『"ミスターシービー"ゴールイン!!圧倒的な実力を見せ、8バ身差で勝利を収めましたッ!!!』
(8バ身差か……まぁまぁ上出来かな? 本当は大差で勝ちたかったところだけど……)
私は選抜レースを圧勝し、少しの後悔と安堵感に包まれていた。
観客席から轟く程の歓声が湧き上がっている。
今まで先行を使っていた私が突然追い込みを使うとは思っていなかったろうし、さぞ驚いたことだろう。正直自分でもここまで相性が良いとは思ってなかった。間違いなく先行を使っていた過去の私よりも格段に速くなっている。
まだ
────でも私は今の結果に若干の後悔がある。
それは選抜レースを走っていたウマ娘達の心を折っちゃったからー とか、そんな
それも、大差での完封勝利。
久住君がスカウトしたいと思える様な結果を出すために……嫌な可能性を出来るだけ潰したかった。
結果としては8バ身差の勝利だけど、私の中では少しの不安が残ってしまう。
(油断した……いくら戦法に慣れてないとは言え、最後尾から周りの様子を伺いすぎた……)
久住君が見ていることで浮かれていたのかも知れない。
あれほど慢心は駄目だとレース前から気を付けていたはずなのに……心の何処かで『差を付けなくても勝てば良い』と思っていたのだろう。
今まではそれで良かったかもしれない。───でも、今日だけは違う。
今日だけは手を抜いていいレースじゃなかった。
あの人に振り向いてもらえるかはこのレースの走りに懸かっているのだから。
(ッ!!……ははっ、レースに"懸かってる"なんて、今までだったら絶対想うこと無かっただろうなぁ……)
そう考えると、ただ理由も無く機械的に走っていた私が今となってはレースに自分の考えを取り入れて、その結果に後悔しているなんて、過去の私が見たら信じられない様な光景だろう。
前までは選抜レースなんて、いつもの模擬レースと変わらず勝っても負けてもどっちでもいいと思う程度だったのに……違いすぎる感情の変化に"あの日"までは軽く見てた選抜レースが余りに重く感じてしまう。
本来は選抜レースを走ってから心の拠り所となる人を探そうとしていた私にとって、まさかレース前にその人が現れるとは思ってもみなかった事だ。
(でも、欲を言えばもっと早くに出会いたかったよ……)
出会えなくても、私の心をこんなに揺さぶる人が居るって知っていれば、孤独で虚しかった数年間も少しはマシになったのかもしれない。
そんな"もしも"の世界を想像してしまうのも私の心の弱さなのだろう。
(幸い、私の8バ身差の勝利に観客席に居るトレーナー達はかなり湧いてるみたいだし、私の考える結果としては『最良』では無いけれど、結構評価としては良い感じだ)
私は周りの評価を確認することで、若干の安心感を得た。
しかしこれが一般トレーナーの反応なのだ。久住君に相応しいウマ娘になるためには選抜レースくらい大差で勝たないとって思ってたけど、8バ身差だって周りからしてみれば十分な偉業だしね。
───出来るだけポジティブに捉えながら肝心の久住君へと目を向ける。
(ッ!!)
すると、昨日と同じ氷の様な表情でこちらを見ていた久住君と目が合った。
一度心臓が大きく跳ね、鼓動が速くなる……相変わらず表情だけでは何を考えているのか分からないけど、その瞳を見てると時間を忘れてしまいそうになってしまう。
久住君は私の走りをどう思ってくれたのだろう……私の事をスカウトしたいと思ってくれただろうか?
私の足は自然と久住君が居る方向へ進み始めていた。
その途中で何か聞こえた気がするが、そんなことはどうでもいい。これから久住君に『
───あの人に近づくほど空気が重くなり圧の様なものを感じる。
騒ぎになっているにも拘らず、未だに誰も近づかない円状の空間……いや、近寄れないって言った方が良いかな───その空間に近づくにつれて五月蝿かった周りの声もだんだん小さくなっていくのが分かる。
『流石だ』
『カッコイイ』
『好き』
『愛してる』
『私だけを見て欲しい』
そんな事を考えている間に私はあの空間まで来ていた。
(これは周りのトレーナー達が避けるのも仕方ないよね……)
正面に立つだけでも、かなりの精神力がいるだろう。私だって場の空気感や雰囲気を気にしない方ではあるけど、このレベルをスルーするのは流石に無理だ。でも、ここで立ち止まっている暇など無い。ここで踏み出さなければ何も始まらない。
そして私はその空間に迷わず足を踏み入れ────
「やぁ、昨日ぶりだね、久住君♪」
───久住君に話しかけた。
この時の心境は、期待7割、不安3割くらいだったと思う。
今私が笑みを浮かべてるのは久住君と話せている事の喜びもあるけど、その実、心にある不安を紛らわす為の虚勢でもある。まぁ、その虚勢も久住君にはバレてると思うけど……
「私の走り、見てくれた?」
いくら8バ身差だとしても、規格外の久住君からしてみれば選抜レースなんて大差で勝たなきゃいけないのかもしれないし、久住君にとっては走りの速さなんて関係無くて、そのウマ娘の目標や人柄を見てスカウトするのかもしれない。けど、もし大差勝ちが条件ならば絶望的だ。負ければ次もあるけど、勝った子に二度目の選抜レースは訪れない。逆に目標や人柄ならば、まだチャンスはある。懸念点はレースに関する目標が一切無いところだけど、それは後々何とかなる……はず。遅くなるとしても私の担当になってくれる分最悪ではない。
さぁ、久住君はどれに当てはまるのか……
「見ていたさ。まさかここまで速いとは思ってなかったけどな……」
「ッ!!……ふふっ、そりゃあ愛の力でパワーアップした恋する女の子だからね♪」
(よかった……速さの点では合格みたいだ。考え得る最悪の状態は避けられた……いやー、それにしても反射的とは言え恥ずかしい返事しちゃったな~……)
張り詰めていた緊張から解放された安堵と、私の中にあった不安が消えた事で、咄嗟に告白紛いの返事をしてしまった。恥ずかしさから顔が熱くなる。それに、思ってなかったって事は久住君の期待を上回れたのだ。その嬉しさから胸が踊ってしまう。
私の望む未来がより確実なものになっていくのを感じ、気分が高揚していく。
「? けど、笑顔になって良かった……昨日のような顔は君には似合わない」
「!? もぅ…君のそゆとこ、ホントにズルいよね~……」
やはり無表情……だが、今までの氷を思わせる無表情ではなく、少しだけ優しさや安堵感が伝わる様な……そんな表情だった。
昨日見せてくれた表情とはまた違う、慈愛を感じる新たな一面を見た段階で私の中にあるキモチは爆発寸前だったのだが、そこに加えてあの殺し文句……反則じゃない? あんな言葉を久住君に真正面から言われて惚れない生物なんて存在しないでしょ。
────不安から解放された安堵で浮かれていたところに更なる追撃がきた事で私の頭は大きく揺らいでいた。
まるで殴られたかの様な衝撃が私を襲い、それと同時に冷静な思考回路を焼き切る未知の幸福感や、大量に分泌されたアドレナリンが私の体を駆け巡った事によって私の下腹部が異常な程うずいてくる。
(なにこれ……何だか変な感じがする……)
経験したことのない感覚に戸惑っている『ミスターシービー』。
心にあった不安を否定するかのように綴られる久住の言葉によって、現在進行形で上がり続けている"期待"。
最初の不安など頭を掠めすらせず、ただただ幸福感に浸っていた。"
しかし、それは単なる偶然でしかなく─────
「それで、どうして俺のところに?こうしてる間にも、君の事をスカウトしたくて堪らないトレーナー達が周りに大勢居るが……」
─────期待が絶望に代わり始める。
········───どうして?
いや、その疑問も当然だろう。昨日も話してて感じた事だけど、久住君は自分の評価を低く見積もっている節がある。いったい周りからどんな評価を受けているのか、どんな影響力を持っているのか自分自身で自覚していないのだ。
さっきの件もそう。私の告白じみた返事を聴いてもあまり理解してなさそうな所を見ると、多分久住君は恋愛方面も意外と鈍いのかもしれない。そうなると私が重い感情を抱いてるなんて知らない訳だから、いきなり話しかけられれば疑問に思うだろう。
その事を前提に置いて今の状況を考えてみると、私達の関係は昨日会ったばかりの他人で、久住君は『今年入った新人』なのに対して私は『三冠が期待されてるウマ娘』。傍から見ても意味が分からないセットだと思う。
───でも、なんだか悪寒がする。
まるで久住君は『"私をスカウトする気が無い"』様な……
「………君は違うの?」
動揺をできる限り隠しつつ久住君の問いに返答するが、小さかった不安が蘇り、どんどん大きくなってくる………もしかして避けたと思っていた
冷や汗どころではない。心に巨大な影が差し、上手く考えが纏まらない。
『そんな筈ない』
『私を見てくれる』
『ナゼ、わからない』
『怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い』
私は本能的に、焦りと混乱で狂いそうになる頭を、原因の種である負の考えを否定することで正気を保とうとした。
いわゆる自己防衛の様なものだ。
だけど所詮私が狂わないための応急処置でしかない………
「俺なんかよりも、もっと相応しいトレーナーがいるだろうからな」
無慈悲な肯定───足場が崩れたかのような感覚に陥った。許されるなら今この場で膝をつき、天を仰ぎ、この現実を誰かに否定してほしい。
───でも、それは出来ない。今膝をついてしまったら私の未来は本当に絶望で埋め尽くされてしまう……久住君が傍に居ない人生なんて私は絶対にイヤだ。そんな事になるくらいなら死んだ方が何倍も良い。
───誰かに否定して欲しい?この人以外の誰かに否定されたところで何の意味がある。私は、私が一番否定して欲しかった人に肯定されたのだ。
「ッ!!……違う。私には君しかいないんだ……君さえ私のそばに居てくれれば………」
心の内にある絶望を押し殺しながら必死に声を出す。私の望む未来……久住君が傍に居てくれる未来を勝ち取る為に、私は声を出さねばならない。
『
私は君を愛してしまった。
愛する人の傍に居る事ができれば……それで良いんだ、それだけで生きている意味になる。
久住君は魅力的すぎるから、きっと私と同じ想いを抱く子達も現れるだろう。いや、
だからって負けるつもりはないけど……
「……なりふり構ってちゃ、いずれ誰かに取られちゃうかも」
『私の中で、ナニカが切れる音がした』
そうだよ、なりふり構っていたら誰かに横取りされちゃうかもしれないんだ。昨日も考えた事じゃないか……ダメだね、私はまだまだこの"世界"を甘く見てたみたいだ。
この世界はそんなに優しくない。妥協なんてしてたら、いつの間にか久住君の隣は
反省だ。これからは妥協なんてしない、常に全力でアタックする。久住君の隣は誰にも譲らない。
本当は使いたくなかった手だけど久住君の傍に居るためには────
「ねぇ、久住君。私のトレーナーになってよ」
私は久住君の事を逆スカウトするつもりは無かった。
久住君は優しいから……私が理由を話してスカウトすれば了承してくれるのかもしれない。
でも、私の勝手な気持ちで久住君に負担をかけたくないから、スカウトしてくれない時は諦めるつもりだった………けど私はちゃんと想像していなかったのだ、愛する人がいない
怖くて、考えたくなくて、そんな事ないって信じたくて……だけど現実となってしまった今、鮮明に想像できた。その未来が絶望しか存在せず、最終的に"自らの命を絶つ"までが簡単に想像できてしまった。
久住君に負担をかけたくないのも嘘偽りのない私の本心だけど、私が大きな結果を出したら……トレーニングを完璧にこなせれば、もしかしたら久住君に負担をかけないかも……そう思ってしまう私が居る。
余りの自己中心的な考えに自分自身で嫌気がする。そんな考えは私の都合の良い妄想だってことも理解している……"でも"、"もしも"、私の弱い心が何度もその可能性を妄想させる。
私の愛が歪だってことは自覚してる。だけど、私はもう
ヤベェ、シービーの感情ちょっと重くしすぎたかな……でもまぁ、これくらいが私好みではありますね!!!! 激重ヤンデレ最高ッ!!!
それと次回でスカウト編は最後になります。………ただ、今回の話でストックを使い果たしたので次回の更新は少々遅くなりそうです。本当に申し訳ありません( ノ;_ _)ノ 現在、猛スピードで執筆中です!!
面白いと感じて頂けましたら高評価、感想の程よろしくお願いします。
執筆の励みになります。