「君は……」
───このアタオカ娘は俺に気づいたのか、驚愕と困惑の表情を浮かべていた。
コイツは雨の中走っていたため服はびちょびちょ、髪もびちょびちょ。更には目が赤くなり、頬には涙が流れた後が残っていた。
そんな悲痛な顔で話しかけてくる愚か者────
いやー、キモチィィィィィ!!!ざまぁねぇぇぜぇぇぇ!!俺に水ぶっかけるからそんなことになるんだよぉぉ!!朝感じてた殺意とストレスが急激に消えていくぅ~!むしろ、今の状況と首席合格だったってことを合わせると、俺の機嫌はプラスだな。
でもコイツ自体は嫌いだから、さっさと泣いてた理由聞き出して帰ろ。俺を喜ばせるような理由であれよ。マジで。
雨ん中わざわざここまで来たんだからな??無駄にさせんなよ???キレるぞ????
自己中ここに極まれり。
今更だが、久住は他人の不幸を見ると機嫌が良くなるタイプの人間である。
クズの典型例だ。
現在、少女の悲痛な顔を見て機嫌が良くなっている男、久住に心配や気遣いという優しい感情は一ミリもない。
美少女の……"ミスターシービー"の泣き顔を見て心の底から『ざまぁ(笑)』と思える人は、この世に一体どれくらい存在するのだろう。
久住はそれに加えて自分を喜ばせるような不幸のエピソードを期待している。もし期待外れだったならば理不尽にキレ散らかすのだ………クズ·オブ·クズすぎる。
「明日は選抜レースだぞ。雨の中走っていたら体を壊すかもしれない。それに、その顔……何があった」
雨の中走ってたのは頭が逝かれてるバカだからってことで決着がついた。
俺が期待してるのは泣いている理由だ。
「"『助けてやる』なんて無責任なことは言えないが、泣いている理由を聞いてやることはできる"」
これは布石だ。こう言っておくことで、助けなくても理由だけ聞いて帰ることができる。
だが、いきなり理由を話せと言われても話す訳がない。それどころか俺の事を不審な輩と見間違う節穴のカスが100億分の1の確率で存在する可能性がある。そんな不名誉、たとえ死んでも背負いたくない。
うっ、想像しただけで意識が……
しかしッ!!そこで俺が研究の末編み出した技こそが────
「思いを口に出すだけで、気持ちは晴れるものだぞ」
───久住流奥義『慈愛の囁き(無表情)』だ!!
この奥義は、俺の長年の研究成果である。
相手が落ち着く……というより、人やウマ娘に対して落ち着く声色と話す速度を探しだし、相手の心に響くような言葉を言い続ける。
このコンボがキマれば、相手は心のガードが緩み自分から話すようになる……はず(検証経験なし)。まぁ俺に間違いはないし大丈夫だろ(自信過剰)。
さて、何があったのか聞かせてもらおうか────。
「ん~、誰とも知らない人に喋る話はないかな」
…………ん??
ン???
あ"????
おっとヤバいヤバい、あまりのストレスに意識が飛んでた。
いやいやいや…………え?コイツ今俺の(表面上は)善意、無駄にしたの?? まさか俺の事、不審な輩だと思ってンの? 節穴のカスなの?? 100億分の1の確率引いちゃったの??? 俺、奥義使ったのに???? あっ、ヤバいまた意識が………
久住のストレスは限界を超え、一周回って冷静になっていた。
奥義(笑)を使ったにもかかわらず、話すら聞けなかった事による混乱。更には久住が想定してた以上に素っ気ない態度をとられたことで、久住の許容範囲を超えたのだ。
ミスターシービーがとった言動"だけ"見れば至極当然の対応である。まだ自分の名前すら教えていないのだ、もし普通の一般人がこんなことをすればかなり怪しまれるだろう。例えトレーナーバッチをつけていたとしても、不審に思うウマ娘は少なくない。
久住は内心だけとは言え目の前の少女をバカと断定し、さっきまで煽りまくっていたのだ。それなのに若干素っ気ない態度をとられたぐらいでストレスの許容範囲を超えるのは、煽り耐性が低いとかの次元ではない。
こんなことでストレスの限界を突破している男だが、これからの未来ではシービーの他に数名ほど個性の強いウマ娘達を相手にしなければならないのだ。久住の胃に穴があく日も近い(ざまぁ)。
───それに、久住は奥義(笑)の効果を軽く見ている。
久住自身は『相手の心を開きやすくする』程度だと思っているが、実際の効果は、相手に自分の印象を色濃く残す……と言うより『相手の心に自分の存在を刻み込む』と言った方が正しいかも知れない。
有無を言わさず相手の心に侵入し、脳裏に自身の存在を植え付ける───
かなりの心の強さを持ちつつも、長年心を閉ざしていたシービーすら一瞬で陥落したのだ、その効果の高さが窺える。
久住の人心掌握能力は、もはや洗脳の粋に達している。
これほど久住が思ってる効果と実際の効果に差があるのも、久住が自身から常に出ているカリスマに気づいていない事や、自分の演技力と観察眼のレベルの高さを誤解している事が要因だろう。
初手に久住の人を惹き付けるオーラによって警戒や不信感を取り除き、信頼へと置き換える───"初対面"という心の壁を消し去り、信頼しきった所で『相手の心に響くような言葉を言い続ける』。これは久住の観察眼によって相手の心の弱点を見つけ出し、持ち前の演技力で『本当にそう思ってます』感を演出している。その結果、まるで心を包み込むような言葉によって相手は久住の事を完全に信頼し、依存するようになる。
現在進行形で久住の術中にはまっているシービーのように……ちなみに秋川やよいも、この術中の片鱗を面接の時に受けている。
この状態の久住を演技と見破ることが出来る者は存在しないだろう。
そんな無駄に才能がある男は今───
「! すまない、自己紹介を忘れていた」
てめぇ……死ぬ準備できてんだろぉぉぉなァァァァ!!?楽には殺さねぇぞぉぉぉ!!!!俺の善意(表面上)を踏みにじった事を後悔させてやらァッ!!!!このクソボケ娘がァァァァ!!!!
───先程の一周回った冷静さが消え、見事なまでにブチギレていた。しかし、その事を一切表に出していない。
内心の激情とは裏腹に、外見は冷静に返答している。それどころか申し訳なさを醸し出すための演技までしている。
そんなことが出来るのも、今までの経験から無意識のうちに最善の返答を選び、実行しているからだろう。
久住は内面と外見を完全に切り離し、両立している。これこそが、これまでの人生において誰にも自分の本性を晒さずに生きてきた、久住の"演技"なのだ。
「俺の名は『久住かいと』。最近トレーナーになったばかりの(首席の)新人トレーナーだ」
首席のな!! "首席の"!!!!新人トレーナーだからな!!?誤解するなよ!?そこら辺の有象無象のトレーナー共とは次元が違うんだからな!!!そんなゴミ共と絶対一緒にするなよ!?ゴミ共と同じような存在と思われるとか……ッまた想像しただけで意識が……。
毎回想像なのにダメージを受けすぎである。
いくら見下されたくなくとも、首席である自分以外のトレーナー達をゴミと言うのは問題ありすぎだ。……いや、久住の場合自分以外の全てはゴミと思っているのだろう……この男は道徳心をシュレッターで粉々にしてきたのだろうか?
それに試験で首席になれなかったとしても優秀人材は居る。何なら首席になったトレーナーよりも、なれなかったトレーナーの方が良い実績をあげている。
首席になると『自分は周りよりも優れているから大丈夫だろう』という慢心が生まれてしまう。
首席は文字通りその年のトレーナー達のトップである。故に自分よりも上が居ない。上が居なければ向上心は生まれない。担当のトレーニングメニューが適さなかった場合でも『自分が一番優れているんだから間違っている筈がない』と勝手に思い込み、自身の間違いを改善出来なくなる。そうなれば、自分のみならず担当の娘にも悪影響が出てしまう。そんな事態を避けるために、首席になった者達には毎年理事長直々に釘をさされるのだ。
言ってしまえば試験合格はスタートラインなのだ。それは首席だったとしても変わらない。
首席の者達は周りよりも若干初期性能が高いだけで、そこからウマ娘をスカウトしてレースに勝たせられるか、なんてわからない。試験では測れないのだ。
トレーナーになれた者達は今までよりも更に努力しなければならないだろう。一度しかないウマ娘の競技人生を背負っていかなければならないのだから。
つまり、この男は───
首席になったことで慢心につぐ慢心をしてしまっている男、久住。
自分が一番優れていると思っている男、久住。
担当の悪影響なんて一切考えてない男、久住。
競技人生なんて端から背負う気がない男、久住。
───トレーナーの悪い条件を殆どコンプリートしていた。
ここまでトレーナーに向かない男はそういないだろう。いや、トレーナー以前に人として最悪な性格をしている。
「あの、さっきはごめんね……私も気が動転してて」
「いや、何も自己紹介せずに話しかけた俺が悪い。警戒するのは当然のことだ」
はァァァァ!?何が『さっきはごめんね……私も気が動転してて(裏声)』だッ!!その程度で俺の機嫌が戻ると思ってンの???このぐちゃぐちゃな地面に頭擦り付けて『この度は私のようなグズな小娘が調子に乗ってしまい誠に申し訳ありませんでした。お許しください久住様』、だろうが!!!それでも許される事じゃ無いけどね!!??つか、何で俺が謝らなきゃいかんねん!!俺悪いこと何一つしとらんやん!!! ん?あぁ、完璧すぎるが故の業か……やれやれ、完璧イケメンっていうのも考えものだな……(キメ顔)。
エセ弁が出るほど気持ち悪いくらいに自分の世界に入っているクズ。自分で問いかけて自分で納得している。しかも絶対違う解釈だ。業じゃなくて、天罰とかだろう。
謝って来たにも関わらず、少女に対して更なる謝罪を求めている。そして求めてる謝罪内容がエグい。"ぐちゃぐちゃになった地面に頭を擦り付けろ"なんて、仏が見たら三度と言わず一度目から殴りかかるレベルだ。余りにも性根がクズすぎる。
「それに今日会ったばかりの赤の他人である俺に理由を話すのは気が引けるだろう。すまない、配慮が足りなかった」
「ッ!?やめてよ!悪いのは私なんだから……」
本当にそうだよ!!てか、何でまた俺が謝っとんねん!!!このやり取り今日二回目だぞ!?この愚か者の為に何で俺が配慮しなきゃならんのじゃ!!!!普通に考えて逆だろうがよ!常識的を知らねぇのか!!?
何処の普通と常識なのだろう。少なくともこの世界じゃないことは確かだ。
…………はぁ、もう適当な事言って帰ろ……キレすぎて何か疲れた……主にこの愚者のせいだ。
「となると、俺が居ると逆に邪魔になってしまうな……じゃあ俺は行く。その濡れた服と髪、ちゃんと乾かして体を暖めて寝るといい。明日は選抜レースなんだから体には気を遣うようにな。それじゃ、明日頑張れよ」
ん? ッて言うかまた俺が謝ってね!?三回目ぇぇぇ!!!!それにプラスして愚者の心配(表面上)をしなきゃいけないとか……今日は厄日か………帰ったら丑の刻参りしよ。ついでにお祓いもしとくか……何か呪われてる気がする。
───常に最善の言葉を選んで喋っていたため癖になっているのだろう。今までの経験から、その返答が最善と判断したのだ。
それと、お祓いの件は無駄骨になりそうだ。これは呪いとかの類いではなく、天罰とかの類いだ。むしろお祓いしたら久住の方が召されそうだし。この男の性根は悪霊や怨霊よりも腐っている。消費期限が1年過ぎの肉レベルだ。
……まぁ何が言いたいのかというと────久住に降りかかる天罰がこの程度なわけがない。
「待って!!」
死ィィィネェェェェェ!!!!俺が今帰ろうとしてたところダロォォォォ!!?あのまま行けば何事もなく帰れてたのに、引き留めてんじゃねぇ!!あと、さっきから気になってたけど敬語使えよッ!俺はお前より年上の人間だぞ!!!
「ねぇ、久住君も明日の選抜レース見にくるの?」
久住"様"な。つーか、いきなり何?キモいんだけど……この会話も適当な事言って終わらすか。
「ん? あぁ、行くつもりだ。」
「じゃあさ、スカウトとかも───」
「良さそうな子がいればな。とは言え俺はまだ新人だから、うまく行くかはわからんが……」
絶対にうまく行くだろうけどな!なんたって"俺が"スカウトするんだし。
イケメンな上に天才である俺のスカウトを断る奴なんていないだろ。そんな節穴のカス、こっちから願い下げだ。
「ふふっ、そうなんだ~♪」
何が『そうなんだ~(裏声)』だ!お前が聞いてきたんだろぉぉぉが!!! ………ん?なんかコイツの目濁ってね?元からか??興味なかったから覚えてねぇ……。
────………まぁいっか、さっさと帰ろ。
この日の夜またしても俺の家の近くで白装束を着て奇声をあげながら藁人形を木に打ち付ける不審者が出たとして、警察の見回りが強化された。
ついに……ついにウマ娘劇場版きたァァァァッ!!!!
予告だけでもうテンション爆上げですよ!!予告で分かる神作画!!RTTTの作画を引き継いでて最高!!
……そして何よりも、映画化するのはあの世代……最高すぎんか???
アグネスタキオン、マンハッタンカフェ、ジャングルポケットの世代!!(………クロフネは流石に出ないかな?)
もうこれは見に行くしかありません。私は仕事をサボってでもスクリーンで見ますよ。マジで。
早くこいッ!! 5月24日!!!!!
この作品が面白いと感じて頂けましたら、皆様映画館に行きましょう。
面白いと感じて頂けなくても皆様映画館に行きましょう。
この作品の事を知らなくても皆様映画館に行きましょう。