無念ノ剣聖 ソウブレイズ   作:全智一皆

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無念無双

■  ■

 ポケットモンスター。縮めて、ポケモン。

 この世界は、様々なポケモンと人間が存在し、共に生きている。

 そんな世界に数ある地方の内の一つ、パルデア地方のコサジタウン。

 その海岸側、頂に位置する場所に独り佇むポケモンが居た。

 

『―――』

 

 白髪の様に白みがかった、黒ずんだ青紫色の甲冑を身に着ける人型のポケモンの名前は、「ソウブレイズ」。

 ひのけんしポケモンと呼ばれ、騎士の様な甲冑と両腕が炎とゴーストのエネルギーによって構成された剣になっているのが特徴。

 

 だが、このソウブレイズは他のソウブレイズとは少しばかり異なる個体だ。

 彼は老齢の個体であり、長い年月を得て剣士としての境地へと至った、特殊な個体なのだ。

 

『……』

 

 草原へと地面を降ろし、胡座をかく様に足を組んで座り込んでいるその姿は、まさしく老人のそれだ。

 だが、真っ直ぐとした背中と年老いて尚も燃えたぎる炎は、どこか猛者の風格を感じさせる。

 

『――』

 

 心地よい潮風がさらりと甲冑を撫で、燃えたぎる炎をゆらゆらと揺らす。

 海の向こう側から、明るい日が顔を上げて空へとゆっくり上がっていく。

 眩い陽の光が、年老いた剣士の冷えた体を暖める。抗いようのない、穏やかな気持ちが訪れ、老人の眠気を誘う。

 

 平和な朝を迎えられる。

 そんな当たり前の事が、こんなにまで心地よく、落ち着くものであったと老人が知ったのは、つい最近の事だ。

 為すべき事を為し果たし、もう何も残す事はないと悟り、このコサジタウンに訪れた。

 それから、残り僅かである寿命を迎えるまで過ごす様になってから、早くも数ヶ月。

 その間に、奇妙な縁の様なものが出来つつあった。

 

「あっ、居た居たー! おはよー、良い朝だね!」

『―――』

 

 崖の反対方向、町が広がる方から此方側へと駆け寄ってくる少女が居た。

 彼女の名はネモ。ポケモントレーナーの一人であり、よく彼に勝負を挑むチャレンジャーである。

 また来たのかい? 元気があるねぇ。そう言わんとしている事が分かる、柔和な笑みを浮かべ、老人は重たい腰を上げる。

 

「ねねっ、今日もバトルしよう! 今日こそは勝つから!」

『―――』

 

 やる気に満ち溢れた様に目を輝かせながら、腰からモンスターボールを取り出すネモ。

 これが、この町に来てからの日課である。彼は毎日、このネモと戦っているのだ。

 

 為すべき事を為し終えて、後は穏やかに過ごすと思い此処に訪れた彼だが、どうやらそれは叶わぬ願いらしい。

 だが、老人はそれも自分らしいかと納得していた。

 怨念が染み付いた自分は、戦いからは逃げられない運命なのだろうと、それを受け入れていた。

 

「行くよ!」

『―――来なさい』

 

 剣が揺らぐ。大剣の形を崩して、その姿を大きく変える。

 右腕の炎は大きな手の形を象り、左腕の炎は逆向きの湾曲した剣―――鞘に納まった日本刀の形を象る。

 頭の炎は一房になり、まるで一本に束ねた髪の様だ。

 

 ネモの頬を冷や汗が伝う。

 先の穏やかな顔を一変させ、鋭い眼光と殺気を放つ。

 もう其処には、平和を好む老人はなく。

 長い年月を研鑽へと費やし、遂ぞ剣の頂へと辿り着いた老練の剣聖。

 

 一切の感情を含まぬ冷徹な剣を振るうその姿を評し、彼はこう呼ばれる。

 無念ノ剣聖―――と。




フォルムチェンジ:剣聖の姿(けんせいのすがた)
頭の炎が一房となり、右腕の炎が大きな腕の様な形となり、左腕が鞘に納まった日本刀の様な形となり、防御が低下する代わりに素早さと攻撃力が大幅にアップする。  

それは彼が様々な地方を彷徨う中で、遥か東の地で一目見た剣士の姿を真似たもの。
その剣はひたすらに疾く、美しいものだった。
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