ネットのオモチャすぎる最強探索者〜毒親の英才教育から解放された俺、超有名配信者と共に圧倒的なミーム力を駆使して最難関ダンジョンの最深部を目指す 作:ぱんまつり
ブラックホールが叩き斬られると黒の星々が飛散する。
闇夜を切り裂くかのように手を伸ばした桃色の彗星が、その巨体を縮ませた怪物に触れる。
『ひィっ!?』
反重力で逆方向に推進力を生み出しエミィは距離を取ろうとする。
しかし、巨体の構成要素たる剣の刃を強靭な握力で掴んだタマキを引き剥がすことが出来ない。
「逃がさない──っ、絶対助けるから」
『ぃぎあァ!?』
刃を強く握りしめた掌から鮮血がふわふわと舞う中、エミィの巨体はタマキの重量を支えることができず墜落する。
結果、半径十メートルほどのクレーターが発生するほどの衝撃が生じることになったが、タマキが口と鼻から血を垂らしながらも決して離さなかったのは枠外の胆力といえよう。
鬼気迫る──という言葉が相応しい。
ドローンから配信された映像にて、印象的なカオを晒し続ける彼女を目撃した
「なんでそこまで……」
『助ける?? 意味が分からない!! 図に乗るなよ傲慢な小娘め!!!』
マウントを取られた少女の顔に黒い脈が走る。
タマキはにぃ、と笑うのみである。
「小娘? エミィはそんなこと言わないよ」
『──!?』
「どっちなの? キミは本当にエミィ?」
『……っ、ボクは死んでも身体を渡すつもりはない!』
「てことは、他に誰かいるんだ。誰かに操られてるとか? それとも思想が捻じ曲げられたとか?」
『違う。ボクはボク自身の意志でバケモノをやっている!』
「いやいや、そんな身体に変えられておいて洗脳とか支配みたいな、そういうのが無いと思う方が無理あるでしょ。でもそうか、ボスエリアに他の存在があ──!?」
ふわりとタマキの身体が浮き上がる。
まるで宇宙空間にいるかのように流れに従って移動させられ、天井へと強かに叩きつけられる。
──クラシーの魔法が上書きされた!?
タマキは苦悶に顔を顰めながら、密着していたにも関わらずそれなりの時間を要した事実をもって代蔵の魔法の方が上回ったと考えた。
それゆえに頭の平静を保つことに成功し、上空より広い視野にてバトル開始時に崩落した螺旋階段の向こう側に不規則に動く光源を発見する。
──ダンジョンボスのエリアに他の魔物はいないはず。
ならばとタマキは丹田に力を込めた。
「クラさん! 螺旋階段の辺りに何かいるかも!!」
要請に反応した代蔵は即座に走る。
明らかに危機感を滲ませたエミィが銃弾を雨霰と掃射し、剣や槍を乱雑に飛ばしまくる──が、しかし、これらは全て直撃したものの代蔵に外傷を負わせることすら出来なかった。
『ぐぬぬぬ……やらせてたまるグェッ』
「ダメダメ。動いちゃだ〜め」
重力弾を飛ばそうとしたエミィをタマキが取り押さえる。蹴りで崩落させた天井の瓦礫によって。
時を同じくして代蔵が戻ってくる。
手の上には黄金色の球体が乗せられていた。
「斬ろうとしたら飛んで逃げやがった。おそらくコイツが真のボスだ」
「ちっこいね〜」
「拍子抜けとしか言えん」
『ちっこくないし拍子抜けするでない! 我こそがダンジョンボスであるぞ!!』
球体から甲高い声が発せられた。
『あ……』
「あ、じゃねえよ〜」
この、この──とタマキが球体をツンツンする。
『負けも同然ゆえ自白は問題ないのだ』
『さっきからその球は何を言っているんだ? ボクがボスなんじゃ……』
『ふざけるなよ人間。我に成り代われると思ったか!? 我は、ここまで来た探索者である貴様の願いを叶えてやっただけだ』
『願い??』
『可愛くなりたい、強くなりたいといった低俗な願いのことだ。我なり解釈でふっ、貴様はもう覚えていまいがな』
その願いでどうしてこの姿になってしまうのか……。
球体の言葉に我が意を得たりといった様子の代蔵が冷淡な目で見下ろす。
「悪意に満ちた願いの成就だが……まあいい。なあ球体、俺の願いも叶えてくれるのか?」
『何でも言うがいい。我の解釈に沿った形で叶えてやろう』
「そうか。ならエミィの身体を元に戻してやってくれないか? 戦闘中はそうでもなかったが、最初は苦しそうだったのを覚えている」
殺意剥き出しで襲われたことはちゃんと根に持つ男である。
『…………それは無理だ。彼女自身の願いを上書きすることは出来んが、思想の拡張と
「人形の取り扱いみたいだな」
『その認識で間違いない。では、もう貴様の願いは聞いたものとして、娘の方はどうする?』
「え、あたし? えっ、クラさんは……あ〜、一応治し方は教えてくれたのか」
代蔵の願いが流されてしまった。
とタマキは考えた後、一応の納得をした。
はてさて、と可愛らしく顎に手を当てて彼女は考える。
必死に考えたのち、エミィに直接聞いてみることにした。
「エミィたん。今、どんな感じ?」
『……頭の中の熱いのが無くなって、落ち着いたかな』
「じゃあさ、今もあたしを殺したい?」
『…………どうかな、そこまでは思わないけど……でも、ちょっと嫌いかな』
「ぐはっ、心に死にそうな程のダメージががが」
胸を抑え、吐血するタマキ。
エミィは自らの顔に付着した唾混じりの血を嫌がりつつ、恐る恐る自分からタマキに話しかける。
『何で? 何でキミみたいな格上がボクなんかを気に入ってるの?』
「えぇ? 無敵かわいい配信者なあたしがエミィたんを好きだと言ったら変?」
『変、絶対変! それに嘘でしょ。ほんとは顔もスタイルも実力も人気も下位互換なボクなんか興味ないくせに、場を丸く収めるために適当なこと言わないでよ。ボクの気持ち考えたことある? トップ張ってたのにあっという間に自分より可愛くて実力ある女の子に抜かれて時代は終わっただのオワコンだの言われるボクの気持ちが!!』
「うーむ、ごめんっ。分かんないや」
『っ、ほら……分からないならボクなんて雑魚はほっといてよ。そう、ボクは雑魚なんだよ。強さと可愛さを他人に願って自爆した雑魚女。どうしようもない馬鹿とも言えるかな』
どこまでも卑屈になるエミィ。
彼女の頬についた血を優しく拭き取ったタマキは、言い聞かせるようなに続ける。
「よし、お馬鹿なエミィたんに必要なものを教えてしんぜよう。それはスルースキル! これ大事だよ〜。あたしだって、現在進行形で大炎上してるんだけどまっったく気にしてないよ。そんなの気にしてたらここまで来れないしね」
一時ノックダウンして、コラボ相手に文字通りおんぶに抱っこ状態だったことは伏せておく。
『スルー、しちゃうの? みんなの声を?』
「うん。酷い言葉を受け止めてたら身が保たないからね〜。自分にとって都合の良い言葉にだけ耳を傾けることが重要」
『そんなの表現者として最悪だよ……ボクは全ての声を糧にすべきだと思う』
「尊敬すべき人格者だね、エミィたんは。でも綺麗事だ。聖徳太子でもきっと五百万人の声は捌ききれないよ。雑音は隅に置いて心地のよい音だけ聞いておけばいい」
『…………一意見として受け入れるよ。もう意味ないけど』
「おっ、酷い言葉じゃなかったってことでOKだね。じゃあ決まりだ」
飛び降りたタマキが球体の前に立ち、手首のDウォッチを突きつけた。
「願い、決まったよ」