虚数の中の君   作:むいてんぺん

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紫陽花-白-

 

 

 ________姉妹校交流会1日目、夜。

 

 

 高専の一室、僕以外は殆ど使わない部屋だから勝手に仮眠室って名付けてる場所に、僕と夏目は今後の方針について改めて話し合っていた。

 

 

「で、どうするの?姉妹校交流会」

 

「それを決めるのは僕たちじゃないでしょ」

 

「あはっ、それもそっか」

 

 

 

 若人から青春を取り上げるなんて許されていないんだよ。何人たりともね。

 

 それに限ってはどれだけ時間が経とうとも変わらない。三年間の青い春を同じ時間過ごして来たからこそ確信出来る、僕と夏目の共通認識。

 

 まっ続けるなら個人戦はやらないかなー、僕ルーティンって嫌いなんだよね、サッカーとか野球とかバスケとかの方が良いでしょ、学生らしくてさ。

 

 さーてさてどうやって学長とお爺ちゃんの目盗んでねじ込もうかなぁ……。

 

 ________ま、楽しい事は明日考えるとして。

 

 

「実際どうだった?京都の方のスパイは」

 

居たよ(・・・)?接触もした、でも五条君には教えなーい」

 

「はー?勘弁してよ、そういう嫌がらせは要らないんですけどー」

 

「嫌がらせじゃないよ、ちゃんとした理由はある」

 

「じゃあその理由を話せよ」

 

 

 まどろっこしいなコイツ。

 

 実際に会って接触したって事は、殺しては居ないって事になる。今更コイツに殺人がどうこうとかの気持ちはねーだろうし……最悪生徒側にスパイが居たとしても容赦なく殺すだろ。

 

 悠仁を殺そうとした殺意は本物だった。コイツの境界はソコ(・・)で測れない天秤にあるのは知ってる。

 

 だからこそ分かる事がある。そのスパイを使って何か計画しているな?それを僕に言わないのは普通にムカつくんだけど、ていうかちゃんとした理由って何だよ。

 

 

「目立つじゃん。五条君」

 

「そりゃイケメンキャリアマンですから」

 

「残念アホ目隠しの間違いでしょ」

 

「チビには分かんないかな〜?この溢れ出る出来る人間オーラがさ」

 

「大技使って呪霊逃した奴が何言ってんの?」

 

「……ッチ、そりゃ夏目もでしょ」

 

 

 膝蹴りが来たから無下限で防ぐ。はっ、思ったより気にしてんのか?ウケる。

 

 ……まぁこれに関しては僕も大人げないかな、結果的に夏目の言う通り襲撃が起きて、僕はその襲撃を止められなかった訳だし。

 

 ________あームカつく。してやられた、借りはぜってー返す。

 

 

「私なら兎も角、五条君まで出張ると呪詛師は絶対に現れない、よかったね五条君、それだけ最強(・・)にビビってるよ」

 

「嫌〜な言い方、性格悪い女はモテないよ?身長もちっせーし良い所ありまちゅかー?」

 

「顔以外の他全てが最悪の五条君よりはモテるよ?良い機会だから教えてあげるけど歌姫先輩、本気で五条君の事嫌いだからね」

 

「いやいや、それは言い過ぎ」

 

 

 ……え、何その呆れ顔。

 

 マジで嫌われてんの?夏目ならまだしも、この僕が?

 

 歌姫見る目なさ過ぎでしょ〜……ちょっと傷つくんだけど。

 

 

「まっ僕が嫌われてる嘘はさておき、このタイミングで高専側の呪物を集めるのに違和感があるんだよねー、なんか分かんない?」

 

 

 宿儺の指による悠仁の潜在能力強化の危惧か、呪霊達の強化目的か。そのどっちもなーんかしっくりこないな。

 

 別の目的があると考えてもその目的は何だ?それに七海が言うには天元様が呪物を隠している蔵に一直線にやって来たらしいし……心辺りはなくも無いけれど、その時何か仕掛けられたのか。

 

 どの道宿儺の指もそうだけれど、九相図の上から三つも盗まれた……呪物を受肉させるつもりか?九相図を盗んだ理由はそれで片付くかもしれないけれど________。

 

 

「指を集めきった時に虎杖君に与える為だろうね」

 

「そりゃ本末転倒ってもんでしょ、悠仁は宿儺を抑えられるんだよ?」

 

「時間を掛けたらね」

 

「……!なるほどね、一気に与えるつもりか」

 

「毒の消化が間に合わないその時間を使って両面宿儺の完全復活を促す、大方そんな所じゃない?」

 

 

 それなら辻褄は合うか。悠仁が吸収し切れないほどの毒を与えている間に、浮上してきた宿儺と何らかの縛りか、若しくは宿儺本人が何かしら行動して完全に悠仁を乗っ取る。

 

 出来ないとは言えない、だとしたらそのタイミングがいつになるか、ベストを尽くして残りのほぼ全ての指を回収した後なのか、それともそのベストを敢えて外して行動するのか。

 

「これについては良いよ、そこまで重要じゃないでしょ」

 

「他に何かあるか?九相図?」

 

「それこそ論外、受肉した所でレベルは知れてる」

 

「じゃあ何さ」

 

 

「次の行動だよ。帳の仕掛け見た?遠隔で起動させる作り方してたよ、試運転で使ったとしか思えないね」

 

 

 ________呪詛師(アイツ)が計画している目的を悟らない限りこのまま後手に回り続けるよ?

 

 

 いつも浮かべてる作りモノの表情を消して、遠くを覗く赤い目をここにいる()の目に視線を合わせてそう告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 ________その日は少し、いつもより暑かった。

 

 

「っおい今の絶対判定おかしいだろ!」

 

「格ゲーなら負けませんよ〜〜〜先輩っ!」

 

「くくっ……代わろうかい?悟」

 

「うっせーな……ッ!もっかいやんぞ灰原!」

 

 

 言い出したのは確か、五条君。

 

 楽で退屈な仕事ばっかでつまらないとか何とか言って、夜蛾先生に伝える事もせずに、後輩達も連れて遊びに行こうと言い出して。

 

 それなら良い場所があるって夏油君が乗り気になって、硝子ちゃんも暇だから私も着いてくかって向かい出した。

 

 

「……何で私まで」

 

 

 バカ共と後輩達がたむろしてる所から離れて、一人ため息と共に溢れ出す。

 

 五条君達が何してようが私には関係ないし、呪術師としての任務はこうしている間にもそこら中に転がっている。

 

 それなのに当然の様に私もカウントされて、まぁそれだけならどうとでも切り抜けられたんだけど硝子ちゃんに「え?来ないの?」って言われたら、断る訳にも行かないし。

 

 初めて来たなこんな場所、私の知らない世界、非術師達の遊び場は何というか……飾らない言葉で言うなら、品が無いな。

 

 ……嫌いじゃないけどさ、何も娯楽が無い世界よりマシだ。もう二度と絶対にあの場所には戻りたくない。

 

 死んだって戻ってやるものか、あんな場所。

 

 

 少し嫌な事を思い出して眉を顰める。

 

 そんなタイミングでペットボトルのお茶が視界に映った。

 

 

「________どうぞ、夏目先輩」

 

「七海君?良いですよ、気を遣わなくて」

 

「いえ、一本多く買い過ぎてしまいましたから」

 

「……じゃあ、貰っておきます」

 

 

 七海君らしい言い訳だ、一本多く買ったとか言ってる癖に、七海君の分が手元にないじゃんか。

 

 失敗したな、顔に出ないように注意しているつもりでも高専に入る前の事を思い出すとどうしても表情が顔に出る。

 

 良くない事だ、感情は外に出すモノじゃない。

 

 

「意外でした、七海君もこういう場所に来るんですね」

 

「先輩達の誘いを断る方が後が怖いので」

 

「断りたい時は断るべきですよ?」

 

「夏目先輩の時はそうします」

 

 

 正直な後輩だ。でも一つ勘違いしているね七海君、私が七海君に何か誘う時や相談事があったとして、じゃあ断らせるかって言ったら、そうさせないように言葉を選ぶよ?

 

 ふふっ……そんな時がない様にしたいけどね。他人に何かを頼まれるならまだしも、頼むのは好きじゃない。

 

 自分が起こした責任は自分が果たすべきだ、そこに誰かを連れていくなんて無責任な行動は、呪術師としてやるべきじゃない。

 

 結局最後は一人なんだ。

 

 高専に来て同い年の友達(五条君と夏油君はそれ以下)が出来たって、私に後輩が出来たってそれは変わらない。

 

 

 ________虚数術式使いの中に寿命で死んだ者は一人もいない。

 

 

 夏目家で産まれた虚数術師は必ず呪い合いの果てに死ぬか、虚数に適合(・・)しなくて死ぬか、夏目家の“基準”を越えられず惨たらしく行倒れるか。

 

 どの道平穏の中で死ぬ者は誰もいない。

 

 結局何処まで逃げても私は呪術師だ、だから何処かで何かしらの理由で呆気なく死ぬ。

 

 

 だって私は、五条君や夏油君のように最強じゃないから。

 

 硝子ちゃんの様に気楽にもやれない、灰原君みたいに前向きになれない。

 

 

「……私の顔に何か?」

 

「________いえ、何も無いですよ」

 

 

 七海君のように責任を負える事も出来ない。

 

 中途半端、私はきっと何者にもなれない。だから夏油君や五条君が簡単に祓えるような一級以上の、特級に近いような呪霊も祓えない。

 

 未だ二級術師の私の限界は、そこなのかな。

 

 

「お、いたいた。鮮花〜!煙草吸いに行こうぜー、七海も来る?」

 

「行きませんよ」

 

「じゃー買ってきてー、暇なんだろ七海」

 

「勘弁して下さいよ……そもそも未成年でしょう私も貴女も」

 

「金は格ゲーボロ負け中の五条にツケとくって言っても?」

 

「後で私が逆にイビられるパターンじゃないですか、余計嫌です」

 

「ははっ、ちがいねー」

 

 

 ……楽しそうだな、硝子ちゃん。

 

 羨ましいとは思ったことはないと思う、近くで笑ってる硝子ちゃんを見ているだけで満足出来るから。

 

 ただ、こんな風になれれば世界が少しは好きになれる?

 

 

 強くなれば、世界は変わる?

 

 

 

「________何しけた面してんだ?おまえ、んな顔するなら帰れば?」

 

「悟、全敗したからといって夏目に当たるのは良く無いよ」

 

「夏油君……と、何ですか?対戦ゲームで一度も勝ててない五条君」

 

「はっ、お膳立てって言葉知ってるか?ワザとだよわーざーと!」

 

「その割には熱心でしたね、離れてても声が聞こえましたよ。お店に迷惑ですから止めた方が良いですよ?」

 

「はいオマエ泣かす。灰原〜〜帳下ろしてくれね?このチビぼっこぼこにしてやるわ」

 

「そうやって直ぐに実力行使ですか、帳ぐらい自分でやれないんですか?御三家とも有ろう方が?」

 

「てめっ……」

 

 

「はいはい、二人ともそこまで」

 

 

 五条君の呪力が溢れ出した瞬間、パンっと手を叩く音を夏油君が起こした後に、私と五条君の前に割って入った。

 

 ……私は悪くないですけどね。向こうが勝手にヒートアップしてるだけ、第一私はチビじゃない、数年後には身長も伸びるし。

 

 

「先輩達、ここはゲーセンっすよ?喧嘩するぐらいなら遊びましょうよ!」

 

「私は喧嘩してるつもり無いですよ灰原君、勝手にあの人がキレてるだけです」

 

「どーでも良いから煙草吸いに行こうよ鮮花〜」

 

「一人で吸いに行きなよ硝子、こいつ今からスト2でボコす。これ決定ね」

 

「良いですよ?今日が初めての初心者に負けた時の言い訳が楽しみですね」

 

「くくっ、じゃあ負けた方が今日の夕食全額奢りにしようか」

 

 

 

 ________懐かしいな。

 

 

 確か、その日は初めて私達全員(・・・・)が集まって外に遊びに行った日だった気がする。

 

 結局五条君とは引き分けのままで勝敗の付かないまま夜になって、見かねた七海君が帰りの夕食を全部奢ったんだっけ。

 

 

「あはっ」

 

「どーしたん夏目?」

 

「呪術師が楽しく野球をしてる光景、夏油君が見たら歓喜して泣いちゃうんじゃない?」

 

「ははっ、ワンチャンある」

 

 

 ……今ならはっきり言える。

 

 どんな言葉で偽っても、あの日は楽しかった。

 

 

 _______姉妹校交流会、二日目。

 

 硝子ちゃんと一緒に、高専の窓の外から見えるグラウンドの光景を見て、まだ私が自分に素直になれない頃の昔の記憶を思い出した。

 

 五条君が口癖の様に言う「若人から青春を取り上げるなんて許されていないんだよ。何人たりともね」って言葉、珍しく意見が合う。

 

 楽しそうな彼らを見ていると、ほんの少しだけ笑顔になれる。

 

 もう二度とそこに戻る事は出来ないけれど、自分の中にも確かにあったたった数年の青さを、夏油君が最期まで忘れられなかったように。

 

 

 幾多の年月が経とうともその記憶を忘れたことはない。

 

 

 

 

 

 

 

 ________同年九月下旬、とあるファミレスにて。

 

 

 

「お、来たな野薔薇」

 

「あれ。真希さんにパンダ先輩、狗巻先輩じゃないっすか、先輩達も呼ばれて?」

 

「おうよ、何だろーな?」

 

 虎杖から話があるって言われたから来た。そしたら先輩達も居た。

 

 やけに深刻そうな顔してやがるから仕方なく、っつーか私じゃなくて伏黒に言えよって言ったら「伏黒には言えない話」とか言うし、何なんだ?

 

 珍しいっつーか一度もねーぞ、五条せんせーにも言っちゃ不味いかもとか言うし、逆に気になったわ。

 

 

「そんで俺達を呼んだ理由はなんだ悠仁ー?」

 

「________っじゃ、釘崎も来たってことで……話始めても良いでしょーか!」

 

「さっさと話せや、つまんねー話なら帰っから」

 

「お、おう」

 

 

 ごほん、と前置きを置いて虎杖は話し始めた。

 

 

「________伏黒に好きな人がいるらしい」

 

 

「「まじで?!」」

 

「おかか!」

 

「ほーう……?」

 

 

 何だって?あの如何にも唐変木、自分恋愛とか興味ないんでって顔してどうせムッツリなアイツが!?いつの間に……!

 

「パンダに詳しく教えなさーい」

 

「すじこ!」

 

「あ、いや正確には好きな女のタイプが分かったかもってだけなんすけど」

 

「はー?盛り下がる事言うなよ虎杖〜、まぁ?それネタにして何か揺すれるかもだし?特別に聞いてやってもいいけど?」

 

 

 あーん?てかどっかで聞いた事あるようなないような……

 

 確か虎杖が死んでる時に京都校の真衣と……三年の東堂だっけ?が来た時、どんな話の流れか忘れたけどその東堂が伏黒に好きな好み(タイプ)は何だって聞いてなかったっけ?

 

 なーんて言ってたかな……アイツ、めちゃくちゃ苦そうな顔して答えてたのは覚えてんだよな。

 

 意外っつーかマジかこいつっつーかロリコンかよきめえなとか。

 

 あん?ロリコン……?

 

 

「伏黒の好きなタイプは〜〜〜?ずばり「思い出したわよ!タッパもケツも小せえ女って言ってた!」俺の台詞〜……」

 

「「マジ?!」」

 

「すじこ?!」

 

「マジっすマジっす、あの顔してアイツロリコンっす!」

 

 

 無えわーって思ったわ、その時だけは真衣と同じ感情してたわ、嬉しくも何ともねーけど。

 

 まぁその後の東堂の「面白いが趣味が合わん!」って言って伏黒に殴りに向かったのも大概頭イカれてたけど

 

 イカれてると言えば虎杖、アイツといつから兄弟になってんだよ、ウケる通り越して怖〜よ。

 

 

「……あー、成程。パンダ解っちゃった」

 

「おかか」

 

「っすよね多分、真希さんもそう思いません?」

 

「大概趣味悪ぃーけどな」

 

「……どういう事?」

 

「そりゃー……って、もしかして釘崎会った事ない?」

 

「あん?誰と」

 

 

「_________何々、何の話?私も交ぜてよ」

 

 

 いつからそこに居たのか、最初からそこに居たかの様に現れて、その知らない声がこの空間に現れるまで、気付かなかった。

 

 姉妹校の時に何度か会ったけれど、話してはなかった。ただあの人が五条せんせーがたまーに話す同級生の特級か〜とか遠目で見て思ってた。

 

 特徴的な赤い目に肩まで伸ばした灰色がかった髪。

 

 正直こうして見ると学生って言われたら一瞬信じちゃうぐらい若いし華奢で、そんでもって……あ。

 

 もしかして、そういう事?

 

「こんにちは釘崎ちゃん、ちゃんと会うのは初めてだね」

 

「う、うっす夏目先生」

 

「夏目先生?!え?もしかして最初から聞いてました?」

 

「んー?全然、今来たとこ、伏黒君が虎杖君の事探してたよ?なんか怒ってたけど平気?」

 

「あははー……ここに居る事秘密にしてもらってイイスカ」

 

「もう遅いかも」

 

「え“」

 

 

 瞬間、店内から溢れ出す________迸る、呪力。

 

 

「________虎杖、ちょっと面貸せ」

 

「ハイ」

 

 

 おいおいあいつ死んだわ。

 

 御愁傷さま虎杖、安心しろよ、墓ぐらいは建ててやるから。

 

 ……てか夏目先生まじで若いな、は?どういうスキンケアしてんだよ、女子力負けてねーよな……?

 

「あはっ、じゃあ私次の任務あるから……あ、姉妹校の映像冥冥先輩経由で見たけど真希ちゃん、一年前からぜーんぜん成長してないよ、何で?何から何までだめだめ、真衣ちゃんより点数低いよ?残念。今度実習ね」

 

「は________おい!」

 

 

 真希さんが身を乗り出したのを性格悪そうな笑顔で手を振りながら、まるで最初から居なかったかのように、本当に一瞬の内に、消えた。

 

 ……口開くのあんな感じなのか、特級呪術師夏目鮮花先生って。イメージと違うって言うか、なんか嫌になりそ……あの人とやっていけるか?私。

 

「あの女っ好き勝手言いやがって……!」

 

「お疲れ真希〜、あの感じ多分けーっこうガッツリ扱かれそうだぜー」

 

「夏目先生っていつもあんな感じなんすか?」

 

「しゃけ」

 

「だな、真希には特に厳しい。悟とは二言目には口喧嘩、でも悪い先生って訳じゃない、夏目サンの授業は教わる前と後で一段階、呪術師の格が変わる」

 

「はえー……何で?」

 

「他人の術式に対する理解から応用、その先までの展開がすげーやべー、んでそれを他人に教えんのがすげーやべー(テク)い」

 

「そんなに?」

 

「そんなに、悟って教えんの向いてねーんだなって思っちゃうぐらい」

 

「いや、それは割と最初からそんな感じしてるっす」

 

「……術式だけじゃねーよ、殴り合いで勝てた試しがねえ」

 

「それ含めた扱きを年単位で続けてるから恵は強いんだろーな。憂太と金次……あー、停学中の三年な?その二人除いた術式ありのガチンコなら俺らの中で一番だろアイツー」

 

「めんたいこ」

 

 

 えっ、伏黒ってそんなつえー奴だったっけ、いやまぁ。姉妹校で虎杖と東堂と並んで特級とやり合ったって話は知ってんだけどさ。

 

 その時に呪術戦の極地、領域展開も習得したとか言ってたけど________冷静に考えたらつえーな、まじかよ、何か置いてかれてるみたいでムカつくな。

 

 

 まぁそれは今は良いんだよ、話題はこっちっしょ。

 

 

「タッパとケツが小さい……パンダ先輩、そういう事すか」

 

「まぁ消去法的にだろうなって感じー」

 

「おかか」

 

 

「________何の話しすか、違ぇよ」

 

 

 

 多分虎杖を土に埋めてった伏黒がファミレスに帰ってきた。

 

 ウケる。

 

 違ぇ訳ねえだろタコ、目泳いでんだよおまえ。

 

 

 

 

 

 

 ________同年同月、2日後栃木県にて。

 

 

 久しぶり、って程年月経ってる訳じゃねえけど、他の奴なら兎も角あの人から「明日会いに行くからよろしくね」なんて言われたら、流石に緊張すんなぁ。

 

「ビビってんのー?金ちゃん」

 

「朝起きたら元カノが包丁持って俺の腹刺す3秒前だった時より震えてんぜ」

 

「元カノの話辞めて?」

 

 奮い立つぜ、んでもって夏目さんは俺の商売になんて言ってくれっかな?あの人の事だ、否定だけはぜってーねえ、でも肯定してくれっかは別の話だよな。

 

 何つーか、普通にこういう所がダメとか、何でこうしたの?効率悪いねとか、そういうダメ出しめちゃくちゃされそう。やべえ、俺それ聞いて泣かないようにしよ。

 

 ……ていうか、何でこのタイミングで会いに来てくれるんだ?夜蛾のおっさんが俺が此処にいるの特定して会いに来るってんなら兎も角、夏目先生がだぜ?

 

 深い理由とか無いならいーんだけど、パッて現れて様子見るんなら、わざわざ連絡とかしないだろーあの人。

 

 まっ、まさか夏目さんに限って俺に何か頼るとか無いだろうし、気楽に考えっか。

 

「あっやべ、待ってますって連絡送ったけど此処の場所教えてねえや」

 

「夏目先生なら場所教えなくても現れるでしょ、居酒屋の時みたいに」

 

「確かに、じゃあ良いか」

 

 

「________せーかい、お待たせ二人とも」

 

 

 うおっビビった、慣れねぇ〜〜〜この感覚。

 

 まるで最初から居たかのように、空間から夏目さんが現れた。最後に会った時からなーんにも姿形変わってねえや、久々って程でもないけど、やっぱ会うと普通に嬉しいぜ。

 

「賭け闘技場だっけ、良いんじゃない?非術師の中にも肉体の強度だけで見たら、準一級ぐらい鍛えてる人は居ないって訳じゃないし」

 

「ほ、ホントっすか?」

 

「うん、秤君にしては50点上げてもいいよ」

 

 おおっと思った以上に評価低い感じ?

 

「1.非術師と呪術師の境目はどうでも良いけれど非術師も顧客にするならこの地区で生まれる呪霊を狩り尽くすか非術師にも解る様に手を尽くしなさい」

 

「そ、それはそうっすね……」

 

「2.参加者の実力(レベル)、まぁこれは時間が解決するかな?6年後ぐらいにね、でも呪術師の方はダメダメ。いっそ呪詛師でも雇ってみれば?」

 

「えぇ……仮にも自分呪術師なんすけど……てかすげー事言いますね夏目先生」

 

「3.これが一番ダメだね、運営力と資金力がぜーんぜん足りない。何で秤君は自分でやろうとするのかな?だめだよ?学力が無いんだから」

 

「わぁ久々だこの徹底的にダメ出ししてくる感じ」

 

「ハイ……」

 

「あぁ金ちゃんが萎れちゃった!」

 

「あはっ、言い過ぎちゃった?」

 

 

 ……あぁこれこれ、このやり取り。やっぱり夏目さんは何も変わらねー、俺がどこに居ようが、何をしてようが、夏目さんにとって俺は「生徒」なんだろうなぁ……。

 

 頭上がんねーっス、夏目さんのこと良く知らねー奴はバカにしてる表情とか言ってるけど全然ちげーよ。

 

 ありゃ会話を楽しんでんだ、俺には分かる、そこに”熱“があるからな。

 

 

「まぁ、応援してるよ?頑張りな、秤君」

 

「ウッス!……んで、夏目さんは何の用で?」

 

「秤君と星君に頼み事って言ったら驚く?」

 

 

 思わず綺羅羅と顔を合わせた、えっマジで?

 

 同じタイミングで夏目さんの方の視線を向けると、うんうんと頷いた。えっマジみたい。

 

 

「まぁその前にもう少し雑談しない?秤君が高専に居ない間、結構面白い事起きたんだよ」

 

「面白い事ですか?何だろー金ちゃん」

 

「……パチンコで100万勝ちした奴がいるとか?」

 

「んーそれは多分秤君だけかなぁ……両面宿儺って知ってるよね」

 

「え?まぁそりゃあ、それがどうかしたんすか?」

 

「受肉したって言ったら驚く?」

 

「「えっ」」

 

 え〜〜〜〜?

 

 

 マジ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 ________時同じく、海外にて。

 

 

「ちょーっと嫌な予感してさ、僕に何かあったら今の事を一二年憂太に頼みたくて」

 

 って僕に言う五条先生……先生に何かあったらって、ええ?何が起きても五条先生が何かあるとか思わないんだけど……夏目先生も居るんだし。

 

 あ、もしかして!

 

 

「女性関係ですか?」

 

「……憂太も冗談言うようになったんだね」

 

「いや五条先生に”何か“って夏目先生と仲違いするとかそれぐらいしか思い浮かばなくて、それか逆に結婚とか」

 

「________っぷ、はははっ!僕と夏目が結婚?!ありえねー!何々、憂太って僕と夏目の仲そういう風に捉えてんの!?」

 

 

 すごい笑うなぁ五条先生……そんなに面白い事言ったかな?てか、仲違いするかもしれないのは否定しないんですね。そこは否定して欲しかったなぁ……。

 

 

「いやあだって、五条先生も夏目先生も、二人で話してる時は本心っていうか、仲良いなーって僕は思いますけど」

 

「ククッ、なーんて事ないただの腐れ縁だよ……てゆーかミゲルは?」

 

「先生には会いたくないそうです」

 

「……理由とか聞いてる?」

 

「聞いてないです」

 

 

 そっかー……って言って五条先生は少し項垂れた、何だろう?でも、ミゲルって五条先生にボコボコにされたって聞いてるから、それが理由なのかな?

 

 僕も五条先生の拳受けた事あるから解るけどめちゃくちゃ痛いし吐いたし……トラウマだったりするのかな。

 

 

「ま、兎に角よろしくね。特に一年の虎杖悠仁、あの子は憂太と同じで一度秘匿死刑が決まった身だ、注意を払ってもらうと助かる」

 

「先生に何か起きると思いませんけれど、勿論です!早く後輩に会いたいなぁ……あっ、伏黒君は最近どうですか?元気かな……」

 

「げーんきビンビン、寧ろ最近領域展開出来るようになってさぁ________」

 

 

 

 五条先生の身に何か起きる。

 

 本当に想像が付かなかったんだ、それこそ本当に何かの拍子で、夏目先生と五条先生が呪い合う事になるかとか、それぐらいしか。

 

 でもそれだって、絶対に無いって言えるぐらい、夏目先生も五条先生も口では嫌ってる風に言ってるけれど、仲が良いのは僕だけじゃなくて、パンダ君も棘君も、真希さんだって知ってるし。

 

 

 だから深く考えずにいた。

 

 

 ________これは、言い訳だ。

 

 知らなかったんだ。僕が居ない間に起きた10月31日のハロウィンで起きた事変。

 

 

 渋谷で起きたその出来事を、僕は全てが終わった後に知ってしまった。

 




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