ネットのオモチャすぎる最強探索者〜毒親の英才教育から解放された俺、超有名配信者と共に圧倒的なミーム力を駆使して最難関ダンジョンの最深部を目指す 作:ぱんまつり
上手くやれているだろうか……?
不安渦巻く胸中で、えっちらおっちら柔らかい割れ物を抱えながら複雑怪奇な迷路を文字通り一直線に走り抜けている。
無論、俺が通った道には魔物の肉片と瓦礫しか残らない。
(ナイスフォロー! ありがとね。とりあえず、このまま行けるとこまで頑張って! みんなの興味はクラシーに向いてる)
(了解!)
小声で言葉を交わす。
一応はこれでいいらしい。
いいらしいのだが……何となく格好つけたせいで背筋のむずむずが止まらん!
流石にやりすぎたかもしれん……。
だが、仕方ないだろう? 目の前でタマキの様子がおかしくなるものだから気が動転してしまったのだ。
今日のところは引き返すという選択肢もあったのだが、タマキは怪我しているわけでもなし。
観ている側としては不自然に映るはずだったので、この択はなしだったと思う。少なくとも戦果は挙げねばならない。
では、体調不良を訴えるタマキを強制的に走らせるか?
これも無し。
どんな鬼畜だ。
ならば残る選択肢は一つしかあるまい──俺が持ち運ぶのだ。
幸いなことに俺が運べば対象の負担を軽減できる。
それっぽい言葉を並べてやれば後は実行に移すのみ。
そうさ。
何も問題はない。
手の感触がべっとりとこびり付いて離れないだろうという懸念を除けばの話だが……。
凄いな、重くないのに手が痺れてきた。
なんだこの柔らかい物質は。
「──────さん。クラさん前前! 穴!!」
「んん? ああ」
まあ、鼻血を吹かないだけでも成長と言えるか。
「あ」
「死んだよみんな!」
成長?
否、我慢は大敵。
僅かに反応が遅れたせいでスピードを落とすことなく穴に突っ込んでしまった。
下方には溶岩。
視聴者が暑さ対策が必要と言っていたけど、なるほど……ここから先が中層というわけか。
「ごめんクラさん! あたしのせいだから……気にせず離して!!」
「わかった」
「へ?」
言われるがままに手を離す。
「っ──わわ!?」
キョトンとした顔をしたタマキにふっ──と息を吹きかけると彼女は綿毛のように飛んでいった。
ひとまず暫くは落ちないので時間稼ぎには十分だ。
頭を煩悩で埋め尽くす消せない重りを取り除き、状況を打開するに足る次なる手を考える。
最悪の場合は俺自身も飛ぶ。
二人とも風まかせというのは未開の地ではナンセンスなので出来れば避けたいが……お? あれはどうだろうか。
溶岩の上に浮かぶ小さな小さな点々と続く飛地。
小石程度の大きさしかなく普通に乗れば沈んでしまうかもしれない。
でも、俺にとっては十分すぎる足場だ。
「ちっ、うるさいな。集中できんだろ」
手首の装置がうるさくて仕方がない。
身体の操縦は精密に──。
数センチしかない小石に爪先で降り立つ。
「──っし」
波紋は広がらない。
水面は揺れない。
前を見れば上空を楽しそうに遊泳するタマキ。
遠くには陸地。
道標のように続く飛地を激しく走る。
途中でジャンプしてタマキを回収し、あっという間に安全な陸地に上陸する。
「最高のアトラクションだったよ!」
「特等席、悪くないだろ?」
なんかコイツ元気じゃね? という疑問は置いておき焼けるような暑さの中、探索を開始する。
:ダンクラ、死す──なわけなくて草
:パンチラ助かる
:頑なにお姫様抱っこで草 タマキファンじゃなくてよかったわ俺。
:てかクラのメンタルすっご。性欲枯れてたりすんのかな
:今の初見で凌ぐのやばくね?
:どうみても溶岩の上走ってて草
:さすがのクラもあそこの暑さには耐えられんだろ
:こっからどうする?
:パワー一辺倒じゃないの好き
コメントを見れば驚嘆の声とともに不安の声もちらほら上がっている。
確かにここの環境は過酷だな。
いつも通り対策道具を現地調達しに行ってもいい。
だが、それまでの時間を耐えるのは……幼少期からの訓練で身体が強い俺はともかくタマキにとっては辛いだろう。
「おい、
:文字ども?
:だれ?
:ん?
:え、俺らのこと????wwww
:あー
:攻略方法なんてないよ。誰も下層まで行ってない
そうか。
聞き方を変えよう。
「ダンジョン内の各エリアは実際の自然界と同じく生物が生存不可能な環境にはならない。熱に強い魔物が生息していたり、暑さを凌ぐ素材が採掘できたりする。それらの在処を教えてくれ。100万人も観てるなら有識者くらいいるだろ」
:あー、俺は知らない
:知らん!
:中層に行けた探索者がどれだけいるよ
:それよりタマキファンに謝れって
:他の探索者探して協力仰いだら?
:中層は全域がエリアボスの生息区域らしい。渋谷ダンジョン専属探索者エミィたん(故)の配信でチラッと映ってた
:さっそくダレてて草
:ここ一ヶ月誰も訪れてないから、他の探索者はいないぞ
:そんなのないぞ。エリアボスのせいで雑魚はみんな死んでる。だから耐熱は外部からの道具で完結させる必要がある。
使えそうなコメント来たな。
「
ボスは二通りに分けることができる。
一階層を統べるフロアボスと上層、中層、下層──といった一塊の領域全体を統べるエリアボスだ。
エリアボスというのはさっきのゴーレムみたいなエリア内最強の魔物を指す。
:有識者ニキキタ!
:うおおおお!!!
:エミィの話はしないでくれ……
:これより下の世界は分からないな。現状、この辺りには一体の魔物しか存在していないことになっているのでエリアボスと仮定されている。ネタバりありの配信か分からんからボスの情報は伏せるが、とりあえず通常の魔物は生息していない。というか殺されている。壁とかマグマの中を見てみるといい。
有識者のコメントに従って辺りを見渡すと、確かに赤黒い壁の中に骨や肉片らしいものが埋まっているのが見てとれた。
「ふぇー、初見攻略しかしないから知らなかったけど……なんかグロい感じになってるね」
「……そうだな」
こいつのコメントは信頼できそうなのでピントを絞ってコメントを拾うことにする。
:渋谷ダンジョンが有名なのにも関わらず上層以降の探索が進まない理由がそれ。中層で採れるものが少なかったりボス以外の魔物とのエンカウントが無いせいで配信映えがしない。
「そうか。
:ボスから零れ落ちた素材は回収できる。奴はエリア内を移動しているからな
徘徊型か。
なら、止まっていてもいずれはぶつかるはずだが……それでいいのなら誰も苦労していない。
思案しているとタマキが後頭部をコツンと俺の胸にぶつけてきた。
「ねぇクラさん。後ろやばいよ〜」
「道?」
後ろを向く。
ガラガラと足場が崩れ始めていた。
「……」
「あはっ、止まってられないね〜」
なんで楽しそうなんだ?
他人事だと思いやがって。
:ちな、飛行系の魔法は必須だぞ?
先に言っておけよ。
あくまで種明かしはしないつもりか。
「この足場、溶岩が冷え固まっているだけだね。あまり長くは保たないみたい。もしかして誰かが作り出した足場なのかな?」
「……とりあえず走る。道みたいになってるし走れってことだろ」
そう、溶岩が冷えて固まった道が前方に続いている。
先が全く見えないことからもこのエリアの広さが伺えるな。
そして、通常体重のまま力強く地を蹴って走ろうとすれば容易く足場が崩れてしまった。
コメントの主人が言うように飛行系の魔法、あるいは俺のような重量操作の魔法が必須なようだ。
一面がマグマで染まった死の大地を走る。
暫くすると足元からは俺たちの汗によりじゅうじゅうと水蒸気が立ち昇り、タマキを抱える俺の腕は彼女の汗で水槽に突っ込んだようにびしょ濡れになっている。
「タマキ、大丈夫か?」
「うん、大丈夫。コラボ相手に寄りかかってるのはあたしなんだから、気にしないでいいよ」
「そうか」
気遣いは野暮。
タマキはそう言ってくれている。
しかし、俺としてもここまで精神的に辛いダンジョン攻略は久しぶりだな。
何が辛いって、収穫の見込めない不毛の道を走り続けなければならないのが辛い。
ただ、タマキが負担を軽減してくれているのは幸いか。
荒れ狂う視聴者と喧嘩したり、俺に何気ない話題を振ってくれたりするのは正直助かる。
「──あ! クラさんあれ!!」
「ああ……あいつが元凶だな」
そして、ついにその時がやってくる。
前方に巨大な影を捉えたのだ。
あれこそがエリアボス。
そう確信できる存在感があった。
奴を倒せば、このマラソンも終わるはずだ。
全容が見えるまで待つつもりはない。
「ふざけたシルエットだ」
「およ? クラさんブチギレ展開きたぁああ!!!」
キレそう、ではある。
怒りを込めて利き足の右を引き絞り──溶岩石を全力で蹴り飛ばす。
八つ当たりでしかない。
サッカーボールのような感覚で蹴り出されたこの弾丸は、着弾時に本来の重さを取り戻す──どころか、おまけで元の千倍の重さを持った地球屈指の質量を誇る物質と化す。
低コスト極悪威力の砲弾である。
「いいかげん道を開けろッッ、クソ野郎!!」