弾丸1発で死ぬ先生 作:戦える先生ものが読みたかった
アビドス高等学校の二年生、砂狼シロコは愛用の自転車と共に、周辺の見回りを行なっていた。アビドス高等学校、かつてはキヴォトス有数のマンモス校であったが、数十年前から砂漠化が進行した事により、現在は総員五名しかいない学校となってしまっている。また、砂漠化の進行の際に、対策を行なう名目で多額の借金をしたが、効果はまるで上がらず、今では借金そのものではなく、毎月の莫大な利子をなんとか返すことで精一杯だ。
さらに追い討ちをかけるように、ここ最近カタカタヘルメット団を名乗る武装集団に標的にされ、頻繁な襲撃を受けている。シロコ達は、このままでは借金の返済より前にアビドスが廃校になると危惧し、近頃就任した連邦捜査部の“先生”に助けを求めたのだった。
見回りをするシロコは、連邦捜査部に助けを求める際の一悶着を思い出す。一年の奥空アヤネがシャーレに助けを求める事を提案したが、同じく一年の黒見セリカはそれを拒否。今まで連邦生徒会に助けを求めた事はあるが、一度たりとも助けを寄越したことが無いので、信用ならないという理由だった。最終的には他のメンバーからの説得を受け、渋々承諾したが納得まではしていないだろう。仮に本当に先生が来てくれたとしても揉める事は必須なので、上手い事宥める必要があると考えながら自転車のペダルを漕ぐのであった。
今日はこちらの方にはヘルメット団は来ていないらしい。見回りを終えたシロコが、学校へ帰還しようとすると一陣の風が吹く。目を細めながら風に舞った砂を見ると、一人の人間がヨロヨロと歩いてくるのが見えた。砂漠で遭難でもしたのだろうかと思い、近くへ行くと、その人間の異様さが徐々に露わになる。
──大きい。シロコが初めに思ったのはその事だった。身長は二メートルを超え、その全身は異様なまでに発達した筋肉で包まれている。指や足、首に至るまで太い男であった。キヴォトスでは見たことがない大人の男。おそらくあれは噂に聞く先生だろうと近づくと、彼もこちらに気が付いたらしい。その歩みを止めずにこちらへ向かい、呟くように言った。
「み…………水…………」
これが、砂狼シロコと先生との初めての出会いだった。
「いやー、すまねえ! 舐めているつもりは無かったんだが、思ったよりアビドスまでが遠くてな……危うく着く前に死ぬところだったぜ。俺は大賀美、シャーレの先生だ。おま、いや君はアビドスの生徒で良かったか?」
「ん……私は砂狼シロコ。アビドス高等学校の二年。先生は手紙を見て?」
「ああ、何でも変な連中に襲われてる様じゃねえか。アビドスからの救援依頼は、シャーレとして正式に受理した。弾薬や物資などは手配してたから後日届くはずだ。今日は先に俺が行ってみてどういう状況か確認しようと思ってな」
質問に回答する先生を見て、シロコのマフラーで隠された口元は緩やかな弧を描いた。手紙を出してからすぐに駆けつけてくれた事もそうだが、内容も信頼が置けそうなものだったからだ。何よりこの先生は
「ん……ここから結構あるけど、本当に走るの、先生?」
「ああ、シロコがたっぷり水を分けてくれたからな。それに最近身体をあんまり動かしてねえから丁度いい。あんまり飛ばさないでくれると助かるぜ」
水を飲み、少々の休憩を挟んだ後、アビドスへ向かう事となった二人だが、シロコが自転車を押して歩いていくと言うと、先生は自転車と並走して走っていくと答えた。シロコにとって近くではあるが、走っていくとなると中々に遠い距離だ。ましてや、先生はキヴォトス外の人間だ。自分たちとは色々と異なる。そう思って再度尋ねるが、鍛えているので大丈夫だとの回答を貰う。
そこまで言うのなら大丈夫だろうと自転車を漕ぎ始めたシロコだったが、先生が事も無げに着いてくるのを見て驚いた。最初は様子を見るためにかなり抑えめに漕いでいたが、先生が余裕そうだったのを見て、ペースを上げていく。だが、かなりの速度に達しても先生は余裕そうだった。おそらく全力を出せば振り切る事は容易だろうが、今回の目的は案内だ。二人は街の中を爆走をしながら、アビドスを目指すのであった。
数十分走り、無事にアビドスに着いた先生は、シロコに他の生徒達を案内してもらうために対策委員会の教室へと向かった。アビドス対策委員会とは、アビドスを廃校にしない為に活動している団体らしく、五名の生徒で構成されている。委員長の小鳥遊ホシノ、シロコの他のもう一人の二年生、十六夜ノノミ、今回手紙を出した奥空アヤネと黒見セリカが委員会のメンバーだ。今日は全員が揃っていると聞くので、ちょうどいい機会だと先生は部室へ向かった。シロコが先導し、ドアを開ける。そうして先生は彼女達との初対面を果たすのだった。
「シロコ先輩! お帰りなさ……うわ! 誰よこのおっさん!」
「おっきい人ですね〜……シロコちゃんのお知り合いですか?」
「シロコ先輩にそんな人が……? ああ! もしかしてこの前手紙を出したシャーレの先生じゃないですか!?」
教室に入ると元気が良い三人から言葉を浴びせられた。彼女らからすれば見知らぬ不審者だから当然だろう。先生はいつものように挨拶を交わした。
「初めましてだな、俺は大賀美。アヤネからの手紙を見てここへ来た。これからよろしく頼むぜ」
挨拶を行なうと、片側の髪をお団子にした明るい生徒と赤いフレームのメガネをかけた真面目そうな生徒が歓声を上げる。彼女達は自己紹介を行ない、先生の訪問を歓迎した。改めて挨拶を交わしていると、黒髪の女生徒からの視線を感じる。どうもあまり良い感情を持たれていない様だが、それはこれからの行いで理解してもらうしかない。先生は挨拶をして、皆の名前を記憶するのだった。
挨拶が終わり、一息着いた一行だが、先生が一人足りない事に気がつく。委員長の小鳥遊ホシノの所在を尋ねると、隣の部屋で寝ているらしい。起こしてくるかとのノノミの声に、起きたら挨拶で良いと先生は回答した。それよりも聞きたい事があるとの先生の質問に彼女たちは気を引き締める。
「まずは……シャワーを貸してもらえねえか?」
シロコにつきっきりで走ってきたせいだろう。先生の全身は汗に濡れ、着ている服も湿っている状況だった。着替えは何日分か持ってきてはいるので、先にシャワーを浴びて着替えた方が良いだろうと判断した先生は、彼女たちにシャワー室を聞くのだった。真面目な話になるかと思っていた彼女達は、梯子を外された様になりつつもシャワー室へと案内しようとするのであった。
──爆発音。校舎の入り口付近からの音に、全員が警戒体制に入る。窓から見ると、ヘルメットを被った生徒達が襲撃に来ている様だ。あれが噂のカタカタヘルメット団だろうと当たりを付けた先生は、シロコに尋ねる。
「シロコ、あれがお前達を襲ってきているカタカタヘルメット団って奴らで間違いねえか?」
「そう、今日は先生と会った方じゃないところから来てるみたい」
「よし、んじゃあサクッとやってくるか。お前らはちょっと待っててくれ」
「ハァ!? 何言ってるのよ! 私たちでも手を焼く敵にキヴォトスの外から来た人間程度が勝てるわけ……」
セリカが言葉を止めたのは、先生が窓からヒョイと飛び出したからだ。誰かが止める間もなく、当たり前の様に窓から飛び出していった先生に思わず絶句してしまう。それは他の生徒達も同様だった様で、ノノミやアヤネも目を丸くしている。数瞬呆気に取られたが、先生一人に任せられないと皆も武器を手に取り、校門へ向かうのだった。
「奴らは弾切れが近い! 今日でここは攻め落とすぞ!」
ヘルメット団の団員達は、アビドスの限界が近い事を知っていた為、一個小隊ほどの人数で正門前に集まっている。対策委員会は少数だが強敵だ。油断しない様にと気を引き締め、爆発物で門を破壊する。校舎に雪崩れ込もうとするが、窓から飛び出し、凄まじい勢いでこちらへ向かう人影を目の当たりにして、警戒。委員長の小鳥遊ホシノかと思うが、近づくにつれて違う事が分かった。あまりにもデカすぎるのだ。だが、誰であろうとあの勢いで近づいてくる様なら敵だろう。迷わず発砲しようとした瞬間、目の前から巨体が消える。そこからはヘルメット団にとっての悪夢が始まった。
ヘルメットを被った集団へ向かう先生だが、ある程度の距離まで近づいた瞬間、ギアを上げる。今までの速度とは隔絶した速度でヘルメット団の側面に回り込んだ先生は、その勢いのまま蹂躙を開始した。ヘルメット団の手に持っている銃火器を殴り、蹴り飛ばす。尋常ではない筋肉からは放たれる拳や蹴りは、砲弾の一撃と比べても遜色なく、並大抵の衝撃では壊れないはずの武器を、いとも容易く破壊していく。
練度が高いのか、今まで相手にした不良生徒達よりいち早く体制を立て直すが、それでも遅きに過ぎた。懐まで潜り込まれた状態では発砲しづらく、中には味方に当たることを承知で撃ってきた者もいたが、銃口と引き金を握る指の動きさえ把握していた先生には当たるはずもない。一瞬で当たらない位置に移動し、武器の破壊を続ける先生を見て、ヘルメット団は選択を迫られる。抵抗するか、引くか。だが、迷いは動きにも現れる。
一人、また一人と武器を破壊されていく光景はこの世のものとは思えないほどで、中には呆然としてしまう者すらいた。半数ほどの武器を破壊された事でようやく撤退を決意。泡を食った様に逃げていく彼女達に、先生は追撃をしなかった。そして、対策委員会が現場に到着する頃には、ヘルメット団は一人残らず姿を消すこととなったのである。
彼方を睨む先生の背中は、大きい。激しい運動をしたせいか、服は汗で重くなっており、岩の様な筋肉に張り付いている。その姿はまるで仁王の様で、敵対するものへ罰を与える姿を幻視させた。思わず言葉を失った彼女達の後ろから、のんびりした口調で先生へと話しかける声がする。
「うへ〜、すごいね。弾さえあれば、おじさん達でも倒せたと思うけど、一瞬であの人数を制圧するなんてね。これが、先生の実力ってヤツなのかな?」
先生はヘルメット団が戻ってこないと確信したのか、背後からの声に振り返る。そこにはピンク色の髪をしたオッドアイの少女が、欠伸をしながら歩いてきた。盾とショットガンを持っており、その足の運びは淀みない。おそらくは相当の強者だろうと判断した先生だが、彼女こそが対策委員会の委員長、小鳥遊ホシノだろうと当たりをつける。爆発音で目を覚ましたのだろうか。額の汗を拭きつつ、先生は彼女に挨拶をする。
「おう、俺はこれぐらいしか出来ねえからな。お前が、委員長の小鳥遊ホシノで合ってるか?」
「そうだよ〜先生、おじさんはホシノ。これからよろしくね」
自己紹介を終え、手を伸ばしてくるホシノ。眠たげな瞳は、その感情を隠す様だった。だが、どんな事情があろうと関係ない。自分は先生で、彼女達は生徒だ。必ず助けになろうという意志を瞳に乗せ、先生はホシノと握手を交わす。手のひらの大きさが遥かに違う事を確かめる様に、ホシノは先生の手を握った。そして、改めて先生へと言葉をかけるのであった。
「アビドスへようこそ。これからよろしくね、先生?」
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