実家に帰ったら、幼馴染が俺のパンツを吸ってた。   作:鳩胸な鴨

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お前にも責任あるんやで。


幼馴染が人前でパンツを吸うような子になってた。

「宗教勧誘に近い質問にはなるが…、君たちは『神』という存在を信じるか?」

 

連れてこられた焼肉屋の個室にて。

大量のホルモンを焼き、煙に燻されながら、槇村が問いかける。

すげぇ。網が見えなくなるくらい敷き詰められたホルモン初めて見た。

…ってか、こういう話って焼肉屋でするモンなんだろうか。

滴る油でごうごうと上る火を前に、俺は槇村の質問に眉を顰めた。

 

「いるとは…、思うけど」

「たっちゃん、そういうスピリチュアル信じるタイプだっけ?」

「あー…。まあ、信じざるを得ないっていうか」

 

俺の体、「神」とやらに乗っ取られる予定だったらしいし。

…なんか盛大に失敗してたけど。

その神らしきバケモノが、「何故貴様がそこに居座っている!?」とか叫んでめっちゃ冷や汗かいてたけど。

一年も前のことを思い返していると、槇村が話を切り出した。

 

「…それは結構。話が早くて助かる。

…質問は変わるが、ここ10年の間で事故、事件等による若者の死亡数が増加傾向にあるのは知っているか?」

「…まあ、時事問題とかで出たし、そんくらいは…」

 

物騒だな、気をつけよう程度にしか思わなかったが。

そんなことを思っていると、彼は焼けたホルモンを箸で取り、「さ、君たちも食べなさい」と俺たちの皿に乗せた。

 

「それらはすべて、先ほど名前を出した『外神』と呼ばれる上位存在によって引き起こされている。

名の通り、我々が暮らす世界とはまた違った外の世界…『異世界の神』だ」

「…異世界転生的な?」

「……正確には違うが、そう捉えてもらっても構わない」

 

マジか。そっちも存在したんだ。

そんなことを思っていると、葵がおずおずと手を挙げた。

 

「あの…、そのことって、どうやって知ったんですか…?

聞いてると、人間が知覚できるような存在ではないように思えるんですが…」

「協力者からの情報だ。

すまないが、これ以上は答えられない」

「あ、はい」

 

いやに事務的だ。

素っ気ない答えに、葵は納得がいかないように眉を顰めつつ、ホルモンを箸で挟む。

タレに潜らせ、それを口に放ると、くにくにと噛み始めた。

 

「あ、おいしっ」

「ああ。ここのホルモンは格別美味い。

口に合ったようでよかった」

「ホルモンの話、今いいから。続き話せ」

「…すまない。ホルモンが美味過ぎて話が逸れてしまった」

 

話が逸れるくらい美味いってなんだ。

いくら美味くても、そんなことで逸らすなよ、頼むから。

そんなことを思いつつ、俺は同じようにホルモンを口に放り、暫く噛む。

…確かに美味い。美味いが、話が逸れるほどではない気がする。

コイツが特別ホルモン大好きなだけなんだろうか。

そんなことを思いつつ、俺は槇村の話に耳を傾けた。

 

「外神の目的はただ一つ。

自分が片手間に作った世界に、適当に殺した人間の魂を放り込み、その混沌を楽しむ。

今回、そんな外神の悪趣味に選ばれたのは、正導寺。君だ」

「………すみません、ちょっと失礼します」

 

それを聞いた途端、葵が彼の言葉に被せるように声を張りあげる。

俺たちが首を傾げると、葵はカバンの中から布切れを取り出し、それを顔に当てた。

よくよく見ると、その布切れには、縫い目が走っている。

見覚えのある、文字の薄れかけたタグを前に、俺はそれが何かを悟った。

 

「……人前で俺のパンツ吸うなよ…」

「だ、だって…、また、いなくなっちゃう、あたま…、ぐちゃぐちゃ…なって…」

 

いけない。呼吸が乱れている。

彼女の心に残した爪痕が深過ぎたことを改めて認識し、俺は彼女の背をさすった。

 

「あー…、ごめん、ごめん。

居なくならないから。まずは深呼吸な」

「う、うん…」

「パンツを吸うのはやめような」

「それは…、いやっ…」

「……特殊性癖なのは咎めないが、時と場合は弁えたほうがいいんじゃないか…?」

 

槇村がドン引きしてる。

違います、本当はこんなことする子じゃないんです。

ただちょっと、俺がやらかしちゃったからメンタルがボロボロなだけなんです。

そんなことを思っていると、槇村が咳払いし、仕切り直す。

 

「とにかく。君は今回の件で、外神に目をつけられてしまっただろう。

そこでだ。我々としては、君の力と今の状況を利用したいと考えている」

「…ああ、そうだった。

俺の体のこと、なんか知ってるんだよな?教えてくんねーか?」

 

言って、俺は指先を変化させる。

無人島で生活していたときは、魚や獣を捌く際に重宝したものだ。…逆に言うと、それくらいにしか使えなかったわけだが。

槇村は俺の指をマジマジと見ると、「やはりか」と呟いた。

 

「私は元々、君の体を奪おうとした神を仰ぐ教団を追っていた。

…一年前、本拠地を突き止める前に瓦解したがな」

「あー…、ごめん。それ、多分俺」

「だろうな。君に宿る『神』は、それほどまでに強大な力を持っている」

「いや、俺、改造された直後にちょっと喋っただけ。

それで俺が正気ってわかると、あのヒョロガリが焦り散らしながら自爆ボタン押して、本拠地ごとあぼん」

「……じ、自爆…」

 

「私の10年…」と項垂れ、ホルモンを頬張り、ビールに口をつける槇村。

10年も追ってた相手の最後が自爆とは、笑えない冗談だったのだろう。

数分の沈黙が漂う。

俺が謝るのも筋違いだろうが、謝るべきだろうか。

そんなことを考えていた、その時だった。

変化させていた指に通う神経が、じんわりと刺激を受けているような感覚に陥ったのは。

 

「…失敗だった。もう少し離れた場所で話すべきだった」

「え?それって、どういう…」

 

葵が疑問を投げかけた、まさにその時。

すぱぁん、と、スライド式になっている個室の扉が開いた。

現れたのは、血の滴る包丁を構えた、焼肉屋のアルバイト店員らしき男。

男はふらふらとおぼつかない足取りで個室へと入り、包丁を俺へと向ける。

 

「…………」

「たっちゃ…」

「心配すんな」

 

俺は右手だけを変化させ、迫る包丁を掴む。

そのまま少し力を入れると、包丁はあっさりと砕け、その場に散った。

…あ、網の中に破片落ちた。もう食えねーな、あのホルモン。もったいない。

そんなことを思いつつ、俺の首へと手を向ける男の顔面を掴み、床へと押さえ込む。

顔を伏せていたから気づかなかったが、白目を剥いている。

もしかして、意識がないのだろうか。

…まさかとは思うけど、外神ってのに操られてるとかじゃないよな?

そんなことを思いつつ、俺は眼球と鼓膜に意識を集中させる。

目と鼓膜だけの変身って初めてだけど、なんか変な感じがする。

目と耳の血管全てが波打つような感覚、とでも言えばいいのだろうか。

そんな違和感に顔を顰めていると、40代女性のような、なんとなくプレッシャーを感じる声が響いた。

 

『くそっ、くそっ!どうして殺せないのよ、こんな冴えないやつ!!』

 

うっわ。予想が当たった。

クリーチャーとしか思えない人型の何かが、必死になって男を動かそうとしてる。

俺の背丈の1.5倍くらいの体躯を誇っており、かなりの巨体だと言える。

…にしても、腹立つ顔してるな。

なんていうか、全体的に人…というか、世界そのものを舐め腐っているかのような顔だ。

俺はそのいけすかない顔面を、変化した右手で掴んだ。

 

『むぎゅっ!?』

「あ、触れる。

葵ー、このバケモン見えるー?」

「え?な、何を、掴んでるの…?」

「やっぱパンピーには見えない系か」

『な、なに…!?

なんで、アンタ、私が触れて…!?』

「俺も知らん」

 

さーて、どうしようか。

なんか握りつぶしたら体液とか漏れそうだし、外で潰しとこうかな。

家の中でゴキブリやらムカデやらを捕まえたときのような、なんとも言えない不快感を抱いていると。

バケモノが俺に指を向けた。

 

『雷よ、こいつを焼き殺しなさい!!』

「おおうっ」

 

ばりっ、と音を立て、俺の体に電撃が走る。

びっくりした。真冬のドアノブに触った時くらいびっくりした。

無傷の俺を前に目をひん剥くバケモノを見下ろし、倒れた男を跨ぐ。

 

「ほんじゃ、外行ってくるわー」

「あ、ああ…。……なんというか、ムカデとかそういう害虫の駆除を見ているみたいだな」

「同じよーなもんだろ」

『な、なんですって!?

私は神よ!?神をなんだと…』

「はいはい外で聞くから黙ってろー?」

『むぎぎぎっ!?』

 

むんずっ、と唇を手で押さえてみる。

いくらバケモノとは言っても、発声器官は喉の奥にあるらしく、呻き声しか出せなくなっている。

ジタバタと暴れる様は、道端に落ちたセミのようである。

俺が露骨に顔を顰めていると、葵が口を開いた。

 

「……えっと…、そこに、たっちゃんを殺そうとした神様がいるってこと、だよね?」

「ん?ま、そうなるな」

「…だ、大丈夫なの…?

殺されたりしない…?」

「しないしない。ちょっと埋めてくる」

『むーっ!?むーっ!?』

 

不安がる葵に笑みを見せ、個室を後にする。

店の外に出ると、俺は裏の方にまで回り、バケモノをアスファルトに叩きつける。

…よし。誰も見てないな。

俺はあたりを見渡し、人影がないことを確認すると、右手を大砲のように作り替えた。

 

「飯時だからな。ご馳走してやるよ」

『ま、待ちなさいっ!私は神よ!

アンタの望むことならなんだって…』

「じゃ、失せろ。テメェみたいな理不尽、もう懲り懲りなんだよ」

 

どっ、とその口腔に光の奔流を放つ。

バケモノは悲鳴を上げることもできず、風船みたいに膨れ上がったのち、その場に肉片を散らした。

 

「……はーっ…。まーた葵のメンタル悪化するわ、これ…」

 

どんな星のもとで生まれたら、こんなややこしいことに巻き込まれるんだ。

そんなことを思いつつ、俺は世界に解けていく残骸に背を向けた。




ホルモンも好きだけど、タンも好き。ちょっと厚めに切ったやつを焼いて塩とワサビで行くのが好き。
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