「何か楽して稼げる仕事ねーかな~」
────静かだった空間に男の声が響き渡る。
一軒家、一人で住むには少しばかり大きい家に男は住んでいた。
この家の家主である男の名は『久住』。クールキャラを演じるクズである。
先ほど男がこぼした言葉『楽して稼ぐ』
大半の人が『楽して稼げる仕事』がないか考え、早々にそんなうまい仕事はないと悟り大人になっていく。そして社会の荒波に揉まれるのだ。
今この男はそこそこ良い高校を後一年で卒業というとき、大学に進学するか就職するかで悩んでいた。
「大学に行ったほうが良い仕事につけるんだろうけどなぁ……大学は金がなぁぁぁぁ」
この男、久住は現在金には困っていない。
久住が高校入りたてのとき、親が事故で亡くなった。
その時の遺産や保険金がまだ残っているからだ……だが
「遺産だって有限だしなぁ、ギリギリ大学を卒業できるだけの金はあるが……どうするかな~」
就職して今あるお金を自由に使うか、大学に進学して将来の年収を安定させるか……前者は今あるお金は確実に自分の手に収まるが、将来良い仕事に就ける可能性が低くなる。後者の場合は今持っているお金は消えるが、給料の多い仕事に就ける可能性が高くなる。
どちらを取るかで久住の今後の人生に大きく影響してくるだろう。
「……ま、とりあえず今のうちに良い仕事ないか探してみるか……『楽で稼げる仕事、一覧』っと」
久住はそう言うとパソコンを開き調べ始めた。そこで目に留まったのが───
「なになに……?『世の中に楽で稼げる仕事など存在しない。こんな事調べる時間があるなら勉強しときなクソガk───よし、取り敢えずこのサイト主は通報&誹謗中傷しとくか~」
コーヒーの入ったカップを握り潰しながら男は更にマウスを動かしていく。
すると、ある一文が目に入った。
「んー……おっ?『やりがいのある職業ナンバーワン!充実した福利厚生に、超ホワイトな職場!あなたも一緒にトレーナーに!!』……え?胡散臭すぎじゃね?一周回って気になってきたわ」
偶然目に入ってきた文章の胡散臭さは、呆れを通り越して逆にどんな仕事なのか興味を湧かせる程の酷さだった。
「トレーナーねぇぇぇ……ガキの相手は嫌いだし論外かな~」
───いや、お前もまだガキだからね?
ただの興味本位でサイトを開いた久住だったが、仕事内容を見ていくうちに給料について詳細に書かれた欄にたどり着いた。
「ん?担当のウマ娘をレースに勝たせれば、その賞金の一部がトレーナーにもはいるの……か!? ンだこの金額!!?」
男はトレーナーの仕事紹介文に書かれていたトレーナーの平均給料額に腰を抜かした。
「……なるほどG1を勝てるウマ娘のトレーナーともなるとここまでの金額になるのか……重賞レースは全体的に賞金が上がってるな」
G1を勝つというのは容易ではない。
というよりトレーナーになるのであれば、まず勝つ勝たない以前に担当する娘を見つけねばならない。トレーナーの最初の課題と言ってもいいだろう。
例え達成して担当のウマ娘が出来たとしても、気を抜くことは許されない。むしろ、そこからが本番である。
───担当が出来たということは、一人の未来あるウマ娘の競技人生を背負う覚悟があるということ。
どんなダイヤの原石であろうともトレーナーが無能では勝てるレースも勝てない。
そのためトレーナーになるには厳しすぎる条件を達成しなければならないし、達成したとしてもウマ娘の担当という重圧に耐えきれる保証はない。
これらの理由からトレーナーというのは本当に少ない。
厳しい条件を達成できなかったというのもあるが、まずトレーナーになろうとする者が圧倒的に少ないのだ。
それでもなろうとするのは、『本当に背負う覚悟がある者』か『自分は背負う覚悟があると勘違いした者』……もしくは『邪な考えを持つバカ』のどれかだろう。
後者二つは筆記や面接で皆落とされ、前者ですらも厳しい試験内容により何人も落ちる。
最後まで残るのは数えられる程度である。
さて、この男は先に挙げた内のどれなのか───
「トレーナーって言っても元から強い奴を担当にして、俺が適当にそれっぽい練習メニューをちょっと作ればほとんど何もしなくてすむ……楽に稼げる仕事ってこれじゃね!?」
バカであった。
だが、少々特殊なバカだった