弾丸1発で死ぬ先生 作:戦える先生ものが読みたかった
ヒナ達と別れ、先生はイロハとの約束通り万魔殿へと向かう。ヒナと一緒にいるところを見られたおかげか、絡まれる事は少なく、無事イロハに指定された部室へと着く。部屋にノックして入ると、先ほどあったイロハと天真爛漫な笑顔が眩しい金髪の少女、そして銀髪で切れ長の瞳をした少女が待っていた。
「初めましてだな。俺は大賀美、シャーレの先生をやらせてもらう事になった。イロハも先ほどぶりだな」
「はい、無事に辿り着けた様で何よりです。イブキ、先生に挨拶しましょう」
「はーい! 先生、イブキはイブキっていうの! これからよろしくね!」
金髪の少女からの元気いっぱいの挨拶に、先生の顔が綻ぶ。イブキの輝くような笑顔は、彼女が皆から愛されていることが透けて見えるような眩しさだった。先生はイブキと挨拶を交わし、握手をする。先生の身長の大きさや、ムキムキな肉体に興味を持ったようでペタペタ触っているイブキを見て、イロハは微笑んだ。
「さて、挨拶も終わりましたし以上ですね。先生、本日は御足労頂きありがとうございまし……」
「キキキッ! イロハ、私の紹介が済んでいない様だが?」
無理やり挨拶を終わらせ、先生を帰らせようとしたイロハだが、銀髪の少女からの言葉に渋面を浮かべる。いつの間にか椅子に座っていたのだろう。足を組みながらふんぞり返る彼女をイロハは渋々紹介する。
「えー、この人は万魔殿の議長、羽沼マコト先輩です」
「キキッ! 万魔殿のリーダー、羽沼マコトだ。お見知り置きを、先生?」
威風堂々と銀髪の少女、マコトは挨拶をする。その見た目は深謀遠慮と呼ぶに相応しく、底知れない雰囲気を醸し出している。自由と混沌が支配するゲヘナには似つかわしくない知的な姿だと言えるだろう。一つの欠点を除いてだが。
(これで中身がアホじゃなかったらなあ……)
イロハはマコトの姿を見ながら思う。どうしてこの見た目で色んなところが抜けているのか。今までいくつの失敗を犯してきただろう。たまに頭が切れる時もあるが、大体はアホな事ばかりだ。先生はどういった印象を抱くのだろうと、横目で見つつ、イロハはマコトについて思うのであった。
「挨拶ありがとう。改めて、俺は大賀美だ。マコトにいくつか聞きたいことがあるんだが、いいか?」
「勿論だ、先生。連邦捜査部シャーレの先生からの質問だ。嘘偽りなく答えると約束しよう」
マコトのあからさまに嘘をついている回答を聞くが、先生はいつも通りの様子で尋ねる。先ほど風紀委員会に寄り、仕事の様子が非常に大変そうだったので万魔殿の方で何かしらの対策をして貰えないかという内容だ。質問を聞き、マコトは悩ましげな様子を見せ、答える。
「風紀委員会の業務量か……私も常々気にはなっていた。先生も今日見て分かったかも知れないが、我がゲヘナ校では書類仕事をこなせる生徒は貴重なのだ。その皺寄せが風紀委員会に行ってしまってるのは申し訳なく思っている。万魔殿としても、これからはより効率化に努めていきたい所存だ」
嘘だ。全くそんな事はない。万魔殿で書類仕事はそれなりにあるが、マコトは本来自分でやらねばならない仕事を万魔殿に押し付けている始末だ。ごく稀にイブキから褒められる為に手をつけるような事はあるが、途中までやって飽きることがほとんどであった。息を吐くように嘘を吐くマコトを先生はじっと見つめるが、先生の目線を受けても、マコトの顔色は全く変わらない。数瞬見つめ合うが、先生はそこまで追求は出来ないと判断したのか次の質問に移った。
「そうか、いやあ俺も書類仕事は苦手だからな。皆が苦労しないような仕組みを作ってくれると期待してるぜ、マコト。じゃあ次だ。先日、トリニティへ一部のゲヘナ生が襲撃したっつう事件があったと思うが、その生徒達は今何してんだ?」
「キキッ? そんな事件があったのか? イロハ、何か知っているか」
「はあ……えー、一応捕まった人たちは風紀委員会に引き渡しを受けて、留置場に入ってるはずです。もう一週間ぐらいは中にいると思いますよ」
「キキキッ、そうかご苦労だったなイロハ。……というわけです、先生」
イロハから聞いた返答をそのまま返し、先生に言うマコトであったが、先生はそれを聞いて考え込んでいる。数瞬後、考え終わったのか、先生はマコトとイロハに礼を言い、後で留置場の場所を教えて欲しいと頼むのであった。
「色々教えてくれてありがとうな。それで、万魔殿の皆は何か困ってる事などはねえか? それが聞きたくて今日は来たんだ」
「キキキッ! 困ってる事は……今のところは無いな! このマコト様の圧倒的な手腕の賜物と言えよう!」
「そうか、そりゃあすげえな! まあ、今後なんか困ったことがあれば俺に言ってくれ。出来る限り力になるからよ」
調子に乗り始めたのか、普段の様子を見せ始めたマコトだったが、先生は気にせず、何もないなら良いんだと一緒になって笑い始めた。ひとしきり笑い終わった後、先生はそろそろ出るとマコトに告げた。マコトも気分を良くしたのか、イロハに見送りに出るように伝え、二人は万魔殿の部室を後にした。
部室から出て少し離れた場所で、先生はイロハにマコトはいつもああなのかと問いかける。イロハも質問される事は予想していたのだろう。ため息混じりに回答を行なった。
「マコト先輩は……今日はだいぶ猫をかぶっていましたね。いつもだともっとアホなので今日は少し驚いてます」
「やっぱりそうか……なあ、イロハ。イロハからもう少しマコトに風紀委員会の仕事を減らすように伝えてもらう事はできねえか? 俺は見てねえがだいぶ横暴な感じなんだろ?」
「私は公務員のようなものですし、マコト先輩は曲がりなりにも正規の手続きを踏んで万魔殿の議長になっています。上司に逆らうのはちょっと……」
「あー、そうか。イロハも大変だな。出来るなら、なるべく気をかけてやってくれ」
イロハは立ち止まると、先生をじっと見る。どうしてシャーレの先生という強権を使わないのかと疑問に思ったからだ。各学校の自治に関しては一筋縄ではいかないだろうが、それでも目に余るようなら無理にでも変えることが出来るかもしれない。もしくは風紀委員会に付くといえば、勝ち馬にのりたがる生徒たちも多いので、正規の手続きでも変更が出来るのではないだろうか。そんな疑問を読み取ったのか、先生はイロハに答えた。
「俺は先生だから、生徒が困っているなら手を貸してやりてえ。今日は風紀委員会から色々聞いたが、風紀委員会側からもたまに反撃とかはしてるんだろ? マコトも色々厄介そうだが、やりたくて議長をやってるわけだから、俺から無理やり下ろすような事は極力避けてえんだ。まあ、どうしようもなく拗れそうなら、責任持って俺がケジメつけるつもりだけどな。だから、なるべくで良い、イロハも気遣ってもらえると助かる」
サボりに影響しない範囲でなと、先生はイロハに笑いかける。全身が筋肉の塊だが、色々と考えている様だ。正直マコトに逆らってまで風紀委員達を手助けするつもりは無かったが、気が向いたらそれとなく誘導でもするかとイロハは考え直すのであった。
「それでは先生、ここを真っ直ぐ行くと留置場です。……本当に行くんですか?」
「おう、案内ありがとな! 先日、あいつらを無力化したのは俺なんだ。償ったら会いに来いと言ってたからちょうど良くてな。ちょっとシャーレに所属しないかと誘おうかと思っ……」
ドン、と腹の底に響く様な爆発音。目指そうとしていた留置場からは大量の煙が吹き上がる。何があったのかと警戒体制に入るが、煙の向こうで何名かの生徒がガラスを割って出ていくのが見えた。おそらくは爆弾を使い留置場から脱獄をしたのだろう。煙で姿は見えにくかったが、銀髪の生徒が先頭に立ち、先導している様だった。隣のイロハを見ると、呆れた様にため息を吐いている。
「おそらくは美食研究会が脱獄をしたんだと思います。美食のためなら店を爆破することも厭わない連中でして」
「なんだそりゃぁ……俺も追った方がいいか?」
「いえ、日常茶飯事なのですぐに風紀委員会が追うと思います。先生は、煙が収まるまでは中に入らないでください。それでは」
爆破まで起こっているが、イロハは部室に戻るらしい。本当に日常的な光景なのだろう。先生は戸惑いつつもイロハに改めて礼を言い、煙が収まるまで廊下で待っていると、ひょこりと壁の穴から顔を出す生徒が見えた。便乗して脱獄するつもりなのだろうか。眺めているとその生徒と目が合う。先生がいると思っていなかったのだろう、驚いた様子で話しかけてきた。
「先生!? どうしてここに?!」
「おう? ……ああ! この前の生徒じゃねえか。ちょうどよかった。お前らに会いたくてよ」
顔を出したのは、先日、トリニティを襲撃したリーダー格の少女だった。脱獄をするつもりなのかと聞いたが、あの時交わした約束通り、残り一週間は大人しく中にいるつもりだったらしい。美食研究会が爆破を起こしたので、風紀委員を呼びに行った方が良いかと顔を出していた様だ。
煙が収まった中に入ると、あの時襲撃に来ていた生徒のおおよそ六割が残っていた。全員が約束を守ったわけではなかったが、それでも、自分の言葉を真剣に考えてくれていた生徒がこれほど居る事を、先生は嬉しく思うのであった。
爆破音を聞いて慌てて駆けつけた風紀委員に、おそらく美食研究会が爆破して逃げていったことを伝えると、うんざりした様に連絡を始めた。おそらくヒナ達に報告するのだろう。先生は、報告をしている生徒に電話を代わってもらい、少しだけの間、留置場にいた生徒達と話させて欲しいと許可をもらうのだった。
「単刀直入に言うぜ。シャーレにバイトをしに来ねえか? この前生活が苦しいっての聞いたからな。相場よりは多めに給料も出すつもりだし、気に入ったなら正式に所属してもらっても良い。悪い話じゃねえと思うんだが、どうだ?」
先生の話を聞き、困惑した様にお互いの顔を見合わせる生徒達だったが、代表して先ほどのリーダー格の少女が質問する。
「どうして……私たちにそんな話をするんですか? シャーレってのは何やらすごいって聞きました。ゲヘナの落ちこぼれである私たちなんかよりもっと相応しい人がいるんじゃ……」
「そんな事はねえよ、俺なんかが顧問をやってるぐらいなんだ。大したところじゃない。それに、これからは手が足らなくなるだろうから、正直猫の手でも借りてえとこなんだ。本当はもっと直接支援してえところなんだが、流石にそれは難しくてよ。手伝ってもらった対価としてなら、多少は支援してやれるらしい」
だから、どうだと、先生はあの時と同じく、真っ直ぐに見つめて彼女たちに言った。彼女達はしばし動揺していたが、先生の真っ直ぐな目を見て決めたらしい。留置場から正式に出られたら、まずはバイトとして参加すると先生に告げる。先生はそれを聞くと嬉しそうに笑い、彼女達の協力にお礼を言うのであった。
「マコト先輩、どうして先生に懸賞金をかけたりしたんですか?」
万魔殿に戻ったイロハは、マコトの目的について尋ねる。それが無ければもう少し楽に案内出来たからだろう。ジト目をするイロハにマコトは答えた。
「キキキッ! そんなことは決まっている……! 先生が襲われている時にイロハが助ければ、吊り橋効果で先生も意識せざるを得ないからだ! その為には、先生にピンチになってもらう必要があったからな!」
「でも、先生はキヴォトスの外の人なんですよ。銃に当たって怪我でもしたらどうするつもりだったんですか?」
「なっ、何ィィ!? キヴォトスの外から来た人は弾丸程度で怪我をするのか?!」
やはりというべきか、そこまで思い浮かんでなかった様子のマコトを、イロハは呆れたような目で見る。常に悪巧みをしている様なマコトだが、致命的なところで抜けているのだ。慌てた様子のマコトを冷ややかな目で見るイロハだが、先生の事を思い浮かべる。生徒のやりたいことの手助けをすると言っていた先生は、自分がやりたいこと、つまりサボりも手伝ってくれるだろう。今後も先生の都合が合えば、シャーレにサボりに行こうとイロハは決心するのであった。
ゲヘナへの訪問が終わり、百鬼夜行連合学院、レッドウィンター連邦学園などを回る先生の元、一通の手紙が届く。アビドス高等学校からの手紙は、助けを求める内容だった。生徒の力となるべく、先生の筋肉は唸りを上げるのであった。
次回からアビドスへ行きます。
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