弾丸1発で死ぬ先生   作:戦える先生ものが読みたかった

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弾丸1発で死ぬ先生

 

 連邦生徒会三年、七神リンは疲れていた。頼れる連邦生徒会長の失踪、それに伴うキヴォトス全土の治安の悪化、対応に追われる日々だが、連邦生徒会長が戻ってくる様子は未だに無い。それだけでも大変な事だが、本日、“先生”なる存在が、キヴォトスに着任するらしい。外より来た人は、銃弾1発が致命傷にもなり得ると聞いていたリンは、そんな脆い存在が自分たちを教え、導く事が出来るのだろうかと甚だ疑問に思っていたが、あの超人生徒会長がわざわざ指名した人事なのだ。この現状を打破してくれるかも知れないと、一縷の望みを持ち、先生を迎えに行くのだった。

 

(ここに先生が……)

 

 連邦生徒会室のロビーに着く。ドアを隔てた向こうに先生はいるらしい。期待と少々の緊張を持ち、リンはドアを開けた。そこで彼女は“それ”を見た。

 

 ──大きい、まず初めに彼女が思ったのはそれだった。身長は2m程もあるだろうか。身体の何処も分厚く、しかしそれでいてしなやかな印象さえ持てる肉体だった。鍛え抜かれた全身は傷だらけであり、彼が歩んできた過酷な日々を彷彿とさせる。厚く、太い男であった。

 ──そして彼は全裸だった。

 

「なっ、なんで全裸なんですか!?」

 彼女が叫んだことにより目を覚ましたのだろう。男は一瞬で臨戦態勢となりリンを正面から見下ろす事になった。だが、動いたせいで彼の立派なモノがブラリと揺れる。

 リンが覚えているのはここまでだった。疲労が溜まっており、キヴォトスでは見られない生身の男性、そしてその象徴となるモノを目の当たりにしたリンは静かに意識を飛ばすのだった。

 

「おっ、気がついたみてぇだな」

 頭上からの声で目を覚ます。どうやら眠っていたらしい。あまりの忙しさに気絶でもしてしまったのかと瞼を開けるとそこには先ほど目にした男性の姿があった。用意してあったらしい服を来ていたが、サイズが少し小さいのかだいぶピチピチである。そこまで見て、一瞬で先ほどの事を思い出す。普段は冷静沈着、氷のようだとも言われるリンの顔は赤面しており、先ほど受けた衝撃が伺える。だが、生徒会長からの言葉を思い出したリンは瞬く間に落ち着きを取り戻し、目の前の人物との対話を始めた。

 

「私は七神リン、連邦生徒会の幹部ですが貴方は……先生でお間違いないでしょうか」

「あー、どうやらそうらしいな。俺に務まるかは分からねえが先生になったらしい。俺は大賀美と言う。これからよろしく頼む」

「よろしくお願いします、先生。早速で申し訳ないのですが、手を貸して頂きたい事がありますのでお力を貸していただけないでしょうか」

 

 

 

 時は少し遡る。男が目を覚ますと、何故か今まで着ていた服を着ておらず、目の前には耳の尖った少女がいた。男性に対する免疫が無いらしく、何も隠すところのない裸体を目の当たりにした結果少女は倒れてしまったが慌てたのは男も同じだった。急いで倒れた少女を椅子に寝かせ、周りを見回すとおそらく男の為に用意されたと思わしき服があったので着替える。

 一息吐いた後に、改めてここは何処なのかと男は疑問に思うが、少なくとも自らの記憶にある場所ではない様だ。何もかもが分からない状況だが、一つだけ把握している事がある。彼は今日からこの地で、先生を務めなければならない。彼は自分のようなものが教師などと正気を疑う人選だと思っていたが、選ばれたからには、精一杯努めるだけだと気を引き締める。少女の目覚めを待つが、幸いにも軽い精神的ショックだった様なので、10分も経たないうちに少女は目覚め、移動しながら色々と教えてもらうこととなった。

 

 彼女は七神リン名乗り、大賀美に説明を行なう。ここはキヴォトスという場所で、彼女はキヴォトスの問題を対応するための人員である事、現在サンクトゥムタワーという、キヴォトスの管理のために様々な事ができる建物が、管理者が不在のため、制御が出来ない事などを聞く。そしてまずは先生である大賀美がサンクトゥムタワーの認証を行い、制御権を回復してほしいと要請した。

 

 そこまで大賀美が聞くと、エレベーターが一階に到着した。一旦会話を止めエレベーターの外に出ると、待ち構えていたらしく何人かの生徒から質問攻めに合った。羽や角が生えた女生徒を物珍しげに見る大賀美だったが、キヴォトスには来たばかりの為、いまいち内容が把握できない。だが、これも先生の勤めなのだろうと静かに女生徒たちの話を聞くのであった。

 

 ──大きい 早瀬ユウカが最初に思ったのはその事だった。彼女の所属するミレニアムサイエンススクールより、遥々連邦生徒会に伺い、七神リンに近頃のキヴォトスの治安悪化について尋ねた後、ふと隣を見ると、そこに彼はいた。大きく、分厚い、大人の姿。キヴォトスでの大人は、ロボットの形をしているか犬などの動物の姿であるため、自分たちと同じような人間の男性を見るのはこれが初めてだった。だが、その肉体は自分たちと同じ人間であるか疑わしいほどの太さで、彼の太ももと比べれば、周りから揶揄われる事もあるユウカの太ももすら、スラリとしたものに見えるだろう。

 思わず追求する声を止めるユウカだったが、周りの3人も同じだったらしい。ゲヘナの風紀委員であるチナツ、トリニティの正義実現委員会に所属するハスミ、キヴォトスの自警団を名乗るスズミも、彼の圧倒的とも言える肉体の迫力に言葉が続かなくなったようだ。

 

 言葉が止んだのをきっかけにリンから現状が説明される。連邦生徒会長は現在失踪し、現在行政権を担うサンクトゥムタワーは機能不全に陥っている。そして今から“先生”が認証を行い、機能を回復させるので着いてきてほしいと。

 

 体良く使われることを理解したが、ユウカはそれを了承した。行政権の回復は治安の回復には必要であるし、誰かがやらねばいけない事でもあると考えたからだ。だが、彼女が了承した最大の理由は先生の存在だった。悲しみも怒りも因数分解すると豪語する彼女であるが、キヴォトスにおいては未知の変数となる“先生”、その存在を観測することに多大な興味を抱いたからである。

 

 大賀美達は互いに挨拶を交わし、皆で目的となるサンクトゥムタワーへ向かう事となった。だが、向かう直前に連邦生徒会のモモカから連絡が入ると、一同は顔を顰める事となる。どうやらサンクトゥムタワー周辺は矯正局を抜け出した生徒たちで大騒ぎになっており、銃弾が飛び交う戦場になっているらしい。なんと戦車まで持ち出されているようで、何がなんでもサンクトゥムタワーを占拠しようと暴れている様だ。

 

 大賀美は、イヤイヤながらも不良生徒達を相手に戦う準備をするユウカ達を見た。先ほど教えてもらったが、キヴォトスの生徒達は銃に撃たれても死ぬことはなく、大きな怪我も滅多にしないらしい。改めてとんでもないところに来てしまったと思う大賀美であったが、生徒達を戦わせて自分は後ろに引っ込んでいるのは宜しくない。彼は、自分は曲がりなりにも先生になった訳だし、いくら傷をつかないといっても生徒を戦わせるのは良いことではないだろうと思考する。そして、肩をぐるりと回すと、暴れている生徒たちに声をかけた。

 

「おおい! 元気がいいなあお前ら!」

 

 いきなり大声を上げた彼にユウカ達はギョッとした。先ほど説明した際、彼はキヴォトスの外から来たようで、こちらの常識を全く知っていなかった。自分たちの頑丈さは説明したが、彼は銃弾1発が致命傷になるのだ。どうして自らの位置を晒すんだとユウカは思い、慌ててカバーに入ろうとするが、ふと目を向けるともうそこに彼の姿は無かった。

 

 ──疾走、不良生徒達はキヴォトスでは見たことがない大人に対して動揺している。だが、それは戦場においてあまりに致命的な隙だった。先生は鈍重そうな見た目に反して、恐ろしいほどのスピードで不良生徒達の懐にもぐり込み、不良生徒達が咄嗟に構えようとした銃を丸太のような脚で蹴り上げ、破壊する。振り上げた脚を即座に戻すと、己に向いている銃口に、杭のような鋭ささえ感じられる拳を突き出す。三人ほどの武器を破壊したところで、ようやく不良達が動き出すが、対応が余りにも遅すぎた。目の前から消えるような速度で動いた先生を認識できるものはおらず、数多くいた不良達は瞬く間に無力化されることとなったのである。

 

 ユウカ達が慌てて駆けつけた時には、不良生徒達の武器は一人残らず使い物にならなくされており、当人達も何が起こったのか分からず呆然としていた。彼女達が不良生徒に銃を向け、投降を促すとようやく現実を把握したらしい。不良達は慌てて手を挙げ降参する。にわかには信じられないほどのスピードであった。

 先生は、あれだけの動きを行ったというのに息さえ切らしておらず、彼にとっては準備運動にも満たないのだと否応にも感じさせられる動きであった。得意そうな顔でユウカ達に笑いかける先生だったが、彼を待っていたのはユウカからの叱責だった。

 

「先生、さっきの説明を聞いてましたか!? キヴォトス外から来た貴方は銃弾1発すら致命傷になるのになんで突っ込んで行ったんですか!」

「いや、アレぐらいならなんとでもなると思ってよぉ……」

「そういうことじゃありません! 先生が前線に出るのもおかしいですしなんでわざわざ武器だけを壊すなんて手間をかけたんですか! 私たちは撃たれても大丈夫だって言ったでしょう!」

 

 先生が前線に出て、尚且つ無傷で不良達を無力化するという離れ技を見たユウカは、混乱していたが思わず先生に対して叱ってしまった。正義実現委員会のハスミも後に続く。

 

「本当に何をやっているんですか先生は……今日会ったばかりのメンバーですが、あの程度の敵なら数が多くてもどうにでもなった筈です。まるでツルギの様な特攻はやめてください」

「ツルギさんの様とは言い得て妙ですね。まあ、ツルギさんは被弾を恐れずに突っ込むので先生が今やったのとは微妙に異なると思いますが」

 

 スズミも後を引き継いで先生を叱る輪の中に入る。自警団であるスズミもまた多くの不良と戦った経験があり、その危険性は身にしみている。とんでもない人物であるとスズミは内心で先生の評価を書き換えた。

 

 チナツにも小言を言われ、すっかり反省している先生だが、追撃の手は止まらない。

 

「さっきも言いましたけどどうして武器を破壊するだけで辞めたんですか! いや、そもそも前線に突っ込むことがおかしいんですけど!」

「いやあ、俺ぁは今、先生な訳だろ? 先生が生徒に手を出すわけにもいかんだろうし……」

「だったら前線に出ないでください!! 先生は後ろで指揮でもしてくれれば良いんです!」

「いや、それだけは出来ねえな」

 

 不意に顔を険しくする先生に思わずユウカの声が止まった。彼の瞳の中には、少しの苦悩と悲しみが見え、それと同時にどんな言葉を用いても説得は出来ないであろう意志の強さも垣間見えた。その瞳を見たユウカは、それ以上の言及をすることが出来ずに言葉を失う。先生は一瞬前までに見せた感情を誤魔化すように、パンと手を叩いて明るく宣言した。

 

「よし、先に進もうぜ! サクッとサンクトゥムタワーとやらを取り返しちまおう!」

 

 近所に歩いていく様な気楽さで歩き出した彼は、皆の先を歩いていく。先に立って導くことこそが自分の役目だとでも言う様に。

 ユウカ達はそれを見て、互いに目配せすると彼を追う。学校が違う彼女らは、今日初めて会ったが、皆共通する想いを抱いた。すなわち、彼から目を離してはいけない、いざという時は自分たちが盾になって先生を守らないとという想いをだ。圧倒的な強さを持つ先生だが、銃弾1発で彼は死ぬかもしれない。危なっかしくて目を離せない先生と生徒達の物語はここから始まるのであった。

 

「ワハハハハ! 本当に戦車がいるじゃねえか! すげえなキヴォトスはよぉ!」

 

 そして楽しそうに戦車を転がす彼を見てこう思い直すのであった。この人を守る必要があるのかと。

 

 

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