弾丸1発で死ぬ先生 作:戦える先生ものが読みたかった
「先生!先日のヘルメット団が使用していた戦車の部品の出所が分かりました!ブラックマーケットから仕入れたみたいです!」
便利屋68との戦闘から数日、アビドスを訪れた先生はアヤネの報告を聞く。どこの学園にも属さない非合法地帯、それがブラックマーケットである。何でも金さえあればどんな物でも揃うと言われてあり、言うまでもなく危険地帯だ。だが、手がかりを求めるには危険を犯すしかないと、対策委員会の少女たちは決意を固めていたらしい。戦車の流通先を知るべく、一同はブラックマーケットに向かうのだった。
「ここがブラックマーケットか。お前達は来たことがあるか?」
「いや〜、ここって相当危ないらしいからね。おじさんは来たことがないかな〜」
「私もないですね〜。多分アビドスのみんなも同じだと思います」
ホシノ、ノノミの回答を受け、周りを見回すとシロコ達も首を横に振った。銃弾が飛び交うキヴォトスにおいて、なお危険と言われている地帯だが、情報を得る為には虎穴に入らねばならない。生徒達を必ず守ると、先生は密かに気を引き締めるのだった。
歩くこと数分、早速近場で騒ぎが起こりつつあるのを一同は聞く。銃を構え、警戒をしていると曲がり角から一人の少女が飛び出してきた。白を基調にした制服を着ており、形容し難い表情をした鳥(?)のバッグを背中に背負っている。どうやら追われている様で、必死に走ってきている生徒の顔は悲壮感に溢れていた。その顔を見た先生は、走ってくる生徒が知り合いである事に気がついて声をかける。
「あ?ヒフミじゃねえか。こんなとこで何してんだ?」
「えっ、先生ですか!?え〜っとこれには事情がありまして…あっ、追われてるので助けてください!」
「ん…先生の知り合い?」
「トリニティに行った時にちょっとな、すぐ終わらせるから待っててくれ」
先生はそう言い残すと、ヒフミを追ってきた不良生徒の前に逆に飛び込んだ。ヒフミというカモを売り飛ばすべく追ってきた者たちは、突如目の前に現れた山の如き筋肉に驚愕し、慌てて銃を構えたがあまりに遅すぎた。研ぎ澄まされた一撃を喰らった愛銃が根本からへし折れるのを見て、割に合わないと判断したのか嵐の如く去っていく不良たち。ヒフミを保護した一行は、また急に襲われないように開けた場所に移動して話を聞くのだった。
「ペロロ様の幻のグッズを手に入れるためにこんなところまで来たんですか!?」
「あはは…何回か来たことがあるから大丈夫かと思ってましたが、今日はあんまり良くなかったみたいです…」
「こんなところに何回も来てるなんて、そこらの不良よりよっぽどヤバいわね…」
ヒフミからの回答を聞いたノノミとセリカは、目の前の生徒がただのトリニティ生ではなく、頭のネジが少々外れているのを理解し、顔を引き攣らせる。普通に過ごしていたら到底関わり合いになることがない世界へ当たり前のように顔を出し、さらにその理由が好きなマスコットキャラの限定品グッズを入手するためだというのだ。虫も殺さないような平和な顔をして、とんでもない事をやっているヒフミに、一同は人は見かけによらないと思いを抱くのだった。
「そういえば、先生はこちらへ何しに来られたんですか?」
「おう、実はこいつらの学校に襲いに来るチンピラの武器がここらから来てるらしくてな。入手先を調べに来たんだが…ヒフミはこの辺りに詳しいか?」
「えっ、あー、まあまあです。さっきも言ったように何度かは来たことがあったので」
「なら頼みてえんだが、ここらを案内してくれねえか?俺たちは誰も来たことがねえから疎くてよ。大まかな案内でも助かるんだが、どうだ?」
先生からのお願いに、ヒフミは恐れ多いと言わんばかりに身を縮めたが、先ほど助けてくれた礼もあり、大まかな案内を務めてくれる事になった。異常性が垣間見えるが、基本的には優しく気立の良いヒフミにアビドスの生徒たちはあっという間に仲を深め、一同は危険地帯とは思えないほど和やかに進む事となったのであった。
「へえ〜じゃあヒフミちゃんはティーパーティーと繋がりがあるんだね〜 先生と会ったのもその関係?」
「私なんかが…とは思うんですけど、ナギサ様…ティーパーティーの代表の一人が何かと目をかけてくれてまして…先日トリニティに先生が来られた時に紹介頂いたんです」
「ああ、この前は正実の連中と一緒に稽古してな。その後、ナギサに呼ばれたんで行ってみると、ヒフミがガッチガチになっているもんだから思わず笑っちまったぜ」
「酷かったですよ…急にナギサ様に呼ばれて緊張してる私を見て笑い出した先生とクスクス笑ってるナギサ様は…平凡な生徒なんですから緊張するに決まってるじゃないですか」
少し拗ねたような顔をするヒフミに、すまないと笑いかける先生だが、周囲の警戒を怠ってはおらず、皆が飛んでくる流れ弾に当たらない様に気を掛けている。稀に不良生徒が絡んでくることもあったが、鍛え抜かれた肉体を存分に発揮する先生と、各々の練度が非常に高いアビドスの生徒たちの前には全く歯が立たず、次第に遠目から恐れられる様に見られるだけとなったのであった。
ヒフミの案内でいくつかの武器商人の元を訪れた先生たちだが、有力な情報は見つからず、このままでは疲弊するのみだと考えた一行は小休憩を取る事になった。先生の奢りでたい焼きを買い、熱々の餡と皮に舌鼓を打っていると、周りに不良生徒達が集まりつつあるのに気が付いた。また戦闘かと一同が重い腰を上げるが、どうも周りの不良たちは襲ってくる様子がない。その中の一人が前に進み出て、おずおずと先生に尋ねてきた。
「な、なあ…あんたシャーレの先生だろ?ちょっと話せないか?」
「ん?ああ、もちろんいいぞ。どうかしたのか?」
「あっ、ああ。じゃあ言うぞ…私たちを弟子にしてくれ!!!」
「…は?」
戸惑う先生に、不良生徒たちは涙ながらに語る。ここに集う皆は学園を退学し、その日の暮らしさえ困窮する一同で、流れに流れてブラックマーケットに居着いたらしい。裏社会では力が全てという傾向が強く、さほど力がない彼女たちは肩身の狭い思いをして、日々を暮らしていた。そんな中、真正面から裏社会の人間を粉砕する大人を見る。それは先ほど不良生徒たちを蹴散らした先生であった。自分たちも先生に鍛えて貰えば、もしかしたら日の目を見る事が出来るのではないかと考えた彼女たちは、決死の思いで相談してきた様だ。横から話を聞いたセリカは呆れながら彼女たちに言葉を放った。
「アンタたち…そんなこと信じられると思う?こんなところで先生に弟子にしてもらおうなんて、騙して攫うつもりとしか考えられないわ。それにそもそも何で見知らぬ変な大人に鍛えてもらおうなんて思うのよ。切羽詰まってたにしても他に選択肢があるんじゃないの?」
「変な大人…」
「い、いや!それは違う!私たちは本当に先生に弟子にしてもらいたいと思ってるんだ!さっきからの戦闘を見させてもらったが、本当に凄かった!今日襲いかかってたのは、この辺りでも強い奴らなんだ。それをああも易々と退けるのは本当にすげえ!分かってくれ姐さん!」
「誰が姐さんよ!先生!こんな危険な場所での話なんて信用しなくていいわ!胡散臭さしか無いし、理由も不透明だわ!受ける必要なんて無いでしょ?!」
変な大人呼びに少々落ち込んでいた先生だが、セリカの言葉を受け真面目な顔つきになる。確かに通常なら考えるまでもない話だろう。ブラックマーケットという、キヴォトスでも有数の危険地帯。騙して攫おうとする方が余程自然だ。でも、先生は彼女たちの目を見た。その目には先生を真っ直ぐに見ており、瞳の奥には助けを求める色があった。先生は深呼吸をすると、セリカをはじめとしたアビドスの面々に申し訳なさそうに告げた。
「悪ぃ、みんな。こんなところですまねえが俺は…」
「ん…言わなくていいよ先生。この娘たちの助けになりたいんでしょ?先生が思う様にやるべき」
先生の言葉を遮り、シロコが先生に言う。驚いた様にアビドスの生徒を見回す先生だが、皆が呆れた様にやれやれと首を振りつつ、されど嬉しそうに顔を緩めるのを見たのだった。僅かな期間ではあるが再三、生徒の為にと動く姿を見たからだろう。助け舟を出す様にホシノがシロコに続く。
「まあ、情報得るのもなかなか難しそうだし、二手に分かれるってのもいいんじゃないかな〜 その娘たちはヒフミちゃんよりブラックマーケットに詳しいでしょ?だから、しっかり情報を聞いてきてね先生〜」
「…ああ、シロコ、ホシノ、恩に着るぜ。しっかり聞いてくるからよ。お前たちは強いから大丈夫だと思うが、無理だけはしない様にな」
「弾丸1発喰らえば危ない先生よりも安全ですよ〜」
ノノミが揶揄う様に言うと、先生も豪快に笑った。客観的に見てノノミの言うことの方が圧倒的に正しいと思ったからだ。先生は急な話についていけずアタフタするヒフミに、アビドスの生徒に協力してほしいと重ねてお願いをした。そして弟子にしてほしいと言う生徒たちに、条件としてブラックマーケットで一緒に調べ物をしてほしいと頼んだのだった。
「全く…心配したこっちがバカみたいじゃない!」
「セリカちゃんもやっぱり心配してたんですね〜 でも先生なら大丈夫だと思いますよ〜」
「なっ…し、心配なんてするわけないじゃない!いつか騙されてえらい目に合うって言いたかっただけで…!」
「ん…セリカも騙されやすいから気をつけてね」
「ふふっ、その通りですねシロコ先輩!」
「あはは…皆さん随分仲が良いんですね」
アビドスの生徒たちを眩しげに見ながら、ヒフミは言葉を紡いだ。ヒフミはトリニティ内でも顔が広く、多くの友達がいるが、ここまで親密な関係を持つ友だちは少なかった。決して自らの人間関係に不満があるわけではないが、アビドスの面々の仲の良さを見て、ペロロ様への好きを共有できる様な親友が出来たら良いなと内心思うのだった。
「…っ!アヤネちゃん。あの車を調べて!」
「どうしたんですかホシノ先ぱ…あの車は!?」
オペレーターのアヤネに車を調べる様に告げたホシノの声は厳しく、他の一行も慌ててホシノが見たであろう車を確認した。するとそこには、いつもアビドスが背負う借金の利子を回収している取り立て屋が乗る車がブラックマーケット内の銀行に駐車し、中に金銭を運んでいくのが見えた。アヤネに確認したところ、似た車ではなく全く同じ車らしい。一同は自分たちが払っている利子が、巡り巡って裏社会の違法な業務の資金源になっている事に衝撃を受ける。どうすべきか話し合うが、やがて一つの結論に達した。あの銀行の集金履歴奪うことが出来れば、自分たちを陥れようとしている黒幕に近づく事が出来ると。あわあわしているヒフミを他所に、シロコは宣言を行う。その宣言とはすなわち──
「ん、銀行を襲う」
ブラックマーケットの銀行に、嵐が近づいていた。