長年心にあった孤独や虚しさが消え心の拠り所となる者が現れた。依存とも言える恋を抱き、狂気の道を歩き始めた少女『ミスターシービー』。
理不尽にキレ散らかした後、未確認の不審者となったクズ·オブ·クズ『久住』。
両者ともに刺激的な出会いをした久住とミスターシービー。
そんな運命的な出会いから時間が経ち───
『"ウマ娘達は鍛練の成果を示せるのか!?間もなく選抜レース開催です!!!"』
────本格化を迎えたウマ娘達が自身の実力をトレーナーに見せる場『選抜レース』。
トレーナーが出来るかはこのレースに懸かってると言っても過言ではない。今までの鍛練の成果をトレーナーに示し、スカウトされるかは今日の選抜レースでどれだけ良い走りをするかで決まってくるのだ。
そんなウマ娘にとって重要なレースが間もなく始まろうとしていた。
「今日の選抜レース、かなり仕上がっている子達多いですね」
「ああ、だがそんな子達の中でも今回の目玉の子は……」
「『ミスターシービー』でしょうね。明らかに周りのウマ娘達とはオーラが違います」
「前々から凄い子がいると噂になってたからな。しかし……これは聞いていた以上かもしれんぞ」
スカウトをしに選抜レースを訪れていたトレーナー二人が、今回の出場者について話している。
「ええ……私もいろんなウマ娘達を見てきましたが、ここまで覇気を持った子は見たことがありません」
「まだ模擬レースしかしたことがないはずなのにG1ウマ娘並の気迫だ……コイツは間違いなく歴史に名を刻むウマ娘になるだろうな」
「同感です。しかし随分と鬼気迫る雰囲気を纏ってますね……周りのウマ娘達が気圧されてますよ……」
「あれじゃ、周りのウマ娘達は百パーセントの実力を発揮出来ないだろうな。可哀想ではあるが、『ミスターシービー』と同じレースになったのが運の尽きだった……その娘達は次の選抜レースに期待するか」
「そんなこと言わずに……今日百パーセントの力が出せなくとも、その子の奥底に眠る実力と才能を見抜くのがトレーナーの役目なんですから」
「……確かにそうだな。いや、むしろスカウト目的のトレーナー達はミスターシービーよりも他のウマ娘を見るだろうな」
「ミスターシービーのスカウト合戦、激化しそうですもんね……ベテラン達も当然ミスターシービーの事欲しいでしょうし、今年入ってきた新人トレーナー達じゃ相手にもされなさそうです」
「そういう意味では周りのウマ娘達はいつも以上に見てもらえるし、逆に運が良かったのかもな」
「そうかもしれませんね。毎回選抜レースで注目されるのは一位の子だけですから」
周りのウマ娘達とは明らかに纏う雰囲気が違う一人の少女『ミスターシービー』。
二人はトレーナーのみならずウマ娘達の間でも話題になっている少女の事を話していた。
二人だけではない。観客席にいる多くのトレーナー達がシービーの話題を出していて、そのトレーナー達のほとんどがスカウト目的ではなくシービーの走りを一目見ようと来た者達なのだ。
結果、今回の選抜レースには普段よりも多くのトレーナー達が集まっている。
観戦に来た理由は様々で────
"近い将来、必ず上がってくるであろう強敵の分析をするために見に来た者"。
"噂に聞く程の実力があるのか見極めに来た者"。
"すでに高い実力を持っているミスターシービーをスカウトしに来た者"。
など、皆が明確な目的を持っていた。
しかし今となっては、そんな目的よりも『ミスターシービーの走りが見たい』という欲求の方が上回っており、観戦に来たトレーナー達も冷静さを忘れ、少し興奮気味だ。
模擬レースにおいても圧倒的な強さで勝つその姿は見るものを魅了し、彼女の醸す常識に縛られない雰囲気は不思議なカリスマ性があった。そんなミスターシービーに魅せられた者達も少なくない。
シービーの事を知らなかった者達ですら彼女の姿を一目見て、周りとはかけ離れた強者だと感じていた。見ている側すらも彼女の纏う雰囲気に呑まれ始めているのだ───
(うわぁ……あのカスの顔をまた見ることになるとか最悪だぁぁぁぁ……)
────一部を除いて。
あのクソ娘が今日の選抜レースに出ることは知ってたけどよぉぉぉ……。何??昨日に続き今日もあいつの顔見なきゃいけないとか、ここは地獄か!?ちょうど良いバカをスカウトしに来ただけなのに何でこんな精神的苦痛を味わはなきゃいけないんだよぉぉぉぉ!!
(クソだ。世の中クソ過ぎる)
クソなのはこの男の性根だろう。『ちょうど良いバカをスカウトしに来ただけ』なんて、今後聞くことがないようなセリフだ。というか腐ってもトレーナーなんだから絶対に思ってはいけない事だろう。……まぁ、トレーナーになった理由が理由だから今更である。
(あァ~ストレスが蘇ってくるぜ~!!)
あのクソガキは昨日だけで絶対に許されない罪を五つも作った、世紀に名を刻む大罪人だ。『俺をずぶ濡れにした罪』、『俺の善意を踏みにじった罪』、『俺に謝罪させた罪』、『俺がわざわざ配慮してやった罪』、『今俺が精神的苦痛を味わってる罪』。どれか一つでも死刑になる大罪なのに、あいつは昨日だけで五つも作った………ヤバくね!?何であいつはのうのうと走ってんの!!?あいつが居るべき場所は地獄だろ!?さっさとお帰りッ!!
「あれがミスターシービーか……これは期待できそうだ」
「まだデビューもしてないのに貫禄がありますね……恐ろしい」
…………って言うかサァ、さっきから周りの奴らがミスターシービーミスターシービーうるせぇんダよ!!!!誰だよミスターシービーって!?ここに来てからすでに百回は聞いてるっつーのッ!!オーラだの雰囲気だの、何言ってんだ?遅めの中二病か?現実見ろよ。普通に考えてオーラなんて出るわけねぇだろ。何?ここに居るカス共は仕事のしすぎで頭のネジが飛んだん?ウケる。
────多分この男の方が地獄に行く確率は高い。久住が挙げた内の三つは自分から行った事だし、最後の一つは逆恨みもいいとこだ。大前提として、この男は思ってもないことを言い続けて早二十年、久住の人生で関わってきた全ての人……いや、関わってなかった人すら騙してきたのだ。さらに今現在も被害が拡大している……主な例としては、どこかのロリ長とミスターヤンデレだ。
絶望している者を見て幸福に浸っている男、久住は常に他者を見下し、内心で相手を罵倒し続けるような男だ。
そんな男が天国に行けるはずもなし。
それに中二病だなんだと煽っているが、一回鏡を見た方がいい。そこにオーラ垂れ流しのクズが居るか……違う。このクズは毎日鏡を見て自分に惚けているナルシストだった、もう救いようがない。
(だが有象無象のトレーナー共とはいえ、すでにG1級と噂される程のウマ娘は見てみたい)
ミスターシービー??も、この選抜レースに出るらしいし丁度いいな、俺が見てやろう。どんな奴かは知らないが、あの愚者を叩き潰してくれるなら誰でも良い。あいつが泣き叫ぶくらい徹底的に潰してくれたら、俺の機嫌も少しは晴れると言うものだ。
ちなみに、俺がミスターシービーって奴をスカウトする可能性は一ミクロンもない。
今の時点でG1級と言われている奴なんてクセ強に決まってる。俺の高収入生活にストレス要因はいらないンだよ。昨日みたいな事がポンポン起こったら俺の胃に穴が開くわ!!
名前も知らない少女が負けることを全力で祈っているクズ。
久住は昨日会った少女の事を何も知らない。
────早く帰りたいが為に少女の名前すら聞かずに去ってしまったから。
久住は昨日会った少女の真の実力を知らない。
────久住が外で走っている少女を見たときは、雨でぬかるんだ最悪なバ場に加えて、少女自身が抱えていた心の問題によって全力で走れていなかったから。
久住はその走りを見て、少女が良バ場を全力で走ったときの予測をつけた。久住の観察眼により少女の全力を予測し、少女の底を見極めた……つもりだった。
確かに、久住の観察眼によって"予測された少女の全力"はなかなかいい線を当てていた。もし雨の中を本当に『全力』で走っていたなら、久住の予測は正しかっただろう。
だが、ここで誤算があった。
その誤算とは久住は少女が『全力』で雨の中を走ってると思っていたこと。
────なぜ久住の観察眼でも見抜けなかったのか。
理由は単純で、"あの時の"少女の全力は確かにあの走りだったのだ。
『ウマ娘の走りに何が一番影響があるのか?』
そう聞かれたとき、ほとんどのトレーナーが"心"と言うだろう。
人の走りよりも、ウマ娘のレースには心が関わってくる。どれだけ晴れた良バ場でも心に迷いがあれば敗れるのだ。
それは久住も理解していた。しかし理由すら聞けずキレ散らかした久住は、少女の問題を「どうでもいい」と判断し計算に入れていなかった。
だが少女の問題など今や過去の物。
どっかの誰かさんによって少女の問題は解決し、正真正銘全力を出せる事ができる。
(そういや、あの大罪人の名前知らなかったな。まぁ、あいつの名前なんか知ったら呪われそうだし別にいいか。興味ないし)
ここに来て百回以上は聞いている。仮に呪われるとしたらもう手遅れである。
『───続いてッ!期待の新星、『ミスターシービー』!!!!』
(お、ようやく出てきたか。『期待の新星』ねぇ……本当に噂するほどの実力か、俺が見極めてやるよ)
久住がくだらない事を考えている間に期待の新星が現れ────
ん?
ン???
『今回も"ミスターシービー"は圧倒的な実力を見せてくれるのか!!?』
…………ゑ??
────たくさん人が居る観客の中から、一切の迷いなくこちらを見つめている『ミスターシービー』。その目はどこか濁っていて……
(見つけた♪いよいよだね、私だけの"トレーナー君"♪)
恐怖を感じさせる笑みを浮かべていた。
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選抜レース当日────
私は昨日の事を生涯忘れることはないと断言できる。
だって、昨日は私にとってトップクラスに重要な『
正直、昨日の帰り道も遠くを見つめてぼーっとしてたし、家に帰ってからも妙にソワソワして落ち着かなかったり、興奮からかなかなか寝つけなかった。
そのせいですこし寝不足ではあるけど、今日のレースを負けるつもりはない────
今日のレースを走るウマ娘達の間で、重苦しい空気が漂っていた。
そんな空気感になるのも当然だろう。今日はウマ娘にとって大一番の日である『選抜レース』なのだ。
周りの子達は全力を出せるようにウォーミングアップや精神統一をしている。やっている事は様々だけど、一つ共通していることがある。
それは『緊張』………みんな少なからず緊張していた。
今までやってきた模擬レースとは比較にならない観客の数。更にその観客達のほとんどはトレーナーときている。模擬レースしか走ったことのないウマ娘達にとって、観客に見られながら走るレースは初めてのことだから当たり前だろう。
(でも、いつもの選抜レースより観戦しているトレーナーが多いのは私が原因かな?)
────けど、私は緊張や焦りなんてものは一切なかった。
良くも悪くも有名になると注目されやすい。
今日ほど多くはないけど、私が走った模擬レースには必ずと言っていいほど観戦してるトレーナー達がいる。私からすればギャラリーがいることが普通だから選抜レースと言えどいつもと変わらない。もう慣れてしまった。
そういう面に関しては周りの子達よりも数歩先に行っている。だけど、さっきから感じているこの安心感はそれだけじゃない。不思議と自身が湧き上がり、この中の誰よりも速いという自信があった。
今までだったらあり得ない事なのに……
「ふふっ、これも愛のパワーってやつなのかな?」
あの人の事を考えていると心が満たされてくる。熱が上がってくる。
いけない、これから始まる選抜レースに集中しないと。いくら速くても心ここにあらずでは負けてしまう。
ウマ娘はそれが特に顕著だから……過去の私が模擬レースで負けたときもそんな状態だった。そのときの私は勝ちたいとすら思っていなかったんだから。
でも私の人生で今が一番『レースに勝ちたい』と思っていることは間違いない───
『───続いてッ!期待の新星、『ミスターシービー』!!!!』
いよいよ私の番のパドックが来たみたいだ。
「な!?本当に未デビュー!!?すでにG1バ顔負けのオーラを纏ってるなんて……」
「観戦するだけのつもりだったが……ワンチャンに賭けてスカウトしてみるか?」
「これが天才ってやつか……」
私が登場した瞬間、観客席にいる一部のトレーナー達が騒ぎ始めた。多分私の実力を見抜いた人達だろう。良い目をしている。
でもそんな事はどうでもいい。私は今、
全体を見回していると一際目立つ空間を見つけた。
その空間は一人を中心として円状に誰もいなかった。
そんな光景はこのパドックから見ると非常に目立っていて、嫌でも目についてしまう。
観客席にいる有象無象のトレーナー達はパドックに夢中で、その異様な空間は中心の近くにいる人しか気づいていないけど、遠目から見ればとても綺麗な円になっている。あそこまで目立つのは、今日のギャラリーがいつもと比較にならないほど多いことも原因だと思う。
おそらく、今日来ている観客のほとんどが私を見にきたのだろう。耳がいいこともあって、アップをしてる最中でも"ミスターシービー"って単語が聞こえてくる。
私がここまで有名になっているのは模擬レースとかで結果を出してきたからだ。
今までの模擬レースで私の噂はトレーナーやウマ娘の間でかなり広まっている。自慢じゃないが私はこの学園でかなりの有名ウマ娘だと思う。有名になり噂が広まるほど、私に興味を持つトレーナーの数は増えてきて、スカウトもされ始めた。
────私は全く心が惹かれなかったけど、そのときのセリフで纏ってるオーラが違うだのカリスマ性があるだの言われてたっけ。
(けどさ、私からすれば周りのトレーナー達って久住君の事何も知らなのに"自然と"あんな状態になっちゃう彼の方が、本当のカリスマって感じがするな~)
久住君は今年入ったばかりの新人だと言っていた。つまり、ここにいる誰も久住君の事を知らないはずなのだ。にも拘らず、あんな状況になるのは"格が違う"としか言いようがない。
このパドックに立ったウマ娘達はさぞ驚いた事だろう。まぁ、私からすれば見つけやすくはあるんだけど………私以外に君の事を知られるのは少し妬いちゃうな。
『君の全部が欲しい、独占したい』
そんな思いが溢れてくる。……自分がここまで独占欲が強いなんて知らなかったよ……でも、この"思い"は時間が経つごとに大きくなっている。
顔を見ている今だって私の"思い"を君にぶつけたい、伝えたい、って感情をギリギリ理性で抑えてる状況だ……けど私達の仲は昨日会ったばかりの他人。いくら私が君を愛していても、君は私を愛してくれない……自分で考えていて狂いそうになるけど、それが現実。
今は時間をかけて君との仲を深めていかなきゃ。時間はこれからたくさんある。
だって────
(いよいよだね、"私だけのトレーナー君"♪)
────今日が『
◆
『さぁ、各ウマ娘、ゲートに入りまして──スタートしましたっ!!』
皆一斉に駆け出した。
私はいつもと同じく先行────ではなく後方から周りのウマ娘達を観察しつつチャンスをうかがう事にした。
私が普段から使っている戦法は
普段から使っていると言っても、勝ち負けなんて気にしてなかったから一番安定して勝てるって聞いた戦法をなんとなく使っているだけだった────けど、今の私には勝ちたいって想いがある。
そんな心境の時、脳裏をよぎったのは過去の記憶。勝つために全力で走り、負けた時は心の底から悔しがっていた……だけど、どこか楽しそうにしている"私の姿"。
その記憶に若干の懐かしみを感じているとき、あることを思い出した。
過去の私は全部
まだ小さい頃だったから追い込みとは名ばかりの不格好な走りだったけど、あの走りは間違いなく追い込みだった。
(最後に後方から他の子達を抜き去って勝つのが気持ちよくて使ってたんだっけ……)
幼い頃からこの走りで勝ったり負けたりしてきた思い出のある走り……だけど成長して能力や技術が上がったとはいえ、今まで使いなれてきた"先行"に比べると経験が少なすぎるし、久住君が見ている選抜レースでいきなりぶっつけ本番は一抹の不安が残る。でも、私には確信があった。
─────これは"私の戦法だ"
勘というやつだろう。それに久住君との出会いは私にとっての転機。
(なら、今までの作戦を捨てて、新しい戦法で久住君と共に歩むのも
そう思うと、一抹の不安も消えて心に余裕が出てきた。久住君が見てるってことも加えて力が溢れてくる。久住君の前で"全力で"走るのはこれが初めてのことだ。好きな人に情けない姿は見せたくない。彼の隣に相応しい女だって認めさせて、これからは彼と一緒に、新しい……いや"戻ってきたミスターシービー"をみんなに見せつけてやらなきゃいけない。
その為に────
「「「──ッ!!」」」
最終コーナー、ウマ娘達に異変が訪れた。
最終コーナーに入り、今まさに競いあっていたウマ娘達に言い様のない
『ナニカが来る』
このレースを走っている者達全員が確信に近い物を抱いていた。───そして、その確信は現実になる。
「───ヒッ!」
ウマ娘の誰かが恐怖をもらした。
つられて恐る恐る後方を確認すると、圧倒的速さでこちらに迫ってくる一人のウマ娘がいた。
そのウマ娘はどこか不気味な笑みを浮かべていて、あっという間に中団を抜き去り、濁った目には前方にいる私たちは愚か、ゴールすら映ってはいなかった。
その姿は、前に見た不思議な雰囲気を纏いながら余裕ありげに一位を取っていた彼女ではなく、貪欲で恐怖を感じる雰囲気を纏っていて、知っている彼女とは違いすぎる雰囲気に別人なんじゃないかと疑ってしまうほどだった。
「あなたは───」
────誰?
最後まで言い切ることなく、彼女は前方集団を追い抜き、離されてしまう。
『"ミスターシービー"ゴールイン!!圧倒的な実力を見せ、8バ身差で勝利を収めましたッ!!!』
観客席からは大きな歓声が上がる。
その歓声には圧倒的すぎる実力を称賛する声や、いつもと使っている戦法が違うことに対して困惑した声などさまざまだった。
「模擬レースの時よりも全体的な能力が高くなってる!?一体何があったの!!?」
「何だよあの末脚……最後方から追い上げて8バ身差だと?ふざけてるッ!!」
「いくら選抜レースとはいえ決して他のウマ娘達も弱くはなかったのに……」
「むしろ、鍛えればG1ウマ娘にもなれるような逸材だった。そんなウマ娘達に圧勝とは……もしかしたら三冠、本当に見られるかもな」
「こりゃスカウト合戦ヤバいことになるぞ。トレーナーからすれば三冠ウマ娘の担当っていう称号を欲しい奴はかなり居るからな……」
ミスターシービーが与えた勝利の結果は、トレーナー達に大きな興奮と困惑を生み出した。
長年生まれていない三冠ウマ娘の誕生。今回の選抜レースでその可能性が大きくなったことで、伝説が始まると期待する者や、これから始まるであろうスカウト合戦を憂鬱に思う者など、観客席に居るトレーナー達は混乱していた。
そこで火に油を注ぐ事態が訪れる────ミスターシービーが観客席に近づいてきたのだ。
「ッ!? ミスターシービー!!是非君をスカウトさせてくれ!私はトレーナー歴も長い。必ずや君の力になれるはず───」
「おいッ!抜け駆けするな!!ミスターシービー、私は実績がある!これまで何人もG1ウマ娘を担当してきた!!私と契約すれば三冠という伝説がより確実な物に───」
「古臭いおっさん達がシービーちゃんに近づいてんじゃないわよッ!!───って、シービーちゃん?」
これを好機と見たベテラン達がシービーをスカウトしようと話し始めた。だが、シービーはそんな話を一切聞いていないのか、そもそもトレーナー達に気づいていないのか、無言で一点を見つめたまま階段を悠々と登っている。
周りのトレーナー達はミスターシービーの並々ならぬ雰囲気に呑まれ、話しかけるどころかシービーが進む道を譲る事しか出来なかった。
シービーの進んでいった先には、一人を中心として誰も近づかない───
シービーは躊躇なくその空間に足を踏み入れ───
「やぁ、昨日ぶりだね、久住君♪」
───中心に居る男に話しかけた。
その時のシービーの顔はレースのときと打って変わって、頬を赤らめて乙女の顔をしていた。
………しかし、トレーナー達はどこかレースのとき以上の恐怖を感じていたという。
(テェメェェェ!!当て付けか!!?このクソォアマァァァァ!!!!)
なお、中心に居るクズは当て付けと思い、昨日以上の殺意を抱いていた。
面白いと感じて頂けましたら高評価、感想の程よろしくお願いします( ノ_ _)ノ
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