虚数の中の君   作:むいてんぺん

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雨後-陰葉-

 

 

 ______2018年、6月。両面宿儺受肉から7時間後。

 

 

 呪術高等学校、東京校。

 

 教師のみ入る事を許可している部屋の一室で、私の元生徒、現高専教師である二名の報告を聞く。

 

「両面宿儺の指、その20本全てを取り込んでから祓う……上にはそう説得したのだな、悟」

 

「ま、十年前よりはちょーーっぴり融通効く用にはなったかな」

 

 

 そう言って悟はヘラヘラとした態度を崩さないまま私にそう報告した。

 

 未成年の子供が両面宿儺の指を取り込み、然も受肉したとは……いや、そこより驚くべき所は、だと言うのにも関わらず自我があるという事か。

 

 最後には死ぬ事が決まっている……か。何とも、その少年は業を背負ってしまったな。

 

 そうさせてしまった責任の一端は、我々呪術師にもあると言う事を、忘れてはならない。

 

 

「しかしそうか。呪いの王が受肉するとは……やはり偶然とは言えない、そうだな?夏目」

 

「多分?3月に襲ってきた呪詛師、徒党を組んだ呪霊……これだけ材料があって受肉の件は別件ってならないでしょー」

 

 

 やや眠そうな声を出しながら夏目はそう言葉にした。

 

 呪詛師、呪霊……受肉体。一体何が行われようとしているのか、兎にも角にも情報が足りない。

 

 何かが起きてからでは遅い、それは去年……いや、十年前に理解している。我々も何かしらの対策を立てなければならないが……。

 

 

「あと、上層部の一部は確実にその呪詛師と繋がっている。じゃないとこうも都合良く動かせない」

 

「だろうね、って言っても一から虱潰しに探した所で尻尾掴める呪詛師かそいつ?」

 

「やってみる?そうなれば夜蛾先生が呪術界のトップだよ」

 

「冗談でも止めろ。それは都度考えておく」

 

 

 しかし……本当に冗談だったか、今の。

 

 五条はまだしも、夏目はその辺の境界が些か不安定なのは分かってるつもりだ、何か……傑のように間違いが起きないか、しっかり見ていなければ。最も私が見ているからと言って、この少女は昔から止まる事を知らないのだが。

 

 深いため息をした後に頭を抑える、これからどうすべきかを考え始めた私を置いて、悟と夏目は互いに会話を交えた。

 

 

「まあ私としては、全部集めた後に殺すっていうのには賛成かな。あの呪物、私の虚数術式じゃ干渉できないし」

 

「やっぱり?そんな気がしたんだよね、僕の無下限で壊せないなら夏目にも無理でしょ」

 

「物理的に破壊しようとしてる脳筋目隠しバカとは違うんだけど?」

 

「じゃあ何が違うんでちゅか〜〜?」

 

「術式対象の有無。私は虚数を以て世界(呪い)に干渉している、なのにアレには適応されない。解る?私がだよ?」

 

「それだけ呪いが強いって事でしょ、呪術全盛の時代に呪いの王って言われてたんだし」

 

「それもあるけど、まぁ……五条君に言っても仕方ないか、だってバカだし」

 

「そういや夏目身長縮んだ?いつもより小さく見えるね、ハハッ!」

 

「28歳にもなってどうしてそんなに性格が終わってるんだろうね、可哀想。何だか心配になってきたかも、その内髪も無くなって目隠しハゲになっちゃうのかな」

 

 

「あ"?」

 

「あはっ……」

 

 

「止めろ、二人とも」

 

 一触即発、互いの呪力が溢れていくのを感じ取った私は思考を一度辞めて静止の声をだす。

 

 このバカ共、高専時代から何も変わらんな……全く。

 

 

 五条の性格が終わっているのは最早どうにもならない事実だが、夏目の身長…というより、身体の成長がこうも高専の頃から殆ど変わっていないのは、少しばかり気掛かりだが。

 

 

 ______夏目家、御三家とは違って表舞台に立つ事のなかった呪術師の家系。

 

 1000年もの間、名を変え地位を変え、跡切れる事なく呪い合いの世界に身を置いた歴史深い家系。

 

 だがその実情は外には殆ど出ておらず、分かっている事は術式の情報のみ。

 

 相伝の術式である虚数術式の他にもう一つあると聞く。その相伝の術式を持ち、夏目家秘匿の元に育てられた夏目鮮花という呪術師。

 

 初めて出会った頃と比べ、様々な表情を浮かべる様になった。そのきっかけこそ中々言葉にし難いが。

 

 

「______んー?どうしたの、夜蛾先生」

 

 

「……いや、何でもない」

 

 

 ふと感じた違和感、気のせいだろうそれを、薄く笑いながらも訝しそうにこちらを見た夏目に、隠す様に誤魔化した。

 

 少なくともこの違和感は、この場で、当人の前で言うべき事ではない。

 

 それよりもだ、今後の事を考えなければ______

 

 

 

 

 

 

 

 

 ______同年、同月下旬。

 

 

 

「な、なんか……私達ここに居てもいいのかな?菜々子」

 

「美味しいもの食べれるから良いんじゃない?美々子」

 

 

 はてさて、側から見ればこのご一行はどう思われるだろうか。

 

 なーんて、他人の目とかどうでも良いけれど。それはそれとして鮮花も結構大胆というか、今ここで伊地知とかにばったり出くわしたら面食らうんじゃない?

 

 確かあいつ、この二人と面識あっただろ。そんな話を聞いた覚えがある様なないような。

 

 

「久しぶりに人と外食してる気がするね」

 

「わかるー、酒飲んで良いよね?」

 

「良いよ、私も飲もうかな」

 

「ははっ、二人居るのに飲む気?」

 

「……やっぱやめとくー」

 

 

 お利口さんじゃん、ウケる。

 

 鮮花が呪詛師と呪霊に執拗に狙われてたり、あの両面宿儺の受肉体が高専に入学したりとまぁまぁ忙しい最近だけれど、今は別だ。

 

 数少ないプライベート、その短い時間の中で私と鮮花、それから姉妹二人は外食にきていた。

 

 個室のある居酒屋だ、一応高専の頃からのいきつけ、味は良いしお酒は美味しいし、接客も適当でそこが楽で良い。

 

 禁煙してるから吸わないけれど、個室で吸ってもオッケーなのもポイント高いね。秤が高専に居た頃はあいつらと時々飲んでたっけ?

 

 

「そうだ。七海君とは良くやれてる?」

 

「うんっ、最初は厳しい人かなって思ったけれど、説明も分かりやすくて覚えやすいよ」

 

「菜々子に同意〜、時間ぴったりに帰っちゃうのはつまんないけど」

 

「ははっ、案外教師向いてんじゃん七海」

 

 

 まぁあいつ、仮にも社会で働いてた経験あるし、何でも卒無く出来そうな印象はあるか。

 

 鮮花も鮮花だけど、七海もアレだな。よく受けようと思ったというか、まぁ断れないか、私達直属の後輩だし。

 

 たまーに私もパシッてるし、任務で行く地方の土産酒寄越せーとか。

 

 なんだかんだ言って持ってくるからいい後輩だ、五条は甘い菓子しか持って来ないし駄目。

 

 

「……来年かな」

 

「来年?」

 

「そ。夏油君も通った高専、興味ない?」

 

「えっ……でも、五条悟もそこに居るんでしょ……?私はいやだよ」

 

「……私は行ってみたい、だって夏油様も、夏目お姉さんもそこで学んできたんでしょ?」

 

「私を忘れるなー」

 

「あ、そっか。ごめんなさいっ」

 

 

 ……美々子の方は好意的、菜々子は否定的って感じ?まぁ嫌いな奴がいる所にわざわざ行きたくないって気持ちはわかるなー。五条の性格の悪さは結局変わってないし?

 

 育て親を殺した人物に会う、どう気持ちを整理したらいいかわからないか。

 

 だからこその一年っていう期間なんだろう、それに今年は去年みたいに忙しくなりそ。最も忙しくない年なんて医者になってから一年たりとも訪れなかったけど。

 

 

「考えといてね、強制はしないよ」

 

「「うん」」

 

 

 ……あははっ。

 

 鮮花〜、今けっこう良い表情してるの気付いてる〜?

 

 

 

 

 

 

 

 

 ______同年、7月 英集少年院にて。

 

 

 

「______そこで、俺に今できることを考えた」

 

 そうして虎杖の姿をした、呪いの王(両面宿儺)は心臓を貫いて、捨てた。

 

 その後に「ダメ押しだ」と言って、特級が取り込んでいたであろう指も取り込む。

 

 

 

 ______理由は、ある。

 

 少年院の中に居た呪霊は特級に部類する程の呪霊。それでも虎杖が動くよりも先に辛うじて自分の体を動かせたのは、五条先生や夏目さんとの実戦を交えた稽古のおかげ。

 

 そして何より自分の術式の中の眠っているあの式神の威圧感、それに比べれば遥かにマシ。

 

 ただ俺の実力じゃ少年院の呪霊を祓う事は出来ない。気付くよりも先に白い方の玉犬がやられた事、呪力で練った拳を全く意に介していない事。

 

 俺が死んでいないのは時間の問題、だが時間稼ぎは出来る……それに、分断した釘崎を助けに行かなければいけない、本来なら俺が残るべきだった。

 

 そう、俺が残るべきだったんだ。あの中で最も強いのは俺で、虎杖は呪術師としては未熟も良い所。

 

 特級相手に勝てるはずがない。

 

 だが虎杖のあの頼みを、俺は頭で考えるより先に体で行動してしまった。

 

 

 釘崎は難なく助けられた、伊地知さんに預けて後を任せて、俺は此処に残る……いや、残るだけじゃ駄目だ、直ぐにでも向かうべきだ。

 

 そう考え少年院に向かって歩みを進めたのと同時に、少年院の特級が起こしていた生得領域が閉じた。

 

 後は虎杖が戻れば。

 

 

 ……そう考え、今に至る。

 

 俺の判断ミスだ、俺は残ってあの特級に時間稼ぎをすれば、虎杖に釘崎の事を任せれば、結果はこうなっていた事はなかった。

 

 ……いいや、違う。

 

 俺は恐れたんだ、あの時と同じように。

 

 初めて相対する特級に、恐れず呪い合えば……“戦いの最中に強くなった少し未来の自分”を想像する事が出来たなら、或いはあの特級に渡り合えたかもしれないのに。

 

 

「さてと、晴れて自由の身だ。もう怯えて良いぞ____________殺す、特に理由はない」

 

 

「……あの時と、立場が逆転したな」

 

 

 想いが、呪いが牙を剥く。

 

 ……悪い、虎杖。

 

 今お前がこうなったのは、俺のせいだ。

 

 責任は取る(覚悟を決める)

 

 

 

 

 

 

 

 

 ______不平等な現実のみが平等に与えられている。

 

 

 目の前の少年、伏黒恵と相対して_____両面宿儺はその練り上げられた呪力、術式から生み出される式神を見定めて、疑問を浮かべた。

 

 

「わからんな、お前。あの時何故逃げた?」

 

「怖気た。それだけだ」

 

 伏黒は自らの術式の式神の一つ、鵺を飛ばして、それとほぼ同時に自らも駆け出した。その様子を愉しそうに嗤いながら宿儺は先手を譲る。

 

 慢心ではない、確かな実力の差からくる余裕の現れである。

 

「クッハ!正直だな呪術師!」

 

 

 迫り来る伏黒に宿儺は相対する______面白い、式神使いのくせに術式本人が向かってくるのか。

 

 互いの拳と拳が相対する、肉弾戦。しかしその近接戦闘に分があるのはやはり両面宿儺であり。

 

 

「ッ______!」

 

「ほう?避けるか、中々良いぞ?そら、もっと呪いを込めろ……!」

 

 

 しかし辛うじて拮抗が保てる程度にはまた、伏黒恵の能力は高かった、限り限りの状況、一挙手一投足の判断が自らの死に繋がる場面、何より先ほどまであった呪いに対する畏れを飲み込み、覚悟を決めた。

 

 本来の少し先の実力、それが伏黒恵を此処まで動かせている要素の一つだ。

 

 しかし志一つで実力の差が埋まる程呪いの世界は甘くない、一歩、また一歩と確実に宿儺の拳が伏黒恵を捉える。

 

 やがてその拳が深く顔面を捉え、伏黒恵は大きく後退する、その間を埋めるように伏黒恵の腹部目掛けて両面宿儺は蹴りを放つ。

 

 辛うじて両腕をクロスする事で直撃を回避したが、勢いを削り切れず地面をバウンドするように転がる。

 

 転がる要領で跳ね上がって立ち上がる______足が震える、この少ない攻防だけでこうもダメージが蓄積するのか……!

 

 

「頑丈じゃないか?ククッ、ケヒヒ……!」

 

 

 ______呪術云々じゃない!膂力(パワー)俊敏性(アジリティ)も格が違う!

 

 

「脱兎!」

 

 

 ほう______?宿儺の視界が伏黒の呼び出した兎の式神に埋まる、文字通りの物量、手を翳せば簡単に壊せる、攻撃性はない。

 

 なるほど目眩しか、悪くない、付き合ってやろう。

 

 そう気楽に考え、視界が晴れた先に______直線を高速で突進してくる式神を見定める。

 

 あくまでも自然体、宿儺は迫り来る巨大な黒い牛の式神に対して避ける手段を取らず、了の手を広げ受け入れるように相対した。

 

 

 衝突。

 

 

 弾けるような衝撃音。

 

 伏黒恵の呼び出した式神、貫牛(かんぎゅう)は直線でしか動けない代わりに、相手と距離をとるほど威力が増すという特性をもつ。

 

 シンプルながらもその特性は、三本分の指を取り込んだ両面宿儺の体をのけ反らせる事に成功した。

 

 好機。

 

 伏黒は駆け出しながらも貫牛を影に戻しつつ影絵のポーズを取る、人差し指と中指でわっかを作り目を表現、親指を下顎として捉える______大蛇。

 

 

「おぉ?」

 

 

 地面から飲み込むように現れた大蛇に両面宿儺は次の手がどう来るか見定める、顕現化を解いていない鵺に乗って伏黒恵は宿儺に向かう。

 

 両面宿儺に効くか定かではない、だが自らの拳では何一つ意に介していなかった……ソレならば。

 

 影の中から呪具を取り出す、特別な効力は無い、されども斬れ味だけは誇れる程度の短刀。

 

 

 それを構えて向かってくる伏黒に、宿儺は大きく嗤いながら、その体の膂力(パワー)を全開に放った。

 

 ______一撃で大蛇が破壊された……クソッ!

 

 

「いいぞ!もっとだ!伏黒恵!」

 

 

 向かい来る脅威に向かって伏黒は辛うじて反応する、鵺をサポートに徹しさせて限り限りの空中戦。

 

 しかし均衡は先程の地上戦よりも早く、背後から放たれる両腕の剛腕により、伏黒恵は大きく叩き落とされた。

 

 

 瓦礫を退かして伏黒は身体を起こす。呪力は……まだやれる、身体の痛みは響くがまだアレ(・・)を出す程じゃない、それよりアレを出して破壊される方が問題だ。

 

 一先ず鵺は限界だ、使える手札は……いや、それ以前に。

 

 ______格が違う、底が見えない。一体どうやって()をこれ以上追い込む事が出来る?

 

 

 空から着地した、全くの無傷のその者……両面宿儺を睨みながら、不可能に近いと分かっていながらも、伏黒恵の戦意はまだ揺らいでいなかった。

 

 

「術師本人の戦闘能力(フィジカル)、影を媒体にした術式……最初からその気(・・・)でやっていたらあの虫程度祓えていただろうに」

 

「……そうだな」

 

「ケヒッ、まぁいい。あの牛の一撃はそこそこ効いたぞ?そら、頑張れ頑張れ______ココ(心臓)を治したければ後一歩足りんぞ?」

 

 

 ……バレバレか。

 

 この呪いの王を確実に祓えると確信できる方法は一つだけ、ある。

 

 自らの命を犠牲にすればそれは叶う、いっそそれに身を任せればこの呪いの王に一泡吹かせて潔く死ねるかもしれない。

 

 だが、俺は______伏黒恵は、姉を残して一人では逝けない。

 

 けれど、少しでも多くの善人が平等を享受出来るように。

 

 不平等に人を助ける。伏黒恵は自らの呪力を巡らせて、口を開く。

 

 

「……俺の術式は十種影法術、影絵を実体化させる形で式神を顕現させ使役する。それだけじゃない、自分の影の中に呪具をストックする事もできる」

 

「術式の開示か、良いぞ?それで?」

 

「……未だ未完成、それでもその引っ掛かりだけはモノにした。それを使って、俺の全力でその心臓を治させる」

 

「______くくっ、そうか……!伏黒恵、お前」

 

 

 伏黒は両手をグーにして握り合うように手印を結び始め、その動作を両面宿儺は心底愉快だと言わんばかりに嗤い出す。

 

 勝負は此処から。

 

 

「領域展______」

 

 

 

 ____________空から、雨が降り始めた。

 

 

「……結局は我儘な感情論でお前を助けた、けれどそれでいいんだ」

 

「俺は正義の味方(ヒーロー)じゃない、呪術師なんだ。だからお前を助けた事を一度だって後悔していない」

 

 

「……そっか」

 

 

 

 長生きしろよ。

 

 

 

 ……最後に虎杖(・・)はそう言い残し、その身体は地面に倒れ込んだ。

 

 空を見上げた伏黒恵は、ただ静かに。その拳を握り締める事しか出来なかった。

 

 

 

 記録 2018年7月西東京市、英集少年院。

 特急仮想怨霊(名称未定)その受胎を非術師数名の目視で確認。緊急事態の為高専1年生3名が派遣され。

 

 ____________1名死亡。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……記録ではそう書いてあったんだけど。

 

 

「初めまして、虎杖悠仁っす!」

 

「生きてんじゃん、その子」

 

 

 五条君から「午後の予定は空けといて、これ強制」とか言われたので本当に仕方なく空けて、指定された所______高専の地下に向かってみれば。

 

 そこには一週間前に死んだって聞かされていた両面宿儺の器が生きてそこに立っていた。

 

「じゃじゃーん!驚いた?」

 

 五条君が何か言ってるけどめんどくさいから相手にしたくないや。

 

 反転術式か、硝子か?違うな、だったら死亡なんて態々書かない。

 

 何かあったな、私は海外の任務ついでに乙骨君にも会ってきたからその間の当事者ではないが、一度死んだのはほぼ間違いなく断定できる。

 

 だったら両面宿儺の器______虎杖君は、一度死んで、もう一度蘇ったというのが本命の予想だ。

 

 だとしたら生得領域……その心の中で何かがあった筈。

 

 相手は呪いの王、呪術全盛の時代の“最強(・・)”、仮に私が満足に身動きが取れない状況を打開したいと考えた時、どうすればそれを打開出来る……?

 

 整理しよう、呪術のいろはも覚えたて、そんな相手を屈服させ自身の器の変換させるのなら。

 

 

 ……少し、分かったかも?

 

 

「決めた」

 

「えーっと……?」

 

「虎杖君、もう一度君を殺そうと思う。それで多分分かるから」

 

「ええっ、俺殺されるの?!」

 

「最悪死ぬだけだよ、大丈夫大丈夫。安心して」

 

「何一つ安心できません!」

 

 

 呪力を込める、ごめんね虎杖君、少なくとも私は本気だよ?いつだってね、冗談は好きだけど自分ではあんまり言わないんだ。

 

 そうして無造作に突き出して放つ黒い閃光に、虎杖君は抵抗をしないまま______させるよりも早いんだけど。その呪力によって心臓を貫ぬく。

 

 ……よりも早く、間に立った五条君が、無下限で相殺させて、黒い目隠しで隠された視線を私に向ける。

 

 

「ちょいちょーい、流石に洒落にならないよ夏目」

 

「洒落じゃないからね……あのさあ()君、前から言おうと思ってた事、今言っても良いかな」

 

「何さ?」

 

「私の“指標”を勘違いしてきてない?私の大切なものの中に、その子は含まれてないんだよ」

 

「______だから殺すって?ふざけるなよ、僕の夢……強く聡い仲間を育てる。悠仁もその一人なんだよ」

 

「分かってないなぁ本当に、昔から何も分かってない……」

 

「かもな。でもお前の事は分かってるつもりだよ、やるか?今回は本気だ、これは譲れない」

 

 

 私と五条君、お互いの呪力が反発し合うように高まり合っていく。表情こそ変わっていないが、その口調は真剣そのもの。

 

 気に入ったな?虎杖悠仁を。

 

 だからこうして真剣になっている、大いに結構。五条君の行動を私は何一つ縛らない。

 

 けれど私は別。私の予想が正しいなら虎杖君は自分が復活した理由を説明出来ない、それはそうだろうな。きっと覚えていないから。

 

 覚えていない上で両面宿儺に何かを契約させられた……“縛り”だ。その縛りがどういったものかは知らないが、私にとっても五条君にとっても。

 

 何より虎杖君にとって良くない事だろう、呪いっていうのはそういうものなんだから。

 

 

 私が気付いた事を言葉にした所で、この楽観主義者はまともに聞く筈がない、自分が“最強”なのを良い事に何とかなるとでも思っているんでしょ?

 

 そうだね、実際五条君が助ける人はどうにかなるんだろうね。

 

 で、それ以外はどうするのかな?また失ってみる(夏油君のように)?いいよ別に、それは勝手にしてよ。

 

 だけどそこに私の大切なものが巻き込まれたら、私はもう()君の言葉じゃ止まらなくなるよ?

 

 

 

「____________あの!」

 

 

 

 一触即発、その空気を変えるようにその子は大きな声を出した。

 

 

「俺の扱いを巡って五条先生と、えーっと……」

 

「嘘でしょ、目隠しバカから紹介されてない?夏目、夏目鮮花だよ」

 

「夏目さんが争うのは違うと思うんすけど」

 

「それで?じゃあ君は死んでって言われて私に殺される?」

 

「い、嫌だぁ……」

 

 

 そうだろうね。

 

 さて、なら話は______

 

 

「でも」

 

「……俺の中の呪いを、両面宿儺の指を全部取り込んだら、死んでやるって決めてる」

 

「その時まで待って欲しい……ダメっすか」

 

 

 そう言って虎杖君は大きく頭を下げて、私にお願いを言った。

 

 根明だね、それに意思も固い。勇気もある、少し手が震えているのを確認した……恐怖心が無いわけではないのか。

 

 如何にも善人そうで純粋な良い子じゃないか、そんな人間が両面宿儺の器になるなんてね、皮肉か何か?

 

 ああ、何かに見覚えがあると思ったら。そういう事ね。

 

 

 似てるのか、ありし日の私の後輩(灰原雄)に。

 

 

「はーあ……仕方ないなぁ」

 

「じ、じゃあ?」

 

「殺すのやーめた、ごめんねー」

 

「軽っ、えっ、そんな軽い気持ちっ?!」

 

「そうだよ、私の中で虎杖君は昨日殺した呪霊より低いよ」

 

「低っ、呪霊より低いの俺!?」

 

 

「だから大きくなりな、私が殺したくないなあって思うぐらいに、分かった?虎杖君」

 

 

 五条君が少し驚いてるような表情を浮かべてる……あんまりこういうことは直接他人にいうことは無いからね。

 

 人たらしだなこの子。無自覚だからタチが悪い、教育が生んだのか元からそうなのか……後者っぽいね?尚更タチが悪い。

 

 

「______オッス!」

 

 

 私の問い掛けに元気よくそう言った虎杖君を見て私は軽く、本当に軽いため息を漏らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ______同年、七月下旬。

 

 

 呪術の聖地である京都、そこで私は不定期的に呪術高専京都校に呼ばれることがある。理由はいろいろ、今年の一年を見てほしいとか、二年や三年の指導とか、京都での呪霊或いは呪詛師の討伐とか、諸々。

 

 

「鮮花〜!久しぶりねっ、元気してた?」

 

「歌姫先輩ちょっと痩せた?」

 

「嬉しいこと言ってくれるわね〜!」

 

 半年振りぐらいかな、1月に一度会ってた記憶はあるし。その後は硝子も連れて三人で飲みに行ったんだっけ。

 

 その後の記憶は何も覚えてないんだよね、飲みに行くといつもこうだなあ……もしかして私、飲むと記憶無くすタイプ?

 

 にしてもほんの少しだけ酒臭いな歌姫先輩、私を迎えに来る前に一杯飲んだ?まぁ歌姫先輩だからいいけど。

 

 

「私を呼んだ理由は?」

 

「東堂とかメカ丸とかと一度訓練して貰いたい……ってのは建前で、多分学長は両面宿儺の器の子の事について聞きたいんだと思う」

 

「まぁだろうねー。五条君に直接聞きなよ、それぐらい」

 

「あ、あはは……私からは何も言えないカナー?」

 

 

 第一、私に聞いた所で何か教えた事一回も無いのに、あのお爺さんも懲りない人だな……殺しちゃう?

 

 

 なーんて、流石に冗談。アレでもまだ腐り切った一部の呪術師(上層部)よりはマシ、ただ老人らしく変化に弱いだけ。

 

 まあ仕方ないね、いつボケが始まってもおかしくない年齢ではあるだろうし……アレでも京都校の学長が出来ているんだ、下手に殺して更に使えない奴に首がすげ変わっても意味がない。

 

 

「そうだ、ねえ歌姫先輩」

 

「んー?」

 

 

「この半年色々あったけれど、何から聞きたい?ちなみにぜーんぶ厄介事」

 

 

「え“ぇ”……」

 

 

 あはっ、やっぱりおもしろいなぁー歌姫先輩、心底うんざりしてる顔じゃーん……だからって遠慮しないけど。

 

 

 京都校に着くまでで話し切れるかな?

 

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