ガチでクズなトレーナーの物語 リメイク版   作:アグリ

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面接と謎のロリ

『"試験終了!! 今から回答用紙を回収する"』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(いやぁー意外と難しかったな~)

 

 周りに絶望した者たちが大勢居るなか、男は余裕そうにペンを回していた。

 しかし、当然周りが久住と同じメンタルを持っているはずもなく……

 

「終わった……いや難しすぎだろ、専門学校でも習ってないとこかなり出たぞ」

 

「筆記でかなりギリギリなのに、明日は厳しいことで有名な面接もあるなんて……」

 

「…………」

 

 余りにも難しい筆記の試験で絶望した者。

 

 筆記試験で精神力を使い果たし、明日は更に精神力が問われる面接があることに絶望する者。

 

 すでに息をしていない者。

 

 

(プッ…全員絶望した顔しながらあせってやんのぉぉぉぉ!)

 

 そしてその状況を見ながら心の中で大爆笑しているこの男。

 

 男には『試験に落ちる』という考えは一切ない。

 むしろ試験に絶望している者達を嘲笑うほどの余裕っぷりだ。

 ……何処までいってもブレない男である。

 

(まぁ確かに難しくはあったが、問題は全部解けたし、落ちる要素は一ミリもないな。時間もめっちゃ余ったし)

 

『他人を見下すため。他人に見下されないため』

 男はそのために学生の時から予習を一日も欠かさず行っている。

 

 そう、このクズは努力するクズなのであった。

 

(だが、まさかクソハゲ教授のイビり対策に勉強してたとこがここまで出るとは思わなかったけどな)

 

 

 ───多くの受験者が筆記試験で落ちていく原因は、異常なまでの試験範囲の広さにある。

 専門学校でも全く触れられていなかった雑学レベルの内容や、参考書にも載っていない豆知識まで容赦なく出てくるのだ。そんな鬼畜な筆記試験に受験者は毎年死屍累々である。

 

 『範囲が広すぎて内容を予想することが出来ない』

 

 本来なら誰しもが苦戦するところだが、久住は全くと言っていいほど苦戦しなかった。

 

 それは何故か?

 

 久住は授業内容から大きく逸脱した難問ばかり出題してくる教授のイビり対策として、必然的に久住も授業内容より更に広い範囲を勉強する必要があった。

 そして教授が出題してくる可能性がある問題を片っ端から予習した結果、ついには雑学や豆知識レベルまで勉強範囲が広がってしまったのだ。

 

 つまりイビり対策で培われた豊富な知識によって、筆記試験は全く問題にならなかった。むしろ久住にとっては範囲が狭いと感じるほどだ。

 もはや単純な知識量で久住に勝つのは、現役の中央トレーナーですら不可能なレベルに達している。

 

 …………クソハゲ教授、意図しない神プレイである。

 

 

(ふっ、中央試験もずいぶん拍子抜けだな~。これなら面接も余裕だろうし、さっさと帰って寝るとするか)

 

 

「───やっぱり中央の筆記試験は相変わらずムズいな……今回は筆記試験突破は無理かな~」

 

「お前また中央試験受けに来たのか?何回目の受験だよ、今は地方でトレーナーやってんだろ?」

 

 

 久住が席を立とうとした時、離れた所で30代らしき男達がなにやら雑談に興じているのが耳に入った。

 

「まあな、担当だって居るんだぜ?」

「じゃあ何で中央のライセンス試験受けてんだよ、担当のウマ娘に集中しとけよ」

「ダイジョブダイジョブ、最近一段落したとこだから。中央のライセンス試験受けてんのだって、"あわよくば"って感じだしさ。記念受験ってやつよ」

「はぁ、相変わらずだな……例え筆記を突破しても、あの"面接"があるんだから受かるわけねぇって。今まで6回も落ちてんだからさ」

 

(……面接、か)

 

 面接───中央面接の厳しさは、トレーナーを志望する者なら全員が耳にするだろう。

 超目利きのURA職員や、優秀な元中央トレーナー達が面接官となり受験者を見定めていく……いわば最後の関門だ。

 

 面接官に選ばれる者たちは皆、類いまれなる"眼"を持っている。故に面接官に嘘は通じず、もし面接で嘘や虚言を吐こうものなら即座に落とされるのだ。

 それに嘘や虚言を吐かずとも、飾り立てた言葉の中にある本質を見抜き、中央のトレーナーに足る人物かどうか見極められる。加えて面接官自身にも『厳しく』と上から口酸っぱく言われているため、受かるには面接官の想像の上を行くしかない。

 

 これらの理由から、筆記試験を突破しようとも皆面接でことごとく落ちる。それが地方のトレーナーであっても例外ではない。

 

 筆記で8割の受験者が落ち、面接で最後の篩に掛ける。結果的に残るのは数人程度、酷いときには誰も受からない年だってある。

 知識面と人格面、どちらが欠けていても中央のトレーナーに成ることは出来ない。それが中央トレーナーになる事への厳しさだ。

 

 いかに久住とて面接を突破するのは容易では無い。

 

 

(余裕だな、さっさと帰って寝よ)

 

 

 

 ………はずだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 2日目、試験最終日である。

 

 現在、受験者たちは待合室のような場所で自分の番が呼ばれるまで待機していた。

 

 そして当然、そこには久住の姿もあった───

 

 

(こいつらは全員筆記試験を突破した奴らだろうが……初日と比べると大分減ったな)

 

 今居るのは目視で確認できるだけでも初日の10分の1くらいだろう。それだけで筆記試験の難易度の高さが窺える。

 ここから面接で更に落ちるとなれば、合格者が出ない年があるのも納得である。

 

(……にしても、コイツら緊張しすぎじゃね?)

 

 ────いや、お前のメンタルが強すぎるだけだよ。

 

 久住が周りを見渡すと、待合室に居る者は皆緊張した面持ちで自分の番が呼ばれるのを待っていた。

 周りにいる者達は、この後始まるであろう面接の練習なのか何かを呟いたり、緊張を落ち着かせるために深呼吸したり、手作りらしき御守りを握りしめていたり───

 

 確かにみんな行動はバラバラだが、共通していることがある。

 

 『目の下の隈』

 

 ここに居る者は今日の面接の緊張で寝れていなかったのだろう。みんな目の下に薄く隈ができていた。

 けれど、それは当然のことだ。面接前夜の緊張は、トレーナーに成る者も成らぬ者も共通して通る道である。

 

 ……さて、それに対して自負心と自尊心が限界突破している男はというと───

 

(面接官は複数人いるらしいが……まぁ相手が誰だろうが『クールでイッッケッメェェェン』な俺を落とすような無能はいないだろ。

 つまりッ!!俺が合格するのは確ッ実!!)

 

 ────気持ち悪いくらいテンションが上がっていた。

 それもそのはず、この男は他の受験者と違って昨日の筆記試験が終わった途端すぐ家に帰り、驚くほど安眠したのだ。今の久住は元気が有り余っている。

 ……この男の辞書に緊張という言葉はないのだろうか? 

 

(ここまで来るのに長い時間をかけた……それも無駄ではなかったということだな)

 

 既に達成感を味わっている久住だが……知ってる?お前これから面接なんだぜ?

 それに先程久住の前の番号の人が呼ばれたのだ、時間的にも男の順番が回ってくる頃合いだろう。

 

 ────コンコン

 

(お?)

 

 すると、前の方から扉が開く音と共に待合室に試験官らしき人が入ってきた。

 

 

「───では次の方、どうぞ」

 

 

 どうやら男の番が来たようだ。

 

 

(イヤァァホォォォイ!!今日から安心安全な楽々高収入生活のスタートだぁぁぁぁ!!)

 

 

 いや、今から面接しに行くのにそのテンションの高さはおかしいだろ。

 

 

 

 

 久住は試験官につられて待合室を出ると、ある一室の扉の前まで案内された。

 

(ここが面接室って事……か?)

 

 隣に居る試験官に目配せをする……が、試験官からは特に反応はない。

 

 ────扉をノックする。

 

 

 『うむ!!入りたまえ!』

 

 すると中から声が聞こえてきた。しかし、その声はどこか……

 

(えっ女?面接官は女なのか?っていうか声的に何か幼くね?)

 

「失礼します」

 

 聞こえてきた声に違和感を感じながらも、久住は扉を開け中に入る。

 そして、さっきの声の主が居るであろう場所に目を向けみると───

 

 

(…………ゑ???)

 

 

 ───その姿を見て衝撃が走った。

 

 

(しょッ……小学生がおるぅぅぅぅ!!)

 

 そう、中にいたのは青い薔薇がついた帽子をかぶった、オレンジ色の髪をしたロリだった。

 

 どこから見てもロリであった。

 

 

「うむッ! さぁ座りたまえ!」

 

 少女はよく響き渡るハキハキとした声で、男が椅子に座るように催促する。

 

(ハッ!? 何事も無かったかのように進めやがった?! 何者だよコイツ? 迷子……なわけないし……まさか、この状況をどうやって対処するのか試されてんのか!? だとすると不味い!)

 

「失礼します」

 

 荒ぶっている内心とは裏腹に、常に周りの目を気にしながら生きていた久住の頭は、今までの経験から最善の答えを導きだした。

 久住はこの状況すらも試験の一貫と解釈し、内心の動揺を悟られぬよう無表情かつ冷静に対処したのだ。……まぁ、言ってしまえばいつもと変わらずクールキャラを演じ続けているだけである。

 

「……ほぅ」

 

 対して謎のロリは自身の姿を見ても一切の動揺を見せない男に興味を示しているようで、誰にも聞こえないほど小さな感嘆の声を漏らしていた。

 

「ふむ、確か君は久住君と言ったな!」

 

 少女はハキハキとした声で男に問う。

 少女の見た目に反して、その言葉遣いはどこか大人びているように感じる。

 

「はい、『久住かいと』と申します」

 

「むっ……」

 

 ロリの元気一杯の挨拶とは対照的に、静かで冷たい自己紹介だった。

 クール……まさに氷を想わせる表情と雰囲気に、少女は少し尻込みしていた。

 

 ───外見だけを見れば確かにクールそのものだが、内側を見ればどうか?

 

(声でけぇ……! 何でガキは毎回声のボリューム調節が出来ねぇんだ!? 見た目ちっさいんだからもうちょい声の音量下げろやッ!! 個室な上に一対一だから耳いてぇんだよ! 俺を難聴のジジイ共と一緒にすンじゃねェ!!)

 

 内心は元気一杯(笑)である。

 

 久住は内心の暴言の数々を表面に一切出さずにただただクールキャラを演じていた。

 この状況においても変わらず悪態をつけるそのメンタルだけは見習いたいものだ。

 

「君のことは君達の学長から聞いている!!

 何でも『君ほどトレーナーにふさわしい人間はそうはいない』と!!! 学長からは会うたびに君の話を聞く!!」

 

(ッ! ナイスだ学長!!!クソみたいな面倒事を全部引き受けておいて正解だったッ!!)

 

「いえ、学長には申し訳ないですが私はそんな大層な人間ではありません」

 

 嘘である。

 

 何なら宇宙よりも自分の命のほうが圧倒的に重いと思っている男である。

 

 

 ……その自負心はどこから来るのだろうか。

 

 

「謙遜する事はない!実際に君の話を聞いている私もトレーナーにふさわしい……そう思うッ!!」

 

「(!? 受かったろ! もうこれ受かったも同然だろ!! 確定演出だろ!?)……恐縮です」

 

(これは、すぐ返答してはいけない。すぐに返答するのは二流のやることだ。

そう! 少しの間を置くことで『納得はしていないが無理やり飲み込んだ』感を出すのだッ!

さらに、少し目を細めて視線を落とすことで、クールキャラを守りつつ少しの不服感を演出!!

 

……余りにも完璧すぎる言動に自分でも惚れ惚れしてしまうぜ……!)

 

 ここまで来ると逆にキモい。内心を知っていると一挙手一投足に渡るまで計算された言動に気持ち悪さを感じる。

 

「これから行う面接では、その話に聞くような男であるのか……見極めさせてもらう!!」

 

「……よろしくお願いします」

(こりゃ勝ったろ!!!)

 

 現在個室の中で、小学生程の見た目の少女と無表情な成人男性が向かい合っている状況だ。

 常人なら混乱する状況下で、面接官の質疑に適切な応答などできるわけがない。

 そこで試される対応力こそが、この面接の第一課題になる。

 

「では聞こうッ!何故君はトレーナーになりたい!」

 

 少女が男に問う。

 

「(何故ここにガキがいるのかはわからんが、恐らくただのガキではない……質問には慎重に答えねば)……ウマ娘達の目標達成の手助けをするためです」

 

 男は少女の問いに相手の目を見て簡潔に答えた。

 

 『目標達成の手助け』……まぁ、当然嘘である。

 夢閉ざされ絶望している少女を見て爆笑できるような男に、そんな善良な心など持ち合わせているはずもない。

 

 ───しかし久住が他者と違う点は、無闇矢鱈に嘘をつくのではなく、ついた嘘に意味を持たせることだ。

 久住の発する言葉はほぼ100%嘘だが、その嘘には何かしらの意図がある。

 

 

(こいつが面接官ということは、俺以外の奴らの面接も当然担当したはず……ならば他の奴らが良い子ちゃんぶって長ったらしく飾りつけた言葉を嫌と言うほど聞いてきたのだろう。

実際それは有効だが何人も同じ事をすれば効果は薄れる……それどころか"またか"と思われ逆効果になる)

 

 男の考えは的を射ていたようだ。

 事実、男の簡潔にして冷静な回答に面接官(?)の少女は興味深そうに男を見ていた。

 

 

 

 男は常に周りの目を気にしながら生きている。 

 そして"意図的に"周りに良く見せている。

 

 その演技のレベルは妄信的なまでの信頼となって表れていた。

 

 だが何故意図的にそのようなことが出来るのかと言えば、男の演技力と圧倒的なまでの『観察眼』である。

 

 奇しくもトレーナーに向いている力だった。

 

 男の返答はその完璧な言動も相まって、本当にウマ娘のために手助けをしたい未来有望なトレーナー志願者にしか見えないだろう。

 

 

 ちなみに本心は……

 

 

(何故トレーナーになりたいのか?

そんなもん楽に金を稼ぐため以外に何があんのじゃぁぁぁッ!!!)

 

 

 未来有望なトレーナー志願者(笑)である。

 

 

「なるほど、手助け……か。あくまで自分はサポート役、杖だと言うことかな?」

 

「はい」

 

 トレーナーはウマ娘を支えるものとして『杖』と、よく例えられる事がある。

 逆に杖と呼ばれるからには、ウマ娘の事をしっかりと支えねばならない。折れることなど許されないのだ。

 トレーナーにとって杖と呼ばれる事はある種の名誉であり、誇りなのだ。

 それはトレーナーを志望している者達もよく理解している。だから少女は敢えて『杖』と例えたのだ。

 

 しかし金の為にトレーナーを志望している久住がその事を知るはずもなく……

 

(はッ?!俺を杖扱とかふざけんなよ!?ただの棒切れと一緒にすんなよクソガキがぁああああッ!! その上サポートとか言う脇役だと?いや、どう考えても主役だろ!?主演男優賞モノだろ!!?)

 

 ───トレーナーなのだからサポート呼びくらいは普通では?

 

 ……まぁ当然自尊心の塊のような男が杖と呼ばれることを許すはずもない。なんならサポートという言葉にまで噛みつく始末だ。

 思いのほか自尊心が高かった主演(笑)だが、外の面は超一級品。表情は一ミリも動いていない。

 

 続けて少女が質問する。

 

「ふむ、では次の質問だ! ───君は何故ウマ娘の手助けをしたい?そう思い始めたきっかけでもいい」

 

「…………」

 

 ありふれた質問……だが、間違いなく少女の質問により、今まで無表情を保っていた男の表情に少し変化が表れた。

 他の者であれば、ここまで些細な変化など気にも止めなかっただろう。しかし、少女からしてみれば男の過去に何かあったと察するには十分であった。

 

 

 

 

 

(ヤベェ、何も無さすぎて理由が思いつかない……!)

 

 

 

 

 

 ────いや、逆だ。何も無さすぎて困ってるだけだったわ。

 

 

 

 

(俺のアドリブ力の見せ所か……)

 

 

 少女が注視するなか男は言葉を紡ぐ。

 

「……昔の話ですが、怪我と病気によって走れなくなった一人のウマ娘を見たのがきっかけです」

 

「ッ!! 怪我……か」

 

 少女は顔をしかめた。

 怪我と病気……現役のウマ娘にとって、それは切っても切り離せない存在だ。怪我によって夢を諦めてしまうウマ娘は少なくない。それどころか今後の競技人生を閉ざされてしまう可能性だってあるのだ。

 少女は、そんなウマ娘たちを沢山見てきたからこそ、男の言葉は心にくるものがあった。

 

 

「……君はそのウマ娘のファンだったのかな?」

 

「そうですね……私が中学生の時ではありますが、彼女は当時一世を風靡したウマ娘でした。毎回大勢の人が彼女のレースを見に来るほど、彼女の走りには魅力があった……現に私も、彼女の走りに魅了された一人です」

 

 男は懐かしき過去を思い出しているような、どこか遠い目をしていた。

 

 ───しかし、少女は違和感を感じていた。

 

「……うむ、君がトレーナーになりたいと思った"きっかけ"は理解した……だが、理由が分からない。君の話を聞く限り、ウマ娘の怪我と病気……であれば、君が目指すべきは()()()()()ではなく()()なのではないか?」

 

 そう、そうなのだ。何も知らずに男の話を聞いていれば、トレーナーと言うよりは医者を目指していると思うだろう。なぜならトレーナーには怪我や病気を治す事は出来ないのだから……しかし、男が今居るのはトレーナーの面接試験だ。

 その現状に少女は大きな違和感を覚えていた。

 

「聞かせてくれ、何故君は医者ではなくトレーナーを選んだ?」

 

 少女は感じていた疑問を男にぶつけた。

 対して男は、動揺も考える素振りも見せず少女の質問に答えるため口を開く───

 

「担当の怪我はトレーナーの管理不足であり、そして病気の症状を早期に発見できなかったトレーナーの責任で───「な!?ちょっと待ってくれッ!!」

 

 ───男の口から出てきた言葉は少女を動揺させるには十分だった。

 目の前の受験者が、突然トレーナーに批判的とも取れる言葉を言い放ったのだ。

 

 そしてそれは少女が聞き流せる類いの言葉ではなかった。

 

「そ…それは言いすぎだぞッ!! いくらベテランのトレーナーといえど全智ではない! 怪我や病気の中にはどうしようもない事だってあるだろう……それらを一概にトレーナーの責任と言うのは違うのではないか?」

 

 少女は勢いよく席を立ち、男の言葉を否定する。

 少女は男の言葉を聞き流すことはできなかった。少女の"役職上"の事もあるが、何より少女自身が聞き流すことを許せなかった。少女も様々なトレーナー達を見てきたが故に、トレーナーがどれだけ担当の事を考えているのか身に染みて分かっている。───そして担当に怪我をさせてしまったトレーナーがどれ程自分自身を責めるのかもよく知っている、何人も見てきたのだ。

 

 だからこそ少女は男の言葉を否定しなければならない。学園で働くトレーナーの名誉のためにも……

 

 

「……すみません、少し言い方が悪かったようですね」

 

 だが、少女の熱くなった頭に冷たい声が響き渡る。それはまるで冷水をかけられたような錯覚に陥るほど、男の声は少女の思考回路を急速に冷やしていった。

 

「……ッ!! いや、すまない。私も冷静さを欠いてしまった」

 

(しまった、やってしまった……つい熱くなってしまったッ……。相手の話も聞かずに私はいったい何を一方的に!? 久住君とて全てがトレーナーの責任とは思っていないだろうに……すぐ熱くなってしまうのは私の悪いところだ)

 

 冷静さを取り戻した少女は先程の自身の言動を思い出し、男の言葉を途中で遮り最後まで聞いていなかった事に気がついた。きっと男の言葉には続きがあったに違いない。それなのに自分の勘違いで、男の話を聞かず怒りの感情に任せて一方的に捲し立ててしまった……その後悔と恥ずかしさから、少女は自責の念に駆られていた。

 

 

 しかしそんな少女とは裏腹に、男はたいして気にした様子も見せず話を進めていく。

 

「私が医者を選ばなかったのは……ウマ娘が陥る最悪の状況を、"未然"に防ぐためです」

 

「ん……つまり君が言いたいのは、怪我をしてから()()よりも怪我の原因を()()()()べきだ……ということかな?」

 

「大まかに言ってしまえば、ですが」

 

 原因療法……のようなものだろう。確かに怪我をしないに越したことはない。もし未然に防げるのであれば全てのトレーナーがそうするだろう。

 

「現代の発展した医療技術ですら治せない怪我や病気は少なくありません。酷いものでは二度と走れなくなる程の重篤なものもあります」

 

 それに仮に治ったとしても精神的理由から全力で走れない、なんて事はざらにある。怪我のトラウマから無意識の内に全力を出すことにブレーキを掛けてしまうのだ。

 

「それだけでなく、もしレース中負傷などによって転倒でもすればウマ娘の命に関わります」

 

 ウマ娘の速度で転倒すれば大怪我は免れない……最悪命を落とすことになる。男の言う『最悪の状況』とは、この事だろう。現在のみならず、いくら医療が発展しようとも失った命は戻らないのだから。

 だから未然に防ぐ、か。普通なら……いや、どれだけ優秀であろうと、すべての怪我を未然に防ぐなんて事は不可能だ。だが、この男ならば……そう思わせてしまうだけの雰囲気が、久住にはあった。

 

「……なるほど、君がトレーナーを選んだのはウマ娘に怪我を負わせないため…か」

 

 少女はそう解釈した。そう思うのも当たり前だろう、少女にとっては先程までの会話のインパクトが大きすぎて、久住が最初に話した『()()()()()()()()()()()()』なんて、既に"怪我の話"で上書きされてしまっているのだ。

 

 だからこそ男の口から告げられた言葉は余りに予想外だった────

 

「……まぁ、トレーナーを選んだ一番の理由は、担当の子がレースに勝って喜ぶ姿を見てみたいから……なんですが……」

 

「…………ッ!!」

 

 男の言葉に少女は絶句した。

 氷のような表情に、ほんの少しだけ照れが混ざったのもそうだが、何より先程までとは違い男の言葉は誰にでも理解できた。面接試験では一般的な、王道とも言えるセリフだったから……

 

 少女が思い返してみれば、確かに最初の『何故トレーナーになりたいのか?』という質問では久住はウマ娘の手助けがしたいと言っていたのだ。そこから男の発言や、少女が取り乱したことで話が脱線して忘れていた。

 

 

 ───しかし、男の言葉は少女の心を大きく動かした。

 

(……というか、手助けって怪我をしないようにサポートをすることだけではなかったのか……! いや、確かに怪我をしないようにサポートするのもトレーナーの役目なんだが……むぅ!元はと言えば久住君が突然あんな事を言うから……ッて、本当の元凶は最後まで話も聞かず怒った私ではないかッ!!?)

 

 

 ───……男の言葉に、だいぶ動かされていた。

 

 少女がこうなるのにも理由がある。

 久住の先程のセリフはまさに王道と言ってもいいほど、トレーナーを志望するものは皆が口にする。

 当然面接官である少女も今日様々な受験者から同じ言葉を何度も聞いてきた。それこそ、耳にタコができるほど……しかし、まさかそれが目の前の男から聞かされるとは思ってもいなかったのだ。

 

 男が纏う雰囲気は表情も相まって氷を連想させる、まさにクールそのものだ。先の問答もあって少女もまた同じように氷のイメージとして久住の印象が固まりつつあった。だが、そんな印象の久住が今や照れながら『ウマ娘の笑顔が見たい』と言っている意外性に、少女の心にはクるものがあった。人はそれを"ギャップ萌え"という。

 

 本当に小さな照れの表情……"眼"が良い少女でなければ気づかないほど……けれど少女は、その小さな男の照れの表情に心打たれたのだ。

 

『久住君の無表情以外の顔を見たら……"一瞬"よ、マジで』

 

 ───確かに、あの学長が絶賛するだけはある。

 

(学長が鼻血を出しながら語ってきたときは、遂に激務で頭がおかしくなったと思っていたが……なるほど、確かにこれは"一瞬"だ)

 

 少女は学長に深く共感しながら、少女は密かに久住の事を高く評価していた。

 私情を抜きにしても久住の返答に嘘偽りはなく、限りなく100点に近い。しかし、だからこそ少女は最後に男に()()()()()()()を問わねばならない。

 

「……では、最後の質問だ」

 

 少女が口を開いた瞬間、部屋の温度が下がったような感覚に襲われた。

 少女の葵く輝いていた瞳から光が消え、静かながらも鋭い瞳に変わった眼は、まるで何もかも見透されているような気さえする……いや、実際に見透しているのだろうか。

 

「君がトレーナーになり担当を持てば、それは一人のウマ娘の競技人生を預かるのと同じこと……」

 

 ────君にはその覚悟があるのか?

 

 急に先程までの雰囲気が一変し、幼い少女の見た目とはとても似つかない威圧感が溢れ出ていた。

 本当にあの少女と同一か疑ってしまうほどの変貌ぶりだ。

 

(ふぅ……これは何度やっても慣れないものだな……)

 

 先程との雰囲気の差に、面接を受けたものは皆動揺する。

 そして、その恐怖と混乱のなか本当に覚悟があるかを問われるのだ。

 ある意味脅しのようなものである。

 

 

 では、そんな威圧感MAXな少女と相対している男はというと……

 

 

 

 

 

(あるわけネェェダロォォォォォ!!?)

 

 

 

 

 

 威圧感を一切感じていないのか、かなり平常運転だった。───これはメンタルが強いというより……ただのバカなのでは?

 

 

「……命をかけます」

(ンなぁわけねぇぇぇがなぁ!!まぁ、言うだけなら"ただ"だしな。

こんなの本気にする奴なんていねぇだろ……相手の目を見てそう言い切れば、それっぽい雰囲気は出るだろうし)

 

「ッ!!」

 

 男は少女の目を見つめてそう言い切った。

 よく恥ずかしげもなく堂々と虚言を吐けるものだ……まぁ、久住は常に虚言を口走っているのだが、良心は痛まないのであろうか?…………いや、まず久住に良心なんて存在するわけもないか。人の不幸を見て爆笑できる男に良心があったら逆に問題である。

 

 久住の命かけます宣言(笑)を受けた少女は、動揺したように目を見開く。そして───

 

 

「わかった、もういい……退室したまえ」

 

 

 ────若干震える声で退室を促された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(ゑ?)失礼します」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 言われるがまま退室し……

 

 

 

 

 

『では、面接お疲れ様でした。試験も終わりましたので、このまま帰っていただいて結構です。合否の結果は後ほど送られますので───』

 

 

 

 

 

 

 

(ゑ?)

 

 

 

 

 

 

 

 久住……人生で一番混乱していた。

 

 

(何だ!? 何が起きた?! 明らかに逆鱗に触れるような内容は話していない!! 何なら俺の返答は王道中の王道だったはずッ!? だが、厳しいことで有名な面接の質問があの程度なわけないし……なんなら顔赤くして震えてたし、間違いなくキレてたよな? なんで!?

 俺の……俺の楽々高収入生活の夢はここで潰えるのか!!?)

 

 

 外面は無表情を維持しているが、頬は若干ひくついているし、冷や汗だらだらだし、心の中は阿鼻叫喚だし───久住にとって過去一番無表情の仮面が崩れそうになった瞬間であった。

 

 

 その後、久住は家に着くまでの記憶が一切なかったらしい。ウケる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……久住、かいと……」

 

 全員の面接を終わらせた面接官の少女……『秋川やよい』は、面接をしていた個室で一人物思いにふけながら、ある男の名前を何度も口にしていた。だが、少女の頬は男の名前を口にする度に赤く染まっていく。

 

 少女が何度も呟いていると、個室に扉をノックする音が響いた────

 

 

「失礼します、理事長……今年の志願者はどうでした?」

 

 

 ────その個室入ってきたのは、全身緑色の衣服で統一された女性であった。

 女性はそのまま優雅な足取りで少女に近づくと、悶々としている少女に疑問を投げ掛けた。

 

「……かいと、君? いや、いきなり名前呼びはハードルが……」

 

 だが『理事長』……そう呼ばれた少女は彼女の疑問に答えることなく、完全に自分の世界に入っているようだ。

 

「……理事長?」

 

 彼女は、目の前の少女が見た目に似合わず非常に聡明であることを深く理解している。まぁ、たまにIQが下がってお説教を受ける事もしばしばあるが……それはさておき、少女が聡明であることに変わりはない。

 そんな少女が、あまつさえ話しかけているにも関わらず、全く気づく様子が無いことに彼女は困惑していた。

 

「あの、秋川理事長?」

 

「ひょ、ひょっとしたら気持ち悪がられる可能性も……」

 

 三度呼び掛けてもこちらに全く気づかない少女に、彼女はため息をつきながら目を吊り上げる。

 今度は耳元まで近づき、確実に聞こえるであろう声量で呼び掛けた。

 

「もう……秋川理事長ッ!!」

 

「ッ!? た、たづな?! いつからそこにッ!?」

 

 少女は突然耳元から響いた大声に、目を丸くしながら勢いよく振り向いた。

 どうやら『たづな』という女性に本当に気付いていなかったようだ。

 しかし予想以上に声量が大きすぎたのか、未だキーンとした耳鳴りが続いており、少女の目には涙が溜まっている。

 彼女はやり過ぎたと自覚しているようで、彼女の心には少し罪悪感が芽生えていた。

 

「はぁ……三回ほど呼び掛けても反応が無かったので、無視されてるのかと思いましたよ」

 

「三回もッ!? すまない! 全く気が付かなかった……!」

 

 少女が目を見開き、申し訳なさそうに謝罪する。

 だが彼女が先程まで感じていた怒りは消えていた。それよりも、『少女が何を考えていたのか』という純粋な好奇心が勝ったのだ。

 

「ですが、理事長がそこまで考え込むなんて……何を考えていらしたんです?」

 

「えッ!? あ、あぁ……ある一人の志願者についてな……」

 

 

 ───やよいは、惚れた男の呼び名を考えていたとは口が裂けても言えなかった……けれど嘘も言いたくない……良心との葛藤の結果、少女は少し言葉を濁して返答したのだ。

 ……息を吐くように嘘をつくあのクズとは大違いである。

 

「一人……誰ですか?」

 

 しかし余りにも曖昧すぎて彼女の頭には疑問符が浮かんでいる。

 それも当然と言えば当然だろう、今日面接に来た受験者は数百人も居るのだ。その中から誰とも知らない特定の一人をピックアップするなど不可能に近い。

 

 少女もそれに気づいたのか、彼女の疑問に答えを提示する。

 

「『久住かいと』という者だ」

 

「久住? あの学長が話していた人ですか?」

 

 ───『久住かいと』と言う名前は聞いたことがある。それも一度ではなく何度も…だ。

 

 その名を頻繁に口に出していたのは、名門と言われるトレーナーの専門学校───その学長だった。と、記憶している……いや、耳にタコができるほど聞かされたのだ、間違いない。

 

 前に───

 

『すごい子が入学してきた!』

 

 ───と、報告をもらって以来、頻りにその子について語っていた。

 会食の席や、理事長と学長の個人的な場であっても『久住かいと』の話題が出なかったことなどない……そのレベルだ。

 そのくせ、話の内容は惚気そのもの。そこまで付き合いの長くない"たづな"ですら、学長の惚気話を最後まで聞くのは苦行に近い。

 であれば、個人的にも職業的にも付き合いの長いであろう"秋川やよい"は学長の惚気話について散々聞かされているはずだ。

 

 ───もしかして最近理事長が学長からの誘いを断っているのは、あの惚気話(苦行)に耐えかねたからでは?

 

「なるほど、確かに前回会ったときも『あと少しで久住君が卒業しちゃう』って嘆いてましたね……」

 

「うゥ゛ その話は止めてくれ……はぁ、酔っ払いの相手ほど面倒なものもないな……」

 

「……理事長、酔っ払った学長に絡まれてましたからね」

 

 もう卒業するほど時間が経ったのか───と、たづなが時間経過の早さを実感しながら過去の記憶を口にすると、やよいが顔をしかめた。どうやら少女にとっては苦い思い出のようだ。

 

「しかし学長から散々話は聞いていましたが……"理事長から見て"彼はどうでした?」

 

 たづなは真剣な面持ちで少女に問いかけた。

 学長から耳にタコができるほど『久住かいと』の話は聞いている。だが、あくまで"学長"から…だ。

 

 たづなは学長の話を鵜呑みにはしていない。

 勿論学長が信用に足る人物だということは短い付き合いながらも理解しているし、『久住かいと』に関する話も嘘ではないだろう……(寧ろ、あの惚気話が嘘だったら怖すぎる)

 けれど、それが贔屓目の可能性だってある。人間誰しも特別な人にはフィルターがかかってしまうものだ。

 たづなが今欲しているのは、純粋な外からの意見……それも、たづなが知るなかで最も優れた『"眼"』を持つであろう秋川やよいの見解だ。

 

 少女は彼女の思考を察したのか、ゆっくりと口を開く────

 

 

「───底が見えなかった、彼が何を考えているのか見通す事が出来なかった」

 

「ッ!!」

 

 そう答えたやよいに、たづなは信じられない物を見る目で、少女を見ていた

 

 たづなは秋川やよいの観察眼の鋭さを知っていた。

 

 ───やよいの眼は、『人の心が読める』と評されるほど完成されている。

 相手が何を考えているのか、この後どう動くのか……確かな正確性を持つ瞳が、それらを細かな言動から読み解く事を可能にしているのだ。

 

 そんな観察眼を持つやよいが、面接官として呼ばれないはずはなかった。

 やよいはその類い希なる観察眼で受験者が邪な考えを持っていないか、人格に問題はないかを仕草や言動を見て判断していた。

 あの威圧感も、その判断の為の一種である。

 

 加えて、そのときの質問が『競技人生を支える覚悟』などと言う覚悟を問われるものであるから尚更だ。

 

 人は動揺や恐怖、プレッシャーを感じると仕草や言動に表れボロをだす。

 やよいは、そのほつれた糸を見逃さない。

 

 それが可能なほどの観察眼。

 

 間違いなく『秋川やよい』の観察眼は世界トップクラスだろう。

 その精度の高さから理事長自らが面接官となって若いトレーナー志願者を見定めているのだ。

 結果、難問の筆記を突破したとしても面接でことごとく落ちる。

 そんな"眼"を持つ『秋川やよい』の面接の厳しさは、他の面接官の中でも一番の難関である。

 

 

 

 ───世界トップクラスの観察眼を持つ"やよい"ですらも底が見えない。

 

 そのような事は、やよいの人生をして一度もなかった。

 

「では久住さんの合否は……? 筆記に関しては周りと圧倒的な差をつけての一位ですが……」

 

 重い空気のなか、たづなは合否の判断について少女に尋ねた。

 どれだけ筆記が良かったとしても面接官が不合格と判断すれば、有無を言わさずその者は不合格になる。

 

「……底は見えなかったが、見えたものもある」

 

 やよいは、面接での事を思い出すように語り始めた。

 

『ウマ娘達の目標達成の手助けをするためです』

 

「彼は一切の迷いなく答えていた……そしてその瞳の奥ではとてつもないほど膨大な欲と覚悟が見えた」

 

「ッ!」

 

「"それ以外に何がある?"という単純な疑問のようなものも感じた」

 

 やよいが言わんとしていることを理解したのか、たづなは目を見開く。

 

「私が彼に覚悟を問うたとき、彼は迷わず命をかけると言い放った。

 私が恐怖で震えるほどの、あの時の威圧感……彼の覚悟は本物だろう。彼は本当にウマ娘のために命をかける覚悟がある」

 

「ッ!それは……」

 

「これはただの推測だが……

 

『ウマ娘のために命をかけて手助けをする。それ以外なにもいらない』

 

 私は彼がそう考えているようにも思えた」

 

「…………」

 

 たづなは言葉を失っていた。

 

 これほどの覚悟をもってトレーナーになろうとしたものが今までいただろうか?

 その狂気的なまでの……文字通りウマ娘のために命をかける覚悟をしたものが───

 

 現在中央で働く現役のトレーナー達は『担当の子がレースに勝つ姿を見たいから』『担当の笑顔が見たいから』『担当の子達に重賞レースを勝たせてあげたいから』など、ウマ娘の事を第一に考える者達ばかりだ……いや、そういった者達しかダメなのだ。だが、そんな中央のトレーナーといえど、命を懸ける覚悟をしてまでトレーナーになろうとした者は居なかった。

 

「では久住君の合否は……」

 

「勿論合格だッ! むしろトレーナーになってくれとこちらが頼むレベルだ! もし彼を落としていれば私はその試験担当者を殴るぞ!!」

 

「流石にそんな見る目のない人はいないでしょう。中央の面接官に選ばれるような方々なんですから」

 

 

 ───たづなが抱いていた久住への疑いの感情は完全に消えた。

 学長だけでなく、実際に対面し言葉を交わした理事長までもがそこまで高く評価するのであれば、疑う余地など無い。

 むしろ理事長の話を聞いていたたづな自身も、彼ほどトレーナーに向いている存在は居ないとすら思える。

 

「……たづな、私は来年から面接官を降りるッ!」

 

「!!……どうしてですか?」

 

 やよいの突然の発言に、たづなは動揺した。

 

 面接官……それも中央の面接官に抜擢されたとなれば、職員にとってこの上ない名誉である。

 日本最高峰である中央試験の最終関門を務めるという事は、それほど周りから能力を買われているということ……それを降りるというのは、余りにも惜しい。

 

 ───だが、やよいが降りると言った理由を彼女は何となく察していた。

 

「久住君を見た後では誰を見ても味気無さを感じてしまうッ!」

 

「まぁ……そうですよね」

 

 彼を見た後では、例え中央トレーナーに相応しい優秀な人材であっても、彼と比較し不合格にしてしまう……それは、唯でさえトレーナーが不足し、優秀な人材を欲している中央としては致命的だ。

 

 加えて、少女があまり名誉に拘らないのも面接官を降りる理由の一つだろう。

 即断即決は少女の美点でもある。

 

「しかし学長から聞いてはいたが、まさかここまでとは思わなかったッ!!」

 

「学長が見た方が早いとおっしゃっていたのはこの事だったんですね……」

 

「うむッ! 学長が面接官の席を降りるのも納得だ!!」

 

 そう、何を隠そう学長も理事長の目に引けを取らない観察眼の持ち主なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 今とんでもなく勘違いしている二人だが『秋川やよい』の観察眼は間違いなく世界トップクラスだろう。

 あの男の考えの一部を読み取ったのだから。

 

 ただ今回は相手が悪かった。

 

 

 

 今回の相手は、これまでの人生において誰にも自身の本性を晒さなかった怪物なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてその怪物は今……

 

 

 

 

 

 

 

 

(燃え尽きたぜ……真っ白にな……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 落ちたと思い自身のベットで灰になっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(あの時の久住君の威圧感……すごかったなぁ……瞳は冷たくて、鋭くて、まるで支配されてるような……んっ)

 

 

 対して少女は新たな性癖に目覚めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 やっと……やっとこの一話を書き終えたぞぉぉぉッ!!!
 この一話に一ヶ月かかったと言っても過言ではない! 本当に難しかった! 本来は三話に分割してたのを一話に纏めたせいで文字数も15000文字越えたし……
 恐らく誤字脱字も多々あると思いますので、よろしければ誤字報告お願いします。

 次はできる限り早めに投稿しますッ!!(←これ、マジだから!絶対だから!!)



 面白いと感じて頂けましたら高評価、感想の程よろしくお願いします( ノ_ _)ノ
 執筆の励みになります。




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