弾丸1発で死ぬ先生   作:戦える先生ものが読みたかった

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正しい指導の仕方

 

「先生! セリカちゃんと……連絡が付かなくて、家にも帰ってない様で……ど、どうすれば……」

「落ち着けアヤネ、俺も今からそっちに向かう。皆を集めておいてくれ。セリカは必ず助ける、いいな」

「は、はい!」

 

 通信を切り、用意を済ませる。一分一秒が惜しい状況だが、セリカの居場所を闇雲に探すのでは間に合わなくなる。この状況を打破しうるのは……

 

「アロナ、セリカの居場所が分かりそうな情報は何かねえか。何でもいい、頼む」

「はい先生、アロナならセリカさんが最後に持っていた端末の情報を取得できると思います。ですが……」

「やってくれ、責任は俺が取る」

 

 アロナの言葉を聞かずに、許可をする。非常事態に迷っている暇はない。セリカが無事でさえいてくれればそれでいい。アロナも先生の覚悟が伝わったのだろう。一瞬でデータベースから情報を抜くのだった。

 

「最後に位置情報が得られたのは……アビドスの郊外付近です!」

「ありがとな、アロナ。おそらく昨日言ってた敵の本拠地だ。そこにセリカはいる。最短で向かう経路を出してくれるか?」

「はい先生! 必ず助け出しましょう!」

 

 アロナからの激励を聞いて、先生は向かう。その目には押し殺された怒りが揺らめいているのだった。

 

 

 人は自分より怒っている人を見ると、冷静になれると言われている。セリカを攫われた対策委員会の四人は、ヘルメット団への怒りに満ちていたが先生に会うと冷水を掛けられたような気分になった。昨日までの、剛気だが人の良さそうな笑みを浮かべる顔はどこにも無く、押し込められた怒りに満ちた顔をしており、まるで今にも噴火しそうな火山を彷彿とさせる姿だった。皆が集まった事を確認した先生は、挨拶もなくそのまま要件に移った。

 

「来る前に確認したが、おそらくセリカはヘルメット団の本拠地にいる。これから殴り込みをかけ、救出するつもりだ。何か言いてえことはあるか?」

「あの……セリカちゃんは、無事でしょうか」

「おそらくは無事だろう。もし仮に殺してたとしたら、こっちと互いに死ぬまでやり合う事になる。向こうもそこまでは望んでねえ筈だ。人質として生かされている可能性は高え」

 

 先生の乱雑な言い方に一瞬凍りつくが、生きている可能性が高いと聞かされ、ほんの少しは安心した様だ。アヤネは泣きそうになっていた顔を引き締め、前を向く。士気が上がったところで、委員長のホシノが先生に尋ねる。

 

「それじゃあ、どうやって救出する? 時間をかければ、セリカちゃんを人質として盾に使って来そうだよね」

「俺が真正面から行って、暴れる。お前らはその間に、セリカを探せ」

「何言ってるんですか?! そんな事したら先生が危険すぎます!」

 

 ノノミの悲鳴の様な声を聞いても、先生の顔色は変わらない。あまりの怒りに目が眩んでいる様だ。そのまま、時間が惜しいと言わんばかりに敵の本拠地に歩き出そうとしたが、先生の目の前にシロコが立ち塞がる。二メートルの長身から、シロコを睨め付ける様に見るが、退く様子はない。そのまま、先生に声をかけた。

 

「今の先生は、ダメ。いつもの様な顔じゃない。私は一緒に笑ってくれる様な先生が良い。だから、落ち着いて」

 

 思わず、足を止める。今の自分はどんな顔をしているだろうか。暴れることだけを考えてた、昔の様な顔だろうか。でも、シロコは言ってくれた。一緒に笑ってくれる様な先生が良いと。ならば、その役に殉じなければ。何故なら、今の自分は──

 

「そうだ、俺は“先生だ” ……悪い、少し頭に血が昇っていた様だな。ただ闇雲に暴れて、セリカを救えなくちゃ意味がねえ。皆、力を貸してくれるか?」

「貸してくれるか? じゃないよ。むしろ、私たちが先生に言わせて欲しい。……先生、セリカちゃんを救うために手伝ってくれますか?」

「──ああ、俺に任せろ!」

 

 

 

 シロコが気づかれない様に慎重にドローンを飛ばし、偵察を行なう。ヘルメット団の本拠地なだけあり、かなりの人数が集っていた。入り口付近に戦力を固め、戦車も用意されている。奥の目立たない位置にいくつかコンテナが置かれているので、おそらくはそのどれかにセリカがいる可能性が高い。

 偵察の結果を聞き、話し合いをした結果、正面からホシノ達が陽動する間に、先生が警備の薄い箇所から侵入。そのまま素早く、セリカを回収する、という作戦に決まった。単独でも敵を撃破可能かつ、すぐには動けないだろうセリカを回収するには、大柄な先生が最適だとの意見に、先生は渋々同意をする。先ほど、自分が正面から行くと言ったのは、頭に血が登っていたこともあるだろうが、戦力が集中して危険だからだ。生徒を危険な目に合わせたくないという思いは、されども彼女達自身に否定された。曰く、キヴォトスの生徒を舐めんなと。知らず知らずに子供扱いしすぎていたことに、先生は深く反省を行ない、前を向く。そして所定の位置に着いた。

 

 

 

 ──強襲。俊敏な速度で入り口付近の見張りを薙ぎ倒したシロコは、移動しながら撃ち合いを開始した。すぐさま大勢の敵が集まってきたが、横合いから殴り付けるようにノノミのガトリング弾が襲いかかる。機動力が無いノノミを狙う弾幕は、ホシノが堅実にガードを行なう。真正面からなら戦車すら薙ぎ倒す弾の威力に、ヘルメット団は慌てて物陰へ避難するが、それをドローンで見ていたアヤネの指示により、シロコが一体一体確実に狩っていく。そのまま追撃を続けようとしたシロコだが、アヤネからの退避命令にすぐさま反応。二秒前までにいた空間に、戦車の弾が着弾、破裂。もうもうと立ち込める砂埃の向こうに、敵の戦車がこちらへ砲塔を向けているのが見えた。狙われている事を確認したシロコは、手土産に二人ほどを戦闘不能にしつつ、離脱。そのまま足を止めずに敵をかき回しに行く。まだまだ、戦闘は終わらない。

 

 コンテナ付近を遠目から窺っていた先生は、騒ぎが大きくなるにつれ、一つのコンテナに人が集まりつつあるのを確認する。セリカを人質にするか話しているのだろう。他のコンテナに人が集まっていない事を確認した先生は、身を隠していた箇所から迅速に躍り出る。そのまま全速力を持って、疾走。こちらに気付いた生徒達の武器を腕の一振りで破壊していく。泡を食った様に叫ぶヘルメット団だが、判断が遅い。一瞬でコンテナ前の敵を蹴散らした先生は、そのまま、ロックを開ける時間も惜しいと、恐ろしいほどの力で扉を引きちぎった。そして、中に倒れていたセリカを発見するのだった。

 

「おい! セリカ! 無事か!! おい!!!」

「先……生……?」

 

 手足を縛られているセリカは、突如開いたコンテナの外を見て、先生がいるのを見つけたのだろう。緊張が解けた様に、目尻に涙を浮かべた。その姿を見た先生は、怪我は無さそうだと判断し少し顔を緩める。だが、また一瞬で顔を険しくして、セリカに告げる。

 

「悪いセリカ、少し揺れるぞ」

「えっ、何よ急に……キャッ!」

 

 セリカの返答を待たず、抱き抱えた先生を背後からの銃弾が襲う。背中に目がついているかの如く回避した先生は、そのまま距離を詰め、銃を蹴飛ばす。そのまま強引に傍を突破し、人一人を抱き抱えてるとは思えない速度で逃げ出すのだった。

 

「うへ〜なかなか抵抗が厳しくなってきたね〜」

「そろそろ、先生がセリカちゃんを救出してもおかしくない頃だと思うのですが……大丈夫でしょうか」

「ん……先生は必ずやってくれる」

 

 合流した三人は物陰に隠れながら抵抗を続ける。向こうの人数をだいぶ減らしたが、戦車がどうにも厄介だった。ホシノの力なら戦車の直撃を数発喰らっても耐えられるが、その間、脚が止まってしまう。囲まれたら終わりだと理解しているので、そう直撃を受けてもいられない。敵の抵抗も激しくなり、シロコが割って入れる隙も無くなりつつあった。合流した三人は、しばし身を隠し、隙を窺う。そして、彼女達は“ソレ”を見る。

 

 上からセリカを抱き抱えたまま、跳躍。セリカが思わず悲鳴を上げるが、先生は一切気にせず、跳躍を続ける。崩れたビル群から狙うは戦車の頭上。両足に溜めた力を爆発させ、見事戦車の頭上に飛び乗った先生は、ハッチに渾身の踵落としを喰らわす。頑強に作られていたはずのハッチがひしゃげ、何事かと目を見張る内部の兵の前に、突如として現れた悪魔の如き筋肉は、彼女達にこう告げた。痛い目に遭いたくなければ、今すぐ外に出ろと。全身から放たれる殺気に冗談ではない事を察したのだろう。コクコク頷くと、戦車兵達は脱兎の如く、戦車の外に逃げていくのだった。

 

 先生がセリカ抱えたまま、無茶苦茶なやり方で戦車を無力化するのを見届けたアビドス一行はすぐさま攻勢を再開。セリカを取り戻したという精神的安定もあり、先ほどより優れたパフォーマンスを発揮した彼女達は、遂にヘルメット団を壊滅させることに成功するのだった。

 

 

 

 

 逃げて行った者を除き、一箇所にヘルメット団を集めた一行は、二度とアビドスに手を出さない様に勧告する。ヘルメット団をまとめているリーダーは、表向きは分かったように項垂れていたが、内心では反対の事を考えていた。

 

(コイツらは甘すぎる。今回の戦闘では負けたが、ヘルメット団としては無傷に近い。怪我をした奴も少なく、大人の男に至っては武器だけを破壊するという甘ちゃんぶりだ。スポンサーがいる現状、武器や補給品なんてすぐ支給される。ここは一旦、降参したふりをして、後日傷が癒えたら、また襲ってやろう。ヘルメット団を舐めるんじゃねえ)

 

 ヘルメットに隠れた目で、アビドスの生徒を見ながら反抗を企てていたリーダーは、大人の男がこちらを見ている事に気がついた。なんとなしに目があったが、その瞬間、凍りつく。彼がこちらを見る目は、今にも溢れそうな押し固められた怒りに満ちていた。

 

「俺は先生として、生徒に暴力を振るわないってのを決めてる」

 

 そこまで声量は大きく無い。砂漠に近いこの地では、ともすれば風に吹き消されてしまいそうな声。だが、どうしてだろう。ヘルメット団の耳には不思議と届いた。その男は続ける。

 

「だが、今回はやりすぎだ。敵対する相手を攫って、人質として使おうとする。もしくは殺す気だったのかは知らねえが、俺にとっては一線を越える行為だった」

 

 ヘルメット団のリーダーに近づいた男は、その大きな両手でヘルメットを両側から押さえつける。ミシミシと軋む音が聞こえ、その生徒は顔を青くしていく。

 

「キヴォトスの生徒は頑丈だ。俺とは違って銃弾1発喰らっても怪我をする事の方が珍しいだろう。だから、俺は生徒同士で正面からやり合う事についてはとやかく言うつもりはねえ。多少怪我をしても、全然取り返しが付くからだ」

 

 力が込められていく。ミシミシと軋むヘルメットの音は、次第に大きくなる。手で押さえつけられているから目線を外すことも出来ない。ずっと怒りに満ちた目に真正面から見られている。

 

「だから、今回、俺は怒っているんだ。どういう意図があったかは知らねえ。だが、人を攫って利用しようとしたのは確かだ。取り返しが付かなくなるところだったんだ」

「やっ、やめ……」

 

 自然と声が出る。だが、万力よりも遥かに強い力で押さえつけられ、逃れることができない。ヘルメットはもうひしゃげる寸前だった。

 

「お前らは、恐怖を知るべきだ」

 

 凄まじい音を立てて、ヘルメットが破砕する。かろうじてヘルメットから頭を抜いた少女は、恐怖に満ちた目でこちらを見つめていた。周りの少女達も同様だ。もし、ヘルメットを被ったままだったら、いくら頑丈な身体でも頭を潰されていたかもしれない。そこには先ほどまでの舐めたような思いはなく、ただ恐れのみが広がっているのだった。

 

「アビドスに二度と手を出さないなら、いい。好きにしろ。だが、もし今後も襲ってくるようなら──」

 

 言葉を切る先生に、理解したと言わんばかりにコクコクと頷くヘルメット団。こうして、話し合いは終了したのであった。

 

 泡を食って逃げ出そうとするヘルメット団に、先生が後ろから声をかける。もし、今後、困っていることがあったらシャーレに来い。その時は、今日の事は水に流して手を貸すと。それは、脅しこそしたが、彼女達が生徒だからだろう。助けを求められれば、応えると告げたが、果たして、彼女たちの心には届いたのだろうか。あっという間に去っていくヘルメット団を見て、先生はもっと他に良いやり方が無かったかと考えるのであった。

 

 

 

 セリカ達も今の話を聞いていて、もうヘルメット団がアビドスを襲う事はないだろうと理解した。横で聞いていただけの自分たちですら恐怖を感じたのだ。真正面から先生の圧を受けていた彼女たちなら尚更効くだろう。セリカも怪我なく無事に帰ってきて、アビドスの問題の一つは解消した。ようやく緊張が解け、互いに微笑み合う。こうして、散々な目にあった一日は、一旦幕を閉じるのであった。

 

 

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