虚数の中の君   作:むいてんぺん

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お久って程では無いですが続きです。


忌払い-化-

 

 

 

 ______2018年、7月中旬。

 

 南国のビーチを思わせる空間、その中心で牌の音が響く。

 

 二向聴か……はてさてどう組み立てていこうかな。

 

「少し整理をしようか。先ず戦争の前の三つ(・・)の条件だ」

 

「整理するまでも無い。五条悟及び夏目鮮花を戦闘不能にし、両面宿儺を仲間に引き込む、それだけの話だろう」

 

「その”それだけ“が問題でね、現状五条悟に勝てる者は一人もいない、アレは理の外、本物の現代最強だよ」

 

「……儂等が束になってもか?」

 

「十中八九祓われるかヒラヒラと逃げられる、まぁだからこそアレ(・・)がある訳だし……それに、封印さえ出来れば後は気にしなくて良い」

 

 

 それでも100%封印出来るとは言い切れないけどね、この肉体が夏油傑だったとしてもそれは難しかっただろう。

 

 現状の予想をするなら、私と呪霊が協力し合って漸く七割強といった程度か、しかも失敗すれば私諸共敗北が確定するおまけ付き。

 

 真正面からやり合って勝てる相手ではないからね、まったく強すぎるんだよ彼。

 

 呪霊操術の他に五条悟のメンタルを削る為にも夏油傑の肉体は欲しかったけど。

 

 はぁ……代わりの呪霊操術使いを探してもそう上手く見つかるものじゃないし、悔やんでも悔やみきれないね、本当やられたよ。

 

 

 ______まぁでも、代わりは出来た。

 

 

 五条悟は一つ、大きなミスをしていた。

 

 そしてそれを夏目鮮花は知りようがない。

 

 

「五条悟は良い。両面宿儺……虎杖悠仁は死んだのであろう?」

 

「さぁて、どうかな」

 

 

 宿儺についても問題ない、呪霊にとっては厳密に言えば味方ではないけれど、少なくとも私にとっては共通の協力者だ。

 

 宿儺が如何にして器を使って完全復活を成すかは見ものだけど、それほど手を加える必要は無いかな。

 

 あの呪霊の王に限って起こり得ないだろうけれども、最悪私と取引してもらう事も視野に入れる。

 

 その際の注意点さえ私が踏まなければ後は如何とでもなる。

 

 

「であるなら______やはり奴か」

 

「だね。まぁ夏目鮮花(不穏分子)についてはこっちが上手くやるよ、実力の差は身を持って理解しただろう?」

 

「ふん……代わりに儂等に貴様の手伝いをしろと、そういう話で纏まっていたな」

 

「頼むよ?いや実際、かなり頑張ってるんだからさ、君達にもそれ相応は働いて貰わないと」

 

 ______一向聴。

 

 以前よりは戦闘用の肉体に乗り換えた……というより作り変えた。いやぁ真人を見つけられたのは不幸中の幸いだね。実に良い術式……私の計画が飛躍的に加速しているのを感じるよ。

 

 それはともかく、この肉体に刻まれた生得術式も加味すればもう一度夏目鮮花と呪い合った時の勝率は______五分五分か。

 

 過去千年を含めても、強さの指標、その頂点は呪いの王両面宿儺に他ならない。

 

 その上で、夏目鮮花という呪術師は過去千年を含めても強敵。油断も慢心も出来る相手ではない。

 

 

 呪力量では負けている、削りに削って漸く呪力の底が見える頃には私の呪力が先に枯渇しているだろう。

 

 術式の強弱については……あれだけ呪い合ってもまだ切り札を持っていた事が漏瑚達を通じて分かった事から、何とも言い難い。

 

 恐らく術式の解釈、そのスケール……その全てが“ナニカ”ズレている。このズレを一千年以上生きた私ですら解読不能、そもそもあの状態(・・・・)で何故この世に存在していられるのか。

 

 とはいえ、彼女に弱点が無いわけではないけれどね。

 

 近接戦闘に限れば此方が極めて有利、多少粘られるだろうが押し切れる事は前回で学んだ。

 

 術式は非常に厄介だがフィジカル戦に持ち込めれば私が有利になる事は明白。

 

 

 総評、厄介極まりない。

 

 

 だが勝ち筋は幾つかある、条件さえ満たせばあの“虚なる者”を攻略出来る。

 

 そして現状それが出来るのは、最悪なことに私以外に居ない。全盛期の両面宿儺ならどうとでもなるだろうけれども、彼の完全復活には夏目鮮花は余りにも邪魔すぎる。

 

 本意では無いが、もう一度リベンジマッチをする必要があるね。

 

 

 ……聴牌。

 

 

「難しい話はそれぐらいにしてさー、もっと面白いこと考えようよ」

 

「ふふっ、それもそうだね。なら少し君の術式の可能性を見定めてみようか、真人」

 

「へぇ______?聞かせてよ、呪詛師」

 

「勿論______ロン。悪いね漏瑚、倍満だ」

 

「何ィ!?」

 

 

 くくっ……さて、兎にも角にも真人、君が育ってくれるかくれないかで今後の動きは変わる。

 

 君が呪霊として進化し、その術式を私の目的の為に使ってくれるその日が案外近ければ良いんだけれど。

 

 らしく(・・・)やろう。

 

 先ずは試運転、さてさて______たのしもうじゃないか。

 

 

 

 

 

 

 

 ____同年、7月下旬。

 

 

 

 第一印象はおっかねー人、って思った。

 

「今から合わせるチビは、まぁなんていうか……もしかしたら殺しに来るかもだから、あんまりビビんないでねー?」

 

 えっまじっすかなんて言って、五条先生も冗談みたいなこと言うんだなーって思ってたけど全然冗談じゃなかった。言われた以上にとんでもねー人だった。

 

 出会い頭に殺しに来たんだもん、そりゃ怖いよ。しかも直前まで放たれる呪力の異質なソレに全く気付かなかったし。

 

 何より、五条先生と対峙してた時。

 

 五条先生もだけれど、俺が少年院の時に相対した呪霊が霞む程に、周りの呪力が荒ぶっていた。心底怖かった、俺を本気で殺すとして、きっとその理由も俺が両面宿儺を取り込んだからって以上の理由で。

 

 だからこそ勇気を出して間に入って、何とか説得出来て……俺は夏目先生に認めてもらおうって頑張ろうと決断したんだ。

 

 

 そこからは何つーか、早かった。

 

 次の瞬間には五条先生もいつもの様子に戻ったし、夏目先生もそれまでが嘘のように威圧感っていうのかな、それが消えた。

 

 表情も何ていうか笑ってる顔になったし、俺も安心してほって一息入れた。

 

 

「じゃ、夏目も悠仁の特訓に付き合ってくれるってことでけってーい」

 

「勝手に決めないでよねー、まぁいいけど」

 

「う、うっす!お願いします!」

 

「じゃあまたそのうち来るから、じゃあねー」

 

 

 そう言って夏目先生は五条先生みたいにぱっ、って消えて、何処かに居なくなって。

 

 

 はや一週間半が経過しました。

 

 

 

「夏目先生はああ言ってたけど、来ないのかなー」

 

「呼んだ?」

 

「噂をすれば〜……って、うぇっ!夏目先生?!」

 

 

 振り向いてみたら、そこには以前と全く変わらない様子で夏目さんがソファーに腰掛けてた。

 

 えっ?いつの間に?ドア開いた音とか足音とか何もしなかったんだけど……。

 

 

「じゃあ早速やろっか。ついてきて?」

 

「う、うっす!」

 

 

 自分より全然身長の低いのに、何だかこの人には敬語を使わないとダメな気がする……。

 

 夏目先生の後ろをついていくと、夏目先生は壁に立ち止まって手を翳す、するとそこから何か違和感を感じた。

 

 不思議に思って首を捻ると、その様子を見ていたのか夏目先生が言葉にしてくれた。

 

 

「私の術式。ほら、入るよ」

 

 

 壁の中に消えていく夏目先生に、意を決して壁に向かって歩き出すと、一瞬で視界が変わって______。

 

 

「ここ、外?」

 

「正解、室内よりも外の方が広く使えるからね」

 

「はぇ〜……」

 

 

 今何が起きたんだろ、壁にぶつかると思ったらぶつかんないで気付いたら外に出てるし。

 

 

「五条君から何も聞いてないから、とりあえず現状どれぐらい出来るか試させて貰うね」

 

「殴り合う感じっすか?」

 

「正解、まぁ私がやるのは大人げ無いから、虎杖君が戦うのはコレ(・・)ね」

 

 

 夏目先生は手を前にすると、そこから空間が捻れて、音もなく、ただただ最初からそこにあったかのように“ナニカ”が生み出されていく。

 

 生み出されたソレに黒い色がつく、人型の“ナニカ”、なんだアレ……生物……なのかな、呪霊ではないよな。とにかく異質で、不気味だ。

 

 生み出したそれに拳を構えると同時に______俺の頬から勝手にそいつが口を開いた。

 

 

「ケヒヒッ!残っていたとはな、虚数使い」

 

「ちょッ!ご、ごめん夏目先生、こいつ偶にこうやって出てくんだよ」

 

「両面宿儺、呪いの王ねぇ……どうだった?過去の虚数術式使いは」

 

「珍しいだけの稚魚だな、貴様もまたその稚魚の一つだ」

 

「節穴すぎでしょ、存外大した事無さそうだ。それもそっか?たまたま五条君の居ない時代で一番になれただけの呪霊紛いだもんね、お前」

 

「言葉だけは回るな呪術師?虎の威を借る狐のようだぞ、貴様」

 

「どちらかと言えば狐は五条君の方だけど……私はお前を祓わないが、五条悟(・・・)はお前を祓う________最強はお前じゃない」

 

「ケヒヒッ、その時に生きていると良いなぁ?狭間の蚤」

 

 

 言いたい事は言ったのか宿儺は俺の中に戻った……正直よく内容わからねーけど、夏目先生に口喧嘩では勝てなそうかも。

 

 それにしても、夏目先生から見ても五条先生は呪術師の中で一番強いんだな、そんな五条先生から見た夏目先生は「まず間違いなくすっっごい面倒くさくなる」って言ってたのも思い出した。

 

 ……虚数って言ってたっけ?って事は、この世に存在しないもの?

 

 そんな風に考えたのがいけなかったのか、迫り来る黒い人型拳のようなものが顔面を捉えているのに直前まで気づけなかった。

 

「おっぶね……!ちょ、いきなり!?」

 

「考え事の前に、身体を動かせよう。虎杖が限り限り負けるぐらいに調整していくから、出来る限り頑張ってねー」

 

 黒い人型のソレはどんどん速度を上げていく______やっべ、これ気張ってかないと持ってかれる!

 

 

「っおォ……!」

 

 夏目先生に認められる為にも、やってやんよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 ______同年、8月。

 

 

 夏油様とその家族が中心で、それ以外は全てが敵。

 

 私の世界はそうやって創られていた。

 

 夏油様が死んじゃってから、夏目さんに拾われてから段々と世界が広がっていった、私の世界の中に色んな人が増えていった。

 

 それが良い事なのか悪い事なのかはわからない、確かなのは一つ一つ増えていく毎に、私の世界の色が増えていくのを感じていたのは確かだ。

 

 

「______って、感じ?どうかな、分かりそう?」

 

「……んん、よく分かんないや。難しいね」

 

「感覚の話だからね、教えて直ぐに分かる事じゃない______けど、美々子なら出来ると思うな、後は何かきっかけ次第だと思うよ?」

 

「きっかけ次第かあ……」

 

 

「呪術師の成長曲線は必ずしも緩やかじゃないからね」

 

 

 そう言って、私の隣で笑う彼女の姿に、夏目さんも似たような事を言っていたなぁと思い出した。

 

 最初から強い呪術師は例外を除けば居ない、夏目さんは“自分はそう(・・)じゃない“って言ってた。

 

 一度気になって質問した事がある、夏目さんはどうやってその強さを手に入れたのか。

 

 術式の解釈も、領域展開も反転術式も全て「生と死の間」の中で手に入れた産物。

 

 虚数術式という何ものでもあって何ものでもない術式を扱う夏目さんだからこそ、そこ(生死)で初めて自分という人間(呪い)を見つけたとか、そんなような事を言っていた気がする。

 

 夏目さん曰く、最初から強かったのは“五条悟と夏油様の二人だけ“みたい。だからあの二人は親友同士で、隣同士の関係だったって言っていた。

 

 

「今際の際程呪術の核心に触れやすい。でもね、菜々子が、美々子がソレに触れなくても良いんだよ。触れない方が良い」

 

 

 そう語る夏目さんの目は、いつもと違って私達をしっかり赤い目で見つめながら話していた。表情はいつもと何も変わらないけれど、言葉の重みだけは、心に重く響いた。

 

 強さを得るの為に何かを削る、その何かを削るぐらいなら、強くならなくて良い。そう言っていたのかな。

 

 

「呪術のお話はここまでにしよう、言い出したのは私からだけどね」

 

「さんせーい、せっかく竹下通りに来たんだから、タピオカミルクティーでも飲みに行かない?」

 

「いいね、実は飲んだ事が無いんだ。家が古臭くてね」

 

「美味しいよ!……カロリーはちょっと気にしない方がいいけど」

 

 

 そう言うとその少女は苦笑いを浮かべた。

 

 この同年代の少女と私が話すようになったのは、二ヶ月程前ぐらいだった気がする。

 

 夏目さんが気紛れに行かせた一般的な高等学校。奈々子には合わなくて私一人で行っても楽しく無いからもう殆ど行ってないけれど、私と奈々子が編入して、一週間後ぐらいに彼女は転入してきた。

 

 最初こそ話さなかったけれど、七海さんから帳を教えてもらって、外出中たまたま三級程度の呪霊が自然発生、帷を張って討伐したあとに彼女に見られた事がきっかけ。

 

 最初は呪詛師だと警戒したけれど殺意も、敵意も無くて、それどころか友好的に私に接してくるから戸惑った。

 

 それから、何となしにずるずると関係が長引いて。

 

 ______多分、これが友達って言うものなのかな。

 

 

「菜々子も呼んでいい?きっと大丈夫だと思うから」

 

「もちろん、ただ高専の教師は呼ばないでね。少し折り合いが悪いんだ」

 

「はいはい、何度も言わなくてもわかってるよー」

 

 

 偶然。にしては出来すぎてると思う、友達だと思ってるけれど、怪しいのは確か。

 

 それでもこの少女の事を、私の半身以外に話す気にならないのは。

 

 

「じゃ、いこっか」

 

 

 私の世界の中に彼女も加えてみたくなった。ただそれだけの理由。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ________同年、8月第四水曜日。

 

 

「こんにちは」

 

「……こんにちは」

 

 さいあく、何で京都校にこの人が来ているのよ。なんて本心は隠して引き攣った笑みで挨拶を返す。

 

 時折外部、或いは東京校の方から臨時で呪術師が来ることがある、彼女もその例の1人で、不定期的に歌姫先生からの呼び出しだったり任務ついでだったりで京都校に来日する事がある。

 

 特級呪術師夏目鮮花さん、私とは全く別の生き物、その在り方。

 

 

「今日は、その。何の用で?」

 

「真衣ちゃんには関係ないよ」

 

 

 あぁ、これだ。

 

 私が彼女を、夏目鮮花特級呪術師を苦手とする理由は、これだ。

 

 彼女には私が映っていない、どうでも良いんだろう、私のことなんて。いや私だけじゃない、京都校の可愛い後輩も同い年も、一個上の奴らも一級呪術師の東堂すらも、彼女は見ているようで見ていない。

 

 今だって視線すら合わない。それが当然のように。

 

 

「______あぁ、そういえば」

 

 

 ……そう思っている、今でもこの感情はきっと正しい。

 

 実際夏目さんはさっきまで何も見ていない、ここじゃない何かを見つめているようで、次の瞬間には、私を覗き込むように“目と目が合う”

 

 

「呪力量の無い真衣ちゃんがどうやって構築術式を活用するか、答えは決まった?」

 

「えっ?えーっと、近代兵器と混ぜ合わせる扱い方を」

 

「30点。近代兵器を使うのは良いけれどそこに構築術式を組み合わせるのは勿体無い」

 

「……っ、でも。私の呪力じゃあ」

 

「銃弾一つを構築するのが精一杯って言いたそうだね、術式に対する理解が甘いね、甘々。ぜーんぜんだめ、0点」

 

 

 深淵のような目が、私を誘うように覗き込む。夏目さんは心底馬鹿にしているような表情で私を見つめてくる。

 

 微かな反抗心と、貴女のようにはなれないという諦観が私の心を埋めていく。

 

 

「真衣ちゃんにも出来る構築術式の答えは“術式の縛り”だ。それで漸く50点ぐらいにはなれるかな?」

 

「縛り……?」

 

「そう。冥冥先輩……先生って言った方がいい?まぁどっちでもいっか、黒鳥操術で使われてる鴉が命を代償にした縛りで飛躍的に能力を底上げしている事は知ってる?」

 

 

 ……何処かで聞いた事があるような気がする、多分歌姫先生がそれとなく言っていたような、言ってなかったような。

 

 それを私の構築術式に組み立てろってこと?……正直理解しづらい、自分の術式に縛りをつける、これはまだわかるけれど、じゃあどんな縛りをすれば良いのよ。

 

 

「あはっ、センスないねえ」

 

「〜〜〜っ!じゃあ!……じゃあ夏目先生はどうすれば良いとか最後まで言ってくださいよ」

 

「そもそも何で構築術式が燃費が悪い術式だって言われてると思う?」

 

「っバカにして!構築術式で一度生成された物質は術式終了後も消えない、だから呪力消費が激しく体への負荷が大きいからですっ」

 

「その負担を縛りで無くすには?」

 

「_________え……いや、そんなの出来るわけ」

 

「出来るよ?だから言ってるの、術式の解釈が甘々過ぎるって」

 

 

 人を小馬鹿にする様な笑いの後に、ただ目だけが、今だけは私を覗き込むように見つめながら、何でも無い様に夏目鮮花は言葉を続ける。

 

「術式終了から数秒後に構築した物質を世界から消す縛り。生成する物質を一点に限定させる縛り。この2点の縛りで呪力量の問題は解決する」

 

「こ、後者は……ともかく、構築した物質を、世界から消す縛りなんて結べるわけ……」

 

「なぜ。世界に残る事は強みだ。呪術で作成した物質が残り続けるその強みを放棄させる行為が、縛りと言わずに何と言う?」

 

 

 ________ああ。

 

 やっぱり、私は一生この人の様にはなれない。

 

 

「君も君以外も。殆どの呪術師が自らの持つ「術式」を……呪い(・・)を何一つ理解していない」

 

「術式の解釈を、世界を、呪いを広げろ。何者にも囚われる事なく自由に」

 

 

 そう語る夏目鮮花特級呪術師は、今この瞬間誰よりも「先生」だった。あの東堂が大人しく授業を聞いているという噂はマジかもしれない。

 

 夏目さんの講義を、呪術によるトレーニングを積んだ呪術師の内数名が一回り以上の成長をするという噂も、現実味があるようにみえる。

 

 私の世界が、ほんの少しだけ広がる様な感覚がしていく。

 

 この世界の広がりが________広がった先のさらに先に、夏目さんは存在しているのだろうか。

 

 

「術式に対しての縛りは他者間での縛り程難しくない、姉妹校交流会までに出来るかは真衣ちゃん次第かな」

 

「がんばります」

 

「ん、いい子だ」

 

 

 そう言って夏目さんは少し背を伸ばして私の頭を撫でてくる……拒むわけにもいかないから、大人しくされるがままにしてるけど……。

 

 誰にも見られてないわよね?

 

 

「それじゃあそろそろ、今日の用事は人探しだからね」

 

「人探しですか?」

 

「そう、歌姫先輩には難しそうだったから、私1人でやる事にしたって事……他の人には内緒だよ?」

 

 

 

 

 

 

 ________同年9月7日、某所。

 

 

 あの継接ぎの呪霊について、限られた情報の中で考察してみる事にしたのが襲撃から3日後。

 

 そういえば、京都校にフィジカルギフテッドとは真反対の天与呪縛を持った呪術師、しかも生徒が居る事を思い出したのはその3日後の夜。

 

 本格的に考察をし始めて_______呪詛師と呪霊が手を組んでいる事と、背後に件の呪詛師がほぼ確実に絡んでいるであろう事を踏まえれば。

 

 

 一つの解が私の中に浮かび上がった。

 

 

 先ず大前提として、あの継接ぎ呪霊、正確にはあの継接ぎ呪霊が使っていたとされる術式についてだ。

 

 あの時、任務に付いて来た補助監督と変わる様に不愉快なオプジェのソレは、生物としての輪郭を残しながらだが確かに生きていた。

 

 補助監督がああなった、そう考えるの自然で、だとすればそれは術式による変容だという事がわかる。

 

 追いかけた時に口から吐き出した生物のようなものも生きていた、つまりは生物、そして恐らく________元は人間。

 

 自他含めた肉体の操作、或いは変容、いや……?それだけじゃ無いな。何かある、それ以上の真髄が。

 

 

 その術式は毒にもなるだろうが薬にもなるだろう、肉体の変容が可能なら反転術式とは違う要領で肉体の欠損を治す事が出来るはず。

 

 例えばそう、元から肉体の欠損を患っている人間であったとしても。

 

 私の虚数による便宜上瞬間移動に属する術は一度訪れた場所か、私の指標に関わる人物に限定される。

 

 これは縛りじゃない。自らを含めての虚数術式の運用法は指標を定めなければ私自身が虚数に近付き過ぎてこの世から”完全に”居なくなってしまう可能性があるからだ。

 

 少し時間はかかったが、目星の付けた場所を虱潰しに探せば自ずと見つかる程度ではあったかな。

 

 

「実際に会うのは初めてかな、何て呼べば良い?メカ丸くん」

 

「どう、してだ、なぜ。ここに」

 

「単刀直入に言うけれど、呪詛師に誘われたね。そして協力する事に君は頷いた」

 

「ッ……俺は、秘匿死刑……か」

 

「いいや?寧ろそれでいい(・・・・・)

 

「なっ……!?」

 

 

「その状況を活用する。さてメカ丸くん、共同任務だ________」

 

 

 両面宿儺の受肉に気を取られて私に情報を与える事になったのを甘く見たか?呪詛師(マヌケ)

 

 その時(・・・)がいつになるかは知らないけれど。

 

 次は逃さない、確実にこの手で祓ってやる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ________同日東京、下水道内部。

 

 

 

 すっからかんの呪力、満身創痍の肉体、はははっ……!なんてインスピレーション。

 

 始まりは一週間前、誰でも良かったんだけど、丁度良い頭のいい馬鹿が釣られたからそいつを使って、呪詛師から学んで、俺自ら試行錯誤しながら術式の可能性を追う実験。

 

 こっちの結果は上々、というか多分あの呪詛師が俺の術式を使ってやって欲しい事ってのは”ああいう“のなんだろうな、あんまり惹かれないなー。

 

 

 まぁこれは次いでで、一級術師との戦闘、あの七三術師も俺に大したダメージも与えられない癖に中々に強かったなぁ……対した隙も無ければ弱点らしい弱点も見当たらない。

 

 やっとの事で触れてチェックメイトしたと思ったら、咄嗟に呪力で本能的だろうけど魂を守りやがったし、アレが一級術師の基準なら俺が祓われる事はまず無いとしても、中々に面倒臭い。

 

 改めて第二ラウンドかと思えば壁を瓦礫の山に変えて撤退されるし……まぁ気を取り直して数日経って準備した仕掛けを発動、宿儺の指を餌に順平の親を呪霊に殺させて、てきとーに嘘ぶっこいて、良いタイミングで、ポン!

 

 

「ははっははっ!げほっ……あー、傑作だったなぁ……あの顔」

 

 

 漏瑚達にも見せてやりたかったよ、宿儺の器(虎杖悠仁)のあのなっさけねぇ〜姿!まじサイコー。

 

 その後も後で、アイツが中々に天敵だったり、死の間際の領域展開、両面宿儺という呪いの王の存在感、まぁ色々あったけど……ッ!

 

 

「やっ、楽しかったかい?」

 

「最高だったよ!死にかけたけどさ!」

 

「くくっ…… 今際の際程呪術の核心に触れやすいものだよ」

 

「その通りだったよ、いやぁ疑ってた訳じゃないけど、あんなにも世界が変わるような感覚なんだね」

 

「まだまだ真人は成長できる、私が保証してあげよう」

 

「ははっ、何それー」

 

 いつの間にか、何処から見ていたのか俺達と行動を共にしている呪詛師が“柔かに”近付いてきた、外見と打って変わって鬱散臭ぇー笑みだなぁ。

 

 ま、良いけどね。俺達の目的とこの呪詛師の目的は違くても、利害が一致している限りは手を組み続けてやるよ。

 

 そんな事より、あぁ……俺はいま、どうしようもなく虎杖悠仁を殺したい!

 

 

「もどかしいなぁ……」

 

「いいじゃないか、肉体と違って魂は何度でも殺せる、そうだろう?真人」

 

「ははっ、確かに!次はどう殺してやろうかな」

 

「っと、そうだった。ねえ真人、少し手伝って欲しいことがあってね、あぁ勿論今日は休んでもらっていいよ」

 

「言われなくても、正直げーんかい!一歩遅かったら祓われてたかもだし」

 

 

 呪詛師は薄笑いながら俺にその手伝って欲しいって内容を話しながら歩く。

 

 少し前を歩く呪詛師、他の人間なら兎も角、この人間は俺を一番最初に発見して、友好的に接した奴だからかな?

 

 呪霊に感じる気持ちが、ほんの少しだけこの呪詛師にも感じる……なーんて。

 

 

「________ってこと、頼めるかな?」

 

「ははっ、良いんじゃない?にしても性格悪いっつーか、良くやるよ君も、それが夏目鮮花に対する策って奴?」

 

「ん?ああ、いやいや、そういうのじゃないよ」

 

 

 そう言って呪詛師________セーラー服を着た少女は楽しそうに笑って、その姿とは想像もつかない程の邪悪を含ませた言葉(呪い)を吐いた。

 

 

 

「ウザいやつに対するただの嫌がらせ!」

 

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