弾丸1発で死ぬ先生 作:戦える先生ものが読みたかった
ホシノとの挨拶を終えた先生は、皆の顔を見回す。先ほどまでの顔とは違い、穏やかな顔つきだった。ヘルメット団を追い払った時の顔を見て、少し緊張していた一行だが、これなら頼りにしても良いのではないかとの思いが芽生え始めていた。
「多分アイツらは今日は来ねえだろ。さっき話してた様にシャワー借りていいか?」
「ん、案内する。……一緒に浴びる?」
「シロコ先輩!?」
会ったばかりの先生に対し、とんでもない事を言うシロコに対しアヤネは驚愕した。先生へはかなり心を許している態度のシロコだが、本来は警戒心が強く、アビドス生以外への態度はそっけない。どうしてそこまで心を許したのか疑問に思う一同だが、シロコからの回答は安心する、という要領を得ないものだった。
一同が驚愕している中、先生はシロコが大人になったらなと笑いながら返す。大人の余裕を見せた態度だったが、セリカなどは大人を信用していない為、悪印象を抱かせるだけであった。シロコもそこまで本気で言ったわけでは無かったのだろう。食い下がる事なく、先生をシャワー室へ案内するのであった。
「さて、ちょっとアクシデントも合ったが、実際に襲ってきた奴らを見れたのは収穫だった。皆はアイツらに襲われる心当たりはあるのか?」
「あるわけないじゃない! アイツらはある日急にアビドスに襲ってきたのよ! 撃退しても撃退しても諦める事なく襲ってきて……! 許せないんだから!」
先生からの質問に、怒りに満ちた回答を行うセリカ。相当腹に据えかねていたらしい。先生の事は信用していないが、ヘルメット団への恨みはそれ以上だった。そのまま今までの恨みつらみを論うが、途中でホシノがストップをかける。ヘルメット団以外に、アビドスが抱えている問題を先生に聞かせる為だ。セリカが伝えなくても良いと反対するが、そのままホシノは説明を行なう。
このアビドス高等学校には、多額の借金がある事、その毎月の利子を払うので精一杯な事、もし借金の支払いが滞れば、正式にアビドス高等学校は閉鎖されてしまう事を先生は聞く。ヘルメット団を壊滅させ、アビドスへの襲撃を辞めさせる事はおそらく出来るだろうと考えていたが、借金についてなどは苦手な分野である為、苦い顔をする。
「うへ〜、どうよ先生、中々に厳しいでしょ?」
「ああ……借金か……しかも廃校ってなると……おう」
「やっぱり……難しいですかね〜……」
意気消沈している姿を見て、先生は思う。彼女達は本当にこの学校が好きなのだと。他の生徒達は、借金を返済出来るとは思わず、学区外へ転校してしまったらしい。だが、彼女達は望みが薄い事を分かっているが、それでも前に進もうとしている。そんな彼女達の頑張りが報われず、このままで良いはずが無い。困っている生徒を救えずにして何が先生か。先生は気を引き締め直し、答える。
「俺はこういうことに関しては詳しくねえ、だが、今まで何校か回ってきて、シャーレに協力してくれる奴や、力になってくれそうな奴は何人かいる。そいつらに何かいい策は無いか聞いてみるつもりだ。俺一人で出来る事なんてたかが知れてるからな。皆で考えれば、きっと良い案が浮かぶはずだ」
それを聞いた対策委員会の少女たちは、にわかに信じられないという顔をする。今まで、味方をしてくれる大人なんておらず、心のどこかではどうせ今回もダメだろうと諦観の念を抱いていたからだ。だが、このシャーレの先生は違うかもしれない。自分達の話を真剣に聞き、手助けをすると言ってくれる。それは少女達にとっては未知に等しい行為であり、今までとは何かが異なる予感でもあった。
「それは、大人だから?」
ホシノからの問いに、先生は答える。先日、ミレニアムでユウカに答えた様に。大人だからでもあるが、俺がお前達を守りたいだけでもあると。その回答を聞いたホシノは、眠たげな瞳の奥に、揺れる感情を隠した。一瞬目線を伏せたが、次に顔を上げた時にはいつもの様子に戻っているのであった。
「うへ〜、真顔で中々クサいこと言うねえ〜 おじさんには眩しすぎるかも」
「真のおじさんってのは案外こんなもんだぜ。所詮、俺は大人になり切れてねえ半端者だ。ホシノは、こんなおじさんにはなるなよ」
「先生みたいな事は言えないから大丈夫だよ〜」
周りの皆も、ホシノの回答を聞いて笑う。何はともあれ、関係を結ぶに当たっては一歩前進出来たようだ。和やかな雰囲気の中、先生は決意を新たにするのであった。
「とりあえず、明日の補給品が来るまではここに泊まらせてもらうぜ。結構な人数の武器を破壊したから今日は来ねえと思うが、明日は来てもおかしくねえ。補給品が届いたら、向こうの基地を叩いて各個撃破だ。皆もそれでいいか?」
「なんでアンタが仕切ってるわけ?! ……まあ、それで良いけど」
先生が大人だからだろう。つい噛みついてしまうセリカだが、内容自体は賛成の様だ。他の生徒の顔を見ても、反対の色は見えない。ひとまずの方針を決めたところで一旦会議は終了した。終了後、アヤネに更に詳しくアビドスの現状を教えてもらい、アロナに記録してもらう。アロナの声は他人には聴こえないので、少々不可思議な顔をされたが、そういう仕様があると伝え納得してもらった。これを元に、連邦生徒会のメンバーやユウカに相談してみようと先生は思うのであった。
次の日、カタカタヘルメット団の襲撃は無く、無事に補給品を受け取った一同は、以前から目星をつけていた敵の補給の要を強襲する。昨日の今日で仕掛けてくると思っていなかったらしく、ろくな抵抗も無いまま制圧を完了した。向こうに情報が行き渡る前にこのまま攻め続けた方が良いと判断した一行は、破竹の勢いでヘルメット団の拠点を制圧していくのだった。
ヘルメット団との武器を破壊しながら、先生は辺りを見回す。アビドスのメンバーが、怪我をしないかどうか気を配っていたが、どうやら杞憂だったらしい。アヤネが指揮し、シロコが撹乱。ホシノが防ぎ、ノノミが一掃。最後は撃ち漏らしを堅実に処理をするセリカと、役割分担がはっきりしている。それぞれの動きも良く、今まで会った多くの生徒の中でも、かなり上の方だろう。弾薬と補給品の問題が解消された彼女達は、先生という強力な味方を手にしたこともあり、ヘルメット団の抵抗をものともせずに叩き潰していくのだった。
「それじゃあ今日はこんなとこで、解散〜」
数箇所の拠点を潰した彼女達は、学校へと引き上げ、本日は解散することとした。このまま敵の本拠地まで攻め込もうかとの案も出たが、敵の規模が分からないこと、怪我こそ無いが疲弊があることを理由に取り止めることにした。相手も一日で複数箇所の拠点が潰された事は把握しただろう。もしかすると、割に合わないと判断して撤退する可能性も考えられたので、情報を収集しつつ、数日間は様子を見る事とした。一旦シャーレに帰ろうかと考える先生へ、ノノミ達がセリカがバイトするラーメン屋へと誘う。セリカは来なくていいわよ! と繰り返し言っていたが、結局拒み切れず、皆でラーメンを食べに行くことになった。
「うへ〜……先生それ全部食べるの……?」
「おう! 今日は動いて腹減ったからな! お前らも俺の奢りだから遠慮すんなよ!」
「遠慮は……してないですけど〜……」
「ん……先生は凄い」
「凄いで済ませていいのかな……?」
先生の目の前には、見ているだけでも胸焼けする量のラーメン、炒飯、餃子があった。店に着くなり、とんでもない量の注文を始めた先生に、冷やかしかとセリカは激怒したが、全部食べ切るとの先生の言葉を店長が信じ、注文通りラーメンを作る。先生はラーメンがテーブルに運ばれてくるなり、凄まじい勢いで食べ始め、瞬く間に器を空にした。曰く、冷めるのがもったいないからだそうだ。バイトのセリカを除く四人は、見ているだけでもお腹がいっぱいになりそうだと思い、ラーメンに口をつけるのであった。
「なんだ? お前らそんなんでいいのか? 遠慮しなくていいんだぞ?」
「いや、アンタの食べる量がおかしいだけでしょ……」
ツッコミを入れるセリカだが、内面は複雑だ。今までの経験上、大人なんて信用できないと思っていたセリカにとって、先生の存在は何もかもが分からなかった。きちんと話を聞いてくれることもそうだが、こうして子供の様にとぼけた一面も見せたり、キヴォトス外の人間なのに、接近戦では自分達よりも遥かに強かったりと、今までの常識から遥かに外れた存在だった。
こうしてつい憎まれ口を叩いてしまうが、本当は分かっている。様々な面で嗅覚が鋭いシロコが信用している事もそうだし、アヤネやノノミは一晩で驚くほど肩の力が抜けている。ホシノは普段通りと変わらないが、どことなく雰囲気が違う。皆、この先生の事を信用し始めているのだ。信用できる相手ならこういった口調は失礼だろうと思うのだが、どうしても一歩が踏み出せない。視線を下に向け、つい思考に耽っていると、ポンと頭を撫でられる。慌てて前を見ると、先生が優しい顔をして頭を撫でていた。そして、穏やかな口調で声をかける。
「大丈夫だ。少しずつでいい。セリカが思うままで良いんだ」
まるで、心の中を見透かされているかの様な言葉に動揺する。この人はどこまで分かっているのだろう。大人を信用できなくて、でも本当は誰かに頼りたくて──普段のセリカなら激昂して、頭を撫でるのを辞めさせるが、この時だけは自分の心に従った。少しずつ、少しずつ、変わっていけば良い。自分を肯定された様に感じたセリカは、数瞬だけ頭の上を撫でる手を受け入れるのだった。
「ん! 先生は私も撫でるべき!」
「わあ〜☆セリカちゃんが羨ましいです〜」
「セリカちゃんのあんな顔、初めて見たかも……」
「うへ〜 タラシだねぇ先生は」
四人の声が耳に飛び込んできて、慌ててセリカは飛び退いた。とっくにラーメンを食べ終わってたらしい。ジト目で見てくるシロコや羨ましがるノノミなどの顔を見て、セリカは自分の顔が真っ赤になっていくのが分かった。セリカは今度こそ本心で、食べ終わったら店から出ていけと叫ぶのであった。
五人と別れ、先生はシャーレに戻る。早速、連邦生徒会のリンやアユムなどに相談したい事があるので、近日中に時間を作って欲しいと連絡、スケジュールを組み始める。借金については、会計をしているユウカなどが詳しいかもしれない。モモトークで連絡し、次にシャーレの当番になる時に話がしたい旨を伝えると、椅子に座り頭上を見上げる。独り言の様に、アロナに話しかけた。
「アイツらは子供なのに、どうしてここまで苦労しなきゃいけねえんだろうな」
「それは……アロナには分からないです。でも一つだけ分かることがあります。先生は、頑張っているということです!」
アロナからの励ましに、微笑む。そうか、自分は頑張れているのか。ならばもっともっと頑張って、より彼女達の力になろう。夜も更けていく中、先生は仕事を始めるのだった。
「先生!! セリカちゃんが……攫われました!」
明け方、飛び込んできた通話に、先生は顔を険しくさせる。どうやらヘルメット団は、一か八かの攻勢に出たらしい。絶対にセリカを救い出すと誓い、先生は、鍛え上げられた肉体に力を張り巡らせるのであった。