「イヨッッシャァぁぁぁ!!!!」
落ちたと思い灰になっていた所に合格通知が届き、俺は歓喜の雄叫びを上げていた。
近所迷惑?知らん知らん(ヾノ・∀・`)。今はそんな事よりも重要なモノがあんだよッ!
ああ、それと『そんなに騒いでいると近隣住民や通行人に本性がバレるのでは?』とか思ってる奴らは安心して良い。
超慎重派イケメンな俺が、演技を止めてこんだけ騒げているのは近くに人が居ないことを確信しているからだ。
周囲は人が居ないどころか家やコンビニなんかの建物も一切無い。
今近くに残っている人工物といえば10年くらい前に潰れた工場だけで、その工場には潰れたっきり人は全く出入りしていない。つまり、いくら騒いでも誰も気づく事はないのだ。
……ここで一つ頭に入れておいて欲しいのは、俺の家はトレセン学園とかなり近めだって事だ。
────トレセン学園。日本の『首都』に存在する日本最高峰のウマ娘育成機関であり、生徒数2000人以上のマンモス校。設備の充実度は高く、広大な敷地を有している。
そして、現在数々の伝説を作っている有名ウマ娘達の殆どがトレセン学園に通っている生徒達だ。
……そう、首都にあるのだ。人間もウマ娘も他の県とは比べ物にならない程の人口数を誇っている。
しかも俺の家は有名ウマ娘が沢山いるトレセン学園の近く……当然有名人の近くに住みたいと思う奴らはごまんといる。
その為、唯でさえ首都ってだけでも土地の奪い合いが激しいのだが、トレセン学園に近づくほどそれらは激化していく……はずなのに、何故か俺の家周辺だけ異常なほど何もない。
土地は空いているのだが、一向に人工物が建つ気配すらないのだ。
まぁその原因は今だに解らないが、俺にとっては唯一演技をしなくても良い場所だから、このままでいて欲しい。
「……流石にトレセン学園就職しても家に帰れるよな……? ウマ娘と同じくトレーナーも寮に入れるとか無いよな?? 四六時中演技しなきゃならんとか、ストレスで死ぬぞ???」
休日も有象無象のトレーナーやウマ娘共と顔を合わせるとか、考えるだけで胃に穴があくッつーの!!成人すらしてないクソガキ共を見るのは職場だけで充分……ん?そういえば面接の時のクソガキ、アイツもトレセンの職員ではあるだろうが、一体何者だったんだ?俺を合格にしたことから目は良いようだが……。
「しかしあのクソガキ、たった二回の質問で俺の素晴らしさに気づくとは……見る目のあるクソガキだったみたいだな(キメ顔)」
だが質問の後退出を諭された時の不穏な空気感は、完全に落ちたと思ってガチでビビったぜぇぇ……いや~あのクソガキも人が悪いなぁおい!!俺に変な不安を抱かせた事は死に値する罪だが、今の俺は機嫌が良い。今回の件はサプライズだったと思って超特別に赦してやろう。
でもそうだよな!冷静に考えれば、この俺が落ちるわけ無いよな!!俺としたことが焦りで思考が鈍っていたみたいだ。
ま、あの何者かも解らんクソガキの事を考えるだけ無駄か、思えば次会うかも怪しいんだ。今はそれより───
「俺の楽々高収入生活が! 今日から始まる!! 思い出しても長い道のりだった……! その道のりを俺は走りきったんだぁぁぁぁ!!!」
そう!!数年間の地獄を走りきり、ようやくこの手に掴んだ俺の夢!今の俺ならばどんな道も走り抜けられる!!!俺に怖いものなどないッ!!
とはいえ、楽々高収入生活を続けていく為には一定の成果を挙げなきゃならん。それには職場の人間関係もだいぶ関わってくる。明日からトレセン学園で働くわけだし、できるだけ職場の奴らからの好感は得ておきたい。なら初日の印象はかなり大事だ。俺が寝坊などするわけないが、"もしも"って事が無いように体の状態は万全にしておきたいし、今日は早めに寝とくか。
「俺、就寝ッ!!!!!!」(-.-)Zzzスヤー
◆
(ФωФ)シャキーン「俺、起床ッ!!!!!!」
そしてついに初出勤の日。昨日早めに寝た事の影響もあるのか非常に良い調子だ。眠気もなく、俺の体調は万全と言っていいだろう……だが、そんな体調とは裏腹に今日の天気は生憎の大雨だった。
けど俺はそこまで雨が嫌いって訳でもない。雨は俺のいつもと違った魅力を引き出してくれる。
俺的には無表情クールキャラは晴天の空の下で太陽の光を浴びているより、曇天の空の下で雨に濡れている方が様になっていると考えている。
これは俺のイメージだが───
───雨が似合うキャラは冷静で知性を感じさせる立ち回りをしていながら、実は熱い一面があるという時折見せるギャップから高い人気を獲得している。
───晴れが似合うのは、テンションがやたら高いだけの考える事を知らないバカなゴミ。余りにバカすぎてファンから叩かれる事も多々ある。
このイメージ差が、俺が無表情クールキャラを選んだ理由でもある。
まぁ、俺が雨好きな理由はそんなとこだ。後は単純に傘をさしながら憂鬱そうな顔をして通勤してる奴らを見てると、気分が良くなるからってのもある。
「結構降ってんなー、こりゃ傘さしても少し濡れるか?」
幸い俺の家とトレセン学園は距離的に近いので注意して歩けば濡れずにすむだろうが、今日は初出勤。
濡れないように注意した結果ギリギリで着くよりは、多少濡れてでも指定時間より1分1秒でも早く着いた方が良い印象を与えることが出来る。ここは濡れる事を覚悟して早めに行くべきだろう。
(それに、"水も滴るいい男"って言葉もあるしな。濡れてもそこまで問題にはならないか……)
───性悪男の間違いではないだろうか?雨が好きな理由が酷すぎる。と言うか、それは雨が好きと言うより自分が好きなだけでは……?全雨の日好きな人に謝るべきだ。
内心を知っていれば例え雨に濡れようともざまぁみろとしか思わない。
「それにしても雨強いな~傘さしてても雨が若干入ってきてるし……この時間帯なら結構早く着きそうだし、歩くペースを少し落とすか」
早歩きだからってのも理由の一つだろうが、今日の風は俺が予想していたより一段と強めだ。台風程ではないが、前に進むのに少しの力が必要になる程度には強い風だった。傘をさしてるにも関わらず、正面がらくる雨風を殆ど防げていない。
「クソッ!! 顔に当たる雨がいてェ……風のせいで威力が数倍増しになってやが───る゛ッ!?」
俺がそんなことを愚痴りながら歩いているときだった────突然の突風、それと同時に来た大量の水。しかも前からでは無く、俺の横から……一瞬俺の思考が止まった。
だが今まで様々な困難を経験してきた俺の脳は瞬時に動きを開始した。
今は冷静に現状把握だ、まず俺の衣服……まぁ、余すところ無く見事にびしょ濡れだ。
次に原因の調査、横を見てみると巨大な水溜まりがあった。さっきの大量の水はここから来ているのだろう。
では謎の突風は?そんな疑問、水溜まりがある『場所』を見ればすぐにわかる。
その場所とはウマ娘専用の道、ウマ娘が走ってもいい道だ。前を見ると変な帽子をかぶったウマ娘が走っている姿が見えた。
つまり事の原因は、俺の横にあるウマ娘専用の道をアイツが全力で走り去って行ったことだ
……水溜まりを思いっきり踏んで。
水溜まりを踏んで…………
……大事な事だから二回言った。
その結果水溜まりの横を歩いていた俺は全身ビショ濡れになったのだ。
ちなみに今日着ていたスーツは節約家の俺がなけなしの金で買った、かなりの値段がする良物である。
───…………あのウマ娘
コ☆ロ☆ス☆
◆
(全身びしょ濡れにも拘わらず、俺は傘をさして行く意味があるのだろうか?)
でも、ここで傘を閉じてトレセン学園に着いたとしたら、俺の第一印象は『大雨なのに傘もささず、濡れながら外を歩く変人』になってしまう。いきなり初日から変人だと思われたくないし、来る途中で何かあったと思ってもらうには、無駄だとしても傘をさし続けなきゃいけないんだ……
……何で俺は出勤初日にこんな事に悩まされなきゃいけないん??
(つーか元はと言えば雨の日なのに全力疾走してた、あのクソウマ娘が原因だろッ!? アイツだけは絶対地獄に送ってやるッ!!)
しかし切り替えなくては……もうそろそろトレセン学園に着く頃だ。濡れることを気にせずに(ヤケクソ)歩いたから、かなり早く着くだろう。
演技で大切なのは切り替えだ。それが出来るか出来ないかで演技の質は大分違ってくる……けど俺クラスになったら切り替えなくても常に最高の演技が無意識の内に出来ちゃうから、そんなに変わらないんだけどね(*^O^*)。いやー天才って罪だねぇ~。
(イケメンな上に天才とか隙が無さすぎるだろ────お!? 見えてきたぞ、俺の新しい職場!! にしてもデカいな!? 流石日本最高峰と言われるだけはある)
────トレセン学園の校門が見えてきた時だった。遠目ではあるが、校門前に誰かが傘をさして立っているのが目に入った。
(ん~?何だ?誰か居るぞ??)
「あっ! 久住さ……ん?」
トレセンの校門の前に傘をさしながら立っていたのは、緑色の衣服を着た女だ。
おそらく俺の出迎え係と思わしきその緑女は、俺に気づいたのか小走りでこちらに駆け寄ってきている……が、途中で失速した。
笑顔だった顔から驚いた顔に変わった所を見るに、どうやら緑女は俺が傘をさしているにも拘わらず全身がびしょ濡れな事に気がつき疑問に感じているようだな。
あのクソ娘のことを言ってもいいが、クールキャラ特有のミステリアスさを醸し出す為に利用した方が俺の得になりそうだし……ち゛く゛し゛ょ゛う゛ッ!!さっきの出来事を少しでも俺の得にしなきゃ納得できんッ!
「どッ……どうしたんですか!?いくら大雨だからといって、傘をさしていてそこまで濡れるはずは……」
……どうしたんでしょうネ。何で傘さしてんのに俺の高級スーツが濡れる事になるんだろうネ。俺も知りたいよネ。
「……いえ何でもありません。すいませんがタオルはありますか? 俺も一応持ってきてはいますが、鞄の中まで濡れてしまって……」
……何で鞄の中まで濡れてるんダロウネ。
「は、はい! すぐに用意しますのでとりあえず中に……」
この緑女にも俺の気迫が伝わったのか深くは聞いてこなかった。
────こうして俺は言われるがまま全身びしょ濡れな状態でトレセン学園に足を踏み入れたのだった。
……本当はもっとちゃんとした形でトレセン学園に入りたかったと思う俺は可笑しく無いだろう。
◆
「…………」
「…………」
今現在トレセン学園へと足を踏み入れた俺は濡れたスーツを脱ぎ、もらったタオルで頭を拭きながら緑女と一緒に『何処か』へ向かっていた。
(ヤベェ、完全に聞くタイミング逃した……)
余りに堂々と歩き出すもんだから反射でついて来ちゃったけど、大丈夫だよな?「何でコイツついてくるん?」とか思われて無いよな??この緑女、タオル渡された時から一言も喋んないから余計不安になる。
無言の時間が気まずすぎて何処に向かってるのか聞くタイミング逃したし……
────俺がこの空間に耐えかねていた時、緑女が意を決したようにこちらを見てきた。
「……私は理事長秘書の『駿川たづな』と言います。
久住さんの話は学長や理事長から聞いていますよ」
(ッ!! ようやく喋りやがったなコイ……ツ?)
緑女が社交的な笑顔を作り、話しかけてきた事で長かった時間も終わりを告げた。……だが、俺の目は誤魔化せない。
常に表情に気を配っている俺だから解るが、間違いなくその笑顔は無理をして作っているものだ。若干表情が強張っているし、僅かだが声に淀みがある。多分、今コイツの心にあるのは不安や恐怖と言った感情だろう。……やっぱりコイツも気まずかったのか?
しかし、このレベルで負の感情を隠せる奴は中々居ない。俺じゃなければ違和感すら感じなかっただろう。コイツはかなり優秀な部類だな。
(……って言うか、ん? 理事長??? 学長はともかくトレセン学園の理事長とは一度も会っていないはず……)
前理事長の娘だということは知っているが、それ以外俺は顔も名前も知らない。興味ないし。
(いや、それってヤバくね!? しまったッ! 合格に浮かれて理事長の事調べてくんの忘れてたー!!)
理事長の存在が完全に頭から抜けていた。今日からここで働くというものがトップの事を何も知らないとバレるのは非常に不味い……!
しょうがない、ここは『奥義』を使って乗り切るか……
「俺の話しですか……一体どの様な話かお聞きしても?」
これが百三つある久住流奥義が一つ!『その事は当然知っているが何か?(澄まし顔)』だ!!
理事長の話ではなく『学長と理事長』の話に澄まし顔で聞くことによって一切の不自然さをなくし、「まぁ理事長の事は当然知ってるわよね」と思わせたまま女の意識をそらすことができる!完璧な策!!!
───なぜこの男は些細な事にも変に考えるのか……その行動の積み重ねが周りの異常な信頼となって表れていることに気づけるのだろうか?
「ッ!! はい、学長は『君ほどトレーナーに相応しい人間はそういない』、理事長からは『こちらがトレーナーになってくれと頼むレベルだ』と、どちらも久住さんの事をとても評価していましたよ」
"安堵感"?を含む笑みを浮かべながら、そう語った緑女───
いや俺の評価バカたけぇぇぇ!!!!学長の話は面接の時に聞いたが、理事長からもそこまで評価されているとは思わなかった。マジで理事長が誰なのか気になってきたぞ……
(……ん? "学長の話は面接の時に聞いた"???)
過去の記憶を思い出していた時、違和感を感じた。
俺は学長からの評価を聞いたことがある。本人からではなく他者を通じて……面接の時のクソガキから聞いたのだ。
面接の時は気にもしていなかったが、あのロリは学長から聞いたと言っていた。
補足しておくと、俺が通っていたトレーナー専門学校はかなり長い歴史を持つ名門校だ。その学校の学長ともなれば、当然生半可な人材には勤まらない。
現在学長の座に就いているのは、歴史に名を刻んだウマ娘を育てた事で有名になった元トレーナーだ。
超がつくほどの有名人な為、出張が多く、専門学校に通っていた生徒達でさえ実際に見た事があるのは極少人数の生徒のみだ。
(ちなみに俺はその学長から週一ペースで連絡が来る……なぜ??)
兎も角、そんな有名人と気軽に話せるあのクソガキ……マジで何もんだ?????
謎が深まるばかりである。
(まぁ考えても仕方ないか……思ったけど、何処に向かっているのか聞く絶好のチャンスでは?)
しっかり会話もできてきたし、気まずさも大分薄れてきた。聞くとしたら今だろう。
「あの……今何処に向かっているのでしょうか?」
「ッ!! すいません! 肝心な事の説明を忘れていました……!」
この緑女が本気で慌ててるところを見ると、本当に忘れていたのだろう。
「今向かっているところは理事長室です。理事長は久住さんがお越しになれば『すぐに自分の元に案内するように』と、お申し付けをされています……すみません、大雨の中歩いてきてお疲れかも知れませんが理事長命令でして……」
申し訳なさそうに謝罪してきた。本来ならここまで濡れていると思っていなかったのだろう。俺も思ってなかった。
(ッて、うわぁ、いきなり理事長室かよ……でも理事長に会いに行くなら、もう少し理事長のこと教えてくれてもよくね!!? 気が利かねぇなぁッ!!!)
普通ならばたづなから理事長について聞かされるだろう。
だがこの男は先ほど『理事長?当然知ってますよ』オーラを出していたのを覚えていないのだろうか?
学長や理事長から久住に対する評価を聞いていたため、たづなも久住の事をかなり高評価していた。つまり、久住であれば当然理事長について知っていると思っている。
そんな信頼の中、久住から更に溢れんばかりの『当然知ってますよ』オーラを出されては、たづなは無駄な説明をしないだろう。当たり前の事を説明してバカにしていると思われる可能性だってあるのだ、わざわざそんな危険は犯さない。
────加えて、駿川たづなは久住に若干の恐怖を抱いている。
久住は駿川たづなが抱いている不安や恐怖の原因を『気まずかったから』の一言ですましているが、そんな訳はない。
では何が原因なのか?
その原因は『"久住"』だ。
自身では一切気付いていないが、たづなにタオルの有無を尋ねた時から久住が話し出すまでの間、ずっと威圧感とオーラがだだ漏れであった。
たづなは意味が分からなかっただろう。出迎えするはずの人物が全身びしょ濡れで現れた上に、さっきまで謎の威圧感を発していたのだ……そんな地獄の様な空間の中で久住に話しかけるのは相当な勇気が必要になったはずである。
つまり久住がたづなから感じた"安堵感"は、久住の威圧感が消えたことへの安堵だったのだ。
────だが、その所為でたづなは久住に少し恐怖を覚えてしまった。
久住、完全に自業自得である。
◆
そうして二人が駄弁ってるうちに、いつの間にか理事長室の前まで来ていた。
(うぉぉ……結局理事長の情報を何も得ることが出来ないまま理事長室に着いてしまった……)
げんなりした様子の久住に気付かないたづなは、流れるような動作で理事長室の扉をノックし───
「理事長、たづなです。久住さんを連れてきました」
『うむッ!! 入りたまえ!』
たづながそう言うと、理事長室からハキハキとした声が返ってきた。
だが、その声はどこか幼く……
(ん? なんか聞いたことある声だな……いやいやいやいや、そんなまさか……)
男は聞いたことのある声にそんなはずは無い。そう思いながら理事長室に入ると───
────知っているロリがいた。
(なんか知ってるクソガキがおるぅぅぅぅ!!!!!!)
お察しの通り、中にいたのは面接の時にいたロリである。デジャブだ。
しかし流石と言うべきか、内心では目が飛び出るほど驚きに満ちている久住だが、その感情を全て押し殺し、表面上のクールキャラを守るため無表情を突き通した。
(私を見ても一切動揺しないとは……やはり久住君は私が理事長と最初から知っていたか……流石だなッ!)
そう、秋川やよいの姿を知っていた歴代の新人トレーナー達は数人で、理事長と知って驚愕する者達ばかりであった。
面接の時も驚く者達……と言うより久住以外は全員驚いていた。だから最初、動揺せず冷静に質疑応答していた久住に興味を惹かれたのだ。
現に今となっても底が見えない久住に"やよい"の中の評価は更に上がっていた。
今まで現れたことがなかった
やよいは頬を赤らめながらも、久住に向かって声を出す───
「よく来たッ!! 君が知っての通り、私が理事長の『秋川やよい』だ!」
久住と交わす初めての自己紹介、なぜだか声が若干震えていた。しかし、その震えは面接の時のように恐怖から来るものではなく、どこか……。
かなり緊張しているやよいに対して、衝撃の真実を告げられた久住は───
(知るかぁぁぁぁッ!! 何が『知っての通り理事長の秋川やよいだ!キリッ』だ! 知らねぇよ!! 面接の時に自分が理事長だって言っといてくれよ!!? ッてか、こんなガキが理事長とかマジか!?? 俺これからクソガキ上司にぺこぺこしなきゃいけないの!!?)
知っているロリが理事長だった事に、声の震えが気にならないほど動揺しまくりであった。
「……お久しぶりです理事長、面接の時以来ですね。以前話した通り私は『久住かいと』と申します」
(クソッ! こんな短時間でまた奥義を使わなければならないのか!!)
この男は全てわかっていたかのような顔でそう呟く。
内心は狂喜乱舞しているため、当然演技だ。
逆にやよいはと言うと……
(私、久住くんと挨拶出来たのか!? じゃ、若干声が震えてしまったが久住くんは気づいてないだろうか……? 常に無表情だからわかりづらいなぁ……でも、そこが良いッ!!)
乙女であった。
確かに久住は『イケメン』と呼ばれる顔をしていて、真面目で努力家、何かの為に命をかける事ができる。かなり良い物件だろう。
だが中身は『女?ゴミゴミ!! 男?ゴミカス!! 子供?クソカス!!!』をモットーにしている。
そう、止めといた方が良い。
この男は自分以外を見下しているのだ。
自分よりも上の者を断じて許せない、胸焼けするほどに。
そして久住は今まで周りの評価は見下せるかどうかで判断していた。見下せなければマイナスに急降下。見下せればそこそこプラス……クズの判断基準だ。
だが、最初から……いわゆる見下せるかどうかを判断する前にマイナスに振り切ってしまう存在、『子供』。
どんな悪さをしても大抵の事は許されてしまう『子供』。この男は"子供"と聞くだけで、ちょっと丑の刻参りをしてしまいそうな位嫌いである。
そんな話を踏まえて『秋川やよい』の見た目を見れば分かるだろうが、とても幼いのだ。見た目で言えば小学生程……久住が一番嫌いな年頃でもある。もしそんな関係になってしまえば、久住はショック死するだろう。
乙女の恋は前途多難である。
実は理事長だと判明した面接の時のクソガキ……
今日から上司とかないわぁぁぁぁ。マジで俺がロリガキにぺこぺこすんの!?俺の素晴らしさを見抜いたとはいえキツすぎるだろ!!?唯でさえガキは嫌いなのに権力までついてきやがって……俺が持つのは良いが人に持たれるのは最悪。しかも持ってるのがガキとなれば更に最悪。
あまりの悪条件に、俺が地方の学園に転勤すら考えるほど意気消沈していると───
「君にここまで来て貰ったのは、晴れて新人トレーナーおめでとう! という事だけではないッ!!」
ん???
「と、言うと?」
俺が勿体ぶるクソガキに問う。
「実は……君はライセンス試験においてトップ、首席合格なのだッ!!!」
??? 首席合格?……首席合格……首席?……合格??……『首席合格』!!!???
この瞬間クソガキの事なんてどうでもよく感じるほど、俺の心は歓喜に包まれた。
単純な男である。
面白いと感じて頂けましたら高評価、感想の程よろしくお願いします( ノ_ _)ノ
執筆の励みになります。