ガチでクズなトレーナーの物語 リメイク版   作:アグリ

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被害妄想

 衝撃的な……いや、悲劇的とも言える事実がたった今発覚した。

 その悲劇の事実とは、現在進行形で俺にガンを飛ばしている愚者の名前が『ミスターシービー』だったってことだ………

 

(それじゃ意味ねーじゃんッ!!噂になるほどの実力者だし、あのクソ娘をボコボコに負かしてくれそうだなってことでミスターシービーって奴に期待してたのによォ……クソ娘とミスターシービーが同一人物だったら話が根本から覆るわッ!!!!)

 

 ───そう、俺はスカウトじゃなくてアイツが負けるところを見に来たのだ。

 断じて、勝って周りのやつらにチヤホヤされてるところを見に来た訳じゃない。

 

(つーか言えよッ!!俺はちゃんと名乗ったんだから、お前も『私はミスターシービーです』って昨日言えよッ!!!!)

 

 アイツに一方的に俺の情報知られてるって考えると悪寒がしてくる───はッ!!

 もしかしてわざとか!!?あのカスが昨日俺に選抜レースを見に行くか聞いてきたのって───

 

『アハッ♪この人間は私が超有名なミスターシービー様だって知らないようね~!あっ!!そんな世間知らずな新人には明日の選抜レースで私の圧倒的な実力を見せつけて、新人君の驚愕した間抜け面を見て笑ってあげましょう!!オーホッホッホッ!!!』

 

 

 ────フッフッフッ……なるほど、アイツは俺の焦る姿が見たくて意図的に自分の名前を名乗らなかったのか………ふざけんじゃねぇ……ふざけんじゃねェェェ!!あのクソアマァァァァ!!!テメェ誰をバカにしてんのか分かってねェみたいだなぁ!!

 お前がたった今ガンを飛ばしてる男こそが宇宙で一番バカにしちゃダメな人間だと教えてやるよォ!!つか、ガンを飛ばすなッ!お前登場してからずっと俺にガンを飛ばしてんじゃねぇか!?そんなに俺の間抜けな姿が見たいのか?だが残念だったなぁ!俺の人生においてクールな善人キャラを崩した事は一度もないんだよォォォ!!お前ごときに俺の鉄壁すぎる『演技』を貫くことは出来ないッ!!諦めるんだな。

 

 

 久住、平常運転である。

 昨日の少女の正体がわかったくらいで何故そこまでネガティブ思考になれるのだろうか?それにシービーはガンを飛ばしている訳ではなく、愛のこもった瞳で観察していただけだ。その視線に気づかないのは被害妄想一直線すぎるからだろう。

 なんせ自分の妄想なのに勝手にブチギレているし、挙げ句マウントまで取り始めているような男だ。

 もう一周回って愉快である。退屈しない人生を歩んでいるのだろう。

 

 

 

 ────しかし、あのアマが俺を舐めている事は後で必ず後悔させるとして……俺のストレスの原因はそれだけじゃない。まぁ、その原因というのも……

 

「な!?本当に未デビュー!!?すでにG1バ顔負けのオーラを纏ってるなんて……」

「観戦するだけのつもりだったが……ワンチャンに賭けてスカウトしてみるか?」

「これが天才ってやつか……」

 

 ───周りの奴らがクソうざいってことだ。

 

 うぜぇぇぇぇッ!!!! あのカスをよいしょしてる事も気に入らないが、周りの奴らは無駄にうるッせぇぇぇんだよッ!!声のボリューム調整小学生か!?クソガキ理事長と良い勝負してるぞ!!?恥ずかしくないん?役職名だけ壮大な小学生と良い勝負しちゃってさぁ?? お前らはアンパンマン見た後のガキかよ。

 こんな奴らがトレーナーやってるとか、未来は暗黒だな。"仮にも"こんなガキ共と同じ役職とか俺は恥ずかしいよ……俺より年上の大人共が騒いじゃってさぁー、俺に勝ってるところ"年齢だけ"なんだからよぉぉ……心の余裕が足りないんじゃないの?常に余裕を持って行動してるアルティメットイケメンな俺を見習え。マジで。

 

 

 ────見習うべきはお前だ。

 久住自身は常に余裕を持って行動していると思っているが、その実、自分に絶対の自信があるため「何かあっても自分なら大丈夫だろう」と考えている。───つまり何も考えていない。

 久住が心の余裕を持って行動出来ているのは、ただ能天気なだけなのだ。その為何かあったときには内心動揺しまくりである。

 周りのトレーナー達をガキだなんだ言っているが、ここに居る誰よりも子供っぽい男が言えたことではない。それに、ここに居るトレーナー達もスカウト目的とはいえ今は一人の観客なのだ。興奮するのも当然のことだろう。逆にこの男が冷めすぎ……でもない。表面上は冷めているように感じるが、内心ではかなりテンションが高い。特に、人を見下してる時とブチギレている時。

 

 そう、さっきの被害妄想のことだ。

 

 常に外見がクールな代わりに、内心では周りよりも一段とテンションが高い男なのだ。

 

 

 

(アイツがミスターシービーなら負けることほぼないだろう……クソッ!!罪人に力と名誉を与えるとか世の中どうなってんだよ!?悪人は裁かれるべきだろ!?ついでにお前が持ってる力と名誉を俺によこせッ!!)

 

 最悪なことに、アイツの実力は間違いなくG1ウマ娘クラスだろう。

 意味が分からないが昨日見たときよりも数段実力が上がっている……本当にどうなってんだよ!?昨日見たときはソコソコ速いだけの雑魚だったじゃん!?普通に考えて一日でそんな上がンねーよッ!いくらウマ娘自体が未知の種族だからって限度があるわ!!自重しろッ!!

 

 

 この男はそろそろ周りから向けられている視線に気づくべきだ。

 

 

 だが、まだワンチャンある……ひょっとしたら、アイツの体調が最悪で、本来の実力を発揮出来ずに超微妙な順位で終わる可能性が"まだ"残ってる。どれだけ低くても俺はその可能性に賭けるッ!!!!

 

『さぁ、各ウマ娘、ゲートに入りまして───』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『"ミスターシービー"ゴールイン!!圧倒的な実力を見せ、8バ身差で勝利を収めましたッ!!!』

 

 やっぱ世の中クソだわ。マジやってらんねーよなぁ!?なに圧勝してんの??そこは負ける流れだったろ!!?後半まで最後尾から動かなかったから『マジでワンチャンあるんじゃね!?』って期待してたのに……期待してた分余計にガッカリした……つーか8バ身差って何?お前末脚キモすぎだろ。周りのウマ娘共がなんか哀れに感じてきたわ………ん?そう考えると若干機嫌良くなってきたな。

 

 

 え?お前クズすぎん??

 

 

 

 よし!良い方向に考えようッ!!

 いくら8バ身差と言っても、これは選抜レース。走っているのは、まだデビューもしてないような雑魚達だ。対してクソアマはG1レベル、こんなに差が開くのもおかしくない……はず。実は俺が見慣れてないだけで、結構頻繁に起こってる事かもしれん。年だけ食った有象無象のカス共は意外と見慣れた光景なのかも───

 

「何だよあの末脚……最後方から追い上げて8バ身差だと?ふざけてるッ!!」

 

 ───ふざけてたらしい。

 

いや、逆に考えよう。原因はアイツじゃなくて周りのウマ娘共にあるのでは??

ッ!そうだよ、アイツが強いんじゃなくて周りが弱すぎるだけなんだよ!!───

 

「いくら選抜レースとはいえ決して他のウマ娘達も弱くはなかったのに……」

 

 ───弱くなかったらしい。

 

 い、イヤイヤ、弱くなかったと言っても、選抜レースレベルだから……まだトップレベルの奴らじゃないから───

 

「むしろ、鍛えればG1ウマ娘にもなれるような逸材だった。そんなウマ娘達に圧勝とは……もしかしたら三冠、本当に見られるかもな」

 

 ───逸材だったらしい。

 

 ま、まだスカウトされると決まった訳じゃねぇーし?

 噂を聞く限りアイツはかなりの気性難だ(やっぱりな)。トレーナーにとって気性難なウマ娘は扱いが難しい。つまりスカウトされづらい。

 そこにプラスして三冠の称号が期待されるウマ娘ともなれば、トレーナーに懸かるプレッシャーは凄まじい物になる。そんな奴をスカウトしようだなんて物好きなトレーナーは居ないだろう!そしてスカウトされなければデビューは出来ないッ!!

 

 ハッハッハ!!!お前はもう終わりだ───

 

「こりゃスカウト合戦ヤバいことになるぞ。トレーナーからすれば三冠ウマ娘の担当っていう称号を欲しい奴はかなり居るからな……」

 

 ───物好きなトレーナーはかなり居るらしい。

 

 つか、さっきから俺のセリフに被せてきた挙げ句、全否定とか良い度胸してんなぁ!?テメェら表出ろッ!!マジでブッ殺してやるよォォォォ!!!!

 

 

 久住、可能性を片っ端から潰されてブチギレ(笑)である。最初に語っていた心の余裕はどうしたのだろう。若干会話が噛み合ったぐらいで殺意が湧くのは、沸点が小学生以下だ。心はずっと成長していないらしい。

 

 

 ッてか何!?カス共俺の心の声に返答しすぎじゃない?ひょっとして俺の心読んでる?その割には全部否定すんじゃん。お前ら自分の立場をわきまえろよ!?お前らみたいなカス共はただ全肯定してれば良い───ン?

 

 

 ───理不尽な暴言を心の中で吐き散らかしているとき、微笑みながらこちらを見つめている"ミスターシービー"が居た。

 

 

 テメェ、またガン飛ばしか!?お前いい加減にしろッ!どんだけ俺をバカにしたいんだよ!?だがな、俺の表情は一ミリたりとも動いちゃいねぇぞッ!!お前の野望を易々と叶えてやるほど俺も甘くはないんだよぉ~ザマァァァァ!!!!

 

 

 ……とても的外れな事で煽っているクズ。すると、そのクズを見つめていたシービーが歩みを進めた。

 その方向は言うまでもなく───

 

 

 は?なんかアイツこっち来てね???

 

 アピールタイム目的で観客席に近づいて来たと思ったが、違うのか?なんならスカウトしてる周りのカス共をガン無視してるし……あっ、少し機嫌良くなったわ。

 

 そんな事を考えているとカス共のスカウトをガン無視してきたクソ娘が俺の前に立ち塞がった。

 俺はこの時点で大分察した。

 

 この憎たらしい程の笑みと、一切俺の目から逸らさない見事なまでのガン飛ばし。

 つまりコイツがしていることは───

 

「やぁ、昨日ぶりだね、久住君♪」

 

(テェメェェェ!!当て付けか!!?このクソォアマァァァァ!!!!)

 

 ───当て付けに違いない。多分コイツは俺の反応が気に入らなかったのだろう。表情一ミリも動いてないし、俺のクールキャラは未だ完璧だからな。

 全然自分が想像していた反応と違うことがコイツには我慢ならなかった。結果、強行手段として今から俺に当て付け&煽りをしに来たってとこだろ。

 はっ!余りにもバカすぎる行動に笑っちまうぜ!!いくらお前がさっきの走りで好印象だったとしても、そんな事をすれば印象は一気に地に落ちる!逆に俺は大人な対応をして、将来有望な新人トレーナーとしてのスタートを切ることが出来るッつう俺がプラスになるだけの行動なんだよぉ~!!!

 

 

 笑われるのはこの男の方だろう。当て付け&煽りとか……自分を基準に考えすぎだ。しかも煽られた先のことも考えている辺り、無駄に頭の回転が速い。ずる賢いとも言う。

 

 

 さぁ来いッ!どんな罵倒だろうと受け流してやるぜ!!

 

「私の走り、見てくれた?」

 

 ───来たァァァ!

 一見周りの奴らには裏表ないような質問に見えるが、俺からしてみれば巧妙に隠されたマウント取り!!やっぱり俺を舐め腐ってやがる……だが、ここで冷静さを失ってはいけない。

 

「見ていたさ。まさかここまで速いとは思ってなかったけどな……」

 

 ここは素直に速かったと言えば俺は相手からのマウント取りに気づいていない単純な男になり、マウントを取る側は味気なさを感じるのだ!!分かりやすく言えば───

 

『私ってお前より速いよな!?』

『速いね(棒読み』

『だよなぁ!?』

『うん(無機質』

 

 うん。クソつまらん。マウントの取り甲斐がない。

 まぁこんな感じて長々とウザったいことを言われ続けるより、一言二言で済ませた方が相手も消化不良で終わるし、俺のストレスゲージもギリギリ……ほんッッッとにギリギリで限界を越えないラインに収まる。

 

 だが、問題はここからどう来るか……

 

「ふふっ、そりゃあ愛の力でパワーアップした恋する女の子だからね♪」

 

····?

 

·····??

 

······???

 

·······????

 

 コイツいきなり意味の分かんこと言い出したぞ?もしかして自分語り厨か??

 それなら───

 

「?けど、笑顔になって良かった……昨日のような顔は君には似合わない」

 

 ───"ガン無視"すれば良い。

 こういう奴らは語らせる前に無理矢理話を逸らしてやれば良いだけだ。

 

「!? もぅ…君のそゆとこ、ホントにズルいよね~……」

 

 は?なんかモジモジし始めたんですけど??

 

「それで、どうして俺のところに?こうしてる間にも、君の事をスカウトしたくて堪らないトレーナー達が周りに大勢居るが……」

「………君は違うの?」

 

 誰がテメェなんかスカウトするかよ!!?お前は俺に相応しくないッ!

 それに、もうマウント取ったし十分だろ!?さっさと解放してくれ!あと俺からマウント取ったこと後で絶対後悔させてやるからなぁぁぁ!!!!

 

「俺なんかよりも、もっと相応しいトレーナーがいるだろうからな」

 

 

 ────いつもと変わらない久住の内心。だが、久住の言葉により間違いなく空気が変わった。

 

 

「ッ!!……違う。私には君しかいないんだ……君さえ私のそばに居てくれれば………」

 

 内にある激情を押し殺し、何とか言葉にしているのだろう。

 正直、シービーは『スカウトされるだろう』と思っていた。久住と言えどもトレーナー。三冠に最も近い強さを持つ自分をスカウトしてくれると思っていたのだが……今、その可能性は潰えた。

 

 蘇るのは常に孤独だった()()()

 

 想像するのは愛する人がいない()()()()

 

 シービーはそんな毎日に恐怖する。一度『"久住かいと"』を知ってしまえば、もう戻れない。シービーにとって心の拠り所。依存と呼べる程の感情を抱いた初めての人。

 

()()()()()()()()()()()

 

 ただそれだけ、なんとも一途な想いだった。

 

 

「……なりふり構ってちゃ、いずれ誰かに取られちゃうかも」

 

 

 そしてミスターシービーは、また壁を越えた───

 

 

「ねぇ、久住君。私のトレーナーになってよ」

 

 

 

 ───しかし、その壁は越えてはいけなかったのかもしれない。

 

 

 

 

 

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