鋼の錬筋術師 -ニクメタルアルケミスト-   作:ベルゼバビデブ

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第3話

 ようやくユースウェル炭鉱に着いたが…どうにもおかしいな。

「なんか…炭鉱っていうともう少し活気あるもんだと思ってたけど…」

「みなさんお疲れっぽいデスネ…」

 夜であるにも関わらず家の明かりは少なく、炭鉱夫達がいるにしては静かで人の数も少ない。見かけた炭坑夫もどこか暗い顔をしている。そんな風に思っていると、突如後頭部に何かが触れた気がする。

「おっとごめんよ」

 なるほど、このガキんちょが担いでいた角材が後頭部に当たったのか。

「ったく、気を付けろよな」

 ま、俺ほどの圧倒的筋肉があれば角材をぶつけられたところで痛みなど感じないけどな。やはり筋肉。筋肉は全てを解決する。するとガキんちょは俺の顔を見ると驚いたように声を上げた。お?もしかして筋トレ方法知りたいとか?

「お!!何?観光?どこから来たの?メシは?宿は決まってる?あと隣のお兄さんすごいね、肩に角材でも乗っけてんのかい?」

 なんだ、違ったか。角材を運んでる感じ基礎体力はあると思ってたんだがな

「親父!客だ!」

「人の話聞けよ!!」

 ガキんちょは俺を無視し、少し離れたところにいた「親父」に声をかけていた。

「あー?なんだってカヤル」

「客!金ヅル!」

「金ヅルってなんだよ!!」

 目の前で金ヅル呼ばわりされれば流石の俺も怒る。…とはいえ、実際に食事や寝床の問題はあるな…仕方がない、金ヅル呼ばわりに目を瞑ってついて行くことにするか。

 

「いや、埃っぽくてすまねえな。炭鉱の給料が少ないんで店と二足のワラジって訳よ。」

「何言ってんでえ親方!その少ない給料を困ってる奴にすぐ分けちまうくせによ!奥さんもそりゃ泣くぜ!」

「うるせぇや!!文句あるなら酒代のツケさっさと払え!!

 わはははははと笑い合うそんなやりとりを眺めつつ空気椅子に座っていると、カヤルの母親であろう女性が近づいてきた。

「えーと、一泊二食の二人分ね。」

「いくら?」

「高ぇぞ?」

 高い…か、まぁ結構辺境の街だし多少は高くても仕方ないか。一人1万として2万ってとこかな。それならば財布の中身的に余裕だ。

「ご心配なく。けっこう持ってるから」

 俺は立ち上がりモストマスキュラーのポーズを決めつつ返答した。こう見えても俺は国家錬金術師、研究費を含めているとは言え給料は結構高額なんだよな。

 

「20万!」

 

 ん?なに?20万?…。

「ぼったくりもいいトコじゃねえかよ!!ひとケタちがうわい!」

 高級ホテルでも無いのにそんな金額になるはずが無ぇだろ!ふざけてんのか!

「だから言っただろ、『高い』って。めったに来ない観光客にはしっかり金を落としてってもらわねえとな。」

「冗談じゃない!他あたる!」

 二度と来るかこんな店!

「逃すか金ヅル!」

 カヤルの父親が太い腕で俺を掴み、逃すまいと引き留めようとしてるな…

「なっ…なんだ!?全く止められねぇ…!」

 

 が、俺は桁外れの筋肉で走る装甲車的存在、肉体労働者である炭坑夫とはいえ、一人や二人の筋肉で俺を引き留めることなど不可能!引き止めるどころか寧ろ父親の方を引きずるように店を出ちゃうもんね。すると、カヤルに声を掛けられた。

「あきらめな兄ちゃん。よそも同じ値段だよ。」

 うーむ、そう言われてもとてもじゃ無いが財布の中身は20万には到底足りない。そうなればお金以外の何かで補填するしか無いが、俺達が今出せるものは圧倒的筋肉からなる肉体労働か高い錬金技術くらいだ。しかし炭坑夫達が犇く炭鉱の街に肉体労働などほぼ不要であろう。そうなれば選択肢は一つか

「なぁ、親父さん。壊れて困ってる物とか無いか?俺これでも国家錬金術師なんだ。」

「…国家錬金術師…?…軍の犬にくれてやるメシも寝床も無いわい!!」

 喜ばれるかと思ったら突然怒り出しやがった。急な変わり身に俺はアルと顔を見合わせて困惑した。少し間を置き、アルが突如サイドチェストを決め、黒光る肌によく映える白い歯を輝かせた。うん、今日もキレてるな!肩に汽車でも乗せてんのかい?

「ボクは一般錬金術師デス!国家なんたらじゃありまセン!」

 すると、先程まで怒って居た顔を急に笑顔に戻した店主が顔を出すと手招きをした。

「おおそうか!よし入れ!」

 アルの奴、上手く潜入したな。俺とアルは血を分け筋肉と魂の繋がるソウルブラザー、あいつが何考えてるかくらい簡単にわかる。今頃アルは足りない代金を錬金術によりツルハシなどを直すことで補填し、住民の信頼を勝ち取りつつ事情を聞き出してるだろう。

 

 

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「ったく。久しぶりに外のものが来たと思ったら…国家錬金術師だなんてしらけるなー」

 そんな声を聞いて僕はカヤルに声を掛けマシタ。

「えらい嫌われ様デスネ」

「そりゃそうだよ。ここのみんなは軍人なんて大っ嫌いだもん。ここを統括してるヨキ中尉ってのが金の亡者でさ。もー最悪。」

 すると、カヤルの言葉に続く様に周りの客たちも口を開き始めマシタ。

「なんでも中央の高官にワイロを贈るのにご執心らしいぜ。今の官位も金で買ったのさ、奴ぁ」

「元はただの炭鉱経営者だったのが出世に欲が出ちまってよ。」

「え?じゃあここって…そのヨキ中尉って人の個人資産ってコト?」

 更に話を聞けば金の亡者であるヨキが権利を握っているため炭鉱夫達の給料は雀の涙とのコト。そして上に文句を言おうにもヨキからのワイロにより握りつぶされてしまうらしいデス。こう言った事情から炭鉱の人々はそんな金の亡者と「錬金術師よ大衆のためにあれ」が常識であるはずの術師が特権と引き換えに軍事国家に魂を売ることを許せないようデスネ。…ま、恐らくブラザーは鍛えた事により発達した聴覚を用いてバッチリと聞いて居るでショウ。

 

 

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「…腐ったおえらいさんってのはどこにでもいるもんだな。こんな状態じゃ高タンパク低カロリーな食料なんて回ってこないだろうな。…それにしても国家錬金術師になるって決めた時からある程度の非難は覚悟してたけどよ…ここまで嫌われちまうってのもな…」

 すると、店の中に軍服の男達が入っていくのが見えた。多分その中にヨキってやつがいるんだろう。少しこのまま話を聞いてみるか。

『相変わらず汚い店だなホーリング』

 ホーリングってのは多分店主のおっさんか。

『…これは中尉殿。こんなムサ苦しい所へようこそ。』

『あいさつはいい。このところ税金を滞納しておるようだな。お前の所に限らずこの街全体に言える事だが…』

 税金の滞納理由は稼ぎが少ない…つまり、今まさに滞納にケチをつけたヨキからの給料が少ないのが原因だと思うんだけどな。

『すみませんね。どうにも稼ぎが少ないもんで』

 ホーリングのおっさんもやるな。ヨキからの給料が少ないと本人に言えば何言われるか分からないが、おっさんならば「酒場の稼ぎが少ない」とシラを切れるから皮肉を込めてそう返答をしたんだろう。

『ふん…そのくせまだ酒をたしなむだけの生活の余裕はあるのか…という事は給料をもう少し下げてもいいという事か?』

 …ん?今の風切り音と水を含んだ布が皮膚に当たる後…ははーん、さてはカヤル辺りが我慢できず、ヨキの顔面に雑巾を投げ付けたんだろうな。

『おっと。子供相手にムキになっちゃ駄目デスヨ』

 お、アルが動いたか。多分ヨキ側の誰かがカヤルにビンタでもしようとしたからそれを止めたんだろうな。あいつは優しいからな、黒光る肌のゴリマッチョであるアルがその圧倒的筋肉を用いれば目にも止まらぬ速さで動くなど容易だろうし。

『なんだ貴様…おい。容赦するな!』

 む、今度は抜刀音か、流石にこれ以上黙って聞いてるのも性に合わねえな!

 

 俺は壁をブチ破り、振り下ろされる剣を人差し指と中指で挟んで止め、そのまま指を捻り、剣をへし折った。

「みせし…!?…ええ!?ペキンて…」

「なっ…なんだ。どこの小僧だ!?」

 その言葉に俺はアドミナブルアンドサイのポージングを決める。

「通りすがりの小僧です」

「おまえには関係ない。下がっとれ!」

 下がれと言われたがそれを無視し、ポケットから国家錬金術師の証たる銀時計を取り出して見せ付ける。

「いや、中尉さんが見えてるってんであいさつしとこうかなーと」

 するとヨキって奴は一瞬で俺が国家錬金術師だと認識したらしい。その表情を筋肉読心術で読み取ると…「これは…チャンスだ!ここで好印象を与えておけば中央にコネを作れるかもしれん!」ってとこか。

「部下が失礼いたしました。私この街を治めるヨキと申します。こうしてお会いできたのも何かの縁。ささ、こんな汚い所におらずに!田舎街ですが立派な宿泊施設もございますので!」

「そんじゃおねがいしますかねー」

 俺はヨキの申し出を受け、宿泊施設へと向かった。さっきはこの街の実情をアルに探って貰ったからな。こっちは俺が探るとしよう。

 

「ささ、遠慮せずに召し上がってください」

 ヨキに案内された宿泊施設で出された食事は栄養価の高い食事だった。うん、肉はいいぞ、筋肉がつく。

「いいもの食べてますねぇ、街はあんな状態なのに」

「いや、おはずかしい話ですが、税の徴収もままならず困っておりますよ。おまけに先ほどのような野蛮な住民も多く…ははは、いやまったくお恥ずかしい」

 ここは理解を示してもう少し喋らせるか。

「納税の義務をおこたっておきながら権利ばかり主張するという訳ですね。この世の理は大抵錬金術の基本である『等価交換』であらわす事ができます。『義務』あっての『権利』でしょうに。」

「その通り。おお。エドワード殿は話がわかるお方だ。という事はこれも世の理として受け取っていただけますかな?…エドワード殿は国家錬金術師だけあって上の方に顔がきくと思われる。ほんの気持ちですが…」

 そう言って渡されたのは金の入った袋、つまりワイロである。腐ってやがる…。

「私は一生をこんな田舎の小役人で終わりたくはないのです。わかっていただけますでしょう?」

 田舎の小役人で終わりたくないのであれば搾取やワイロなどせずに真っ当に功績を積めよな。街に活気がないのはコイツに原因があるし、そんな状態では街が発展などするがない。それにたまに来た観光客にぼったくりを仕掛けるような有様では誰も再び訪れはしないだろう。そうならば益々街は疲弊する。悪循環だ。筋肉を鍛えたらより高い負荷のトレーニングができて更に筋肉が鍛えられると言う好循環とは真逆だ。

 

「では、ごゆっくりお休みください」

「どーも」

 寝室に案内される際、ヨキに一人の部下が話しかけていた。

「中尉殿、例のホーリングの店ですが、毎晩のように不穏分子が集まって不平をさわぎたてているようです。」

「ふん。奴ら前から何かと反抗的だったな、めんどうだ…焼き払え」

 …俺が圧倒的聴力でしっかりと聞いてるってのも知らないで随分と物騒な事言ってやがんな…。さっき壁をブチ破って店に入った時に振る舞われてた食べ物は余り栄養バランスが良くなかった。パンに肉を挟んだもの。最低限レベルの食事だ。それでは駄目だ。筋肉にはキチンとした食事が必要なのだから。

 

 炭坑夫達の筋肉とカヤルの未来の筋肉を守る為にここは一肌脱ぐとしよう。

 

 俺は寝室の窓をブチ破り、アルと合流し、ヨキ達が今夜酒場を焼こうとしていることを伝えた。

「ブラザー、それは大変デスネ。どうするんデス?」

「俺に考えがある。アルはヨキの所に行って足止めしといてくれ。」

 そして俺は炭鉱で取れた石炭を握りしめ、全身の熱を拳に集めるように強く握り締める。圧倒的筋肉が発する爆発的熱量と筋肉が齎す驚異的握力!!錬金術として金を作るのは禁止されているが、圧倒的筋肉でこれを作ることは禁止されていないはずだ。

「よし、上手く行ったな。」

 

 アルがヨキを足止めしていてくれたおかげでアイツらはまだ建物の中だった。

「アル、遅くなって悪かったな。」

「………………あの…」

 俺は袋からそれを取り出し、ヨキ達に見せつけた。

「これで炭鉱の経営権を丸ごと売ってほしいんだけど」

「すげ…ほ、本物…!?」

 俺が見せたのは山盛りのダイヤモンド。確かに天然物ではないが、石炭を圧倒的筋肉で加圧して作成したものなので本物ではある。

 

「足りませんかねぇ?」

 俺が首を傾げて見せるとヨキは首をブンブンと横に振る。

「めめめ、滅相もない!!これだけあればこんな田舎におさらばして…」

 ふむ、筋肉読心術で続きを聞いてみれば「政府高官に賄賂を贈ろう」とかそんなとこか?

「ああ、中尉の事は上の方の知人にきちんと話を通しておいてあげましょう」

 チラリとコチラを見たヨキに対し、サイドチェストを披露しつつ言って欲しいであろう言葉を返す。

「錬金術師殿!…しかし、これほどのダイヤモンドを一体どうやって…あ、いや、そうか…。錬金術師殿に迷惑を掛けてもいけませんし、『経営権は無償で穏便に譲渡した』という念書をお付けいたしましょう」

 うん?俺から提案しようと思っていたことを急にヨキから言い出したな。まぁ良いか、あとは手続きが終わったら建物を出る直前にダイヤモンドを全部粉々に粉砕してシラを切ろう。

 

 俺とアルはダイヤモンドを粉々に砕いてからホーリングの酒場に向かった。灯りが付いてるし、中から話し声が聞こえるからまだみんないるようだな。

「はーい、皆さんキレてる筋肉ならべてごきげんうるわしゅう!」

 まずは挨拶のラットスプレットフロントだ。

「…何しに来たんだよ」

 カヤルの発言に俺は炭鉱の採掘運営販売その他全商用ルートの権利書を取り出す。

「あらら、ここの経営者に向かってその言い草はないんじゃないの?」

 炭鉱夫の一人が俺の持つ書類の名義を見て目を見開いた。

「名義がエドワード・エルリックって!?」

 

「そう!」

 まずはダブルバイセップスフロント

 

「すなわち!!」

 次にサイドチェスト!

 

「今現在!!!」

 これがモストマスキュラー!!

 

「この炭鉱はオレの物って事だ!!!!」

 はい、アブドミナルアンドサイ!!!

 

 さて、俺のキレのある筋肉を披露したところで話を本題に移し、肩を竦める。

「…とは言ったものの、オレたちゃ旅から旅の根無草。権利書なんて筋トレのジャマになるだけで…」

「…俺達に売りつけようってのか?いくらで?」

 するとホーリングが筋肉読心術を使ったのか尋ねてきた。やはり筋肉は素晴らしいな、話が早い。俺はサイドトライセップスを披露しつつニヤリと笑う

「高いよ?何かを得ようとするならそれなりの代価を払って貰わないとね。ま、素人目の見積りだけど…親方んトコで一泊二人分の寝床と20人分の食事の料金…ってのが妥当かな?」

 カヤルもホーリングのおっさんもポカンとしてるな。そんなに俺の筋肉が素晴らしかったか?

「はは…ははははたしかに高ぇな!!…よっしゃ買った!!」

「売った!!」

 よし、交渉成立だな…!ん、外から足音…これはヨキ達か。タイミングバッチリだな。

「錬金術師殿、これは一体どういう事か!!」

「これはこれは中尉殿、ちょうど今権利書をここの親方に売ったところで」

 それに対してヨキは筋肉読心術的に言えば「なんですとー!!?」という表情をしていた。しかし、すぐさま手に持ったダイヤモンドだったものを指差す。

「いや、それよりも!あなたにいただいたダイヤモンドが全部粉々になっておりましたぞ!どういう事か説明してください!」

 どうもこうも指圧で砕いただけなんだけどな。

「ダイヤモンドなんてしりませーん」

「とぼけないでいただきたい!ダイヤモンドの山と権利書を引き換え…あっ!」

 どうやら自分で言い出した無償の譲受に気が付いたらしい。馬鹿な奴だなぁ。

「ぬぐぐ…この取引は無効だ!おまえ達!権利書を取り返……」

 

 俺、アル、そしてホーリングのおっさんをはじめとする炭鉱夫。その全員で一斉にダブルバイセップスフロントを披露する。

「力ずくで個人の資産を取り上げようなんていかんですなぁ。これって職権乱用ってやつでは?」

「う、うるさい、どけ貴様ら!ケガしたくなかったらさっさと…」

 瞬間、俺達全員の服が弾け飛んだ。それを見た瞬間、ヨキの部下二人は爆速で180度回転し、背中が見えなくなるまでダッシュで駆けていった。

「あ、そうだ中尉。中尉の無能っぷりは上の方にきちんと話を通しときますんで、そこんとこよろしく」

 それからはホーリングの酒場で祭りのような騒ぎになった。

 

 因みに俺が壊した壁はアルが直した。

 

 




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