虚数の中の君   作:むいてんぺん

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何とか3日経つ前に間に合ったな(ん……?)


両面宿儺-受胎-

 

 

 

 ______古い夢(高専の頃)、ありし日の青い日常を見ている。

 

 

 

「あー最悪……頭痛ぇし、こんなもん好き好んで飲むとか異常者だろ異常者、イカれバカ共が」

 

「ぎゃはっはっは!五条が下戸とかウケるー!」

 

「ククッ……そう笑ってやるな硝子、五条悟も体質には勝てなかったって事さ」

 

「お前ら後で絶対殴る……」

 

 

 やっべえ吐きそう……硝子はまぁ何となく飲む奴だって分かってたけど傑もかよ、何でだ。

 

 これで吐きに行ったらこいつら一生笑い物にするだろ、ぜってー吐きに行かねえ、それなら死んだ方がマシだっつーの。

 

 あー頭上げるのもしんど……そうやって机に突っ伏してると教室の開く音が聞こえる。

 

 やべっ、夜蛾センか?酒持ってんの見られたらぜって〜怒るだろあの頭でっかち。

 

 

「……皆して何をしているんですか?」

 

「______あ、鮮花〜!聞いてこいつ、下戸なんだよー!ウケるでしょ」

 

「下戸?んん、私達未成年ですけど……」

 

 

 は?あいつ任務だったろ、もう少し手こずってろよバカが、ていうかこの女マジで……!酔ってんのか?いつにも増してバカにしてくれるじゃねえかよ。

 

 鈍い頭でそいつを見てみれば……ああくそこいつ!無表情取り繕ってる癖に今にも嗤いそうじゃねえか!弱え癖にうぜえ、おっけー決めた、明日ボッコボコにしてやろ。

 

 

「夏目も飲むだろう?君の分も買ってある」

 

「はあ、未成年なんですが」

 

「気にすることかい?ソレ」

 

「……夜蛾先生に何か言われても無理矢理飲まされたって事にしますからね」

 

 終始俺を馬鹿にする顔を隠しながらこれ見よがしに自分は飲めますよアピールとか本当どうしてやろうかな、今なら赭出るんじゃねえの?怒りで、ぶっ飛ばして良いよな?校舎ごと。

 

 ……てかこいつ、キャラと違って案外乗り気じゃねえかよ。

 

 はっ、やっぱり何時ものは自分の感情抑制しているだけだな、縛りか何かでもないならマジにバカでしょこいつ。

 

 ソレ何の意味があんの?だから弱いんだよ。つか普通に気に入らねぇ〜。

 

 

「初めての飲酒はどう?鮮花ー」

 

「……思ったより飲めますね」

 

「下戸は悟だけか、ククッ」

 

「あー死ね、てか殺す」

 

「やってみるかい?今の悟なら勝てる自信しかないけどね」

 

「んー……やるなら、グラウンドにして下さいね……」

 

 

 ……あん?

 

 何だこいつ、酒飲み始めた途端雰囲気変わりやがって、飲めはするけど酔いは早いってか?ハハッウケる、こいつ酒弱えじゃん。

 

 俺は酒に弱い訳じゃねえし、今日は飲めないだけで明日には飲める様になってんだろ、そういうもんでしょ。

 

「ふぁ、眠……ふふっ。入学して良かった……」

 

「あ?んだよ、急に」

 

「ずっーと死ぬまで……死んでも一人だと思ってたから」

 

「おやおやこれまた、夏目?」

 

「んぅ……?」

 

「あっ、鮮花ってもしかしてそういうタイプー?」

 

 

 赤い瞳の瞼が閉じかけてる、は?いやいやっ、こいつもしかして寝るつもりか?ソレって下戸よりよっぽど酷くねえ?!

 

 バカにしてゲラゲラ笑おうとして____________夏目が俺を見つめていた、閉じかけた瞳のまま、硝子でもなく傑でもなく、俺を。

 

 

「綺麗な目、そこから見る世界はたのしい?」

 

 

 

 ______古い夢(高専の頃)、ありし日の青い日常を見ていた。

 

 

 俺達がまだ一年だった頃。まだあいつが無表情だった頃、俺と傑が二人で最強だった頃、硝子がまだ煙草吸ってた頃。

 

 出会ってその日、初めて聞いた酔ったあいつの心の底から出た本音。

 

 夏目が()に何を見て、どう思ったのかは知らない。聞こうとも思わないし、気にした事もそんなにない。

 

 ただあの頃の夏目は、確実に世界(呪い)を嫌っていた様に思える。

 

 

 今は知らない、ソレを知るのは僕じゃない。僕は夏目鮮花の隣に立たないし、僕の隣の席は唯一無二、誰にもその席を譲らせるつもりはない。

 

 じゃあ誰があいつの隣に立つんだって?

 

 はっ、それこそ論外。

 

 

 夏目は誰にも隣に立たせるつもりはないだろ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ______2018年、4月下旬。

 

 

「いやー入学おめでとう恵!生徒は今の所恵しかいないから、僕の事独り占めだよ?恵まれてるねぇ」

 

 

 最悪の間違いだろ。

 

 口には出さないまでも表情には出ていたのか五条先生の表情が固まった、それにしても……ここが呪術高専、呪いの学び場か。

 

 入学前に何度か五条先生に連れて行かれた事はあった、そこで今の二年生とは顔を合わせている。時期が合わなかったからか、今は高専に居ない三年生とは会う事はなかったが。

 

 高専入学時点での俺の呪術師としての等級は二級。これは高専入学時点では珍しい事で、五条先生曰く頑張ったとの事だけれど、その後すぐに「まぁ憂太は入学時点で特級だったけどねー」とか一々煽ってきた。

 

 乙骨先輩が凄いのは分かってる、別にそれは良い。だけど態々引き合いに出すあたりこの教師の性格が伺える。

 

 しかしなんつーか。

 

「本当に呪術師って人手不足なんですね」

 

「そうだよ?けど一年が一人っていうのは珍しい方かな。まあ地方の方からもう一人来る予定にはなってるんだけどね、ちょーっと時期が合わないみたい」

 

「……で、俺は何をすれば良いですか。五条先生」

 

「基本的には今までと変わらないかな。僕が空いてる時は稽古つけるし、夏目が空いてる時は夏目。それ以外は先輩達に適当に揉んでもらいな、呪具の扱いだけ見ればまだ真希の方が巧いよ」

 

「任務の方は」

 

「そっちは主に僕が請け負った生徒向けの任務をこなして貰う形」

 

 

 前以て聞いていた事と変わらない、まぁそれはそうか。

 

 

「恵は実力だけで言ったら既に準一級は固い、使える式神も含めれば一級って言っても良いかも。だから結構厳しめの任務も幾つかこなしてもらうよ」

 

 

 ……絶対碌な事考えてないなこの人、五条先生もあの人(夏目さん)もこういう時だけは分かりやすいな。

 

 まぁ良い、どれだけ厳しいとしても俺が祓えるギリギリの呪霊以上は余程の予定外がない限りは向かわせ無いはずだ。

 

 仮に予定外が起きたとしても、問題ない。

 

 

「それでさ恵、僕や夏目が等級を引き上げない理由はわかる?」

 

「……確実に呪霊を祓う実力が無いからですか」

 

「ぜーんぜん違う、恵の意識の問題だよ」

 

「俺のですか」

 

「夏目から言われた事ない?ソレ(・・)は切り札とは言えないって」

 

 

 そう言われてすぐにピンと来た。数ヶ月前の記憶が思い出される。

 

 過去含めた歴代十種影法術師において、誰一人として調伏できなかった唯一の式神。

 

 俺が調伏出来ていない唯一(・・)の式神、その奥の手。

 

 夏目さん監修の元で初めてその式神を呼んだ時、その存在感と圧倒的な力に俺はのされた(・・・・)。他の式神と明らかに一線を画すその式神、何故歴代誰一人として調伏出来なかったのか真に理解した。

 

 それと同じ以上に夏目さんの本気の実力のその一旦を知った、こっちの方も意味分からなかった。今まで分かった気になっていたそれが、天地からひっくり返る感覚。

 

 次元(レベル)が違う、その一言。

 

 

「______戦いの最中に強くなった少し未来の自分」

 

「お、分かってるじゃん」

 

「言葉では分かります、だからって簡単に想像出来るものじゃない」

 

「おーけーおーけー、それが分かってればあとは実戦で身に付くものだよ」

 

 

 うんうんと頷いて軽い様子で五条先生はそう言った。

 

 夏目さんも似た様な事を言っていたが、そう上手く行くものか?どうにも実感しづらい。決死の最中と言うべき戦いは調伏の儀でも何度かあった、調伏に失敗しかける事もあった。

 

 夏目さん曰く「それとは違う」らしい、こればかりは自分が教えるものじゃないとも。

 

 俺は教えられたことは大方出来た、そこにきてこれから先は自分で決めるものと言われる。

 

 多分ここが、そっち側(・・・・)に立つか否かの問題なのだろうか。

 

 ……少なくとも、今の自分がそうなるには自力が足りな過ぎる自覚はあるつもりだ。

 

「癪だけどやっぱ夏目は教え方が上手いよね、本当に癪だけど」

 

「……前から思ってたんですけど、五条先生と夏目さんって嫌い合ってるんですか?」

 

「んー?ククッ______どーだろうね?」

 

 

 試す様にくつくつと笑う……やっぱうざいなこの人。

 

 

 

 

 

 

 

 ______同年、5月。

 

 

 

 ここ一ヶ月ぐらい、一緒にいる時間が多かったからか、私と……私達と夏目さんの距離は以前よりも縮まったと思う。

 

 私の中の一番は夏油様なのは変わらないけれど……お姉ちゃんって抵抗なく呼ぶのは出来る様になった。

 

 以前よりも素直に甘えられる様になったと思う、甘え過ぎなのも良くないけれど。

 

 二ヶ月前、呪詛師に襲われてから、また襲われる事があるかもしれないと私達は考えて、夏目さんに特訓をしてもらう事をお願いした。

 

 夏目さんは「良いよ?しなくても」って言ってくれたけど、それは私も美々子も嫌だった、私達が夏目さんの柵になるのは嫌だ、弱みになりたくなんかない。

 

 共に戦うなんて烏滸がましいことは言えないけれど、自衛出来るだけの実力は欲しい。前回はたまたま何とかなったけれど、この先が何とかなるかの保証は無いから。

 

 稽古してもらってまだ一ヶ月だけど、夏目さんの教え方が上手いからか、以前よりも強くなった自分が今ここに居るってわかる。

 

 大幅に強くなった訳じゃ無い、けれど、ほんの少しは、誇れる自分に近づけたはず。

 

「______ただいま。夏目さん」

 

「おかえり菜々子。どうかな学校、これからも通えそう?」

 

「……難しい、かも。やっぱり私は非術師()が嫌い」

 

「そっか、美々子は?」

 

「______ただいまーっ、夏目お姉さん」

 

 

 私より少し遅れて後ろから美々子が返事をして、流れる様に夏目さんの側に近づいた。

 

 美々子は私以上に夏目さんと距離を縮めたと思う、いつの間にか心の中だけじゃなくて、言動の中にもお姉ちゃんって言う様になった。

 

 それだけじゃない。私が毛が立って仕方がない程のそいつら(猿共)に、美々子は平然と言葉を交わせる様になった。

 

 ううん、そうじゃないよね。本当に意味でどうでも良いんだ、非術師(猿共)のことが。だから話せる、だから関われる。

 

 そうやってどんどん、私を置いていくように美々子が変わっていく。自分から誰にも憚られる事なく、自由に。

 

 私はそれでも良いって思ってる、変わりたく無い私と、変わっていく美々子()。どっちも私達。

 

 何が起きても私と美々子の関係は変わらないから、それだけは絶対の不変だから。

 

 その筈なのに、それでもどうしても。

 

 溢れてくる感情(呪い)の、これは何て言葉にすれば良いんだろう。

 

 

「菜々子、どうかした?」

 

「んーん、なんでもないよ美々子______さっ、支度しよう美々子っ!今日こそ夏目さんが驚く様な料理作るんでしょ」

 

「そうだった……!待っててね夏目お姉さん、美味しいお料理作ってくるから!」

 

「ありがとー、期待してるね」

 

 内に隠した言葉を飲み込んで、改めて表情を作って美々子に問いかけると、美々子は私でも可愛いって思う表情で調理場に向かっていく。

 

 本当、かわいいな。だから守ってあげないと……姉妹、だもんね。

 

 私も美々子に続いて調理場に向かおうとして______気付いたら夏目さんが近くにいた。

 

「頭、撫でて良い?」

 

「……うん」

 

 

 優しく撫でてくれる、身を任せてしまいたくなる心地良さ。

 

 夏油様がいた頃は上から撫でてくれた手、今は伸ばすようにして下から撫でてくれる手。

 

 ……私が心の底に隠している名前のわからないこの感情も、夏目お姉ちゃんにはお見通しなのかな。

 

 

 夏油様なら示してくれたそれを、夏目お姉ちゃんは示さない。その行動は他でもない自分が決めなさいと言っているように、自由に。

 

 放任……とは違う、ただ何か私達を見透して別のものを見ているような、そんな感覚。

 

 

 ……あぁ、ちょっとだけ自分の感情がわかる様な気がした。

 

 覗き込むような赤い目に見つめられながら、私はそう感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ______同年、同月下旬。

 

 

 

 高専で学び気づいたことは、呪術師はクソということ。一般企業で働き気づいたことは”労働はクソ”ということ。

 

 同じクソならより適正のある方を……出戻った理由なんてそんなもの。それを最初に五条さんに言った時、クツクツと笑った後に「七海らしいね」と言っていたのを思い出す。

 

 ……もう一人の先輩もまた、同じ様な事を言っていた。

 

 

「はぁ……それで、私に?」

 

「うん、どうかな。勿論給料は出すよ?時間外労働は別途でね」

 

「……それ以前の問題が多すぎると思いますが」

 

 

 そんなもう一人の先輩、特級呪術師夏目鮮花先輩は私に頭痛の種を持って来た。

 

 要約するとこうだ。

 

 記憶に新しい半年前、夏油傑率いる一派による百鬼夜行後、夏目先輩はその一派の二名の少女を保護。

 

 数ヶ月前、その少女達を狙った呪詛師による襲撃、夏目先輩の予想によれば、同日に夏油傑の遺体を狙った呪詛師の仕業との事。

 

 その時は何とかなったものの、もう一度襲ってくる可能性は極めて高く、夏目先輩の手の届かない状況になった場合、少女二人には自衛出来る程度の力を持って欲しい。

 

 しかし夏目先輩も暇では無い、自分の手が空いていない間に呪術師としての力を教えられる適任者が、私らしい。

 

 

「言いたいことは何個か有りますが……まず一つ。夏目先輩と呪い合ったと言う呪詛師、生きているのですか?」

 

確実に(・・・)、姿を変えてね。正直に言うとそこで殺し切れなかった事を後悔してるよ。もう一度呪い合って私が勝てる保証が無い」

 

「……そんな呪詛師が存在するのですか」

 

 

 有りえない、と言うのは簡単だが本当の事なのだろう。

 

 夏目先輩は特級呪術師になって以降一度も標的を逃した事はない、それが呪霊であっても呪詛師であってもだ。

 

 その夏目先輩が「呪い合って勝てる保証がない」とまで言うほどの呪詛師。一体何者だというのかは知りえないですが……いえ、今はよしましょう。

 

 

「では次に、何故私に?そもそもその話を呪術師である自分に話す事すらまずいと思いますが」

 

「うん?何故って……後輩だから?私にとっても、夏油君(・・・)にとってもね」

 

 

 後輩である前に呪術師ですよ、私は。

 

 しかし、まぁ……夏目先輩にとってはそんな事は些細な事なのでしょう。この人はいつもこうだ。星漿体の一件以降その性格も、その外見も全くと言って良いほどに高専時代から変わらない。

 

 いえ、厳密には変わらない様努めていると言った方が正しいですか。その理由までは考えるべき事では無いですが。

 

 

「先輩からのお願い、聞いてくれる?」

 

「嫌です。嫌ですが、そう言って引き下がる先輩ではないでしょう」

 

「もちろん。引き受けたらこっち(呪術師)に戻ってきた事、私より先に五条君に言った事許してあげる」

 

「まだ根に持ってたんですか夏目先輩……あれは夏目先輩の連絡先を登録してなかったので、仕方なくですね」

 

「言い訳は聞きたくなーい」

 

 

 ぷいっと顔を背けて聞かないふりをした。子供ですか、全く。

 

 ……数年ぶりにこちら(呪術師)に戻ってきて、私は少し誤解していたのかもしれません。

 

 五条さん一人でどうにでもなると思っていた呪術師の世界は、言う程どうにでもならないように。

 

 夏目先輩は己の快・不快のみを生きる指針にする事が出来る人間だという結論こそは変わらないものの、思うよりも彼女は人間だと言う事。

 

 

「……時間外労働は受け付けませんよ」

 

「あはっ……ありがとうね。七海君」

 

 

 そう言葉にして夏目先輩は笑った。暫くぶりに見る彼女のその姿は、何処か高専時代の時の様だった。

 

 ふぅ……全く面倒極まりないですが、仕方ありません。

 

 先輩の頼みを聞くのも後輩の勤めでしょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ______同年、六月。

 

 

 特級相当の任務と聞いてみれば肩透かし、準一級程度の呪霊。簡易的な領域を使う程度の実力はあったがアレぐらいなら一級呪術師なら危うげなく祓う事が可能だなと言ったような、その程度の呪霊。

 

 その呪霊を祓い、後は私がしっかり任務をやったか報告する為に来ている補助監督に報告して今日の任務は終了。

 

 帳を下ろして補助監督の待っている所に向かう、しかしまぁ……いつも思うけれど、私に補助監督が必要かな。顔見知りならこっそり帰しているんだけれど、今日はそうじゃなかったからなぁ。

 

 だからそう、こういうことが起こっても私は責任は取れないし、彼にとって運が無かったとしか言いようがない。

 

 

「……呪霊だな」

 

 

 悪趣味なオブジェだ、何が悪趣味かって、これはまだ生きている(・・・・・)。人であっただろう名残だけは残して、人で無くなっている。

 

 手を前に出して、そのオブジェに虚数術式を使う。地面から溢れ出てきた泥の様な、骸のような手がその生物(人間)に纏わりついて拘束していく。

 

 呻くような音、醜いソレが私の方に目を向ける。

 

 ……あはっ、動揺を誘っているのなら些か私を侮り過ぎている。私が他人に対して何かを思う呪術師の様に見えるか?

 

「さようなら」

 

 一言呟いた後、ソレは地面に飲み込まれる様に虚数の中に消えていった。

 

 呪霊の術式だろうな、これだけじゃ考察の仕様がない……兎にも角にも面倒くさいことになったな。

 

 補助監督は運が無かった、その代わり彼をああした(・・・・)呪霊は見つけ出す。

 

 さて。

 

 

「見ているな?呪霊」

 

 

 虚数の質量(黒い閃光)を創り出す、呪霊にとって不幸だったのは、ここが人里離れた森林である事。

 

 多少の無理をしても後始末はそこまで苦労しない。

 

 視線は感じない、存在も気薄。けれども私が見逃すには、些か少し残穢を残し過ぎていないかな。

 

 出力を上げて___________北北西に向けて放った。

 

 黒い閃光が周囲を巻き込んで狙った方向に向かっていく、現実にあって現実にないこの質量の放射の良い所の一つは、その質量自体に色は有っても音が無い事だ。

 

 環境を破壊する音以外、この世界(呪い)には存在しない。

 

 

「あの辺りか」

 

 

 何かしらにぶつかった方向に、自身を含めた空間そのものを虚数化する。一度私は現実から居なくなる、現実にいない私は、逆を言えば何処に居たとしても不思議ではない。

 

 存在の置き換え______私はそこに居ない、だがそこにいる。何故ならそれが虚数()だから。

 

 

「こんにちは呪霊、祓いに来たよ」

 

「______ハハッ!聞いてた話よりめちゃくちゃじゃんか!」

 

 

 呪霊______人型、継接ぎの男性、呪力量は一級程度か?だがこの違和感は何だ?異質だ。

 

 最近はこういう輩と呪い合うのが多くない?めんどくさいなぁ……。

 

 

 私の姿を見て一目散に逃げ出そうとする呪霊に、虚数で創り出した生物を向かわせて、自らも追いかける。

 

 黒い単眼の獣は継接ぎ呪霊よりも速く、だが継接ぎ呪霊が口から吐き出す様に取り出した何かを展開すれば、それが形となって私の虚数と対峙した。

 

 ______異質。なんだ?限りなく生物だが、その在り方が呪霊、虚数でこの世に無い生物を創り出せるからこそわかる。

 

 あのからくりは十中八九術式、それは間違いない。

 

 

「逃すと思ってる?」

 

「いいや全然!でも残念、俺一人だと思ってた?」

 

 

 危機感。

 

 真横からくる炎の放射線が私を焼き払おうと向かうソレに、虚数の質量を間に生み出して相殺させる。

 

 相殺させた間を狙ったのか、私のいる大地がうねり始める、ソレを空間ごと虚数に変換させて、地面を再定義させる。

 

 私のいる所に影が生み出された、太陽を覆い隠すように頭上から現れた強大な質量、燃え盛る隕石のような強大な炎の塊。

 

 それだけじゃない、継接ぎ呪霊が逃げる先に見える姿、恐らく呪霊であろうソレが周囲の植物を枯らし、呪力を一点に集めている。

 

 空と大地、その両方からの同時攻撃か。

 

 継接ぎ呪霊が嗤う様にして去ろうとしている。

 

 

 あくまでも逃走を優先するか、呪霊がここまで組織的に行動するとはね。珍しいというか、今までに無いというか。心当たりがあるというか。

 

 まぁとにかく、今は迫り来る脅威をどうするか。

 

 

「あはっ」

 

 

 思わず笑ってしまった。

 

 私相手に肉弾戦では無く、純粋な術式勝負?あの呪詛師(墓荒らし)、肝心な事を呪霊に教えてないのか?それともこの件には関わってないのか?

 

 まぁ兎に角、愚策としか言いようがないね。

 

 

「___________虚白・(うつつ)

 

 

 燃え盛る隕石、放出される呪力の塊。

 

 その二つが私に向かって衝突するよりも早く、私は自らの空間に呪力(虚数)を廻らせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「______お疲れ様」

 

 

 今回は留守番にさせた呪霊の領域、そこへ帰ってきた三体の呪霊に向けて労いの言葉を投げる。

 

 五条悟は兎も角、夏目鮮花の現在地から器の位置はそれ程遠くない。

 

 任務後に高専で請け負っている生徒が特級呪物の回収に関わっていると判れば、関与しに向かうかもしれない。

 

 呪霊操術が手元に無い以上、器には受肉してもらう。その為の不確定要素は潰しておきたかった。

 

 最悪そこで向かわせた呪霊が祓われる可能性もあったが、徒党を組ませ逃げに徹しさえすれば逃げ出す事は出来ると踏んだ。

 

 しかし私の予想外はもう一つ、予想外といっても対策可能な事だったけれど。

 

 ______伏黒恵、現代の十種影法術師。中々にセンスが良い、学生であれ程術式を使えるなんてね、教育の賜物なのかな?

 

 元々そこに沸いていた呪霊じゃ足りないと思って、念の為契約した簡易領域の使える準一級呪霊を其処(学校)に放って正解だったね。

 

 ……あわよくば、いや一先ずは。

 

 私の予想は的中した、先ずは一勝______策略勝ちだね。

 

 

「で、どうだった?実際の特級呪術師は」

 

「ははっ、言われた通りだったよ呪詛師。少なくとも今は(・・)殺せないや、ちょっと強すぎ」

 

「君の場合はそうだろうね真人(・・)、それで______漏瑚(・・)花御(・・)。君達はどう思ったかな?」

 

 

 そう問いかけると、人が大地を畏怖する感情から生まれた特級呪霊、漏瑚は不快そうな表情をしながらも、言葉を発した。

 

「不可解だ」

 

「と、言うと?」

 

「儂の極の番、花御の供花……その二つに対して、奴が何をしたかまるで理解が出来ん。貴様、知っていたのでは無いだろうな?」

 

「夏目鮮花は君達の術式に、虚数の質量を以て相殺させるだろう_____私は確かにそう言ったよ」

 

「相殺だと?アレは違う(・・・・・)!全く別のモノだ!」

 

 

 ふむ。

 

 予想が外れたね。私との戦闘時では重力を虚数の質量で相殺させる事以外で防ぐ事はしなかった筈。

 

 この目で見ていない以上何とも言えない、そしてその目で見た呪霊は「不可解」と言う。

 

 

 予想していた事だけれど……あぁやだやだ、実に厄介だ。

 

 

 夏目鮮花、一体彼ら(呪霊)に何を見せた?

 

 

 

 

 

 

 

 

 ______同年同月同日、襲撃から数十分後。

 

 

 

「私情?」

 

「私情です、何とかしてください」

 

 

 クックック……恵のこんなお願い、久しぶりに聞くんじゃない?

 

 まぁそれを抜きにしても、この子をここで殺してはいさよならなんて事はさせないさ。

 

 なんたって______若人から青春を取り上げるなんて許されていないんだよ。何人たりともね。

 

「かわいい生徒の頼みだ、任せなさい」

 

 

 って事で。

 

 とりあえずは〜……っと。

 

 

「夏目ー?そういう訳だから、その子殺そうとしないでくださーい」

 

「バレた?」

 

 

 声と共に空間から現れる、無から現れた夏目に恵は少し驚いたような表情をした。

 

 ……ああそっか、僕はこの目(六眼)があるから少し前から気付いていたけど、恵から見たら急に現れた様に見えるか。

 

 にしても今の恵とのやり取り無かったら殺してたな……?ナイス恵。

 

「両面宿儺?」

 

「そゆことー、指食べちゃったんだよこの子、凄いよね。しかも運良く受肉!」

 

「あはっ、そういうことね______良いんじゃない?」

 

「いや良くないでしょ……」

 

「じゃ、とりあえず僕はこの子回収して、上層部黙らせてくるから、後片付け頼んだよー恵〜」

 

「は?いや、手伝って下さいよ」

 

「私もこの後予定あるから、宜しくね恵君」

 

「何しに来たんッ……もう居ねえし!」

 

 

 おっ、怒ってる怒ってる。

 

 つーかあいつ(夏目)……また何かあったな、六眼では見抜けなくても、()の勘は見過ごさない。ここで話さなかったって事は私情か、恵が居たからか?

 

 ……まぁ、今はいいか。

 

 さーて、どうやって爺さん連中に言いくるめようか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ______2018年10月31日。15:47

 

 

「渋谷?」

 

「そっ!ハロウィンだよ菜々子」

 

「去年行ったし今年は良くない〜?そんなに面白くなかったじゃん、非術師(猿共)も多いし」

 

「そうだけど、でも暇だよー……夏目お姉さんも家入さんも居ないし、七海さんも任務って言って来ないし〜……」

 

「まぁそれはそうだけどー……ま、いっか」

 

 

 もし。

 

 もし、この日に戻れるなら。

 

 あの場所に行く選択肢を変えられるなら______私は、私達は絶対に今日この日だけは、渋谷に行かなかった。

 

 

「夜には帰るよー?」

 

「おっけー、準備しよーっと」

 

 

 この時の私は______私達は知らなかったんだ。

 

 その日、何が起きるかなんて、知りようが無いから。

 

 だから、暇を紛らす様に渋谷に向かって。

 

 

 私は______私達は、呪い廻るその世界(・・)に足を踏み入れた。




こんなタイトルしてるけど宿儺さん登場無し。
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