。
その簡易領域よりも早く、伏黒恵は両手に握り拳を作り、指を交互に組むような形で構える。
意思疎通が出来る程の特級呪霊、その奥の手はきっと“ソレ”だと踏んでいた。
だからこそ伏黒は領域展開を発動させる事が出来る限り限りの呪力量を山勘で見極め、そして今発動しようと掌印を結ぶ。
「領域展開……!」
これは賭けだ。
過去、一度だって伏黒は自身の領域展開を“完全”に成功させたことはない。
未だ不完全、されど領域展開に対する対抗策は領域展開に他ならない。
________覚悟はとっくに決まってる。
感情を読み解く事の出来ない花御のその顔は何処か悲しげで、しかしそれ以上に戦闘での愉悦故の嬉々とした声で。
対して伏黒恵は今までの表情とうって変わって、吹っ切れた様にその表情に狂気が混ざった様な笑みを浮かべて。
『朶頤光海!』
「嵌合暗翳庭!」
互いに領域が衝突する________枯れ果てた木の根が生え大地を彷彿とさせる精霊に近しい類の呪霊花御のその生得領域と、人骨のようなものが浮き周囲を黒く染める、伏黒恵の生得領域。
その二つが互いに衝突し、反発する。
その光景を東堂は目で、耳で、肌で、その五感で感じ取って________その感情を爆発させた。
それは虎杖もまた同じ事。領域展開がどういったものなのかを知っているからこその、その驚愕。
「何という……!
「伏黒お前凄ぇよ!」
「良いからさっさとあの雑草祓うぞ!領域勝負で長くは保たない!」
『バカにするな________人間風情が!』
最終ラウンド、恐らくこれが最後の戦い。
互いのボルテージが上がりきったこの状況、この戦況。
呪術戦のその極地は________しかし。
外部からの強烈な一撃により崩壊を告げる。
『________なっ!』
花御は何が起きたのかを瞬時に悟った。
既に降りた帳。その上空に目隠しを解き両の手を構えている五条悟。
逃走、ソレを判断すると同時に。
虚式・茈。
蒼と赫を衝突させることで莫大な仮想質量を発射する呪術、その圧倒的な破壊の衝撃が。
大地を飲み込み花御諸共地表を分断させる一撃が降り注いだ。
☆
________決着より7分前、”扉“前にて。
さて、仕事の時間だ。
七海健人は改めて気を引き締め、呪力を巡らせた。同じく特級呪霊真人もその顔を邪悪に歪めながら呪力を昂める。
互いの勝利条件は必ずしも
呪い合いは始まりを告げるのだ。
「ヒャ________ハハ!」
________虎杖悠仁と違ってこの七三術師は俺の魂の輪郭を攻撃する事はできない!故に特攻、攻撃あるのみ!
より高い殺戮のインスピレーションを、先手を取った真人は身体を変形させながらその両碗を鎌の様に変形させ飛ばす。
それに対し七海は手に持った呪布を巻いた鉈を振り迫る攻撃を防ぎ、冷静に相手を見極めながら言葉を投げかける。
「十劃呪法、対象の長さを線分したときに7:3となる点に弱点を強制的に作り出す」
「知ってるよ!必死だな七三術師、術式の開示をした所で俺にダメージは与えられないだろ?」
戦闘が加速する、大小様々に変形させ、その身体をより命を刈り取る刃に近付けて目の前の呪術師を殺そうと向かう七海に対し、最小限の肉体操作でその猛攻を防ぎ、裁く。
________予想通りだ、この呪霊は戦いを愉しむ。この扉の先の目的よりも優先して私を殺しにかかってきている。
形成された真人の螺旋状に回り飛ばされた腕ドリルに向け、鉈を振り下ろし7:3となる点を精密に当てて腕ごと真っ二つに破壊させる。
通常ならば深手にもなる程の一撃はしかし真人の魂にまでは届かない、しかし七海にとってはそれは最たる重要な所ではない。
目的はあくまでも時間稼ぎ、そしてこの扉の先に向かわせない事だ。だからと言ってこのまま拮抗した所で時間が進めば進む程に、呪霊も冷静さを取り戻して私の優先順位を下げるだろう。
ならどうすれば良いか?七海は思考を続けながら、一つの結論に辿り着いて言葉を続ける。
「……今日は、本来休日の予定でした」
「っはは!ここで死ねば永遠に休日になるね!」
「日本の悪しき文化ですよ、
そう言って放たれた鉈の一撃が、しかし真人が反応するよりも早くその動体に振るわれ、真人の肉体の大部分を削り飛ばされる。
________呪力量が変化している!
魂まで届かないとはいえ吹き飛ばす程に威力も増された七海健人の今の状況に既視感。
以前戦った時の最後に見せた時間による制限と似ている、休日って言ってたな……ははっ!そういう事、日にちによる縛りか!
前以て襲撃が来ると仮定してこの日を休日に指定すればその芸当も可能なのか________真人は楽しそうに頷きながら、一度身体を元の形に戻して攻め手を考えた。
その思考を、一級術師まで上り詰めた七海建人はただ黙って見逃す程優しくない。
弾丸の様に一直線に、思考中の真人に向かってその身体を動かす。それは真人にとって予想外の動き出し。
蔵に侵入させないように扉前に居座っていると決め打っていた故の慢心。
向かってくるならカウンターを合わせて魂に触れる、そう考えた故の待ちの姿勢、初動が遅れて七海の次の行動が読めなかった故の真人のミス。
真人に向かって駆け出した七海はしかし、真人の間合いよりも少し前で急停止し、その両方の拳を地面に打ち付ける。
「っそれがあったね!」
十劃呪法・瓦落瓦落。
破壊した対象にも呪力を篭める拡張術式、小規模な大地のクレーターによって生成された土塊の全てに呪力が流れる。
それに対し真人は肉体をバラバラに弾かせてこの場から一時的に姿を消す。
________ッ、追い込み過ぎたか!
即座に扉前に戻ろうとして動き出した七海のその頭上に、弾け飛んだ真人の肉体が生成される。
両手を翼の様に変形させ、両脚を尖らせて七海の頭上から攻撃を開始する。
その両脚の攻撃を鉈で捌きつつ、ニタリと嗤うその表情を見て、危機感。
「________ッ!」
「あっは……っ!よく気付いたね!」
七海の視界の隅、横から豪速球に放たれた様な真人の肉体の一部分、ソレを間一髪の所で気付き鉈で弾く。
弾いた際の体勢がそのまま隙に繋がり、地面から降りた真人は肉体の変質を速度重視に変形させて一気に七海へと肉薄し、インファイトが展開される。
ここに来るまで、真人は貪欲に戦闘を愉しんだ。以前の虎杖悠仁との戦闘、その際に感じた死のインスピレーション。
それによる呪いとしての強さの段階は、その戦闘が長引けば長引く程に開花され、その速度を、ボルテージを上げ続ける。
インファイトが始まってものの数秒、その数秒で次第に、段々と七海の近接戦闘力を真人が上回り初める。
「気張れよ呪術師ぃ、死んじゃうぜ!」
事実、真人の接近戦は七海の防御を上回りつつある。
純粋な戦闘能力以上に、真人は幾ら身体が傷付き崩壊しようが魂に作用しない攻撃ならば幾らでも喰らっても良いのに対し、七海は一撃でも身体に食らうと一気に持って行かれる可能性があるからだ。
一度真人の攻撃を受けた際に、七海は既の所で魂を呪力で守る事に成功し、最小限のダメージに抑えたがそれは実力以上に運の部類が大きい。
持って4、5回。それが七海が予測した、真人の攻撃を受けても魂の変形を防げる回数。
これが純粋な呪い合いだったとしたら、七海建人は限りなく不利な状況だっただろう。
「5分」
「________……!」
「私とアナタが戦闘を開始して、5分経ちました」
冷静に言葉にしたその経過時間、終始冷静に行動を展開した七海と違い、真人はどこまでも目の前の事を愉しむ事を優先させた結果、制限時間という共通のソレの捉え方に差異があった。
七海が一目散にその場から「退避」を選択。
瞬間、真人は己が感じた確かな「寒気」の赴くまま、後方に離れその場所から離れる。
呪力のうねり、その生成される黒い
黒い粒子が辺りに無数に散らばり、衝突と共に呪力が“爆発”する。
濁流が渦巻く様にこの世に存在しない質量が、大地を、空を破壊し蹂躙する。
蹂躙された空間の中心から、初めからそこに存在していたかの様に、その虚数が実体を持ってその場に現れる。
それを最後まで見届ける事なく真人は一目散にその場から逃げ出した。
それは一度味わった感覚、そしてその時よりも遥かに呪霊としての段階が上がったからこそ、明確に理解させられるその呪力の濃度。
以前、領域展開時虎杖悠仁の乱入により、その器の中にある圧倒的な魂の質、呪いの王両面宿儺のそれとは違うといえども。
それに近しい呪力のうねり________無理無理!とっとと退散退散!
「逃走」その行動を最優先に取った、真人の第六感は正しかった。
「逃げ足だけは早いな、
黒い閃光、虚数の粒子砲が退散を続ける真人に向かって
地面に触れた黒い閃光が、衝突と共に”拡散“する、拡散された黒い粒子が真人に触れた。
触れた所が
真人はより小さく身体を変形し、身に起きた現象を一度思考の隅に置いて、捕捉されない様に縦横無尽に逃げに徹する。
他の仲間達と共闘してなら兎も角、自分一人で夏目鮮花を殺せると思うほど真人は驕っていない。
呪霊の本能は殺したい程に蠢くが、だからと言って何の無策で殺せる相手では無いと真人は分かっている。
________まっ、
潔いまでの逃避行は、しかし今回は特級呪霊の方に微笑んだ。
姿を眩ませていく真人に対して、虚数と共に現れた夏目はこのまま呪霊を追いかけるか、他の事を優先するかの天秤をどうするか数秒思考した後に決断した。
________呪霊を追うより先に優先すべきは高専生徒側だな。
「すいません、もう少し引きつけていれば」
「私が来るのが遅れた……五条君と合流する、七海は」
「私は高専に待機している他術師の安否を」
「さすが私の後輩」
そう言って夏目はその姿を”消す“、虚数による空間移動を展開した夏目に対し、七海もまた即座に駆け出した。
________クソっ!また、また逃してしまった……!
その怒りを、感情を抑えながら、その足を加速させて。
☆
________決着後、高専内にて。
ったく、どいつもこいつも無茶ばかり。
治す私の身にもなってよねーって話、まぁ良いけどさ、死なれるよりはマシ。
「ふぅ……」
一通り、今回の件で私の元に送り込まれた生徒含めた呪術師達を反転術式で治して、一息付く。
……生徒に死者が居なかったのは、本当にまだマシだったな。二級術師二人と、補助監督5人、コイツらは何死んでんだよ。
せめて私が治せる範囲内で傷付けよ、助けられねーだろ。
「お疲れ」
「鮮花じゃーん、報告会参加しねーの?」
「硝子ちゃんと話してる方が良い」
「嬉しいこというじゃん」
鮮花は壁側の椅子に座って天井を見つめる________珍しいな、いつもにやついて表情を隠している鮮花が、今この時は何処か悔しそうにしてるなんて。
「美々子と菜々子を拾ったのは私だし、枷だと思ったことも、後悔もしてないけどさ。自由に動けないのは苛々するね」
「任務ブッチすれば良いじゃん、いつもこっそりやってんでしょー?」
「今回は敢えて乗ってやった。私の動きを制限させたと思わせる前提で動いて、それは成功したんだけどね」
後一歩だったなぁ……って、珍しい反省か後悔かの感情を言葉に鮮花は呟いた。
……相変わらずその辺は真面目だよなぁ、鮮花。
五条も七海も勘違いしている、まぁ確かに鮮花は入学した時と比べると変わったけどさ、しっかり呪術師やってるよ。
鮮花の中での例外を除いた、呪霊と呪詛師に対してのスタンスは昔から変わってない。
だから呪霊を逃した事をしっかり悔しんでるのか。
「ねえ硝子ちゃん」
「なーに?」
「今日
「……ふーん」
「また似た事が起きたらそうする」
「そーなん、それでー?」
「硝子ちゃんはどう思う?」
どう思う、か。
なーんか昔にも似たような事、言われた気がするなぁ。
……ああ、そうだ、思い出した。呪術界の上層部を殺したとか何とか言ってた時だ。
あの時と似ているような問答に感じる。
「________別に何も?鮮花の好きにしなよ」
「……あはっ、そうだね」
まぁ何言われても、私が答えられることなんてこんな感じの言葉しかないけどね。
だから分かりやすい。夏目鮮花の行動指標に私を入れている事に。
だからって弱音も何も言わないけど、まぁ鮮花らしいっちゃらしいか。
あんまり悩むなよ。
どれだけ鮮花が何をしても、私は肯定してやれる事は少ないけど、否定だけは絶対にしないから。
私が鮮花の敵になる事は絶対にない。
この先何が起きても、絶対に。
ジャンプ本誌今マジおもろいからみんな見てくれ(宣伝)
ついでにマガポケもおもろいから見てくれ(エゴイスト)