いよいよ試験当日。今日は筆記、明日は面接の2日間である。
試験会場の入口に試験を受けに来たであろう大勢の人達が入っていくのが見える。
そこには当然久住の同級生である専門学校の学生達も緊張した面持ちで会場に入場していた。だが会場に入っていくのは学生達だけでなく、30代や40代など様々な年齢層の人達も多く見られた。
───おそらく何度も試験に落ちている者達なのだろう。だが、それは当然とも言える。
トレーナー試験……それも中央ともなれば、その試験難易度はT大を超えると言われるほどレベルが高い試験なのだ。間違いなく日本屈指の難易度を誇る試験だろう。その試験を専門学校在学中に合格できる者など、毎年数えられる程度しか居ない。
つまり今会場に居る様々な年齢層の者達は、試験に何度落ちてもトレーナーの夢を諦めきれなかったということ。
それが意味するのは、試験難易度の高さだけでなく、何度落ちようと挑戦し続けるほどトレーナーという職業が魅力的だという事の証明だろう。
(いや、何回も落ちてんなら能力的に中央は無理ってことだろ。諦めて地方行けよ)
───·····どうやら空気を読まない不届き者が居るらしい。
確かに中央試験に落ちて地方のトレーナー試験を受ける者はかなり多い。
トレーナーの夢を諦めきれなかった者は、中央に比べて比較的簡単な地方に行きトレーナーになるのだ。
逆に、地方でトレーナーの経験を積んだ現役トレーナーが中央移籍のために今日の試験に来ている可能性も大いにある……いや、毎年一定数以上は確実に居るのである。
(まったく、そのまま田舎で隠居でもしてりゃ良いのによ……そろそろ俺も会場に入るか)
試験当日であっても相も変わらず周りの者を侮蔑する久住であった。
◆
「き、きききき緊張してきたぁ~……」
「お腹痛い……トイレどこ?」
「し、深呼吸深呼吸……フーッ! ふーッ! ふ、ふ~~……ッ!」
「ッ!! 試験官の人すいませーん! あの人、酸欠で倒れましたー!!」
「あはは……終わった……あれ?なんだろう、お花畑が見える~」
「おい! しっかりしろ!! お前が今居るのは試験会場だ!!!」
受験生達は当然ながら、かなり緊張した様子であった。
試験開始時刻に近づくにつれ、会場が緊迫した雰囲気に包まれていく。
今日と明日でこれまでの努力の結果が示されるのだ、緊張しないほうがおかしいのだろう。
つまり……
(ようやく……! ここまで来た!!! 楽して稼ぐためにいろいろな努力をしてきたが……ようやく報われるッ!!)
……自分が落ちるとは一ミリも考えていないこの男はおかしいのだろう。
(思い返せば、本当にきつい数年間だった……)
ほら、もう受かった気でいるのか過去回想し始めたし……
───専門学校に入学してからの人間関係だが、簡潔に言おう。俺が専門学校に入学してから今に至るまでの数年間、俺に声を掛ける者はいなかった。
恐らく俺と生物としての格の差を感じ取ったんだろう。恐れ多すぎて話しかける事ができなかったに違いない。(正解)
それに俺はクールキャラを演じているため、もともと馴れ合うつもりも無かったから好都合ではあった。
クールキャラが馴れ合うとか、ないない(ヾノ・∀・`)
俺が想像するクールキャラと言うのは、常に孤高であり何にも属さない一匹狼なのだ。
·····だが、不思議な点としては俺ほどの完璧イケメンが何故ちっとも声を掛けられないのかって事だ。
小中高の時もそうだったが、俺は異常なまでに話しかけられないのだ。話しかけられても事務的な内容のことばかり……なんで?普通は話しかけるだろ。どれだけ俺が恐れ多くても3年以上も一緒にいれば話しかける機会は幾らでもあるだろ。『そういえば全然話したことなかったな……試しに声掛けてみよ』ってなるだろ。
なんなら同じ学生との会話よりも学長や教授とかの方が話す機会は多かったぞ……内容は事務的なことだったけど。
そのせいか学長やら他の教授やらに面倒な頼まれ事をされることが多かった。後の評価の為に完璧にこなしてやったが、頼まれる度に何度暗殺計画を考えたことか……まぁ、俺の予想通り教授達からの評価は高かったけどさ。
───そして成績だが、俺の学校内での成績は常に『5位以内』だった……
そう、『5位以内』……俺がそう強調する理由は言わずとも解るだろう。
俺は胸焼けした
自分より成績が上の者を亡き者にすべく藁人形を木に打ち付けた。
この日から何故か俺の家の近くで白装束を着て奇声をあげながら藁人形を木に打ち付ける不審者が出たとして、警察が見回るようになった。
───そして毎度のこと俺に難問を吹っ掛けてくるクソ教授だが·····
何なんだあいつ!? 流石にしつこすぎるッ! 問題の難易度も上げてきやがってぇぇ!!
もしかして俺の事を好きなの!!? ツンデレなの?! ハゲジジイのツンデレとかゲロ物だよ!!! 何度クソハゲ教授の頭しばこうと思ったことか……!
俺がクールキャラ演じてなかったら今頃教授の頭は初日の出のように輝いていただろうな……よかったなァ!!教授の頭、まだ夕焼け程度には残っててよォ!!!
だが、そんなクソハゲ教授もある日を境に生徒イビりはしなくなった。
───ある日……夕焼け教授が遂に俺が解らない問題を出してきた時があった。
俺は解らないと答えれば教授や他の学生に見下される気がした。(被害妄想)
その光景が目に見えるように想像できた。(眼科行け)
俺は今までクソハゲ教授の難問にはすべて答えてきた。
そしてその度に顔を赤くして慌てふためくハゲな教授を見て死ぬほど煽り散らかし、爆笑していたのだ。(心の中で)
『"今度は俺がその立場になってしまう"』
そう考えたら泡を吹いて失禁してしまいそうになる。
そんな事になるくらいなら死んだほうが大分マシだ。
問題が解らない事がバレるなんて失態を犯さないように、俺は今までしていなかった『反撃』をすることにした。
『反撃』……聞こえは物騒だが、言ってしまえば正論と屁理屈を混ぜて屁理屈が正論に聞こえるようにしただけだ。
だが腐っても教授なだけあって、俺の反撃にも冷静に対応していた……のだが、今まで異常に俺を指してきた事や講義の内容が通常と大きく逸れていた事を指摘した途端、頭が後退している教授はただ顔を赤くしながら支離滅裂な反論しかしてこなくなった。
アイツ自身それが正論だってことは理解していたんだろう。
自分の不備を素直に認めたくない奴は、ド正論を言われるとキレるタイプが多い。
それにあのクソ教授は生徒達からかなり嫌われていたため、教授の味方をするものは誰もいなかった。
結局教授は講義をほっぽり出して中断となり何とか窮地を逃れることが出来たのだが、その事が噂になり校内では知らぬものがいないほどの事件になってしまった。
その噂は勿論学長の元に届き呼び出しをくらったのだが、カッパ教授の悪い話は前々から聞いていたらしく、俺は怒られるどころか学長に謝罪された。
多分面倒な手伝いを俺が嫌な顔一つせずに手伝っていたのも大きいと思う。(内心では学長や教授の暗殺計画を企てるほど嫌がっていた)
結果的に教授に恥を欠かせたし、学長が深々と頭を下げたから気分的にはプラスではあった。教授もその事件以来改心したのか、超難問を生徒達に出題することも無くなったしな。
けど正直、こんな直ぐに改心するとは予想外だ。ひょっとすると学長からキツい罰でも受けたのかもしれん。
······それとも、俺が口を滑らせて発した人格否定の言葉が意外と効いたのか? その後すぐにリカバリーしたから大丈夫だと思ったんだが……
ま、今となってはそんな事はどうでもいい。それよりも───
『"では、試験開始ッ!!"』
────会場内に試験開始の号令が響き渡る。
(ようやく、あの地獄とも今日でおさらばじゃぁぁぁ!!!! この俺が試験に落ちるわけ無いし、今日の筆記を乗り越えて、明日の面接を突破すれば俺の楽々高収入生活が遂に幕を開ける!!)
───この男はまだ知らない。トレーナーという職業は、超が付くほどブラックだということを……外にその事実が漏れていないのは、トレーナーになる者は誰も自分の職場がブラックだと気づいていないだけだということを……。
中央のトレーナーはウマ娘の為に命を懸けている者達の集まり。皆喜んで職場に泊まり込むような社畜集団。
自尊心の塊は、そんな職場で楽に暮らすことが出来るだろうか?
クズはウマ娘の為に命を懸けることが出来るだろうか?
絶対無理