ガチでクズなトレーナーの物語 リメイク版   作:アグリ

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クズは有名人

 男がトレーナーになろうと決意してからの行動は速かった。

 すぐにトレーナー専門の学校に進学し勉強に勤しんだ。

 だが流石にトレーナー専門というだけあり、高校とは比較にならないほど難しい内容になっていた。専門用語やウマ娘の戦法、トレーニング法などなど高校ではやってこなかった新たな知識に同期の学生はかなり苦戦しているようだ。

 

 

 そんな中、ほとんど人がいない教室で話している男二人組がいた。

 

「なぁ、あのいつも無表情で講義を聞いてる人いるじゃん?」

「あぁ~いるいる!何か一匹狼って言うか、話しかけづらい雰囲気あるよな~」

 

 男子生徒二人はある男の話題で盛り上がっているようだ。

 

「だよなぁー!前話しかけようとしたら何か圧?みたいなの感じてビビったもん」

「そうそう!講義の時に教授に指されても動揺しないで答えてたもんなぁー」

「ああ、同期の間だとその話しは有名だよな。

 てかあの問題ってまだ教えられてない上にかなり難しい内容だろ?」

「あの教授性格が悪いことで有名だからなー……慌ててる学生を見て楽しんでんだよ。

 今回も答えられないと思って指したのに余裕そうに答えられて、逆に教授のほうが慌ててたけどな」

「あれは見物だったなぁ、しかし答えられたってことは俺らより先に予習してたってことだろ?才能だけじゃなくて努力もしてるとか本当に何者だよ……」

「おまけに芸能人レベルのイケメンだしな~」

「雲の上の存在すぎて嫉妬心すら湧かないもんなぁ。ああゆう完璧超人がトレーナーっていう狭き門をくぐるんだろうな……」

「何か憧れちゃうな……」

「そうだな……俺らもトレーナー試験受かるように頑張らないとな」

 

 

 才能だけでなく常に努力を続けている"ある男"に男子生徒二人組は密かに憧れを抱いていた。

 

 それはこの二人だけではない。近寄りがたい男の話は同期の間ではだんだん有名になり始めている。だが専門学校に入学してからそこそこの時間が経っているのに、異質な雰囲気を常に纏っているせいで誰も話しかけに行かない。その結果更に謎が深まり他のクラスからわざわざ観察しに来る者まで現れている。

 ミステリアスな雰囲気と、かなりの美形ということもあってファンまでいる程の人気だ。真偽の程はわからないがファンクラブがあるらしい。

 

 その人気度は最早芸能人レベルだろう。

 

 

 

 その頃芸能人レベルで有名になってしまったクズ男はといえば───

 

 

「うぉぉぉ……下痢が止まらん……昨日食べた消費期限2週間過ぎの肉がいけなかったか……」

 

 

 トイレに3時間引きこもっていた……何とも締まらない男である。下痢だけに

 

 

 

 

 

 

 

 久住という男は他人を下に見るが、他人から下に見られたくない男である。

 それは今までの人生で常に思い続けている。そしてこれからも思い続けるだろう。

 他人から下に見られると想像しただけで胸焼けを起こすレベルだ。

 

 下に見られることが死ぬほど嫌いな男は小中高あらゆる努力をした。

 

 勉強、運動、どれも下に見られたくないが為に常に努力した。男は無駄に才能があったため努力は結果で表された。

 

 そして自分よりも成績が下だった者を心の中で死ぬほど煽り散らかし、マウントを取りまくった。

 逆に自分よりも成績が上だった者は神父様も裸足で逃げ出すレベルで死ねと神に願った。

 自分よりも成績が上位の者を亡き者とすべく毎日丑の刻参りをしたり、藁人形を木に打ち付けたこともあった。

 

 それほどまでに見下されるのが嫌いな男が専門学校において何か変わるわけもなく、周りよりも速く教科書の内容を終わらせ、更に先の内容に進んでいた。

 勿論予習は欠かさない。

 

 ───そんな『見下されるの大嫌い。見下すの大好き』な男の学校での日常など、だいたい察しがつくだろう。

 

 講義で教授に指されて慌てふためく同級生を見て(心のなかで)大爆笑しながら、そんなのも解らないのかと(心のなかで)煽り散らかしていたり───。

 

 性格の悪い教授に、答えられないだろうと超難問を吹っ掛けられた時は澄まし顔で答えて、教授が慌てる姿を見て(心のなかで)腹筋を崩壊させていたり───。

 

 まぁなんとも性格の悪い男ではあるが、今までとあまり変わらない日常を送っていた。

 

 だが難関と言われるトレーナー専門の学校なだけに、知らない単語や難しい問題だらけだった。

 

 それはこの男も同じく……

 

 

 

(ムズぅぅぅぅ!!知らん単語ばっか……だが将来楽して稼ぐため!!!

そして俺に恥をかかせようと毎回難問吹っ掛けてくる

クソ教授に恥をかかせてやるため!!!!!

やってやんぞぉぉぉぉ!!!!)

 

 

 

 ……心配いらなそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 久住が専門学校に入学してから数年の時間がたち、いよいよトレーナー試験の本番が1ヶ月後に迫っていた。

 学校内は試験への不安や、受かるという自信、諦め─────

 混沌とした空間がそこにはあった。

 そんなカオスと呼べる空間においてただ一人、周りと違う空気感をもった男がいた。

 

「あの人何か余裕そうだよね~」

 

「そりぁね」

 

 違う空気感を持ち、自信……というより、受かって当然といった顔で教室にいる一人の男。

 混沌とした空間の中にも関わらず、その男を中心として周りには誰も居なかった。誰一人男の近くには近づこうとせず、まるで見えない壁があるようだ。

 周りの人達もどこか男を気にしていて、五月蝿くならないように静かに喋っている。

 

 普通であれば孤立していると思われる光景だが、不思議とそうは思えなかった。むしろ、その雰囲気から孤高の存在のようにも見えた。

 

 周りから見れば、それは異端だった。

 

 ある学生は、その人について近くにいる友達に不思議そうに尋ねた。

 

「何であの人の周りに誰も居ないんだろう??なんか皆が避けてるって感じがするし……」

「言い方が悪いわね……あの人に近づかないのは、暗黙の了解ってやつよ」

「暗黙の了解?」

「そう、あの人は私達とは違う高位の存在だから私達ごときが話しかけて良い御方じゃないの」

「ご、ごときって……」

 

 突然厄介ファンのような事を言い出した友人にドン引きした。

 このままでは友人の知りたくない一面を知ってしまいそうで、話の話題を変えようとする。

 

「ね、ねぇ……あの人そんなに凄い人なの?」

 

 なんとか当初から聞きたかったことを友人に問いかけた。

 しかし友人は何を言っているんだとばかりに顔をしかめて言う───

 

「多分あの御方の事はあなたも知ってるわよ、だって"あの"久住さんだもの」

 

 ───友人の言葉を聞き、聞いたことがある名前に驚愕した。

 

「えっ!?あの有名な久住さん!?教授潰しの!?」

 

 

 なんとも物騒な言葉が聞こえたが、あながち間違えではない。

 久住は過去、性格が悪いで有名な教授の自尊心をバキバキにへし折ったことがあった。教授はそれきり人が変わったように丸くなってしまい校内を騒がせたのだ。

 

 この事はある種の伝説にまでなっていた。

 だが、この話は久住が作った伝説の内の一つでしかない。他にも数々の伝説を作り、その話が広まっていった。

 

 これらの話は先輩後輩関係なく広まり、果てには他校にまで久住の噂が届くほどだ。

 もはや、この学校において『久住』という名前を聞いたことがない人間はいないほどに有名人であった。

 

 更に、基本的に無表情で常に近寄りがたい雰囲気を出している事に加え、"暗黙の了解"なんてものができたことで、有名人ではあるが、ちゃんと話しかけた人間は数年の時を経ても現れなかった。

 その事がこの話に拍車をかけているのである。

 

「久住さんってなんか近付きづらい雰囲気があって、孤高の存在って感じがして憧れちゃうよねぇ~」

「わかるぅ~!!クールっていうか一匹狼って感じだよねぇ~!遠目から見てるだけで目の保養になるわ!!鼻血のせいで血が足りなくなるけど!!!!」

 

 饒舌になったと思ったら、いきなり気持ち悪い事を言い始めた友人に動揺する。

 

「あんた急に喋るようになったわね……」

「そりゃあね!!私は久住様のファンですもの!!ファンクラブだって入ってるしね!」

 

 ……様?ファンクラブ?と、友人の突然なキャラ変や、流石に聞き逃せない単語が沢山出てきて頭を悩ませていた。

 

 

「でもそっか……久住さんならトレーナーになれて当然だよね。

 顔が良くて勉強熱心で教授を知識で圧倒することが出来る、欠点なんて無いような完璧な人だし……逆に久住さんが落ちたら誰が受かんのって感じだもん」

「そうそう!もし久住様が落ちるようなことがあればファンクラブのメンバーが試験担当者に襲撃をかけるわ」

「……とんでもない心酔っぷりだね……まぁ流石に久住さんを落とすような無能な人はいないでしょ」

 

 ファンクラブの過激さに恐怖しながら、あの人ならば絶対に受かるという自信があった。

 

 これはここだけの話ではない。

 

 久住という名前が学校で知らぬものがいないほど有名になったということは皆、多かれ少なかれ久住という男を知っていることになる……

 

 

 

 その誰もが久住の合格を疑っていない

 

 

 

 

 この学校に久住が落ちるなんて考えている者は一人もいない。

 

 

 

 

 教授すら……学長ですらも、久住が落ちるなんて一ミリも考えていない。

 

 ただでさえ合格者が圧倒的に少ないことで有名なトレーナー試験なのに……だ。

 

 

 ここまで他人から妄信的なまでに信頼されるというのは、幼少の頃より一度も欠かさず続けてきた久住の『周りに良いように見せる』演技が並外れている事を意味していた。

 

 そしてそんな絶対的な信頼を向けられていると一切知らぬ男はといえば……

 

 

 

 

「あとぉぉぉぉ!!少しぃぃぃぃぃぃ!!!!届けぇぇぇぇぇ!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 自販機の下に落ちている500円を死に物狂いで取ろうとしていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   (500円)

 ( ゚∀゚)ノ(トッタドー)

 

 

 

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