ネットのオモチャすぎる最強探索者〜毒親の英才教育から解放された俺、超有名配信者と共に圧倒的なミーム力を駆使して最難関ダンジョンの最深部を目指す   作:ぱんまつり

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第一話 神の使い

 竜の心臓が止まった事を確認してようやく首筋の血を拭う。

 

「今日も命拾いしたな」

 

 素材となる竜の鱗や爪を剥ぎ取りながら神に感謝する。

 神というのは勿論パパとママ。

 二人のお陰で強く逞しく生きてこられた恩義を常々忘れてはならない。

 

 信心の積み重ねが明日の命をつなぐ。

 ダンジョンという過酷な環境下において人はあまりに非力で、見えざる力に頼らねば生きていけないのだから。

 

 だというのに……。

 

「呑気な連中だ。死にたいのか?」

 

 浅い階層で変異個体と交戦し留まってしまったせいで他の探索者と階層を共にしてしまい気分が害された。

 連中、パパの言う通り緊張感がないようで他の人間と談笑しながら攻略してやがる。

 

 それになんだ?

 時折俺に向けてくる縦型の箱は?

 ピカピカと断続的に光って俺を照射しているよう見えるが……。

 

「くそっ、危険すぎる。先に進もう」

 

 ママの言う通りだ。

 やはり得体の知れない他の探索者とは絶対に関わってはいけない。

 

 気持ちを切り替えてズンズン攻略を進めてゆく。

 数にして8つ階層を降りたところで再び俺の足が止まる。

 

 前方、50メートル先に頭が四つある大蛇──エリート・オロチだ。

 奴は鋭敏な感覚を以って俺を察知したらしく、既に俺を睨みつけている。

 だが襲ってこない。

 攻撃的かつ直線的な気性だったはず。

 様子見だろうか。

 いや、

 

「変異個体の可能性を捨てるな。直前までの常識は切り捨てろ」

 

 同じ日に二体目の変異個体とは運が悪い。

 自分に言い聞かせ、竜の牙を投擲する。

 これは牽制、まずは動きを見たい。

 強力な魔力を纏う竜の牙──これならば何らかの反応を見せ……ないだと??

 

 奴は頭の一つを犠牲にして防いでみせた。

 頑なに動こうとしないのは何故だろうか。

 まあ動かないのなら素通りしよう。

 今日はもう少し深層を探索する予定なんだ。

 

 そうして左手の道を進もうとした時だった。

 

「ひぃやぁあああ────ッッッ!?!? やめっヤメていた痛い痛いぃいい!!!!」

 

 女の絶叫が上がった。

 

 反射的にそちらを向けばエリート・オロチが頭を一つ、器用に使って女を岩盤に押さえ付けているのが目に入った。

 残る頭は俺を凝視していて、嗜虐的な欲望で濡れているのが分かる。

 

 女をダシに俺を挑発しているのだ。

 なんたる外道。

 

「奴め。動かなかった理由はそれか」

 

 獲物を囲っていたのだ。

 だから動けなかった。

 そして、カラス程度の知能があるエリート・オロチは人間を苦しめる悪辣な手段を今しがた思いついた。

 

 どうする。

 あの女を助けるか?

 ママは言っていた。

 女に関わると身体に邪気が溜まり、やがては内側から自壊してしまうのだと。

 無価値な上に危険な行為だ。

 

 それに、こんなところで足を止めていては今日の目標を達成できないじゃないか。

 

 時間と女の命。

 

 天秤はいとも容易く時間に傾き、俺の爪先を更なる深層に動かした。

 

 そんな折。

 

「総員展開! 彼女を助けるぞ!!」

「うおおおおお!!!!」

 

 他の探索者の声が俺の胸を叩いた。

 

 後ろ髪を引かれるようにして再び振り返れば救助に向かう探索者達がいた。

 鈍重な動きだ。

 あんな動きではきっと敵わないだろう。

 その癖して助けようなど傲慢な。

 

 きっと死──

 

「っっ、貴様ら! どけ!!」

 

 彼らが血肉と化す光景を想像した時には俺の身体は動いていた。

 

 ──意味が分からん。

 

 柄にもなく大きな声を上げ、強敵相手にしか使わない背中の大剣まで抜いて──。

 

「アンタは──」

「黙れ!! 動くな!!!」

 

 状況は理解不能。

 しかし身体は染み付いた動きを機械的に実行する。

 

 大剣片手に飛び上がり、階層の天井に切先を引っ掛けてガリガリと抉り取る。

 この勢いのままにアホ面を揃えたエリート・オロチを一刀両断。

 血の雨と共に降ってくる女を抱き止める。

 

 手のひらを侵食する柔らかい感触を即座に手放し地面に突き立てた大剣を背負い、俺はさっさと場を去る事にする。

 正確には……去ろうとした。

 

「うぅ……こわかったああああ! 死ぬかと思ったあぁああ!! 『ダンジョンクラッシャー』さん、ありがとう──ぅう」

 

 女が泣きじゃくり始めたので思わず全身が強張ってしまう。

 何なんだこの女は。

 殺されかけて泣いてしまうような脆弱な精神でここまで来たのか。

 

 それに『ダンジョンクラッシャー』とはなんだ?

 お前を助けた人間には『代蔵』という立派な名前があるというのに、頭のおかしい呼び方をするな。

 

 くそっ、俺はどうすればいい。

 何も言わず何もせず去るべきか?

 

 こんなところでロスしている時間はないのに……。

 昨日の地点を越えないとパパに叱られる。

 

「いや〜、運よく『ダンジョンクラッシャー』がいて助かったよ」

「ホントですよリーダー。顔の割れた実力者がいてラッキーでした」

「ああ、知らねえ奴の命令なんて聞けるわけねえからな」

「それにしても凄かったですねぇ。本当に大剣以外はチェーン店の安物装備ですよ。最強探索者の呼び声もあながち間違いじゃないかもですね」

 

 後から追いついてきた探索者らが俺を讃えてくる。

 馴れ馴れしくも俺の肩や背中を叩き、握手まで求めてきた。

 

「俺からも感謝を。彼女を──タマキさんを助けてくれてありがとう。アンタのお陰で五百万人の笑顔が守られたよ」

 

 俺より二回り以上年上に見える男からの混じり気ない感謝。

 

「……馴れ馴れしい」

 

 驚くことに俺の手は俺自身の意識を離れ、震える手でこれを弾いていた。

 ああ、やってしまった。

 胸中が得体の知れぬモヤモヤに埋め尽くされる。

 

「え?」

「……」

 

 これ以上この場に居られない事は俺でも分かる。

 ご都合な事に去りやすい状況にはなってくれたので今度こそ容易く足を動かすことが出来た。

 

 人に会うことのないダンジョンの奥地へ。

 そこで心を癒し戦果を上げてパパとママに褒めてもらおう。

 ああ、程度の低い連中のことなど忘れてしまえ。

 

 歩く歩く歩き続ける。

 一人ではなく()()()歩き続ける。

 そいつが隣で騒がしくしているが全部無視。

 ならば一人でいるのと変わらないだろうが……残念ながら限界が来た。

 

「女。消えろ」

「あはっ、やっと反応してくれた。消えないよ勿論。そんでダンジョンクラッシャー……ううん、クラさんは何処まで行くの?」

「……何処でもいいだろ」

「ちょっ、待っ、早い早い早いって」

 

 早歩きで振り切ろうとする。

 この程度では無理だと理解しながら。

 

「配信ならとっくに切ってるよ! クラさんを見せ物になんてしたくないし」

 

 意味が分からないことをほざくな。

 だいたいクラさんって誰だよ。ちゃんと名前を呼べ。知らないなら適当な名で呼ぶな。

 

「3年前、クラさんのダンジョン攻略動画を見てファンになって……あたし、クラさんに追いつくため頑張ってきたんだよ」

 

「……信仰か。俺は何も与えていないし何もしていない。だいたい……っ、俺の知らん単語ばかり並べ────」

 

 足が止まる。

 俺が止めようとしたわけじゃない、そう、右手を取られ強制的に止められたのだ。

 

 文句を言うために振り返る。

 これがよくなかった。

 俺は今世紀最大の生唾を飲むことになる。

 

「はぁ……っ、はぁ……っ、歩くの早いね。やっと止まってくれた」

 

 女が初めて視界に収まった。

 

「!?」

 

 華奢な肩で息をする俺より頭ひとつ分小さな女だ。

 

「ふぃ〜、ここ蒸し暑いね。一旦休憩しない??」

 

 彼女は顔をパタパタと手で仰ぐ。

 汗ばみ熱った顔は桜色に色づき鮮やかなピンクの髪と非常にマッチしており、やや重めな前髪からは宇宙を思わせるような紫紺の瞳が哀れな表情(かお)をした俺を映していた。

 

「……はぅ、く」

 

 反射的に口元を塞ぎ視線を下に向ける。

 柔らかそうな唇を出発点とし汗が点々としている首筋を通り、エリート・オロチの唾液で装備が虫喰い状態に溶かされたことによって露出してしまった白く瑞々しい肌の飛び地を目に焼き付けながら階段上に降りていく。

 

 腿を通過した後、露わになった胸の大きな溝で焦点が終着したところで俺は訳も分からず膝から崩れ落ち倒れ伏す。

 

「ど、どどどうしたの!? 暑いの苦手? うわっ、鼻血すっご! ダメだこりゃ、ダンジョン攻略どころじゃないね……!」

 

 石化の魔女──メドゥーサたるや。

 神にでも遣わされたか。

 まずいな、身体に邪気が急速に溜まっていく。

 

 どんな強力な魔物相手にも屈しなかったこの俺が何もせずともこのザマ……女は危険。

 無様にも、初めてのダウンを名も知れぬ女に奪われてしまった。

 

 俺を討ち倒した女はあろうことか俺を背負い上げ、揚々と声を荒げる。

 

「クラさんは絶対に死なせない!」

 

 穴倉にでも持って帰るつもりか。

 

 そんな風に考えながら俺は、頭上を飛び交う”ドローン”と呼ばれる鉄の飛翔物体をぼんやりと眺めた。

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