虚数の中の君   作:むいてんぺん

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狭間-虹霓-

 

 ________2018年、10月1日。

 

 夏油傑という肉体は、何も呪霊操術を扱えるだけの理由で私が"次"の肉体に目星をつけていた訳では無い。

 

 "この時代"に於いては夏油傑以外に呪霊操術を扱える呪術師は存在しなかったとはいえ精々珍しい術式程度。

 

 今後10年、20年……長くて50年の内にまた全く同じ術式を持って生まれてくるだろうね。

 

 とはいえ、当時経験不足であったとはいえ無際限の呪力を手にしていた状態の乙骨憂太、呪いの女王祈本里香を相手取り渡り合う肉体の強度もまた、戦闘用の肉体としても至高に近いレベルだった。

 

 戦闘向きの肉体に加え所持している術式……過去最大に天元を取り込み呪術界、いや日本全土を混沌に出来る最高の状況を除いても、夏油傑の肉体は次の肉体として理想的だった。

 

 仮に2007年、天与の暴君伏黒甚爾が因果を壊す事が無くとも夏油傑の死後乗り移っていただろう。

 

 だからこそ、夏目鮮花という呪術師(イレギュラー)にその予定を完膚なきまで虚数という"無"そのものに葬られた事が口惜しい。

 

 

 アレは私の手から離れた、私の可能性の域の外の存在だ。

 

 

 本来なら喜ばしい事実、私の知らない人間という可能性をその身に体現している存在に近い。

 

 だと言うのに私の気持ちは昂りとは全く違う感情を起こしている、他でも無い私自身が、忘れていた感情(悔しさ)を思い返してしまった。

 

 だからなんだろうね。

 

 決定的な敗北を名残惜しくも受け入れ、再び次の時代に期待する________本来、そうすべき理性を、1000年“生きて”いる私が否定している。

 

 

「ねー天内、こういう呪物ってさぁ、何で壊さないの?」

 

「壊せないんだよ、特級ともなるとね。生命を止め他に害を為さないという“縛り”で存在を保証するんだ」

 

「宿儺の指は有害じゃんか」

 

「アレは特別、呪物と成ってその上20に分割しても尚時を経て呪いを寄せる化け物だよ」

 

 

 それ故に器を選ぶ。

 

 もう16、17年程前になるのかな、アレに具体的な役割は求めてないけれど……ククッ、彼にはまだまだ宿儺の器であり続けて貰いたいね。

 

 私の預かり知らない所で秘匿処刑が起きないとも限らないからね、まぁ五条悟の性格上それほど心配はしていないけれど。

 

 問題はどうやって宿儺の意識を永続的に表に出すかだな……いやぁ自分で産んだモノとはいえ、思った以上に虎杖悠二の理性が強い。育てが良かったかな?なーんてね。

 

 向こうは向こうでプランがあるんだろうけれど、はてさて私の提案に乗ってくれるかな?

 

 

「おい!アンタ金、金!?オレッそんなに持ってないけどさ、サラ金とかなんかあんだろ!」

 

「大丈夫かなぁ、この状況で俺が見えてないとかマジで才能ないよ________はい、あーん」

 

 

 呪胎九相図は私の予想を超えられない失敗作だ。正直に言うと落胆した分これらに対する失望の気持ちは大きい、何かのきっかけで私(・)の事を思い出した時に離反する可能性も十分にある。

 

 とはいえ来る日の戦力増加には打って付けだ、烏合であっても特級呪術師を除けば、現代の呪術師にとっては充分脅威になるだろうしね。

 

 

「で、どうすんの?天内」

 

 

「先ずは残っている宿儺の指だ。現状虎杖悠仁が取り込んでいる宿儺の指は3本。残る17本の内、一つはほぼ確実に五条悟が隠し持ってるかな」

 

「ふーん、俺らが元々回収してたのと、高専が保有してたのと合わせて10本だっけ?」

 

「そっ、残る7本の内、4本は目星を付けている________完全復活とは言わないけど、五条悟を封印した後に解き放つには十分な本数だ」

 

「ははっ、それで?夏目鮮花はどーすんのさ?」

 

 

 揶揄うようにそう発言する真人に、くつくつと笑いながら回答する。

 

 

 ________実際、私にとっての正念場はソコだね。

 

 私の策略、その上での呪術戦であの理の外に”居る“虚数使い(夏目鮮花)に勝利しなければ、この時代に於いて私の目的を達成する事は出来ないだろう。

 

 いや、違うかな。

 

 

 その日に負ければ私は恐らく殺される(祓われる)。次こそは逃げられないという確信がある。

 

 

「________10月31日迄に凡ゆる手を使って暗殺(・・)する。真人にも少ーしだけ手伝ってもらうよ?」

 

「おっけー、失敗るなよ〜?天内ぃ」

 

 

  次、相見えるその時に雌雄を決しようじゃあないか、天敵(・・)。

 

 

 

☆

 

 

 

 

 ________同年同月、6日。

 

 

 七海さんや夏目さんの何方かの目が届く範囲で、私と美々子が外で呪霊を祓う事は殆どない。

 

 偶発的に起きてしまった状況で尚且つ、どうにもならない時以外で無闇に残穢を残してはならないって取り決めがあるからだ。

 

 七海さんからの私達の評価は、呪術師の実力で例えるならギリギリ“準二級”、二人で連携して二級術師が妥当のラインだって言っていた。

 

 頑張れば一級呪霊は祓えるけれど、特級寄りの一級呪霊はまだまだ荷が重いって七海さんは言っていた。

 

 

「強くなる事を否定はしませんが、それ以前に君達は呪術師でもなければ未成年です。危機的状況になったとしても、自らで対処しようとはせず、大人を頼る事を勧めます」

 

 

 ________ごめんなさい七海さん。

 

 

 ちょっと、無理かもしれない……ッ!

 

 

「っ美々子!こっち!」

 

 

 迫り来る炎(・)が私と美々子に向かって焼き払うよりも先に、私の手に持つスマホで私と美々子を投写して術式を発動する。

 

 これで五回目(・・・・・・)……っ。私達を見てゲラゲラ嗤いやがって……!気持ち悪ィんだよ呪霊が!

 

 ああクソ!最悪、最悪だ。何でこうなった、元はといえば美々子のせいだ、如何にもな心霊スポット、如何にもな橋の下の噂、ここは呪霊が居ますよって言ってるようなものなのに!

 

 最近出来た友達がここに入ったからって言って、私達なら大丈夫とか言って……!せめて七海さんには怒られるだろうけど報告すれば良かった!

 

 何より一番最低なのは私が、私自身が「私は強くなった」って思い上がってた事!私も、美々子も確かに半年前よりは劇的に強くなった、二人揃えれば一級呪霊も払えるようになった。

 

 数ヶ月前に襲ってきた呪詛師も返り討ち出来た事で驕ってた……!確かに私達は強くなった、でもだからって私達より強い呪詛師も呪霊も、一杯いるだろ________!

 

 

「ハァ……っ、はぁ……」

 

「菜々子!もう呪力が……っ、私を置いて逃げ」

 

「バカ!逃げるなら美々子、さっきから言ってるでしょ……!」

 

 

 あぁもう!何でこんなに……ッ、強すぎんだよ……あの呪霊!

 

 私の術式が無かったら最初の炎で焼き殺されていた。美々子の術式が無かったらあいつの気を紛らわさせることも出来なかった。

 

 共通してるのは、私の術式も美々子の術式も、全く意に介していない所……っ!

 

 動きを止める程度しか出来ない!それも短時間、直ぐに破られる。私達が逃げるより先に突破される……

 

 特級なのは確定!でも最初から此処に、さっきまで私と美々子が相手してた呪霊とは別件だろ、徒党を組める知力じゃない。

 

 きっかけは何だ________まさか、いやでも。

 

 そうとしか考えられない、コイツ。

 

 両面宿儺の指を取り込んでいる!

 

 

「……ねえ美々子、聞いて」

 

「っ何」

 

「この領域を逃げて、振り向かないで」

 

「やだ……ッ」

 

「……じゃあ一緒に戦おう」

 

「うん!________ぁ」

 

 

 美々子が私から目線を外して、呪霊を見据えた隙を見計らって夏目さん仕込みの手刀で気絶させる。

 

 私もそうだけれど美々子も残り少ない呪力、体力的にも限界なら簡単だった。

 

 

 無理だ。

 

 どう足掻いても二人一緒に此処を切り抜けられない。何方かが残って全力で足止めをしないと、この呪霊が起こしている生得領域の外に出るより先にこの呪霊に殺される。

 

 足止めに限れば、私の術式なら時間が作れる。

 

 

 ________うん、良いよ。

 

 

 後悔はない、ちょっと寂しいけれどそれだけ。

 

 あの日から夏油様と過ごして、夏油様が居なくなった後は夏目さんと過ごせた。

 

 楽しかった、充実できた。だから後の人生は美々子に全部あげる。

 

 お姉ちゃんだから、私が守らないと。

 

「行って!早く!」

 

 

 美々子の制止を遮ってカメラを向ける________自らの呪力を写した写真機で写した対象の状態を操作出来る術式。

 

 効果は様々、それこそ”術式の解釈“次第、だからってそんなに便利じゃないけれど。

 

 美々子の今居る座標をずらして、この領域の外に突き飛ばす事ぐらいは出来る。

 

 二人以上出来れば、私も逃げれたんだけどなぁ。

 

 

「________あ」

 

 

 死んだら夏油様に会えるかな。

 

 ああでも、ごめん。

 

 やっぱり少し、怖い。

 

 

 私が美々子に術式を使ったのとほぼ同時に、迫る呪霊の振るう剛腕、回避は間に合わない、呪力でガード出来たとしてその後に戦闘続行が出来るか?……無理か。

 

 せめて、最後までは足止めしてやる________そう身構えた。

 

 

 瞬間。

 

 

 

「ッオラ!」

 

 

 乱入者。それを知覚した呪霊がその乱入者の方に気を取られ、繰り出された拳が呪霊を吹き飛ばす。

 

「何が……」

 

「________おい」

 

 私が状況を理解するより先に、同じくこの領域に乱入してきた別の男が、私に話しかけてきた。

 

 その服装に見覚えがある________高専の呪術師、同い年か一個下が三人この状況に現れた。

 

 

「アンタが誰だか知らないが、一先ず敵じゃねえんだな?」

 

 

 

 

☆

 

 

 

 ________時同じく、領域外のやや離れた森の中。

 

 

「アレェ?マヒト?」

 

 指定された所にやって来て、予定外の事が起きた為に一度足を止めていた所。こちらに向かってやってきた人物を見て血塗が反応した。

 

 

「ごめ〜〜ん三人共、宿儺の指の方は中止〜!」

 

「……理由は」

 

「俺が殺しに行ったらまだしも、君達三人じゃあ脹相は兎も角、壊相と血塗は祓われちゃうかもって天内が言うんだよねー」

 

 

 ……ふん。

 

 この真人とか言う呪霊の発言は軽薄だが、先程領域に入った呪術師の中に領域展開の出来る術師と、両面宿儺の器が居るとなれば、その意見も一概には否定出来ないか。

 

 使い潰すと思っていたが存外、そう言うわけではないという事か?あの少女の皮をした呪詛師の思考は良く解らん。

 

 

「それで、そちらは?殺してはいないようですが」

 

「あぁコレ(・・)?棚ぼたって奴?ま、あんまり気にしなくて良いよ」

 

「そうですか、ですが真人。女性を乱雑に肩に担ぐのは美しくありませんよ」

 

 

「________確かにその通りだね、真人。その子を下ろして上げよう、丁寧にね」

 

 

 いつの間にやら、額に縫い目を残した少女の姿の呪詛師がこの場に現れていた。

 

 その見かけこそ柔かな表情だが、それが貼り付けた物だと一目で分かるほどに真人と同じく軽薄。

 

 ……やはり胡散臭い。

 

 こいつらの目的は聞いた、呪詛師の方はまだしも呪霊の方の理想は多少分からなくもない。

 

 どちらにせよ呪霊側に着くと決めた以上はある程度従ってやる、今の世界よりこれから近い内にこの呪詛師と呪霊が起こす世界の方が兄弟達が生きやすい世の中の筈だからな。

 

 

「態々悪かったね、先に帰って良いよ」

 

「……そうさせてもらう、行くぞ壊相、血塗」

 

 

 奴らがあの少女に何をするかは知らないし興味も無い、そして関わる気もない。

 

 俺が守り生きる理由は兄弟の事。それ以外の事は顧みない。俺が9人家族の1番の兄である以上、そう生きると決めた。

 

 

「で、どうすんの?」

 

「____________って感じ、やれそうかい?」

 

「まぁ〜〜多分?失敗しても改造人間には出来るでしょ」

 

「ははっ、出来るだけ避けてよ?仮にもこの子は”友達“だ」

 

「っははは!何それ天内ィ〜、あんまり笑わせんなよ手元狂っちゃうだろ〜〜?」

 

 

 この場を離れ聞こえてくる言葉にもまた、俺の体も心も動く事は無かった。

 

 

 

☆

 

 

 

 

 ________同年同月、7日。

 

 

 菜々子曰くだけれど。

 

 あの時私を領域の外の飛ばした後、乱入して来た呪術師と協力して特級呪霊を払ったらしい。

 

 その後は隙を見て呪術師から逃げて、森で気を失っていた(・・・・・・・・・・)私を見つけて回収。

 

 残穢を気取られない様に注意を払って________って言っても、事が起きたのが領域内だったから、空間毎無くなった今、余程残穢を辿るのが巧い呪術師じゃない限りは大丈夫だと思うけど。

 

 

 ……気になるのは、私がその呪霊の領域に入ってしまった原因になった、追いかけた友達(・・)のこと。

 

 あの空間に焼死体とかは無かったし、明らかな死体が森の中にあった訳じゃないから大丈夫って思いたいけれど、心配。

 

 あぁでも……もう勝手に動かないようにしよう、うん。怒られるのは嫌だし。

 

 

「________で、で?その呪術師達は仲良くなれそう?」

 

「……一度共闘したからって今後も、って訳には行かないよ、アイツらと私達とじゃ、立場が違うし」

 

「そっか」

 

 

 そこに私は居なかったけれど、菜々子が全く知らない同年代に近い呪術師と手を組んで戦えたのは……なんか、良いな。

 

 五条悟のことを許す事はできないし、それは私だって変わってないつもりだけど。

 

 私の世界が広がるように、菜々子の世界も変わっていくのを、感じた。

 

 

「とにかく、暫く外に出ないように!良い?この事が夏目さんや七海さんに知られたら、怒られるとかの話じゃ……」

 

 

「________もう遅いですね」

 

 

 

 玄関の開く音と同時に、その言葉が辺りに響いた。

 

 

 うー、よりによって七海さんだぁ……!

 

 

「そこに正座」

 

「「はい……」」

 

 

 

 

☆

 

 

 

 

 ________同年同月、13日。

 

 

 

 呪術高専東京校地下最深部・薨星宮。

 

 

 此処に引き篭もっている奴は、結界術の効果によってか日本国内のほぼ全ての事象を細かく把握している癖に、結界術の行使や星漿体との同化を除いて、基本的には外界とはほぼ接触しない無責任の老害だ。

 

 どんな目的があって何がしたいのか、その理由も知りたくない。というかそんな大それた理由すら無いんだろ?

 

 1000年以上生きているとは言うが、その在り方はまるで自然に立っている木の様なものだ。

 

 

「来てやって言葉の一つも無し?お婆ちゃん(・・・・・)」

 

「一度も君を呼んだつもりは無いけれどね、虚数の中の君(夏目鮮花)」

 

 

 円柱状の頭部に二対の眼、幅広の口を備えた特異な面相で、髪や耳はないその人物がそこに居る。

 

 まるで呪霊だな、何百年と生きていれば人間は別の何かになってしまうって事か?皮肉だな、本能(呪い)が先か理性(人間)が先かの違いじゃないか。

 

 ________そんな事は如何でも良い、私が呪術師として生まれた以上どんな立場であっても呪霊を祓う事には変わらない。

 

 この世から呪霊が消えれば、次は呪詛師だ。呪詛師全てが消えて、煩わしい呪術師も消したら、やっと世界が私だけのモノに出来る。

 

 ……そんな未来が起きる事は無いだろうけれどさ。

 

 

 ________はっきり言う、私は天元(コイツ)が嫌いだ。

 

 

「お前が自分の術式や結界術に何を縛ってるかは知らない。ただ唯一今この瞬間、私が接触する事が出来ているのは私が正当な(夏目家の)虚数術式の使い手だからか?」

 

「ある意味ではね。私の結界術は、泰観の血を受け継いだ虚数術式に起用しない。私の結界術が虚数に近いからかな、伏黒甚爾(・・・・)とは別の理由ですり抜けられる」

 

「私以外は会おうとすらしなかったんだろうな、そう教育(・・)されて来たから________お前だろ、そう”育てろ“って指示したのは」

 

「直接的には何も、ただ結果的にそうなってしまった事については否定しないよ」

 

 

 まるで自分は何もしてませんと言っている物言いだな。お前が何かを起こした結果、私の……過去含めた虚数使いの”自由“を奪う事実が起きたんだろうが。

 

 ふざけるな天元、お前(コイツ)は自分の行動に一度でも責任を取った事があるのかよ。

 

 

 ________星漿体の娘については話したことも無ければもう覚えてない、知らない。

 

 

 でも、あれが夏油君が堕ちたきっかけの一つだったのは知っている。

 

 コイツは全てを見ていた筈なのに、その全てを見過ごして今も尚それを続けている。

 

 他人に枷や柵を与える癖に、自分は何もしないで引き篭もって見て見ぬふりって?良いご身分だよ本当。

 

 

「五条君が呪術師で良かったな、じゃなかったら今頃今際の際だ」

 

「君の術式(虚数)なら私も無に還る事が出来るだろうね、否定はしないよ……それで、話は何だい?それが本題じゃないだろう?」

 

 

 

「________額に縫い目、肉体を移り変えて生きながらえている呪詛師を知っているだろ、そいつの情報を全て教えろ」

 

 

 

 術式の理解度、術師同士での戦いの経験値、異常なまでの逃走能力、登録外の身元不明な特級呪具。

 

 他にも理由はあるがまず間違いなく現代の呪詛師じゃない、肉体を捨てて別の肉体に出来る術式があるなら何百年前の術師であっても不思議じゃない。

 

 これだけ材料があって、まず間違いなく天元が知らない筈がない。

 

 私が件の呪詛師について知っている情報以上の情報を確実に目の前のコイツは握っている筈だ。

 

 

「……ふむ」

 

「黙秘でもしてみるか?やってみろよ、その呪霊紛いの口がもう一つ増えないと良いね?」

 

「そう言葉を荒げないで欲しい、少し思い出していただけだよ________勿論知っている、私が思い当たる節と、君が対峙している呪詛師の正体が一致しているならね」

 

「御託は良い、さっさと言えよ」

 

 

 

 ああ、本当に私はコイツの事が嫌いだ。

 

 何処までも他人視点、俯瞰で全てを見ている。神にでもなったつもりか?そこに”自分“という確固とした自我が存在していない。

 

 自我の無いモノが生きていると言えるのか?少なくとも、目の前にいるコイツは”ソレ“じゃない。

 

 何処までも古臭く保守的で停滞した存在、そんな奴が1000年前から存在し続けて生にしがみ付いている。

 

 

 あぁ、壊したい。

 

 

「________以上が私の知る情報だ。お気に召したかな?」

 

「そう。じゃあ帰るから」

 

「帰る前に一つ、聞いても良いかい?夏目鮮花」

 

「……なに」

 

 

「虚数と現実、そしてその狭間。どれだけ行き来し、狭間に居続けたかな?虚数の中の君(夏目鮮花)」

 

 

 ……あはっ。

 

 今更心配でもしてるつもりか?

 

 

「________お前には関係無いよ」

 

 

 12年も前から、私が私として覚醒するよりも前にすべきだったな。

 

 もう遅いんだよ。

 

 

 

☆

 

 

 

 

 ________同年同月、17日。

 

 

「伊地知〜〜〜今日の僕の任務どれ〜」

 

「ええと、本日は五条さんは休日と聞いていますが……」

 

 

「え?僕に休み?ははっ、珍しー」

 

 って事は珍しく夏目がバリバリ働いてるって事か、夏目が働く分にはじゃんじゃん働いて貰って結構、寧ろざまーって感じ。

 

 学生に向けた任務は僕が目を通した任務以外通すつもりは無いし、僕の幅寄せが高専生徒の皆に来る事は絶対無い。

 

 て言うか僕の代わりが出来るのは特級呪術師ぐらいだし、んでもって九十九さんは海外で上層部から依頼されたり無視したりだし。

 

 っま、無視するのは僕も夏目も変わらないか。

 

 

「じゃー飯行くか伊地知」

 

「え、私ですか?」

 

「運転よろ〜」

 

「私と硝子ちゃんも追加でね、下手な車乗らないでよー?伊地知君」

 

 

 聞いた事しかない声が俺の横から聞こえて来やがったので振り向いて下を見たら、案の定夏目がいた。

 

 ……あん?夏目も休み?

 

 

「疑問そうだね、ぜーんぶ九十九さんに投げた」

 

「へぇー、日本来てるの?あの人」

 

「三日だけ、私に頼みたい事があったらしいよ?」

 

「何さあったらしいって、もう終わらせたって事?」

 

「ん?断った。そもそもあんまり好きじゃないんだよねあの人」

 

 

 うわっかわいそ九十九さん、まぁ僕も親しい訳じゃないけれど。

 

 ……夏目と九十九さんの間で何かあったのか?まぁ個人間でのやり取りに口を挟むのは野暮か。て言うか関わりたくねーし。

 

 

「ええと……お二人とも時間は何時に?」

 

「「今」」

 

「は、はい!」

 

 

 奇遇じゃん、珍しいな僕と夏目の意見が合うなんてさ。

 

「ななみんも呼ぼうぜ、暇にしてなかったら暇にさせよーと」

 

「もう言ってあるけど、残念だね五条君、私に先越されて悔しい?」

 

「はー?別に悔しくないけど、っつーか何々、同窓会でも始める訳?ホームシックですか夏目ちゃんわ?」

 

「偶にはね」

 

 

 ……ええ、何だぁ?素直になられるのきもいんですけど……。

 

 

 ________何時もと違う。

 

 

 こいつの異変は分かりやすい、大体張り付いた笑顔を見ればわかる、バカにしている表情以外の表情が漏れ出てる時は基本何かにキレてるか何か隠してるかだ。

 

 今回のこれはそれとも違う。

 

 見覚えだけはある、何時かに見た表情と似ている。

 

 この表情を見たのは何時だ________?

 

 

「ねえ悟(・)君、私が夏目家でどう言う扱いを受けていたか知っていたっけ?」

 

「別に、今更聞こうとも思わねーし、お前も話す気ねーだろ」

 

「あはっ、まぁ楽しくない話だからね。でもそこから抜け出して、自由になってみれば案外、私の(・・)世界はそこまで嫌いじゃなかったかな」

 

「あっそーですか、良かったんじゃない?」

 

 

 ……お前、そういう顔も出来んだな。

 

 

 

「あはっ、何々?見惚れた?」

 

「はっ、天地がひっくり返ってもねーっての」

 

 

 

 

 ________なぁ、夏目。

 

 

 お前がこの時、俺(・)に何を求めていたのか、俺には分からない。

 

 何時だってお前が言いたかったことを俺がしっかりと理解したのは全部事が終わってからだ、結果的に俺の選択が正しかったと判断できたのは全て後に起きた結果次第。

 

 まぁ認めるよ、俺は確かに強いし最強だけどさ、間違ってばかりだ。

 

 傑の件も、今思えば灰原の事だってどうにかできたかも知れなかった。

 

 一瞬、お前に横並びになられた事も有った。領域展開を覚えるまで、領域を使うお前に負けなくとも勝ちきれない時期が少しだけだけど続いた時もあった。

 

 それはダメだ(・・・)。俺はお前に。お前だけじゃなく誰よりも強くならないといけない、それが五条悟(最強)だろ。

 

 だからさ、もし仮に悠二が抑えきれなくても俺は負けねぇよ。

 

 呪術晩成平安の時代の、呪いの王(両面宿儺)であってもめちゃくちゃしんどいだろうけど、勝つさ。

 

 

「他に誰か呼ぶか?」

 

「今日夜蛾先生が暇そうに呪骸弄ってた気がするけど」

 

「普通に呼ぶの何かつまんねーしドッキリ仕掛けよーぜ」

 

 

 

 ________来る日の、これから起きた(・・・・・・・)事に対しての俺の選択は正しかったのか?

 

 俺は起きた後でしか判断できねー。でも最終的には絶対に、どんだけしんどくても俺が勝つって気持ちを持ってた。余裕とか慢心じゃねえよ、そうするって決めてんだ。

 

 それに俺がやらかしたって育ててきた生徒達を信用も信頼もしている。

 

 一度呪術界に愛想つきて非術師の世界に行ったななみんも戻ってきてくれた。何だかんだついて来てくれてる硝子もいる、普段は使えねーけど痒い所に手が届く伊地知も居る。

 

 ……まぁ癪だけどさ、それを俺が認めるか認めないかは別として お前(夏目)の判断を疑った事はないよ。

 

 最終的な判断を俺に任せるのは、責任はお前が取れって事だろ。分かってるよ。

 

 

「つーか何食う?焼肉飽きたんだよね、僕」

 

「七海君が見つけた回らないお寿司屋さん」

 

「聞いてねえんだけどその寿司屋」

 

「そりゃ誰だって五条君に教えたくないでしょ、寧ろ何で教えてもらえると思ってるのかな?」

 

「……夏目の奢りねー?」

 

「あはっ、ぜーったい嫌だ」

 

 

 

 ________10月31日、渋谷。

 

 

 その日の俺の選択は正しかったのか?

 

 

 お前が居たら何か変わったか、夏目。

 




ちなむと、考えてるENDが変わらない限りは渋谷事変で畳む予定です。
ほんじゃ1、2週間後ぐらいに。
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