弾丸1発で死ぬ先生 作:戦える先生ものが読みたかった
便利屋68の面々は、先日のアビドス襲撃の際に多額の金を払い傭兵を雇ったが、先生とアビドスの生徒たちの激しい抵抗により、目標を達成する事が出来なかった。傭兵への支払いはただでさえ金欠の便利屋にとっては致命的で、このままでは大口の契約を達成できなくなると考えた社長のアルはブラックマーケットの銀行から融資を受けようと画策するのだった。
受付をしてから六時間、退屈に弱いムツキを始めとして比較的真面目なカヨコやハルカでさえ居眠りをしてしまっていた。ようやく銀行員が対応するも、便利屋68の現状を分析され、あえなく融資を断られる始末だ。アルが怒りを抱きつつも諦めの境地に至ろうとした時、それは起こった。
──銀行から渋々退出しようとしていた陸八魔アル(16歳)は、この時の様子をこう語っている。
「ええ、もう二、三分かそこいらで、そう…」
「停電して、彼女たちが突入してからの行動は二から三分で完遂した事になるわ」
「そう、あの事件がきっかけよ。私たちが目指す真のアウトローがどういうものかを具体的に考える様になったのは」
「ええ、一瞬で排除されたわ。まるで木人形を相手にする様にね」
「仮にもブラックマーケットに位置する銀行のマーケットガードよ?並大抵の腕じゃないはず。それをいとも容易く排除した彼女たちは相当の手練れでしょうね」
「停電が収まると、そこにはマスクで顔を隠した5人組がいたわ。彼女たちは客に伏せる様に言うと、銀行員に詰め寄ったの」
「外部への警備システムの電源は殺し、助けが来ないことを一瞬で把握させた後、紙袋を被ったリーダー…ファウストと名乗っていたわね。彼女は手下たちに命令し、多額の現金と集金記録すら奪っていったわ」
「えっ?所詮は勢い任せの強盗?すぐに捕まる?」
「………ん〜、やっぱりあなたたちは分かってないわね。…覆面水着団という集団を」
「それはアナタ、素人がブラックマーケットの銀行に手を出したならすぐさま報復を受けて終わりでしょうね」
「だけどこれは、覆面水着団の話でしょ?」
「捕まっていないそうよ。それどころか今に至るまでその正体が判明してる事もない」
「彼女たちは、裏社会で生きる者たちの伝説にすらなってるわ」
「同じアウトローの私が言うのもなんだけど…チョット憧れちゃうわね女として…」
陸八魔アルからそんな目線で見られていることなどつゆ知らず、銀行を襲撃し、無事に集金記録を手に入れた一行は、道路を封鎖するマーケットガード達を蹴散らし、逃走に成功した。別行動している先生とは封鎖地点を超えた先で合流する様にモモトークを送っている。安全な位置に移動した一行は、一息吐く為に被っていたマスクを外し、目的の物を確認する。するとそこには集金記録のみならず、一億円もの大金が入っていたのだった。
「ええ?!シロコ先輩一億円も盗んじゃったの!?」
「い、いや違う…これは向こうが勝手に入れちゃっただけで…」
「うへ〜 本当にやっちゃうなんてすごいね〜シロコちゃん。おじさんも鼻が高いよ〜」
「これは本当に鼻を高くして良いんですか!?」
セリカの動揺した声を聞いたシロコは、流石にここまでやるつもりはなかったと弁解するが、話題はすぐに次に移った。すなわち、このまま奪うか置いていくかである。セリカ、ノノミは悪人の金だからと賛成。だが、委員長のホシノやシロコ、アヤネは反対する。仮にこのお金を返済に当てたとしても、真っ当な手段でなければ、胸を張って借金を返したと言う事が出来ず、アビドスの名を誇る事が出来ないと。また、一度成功したと思ってしまうと、次からも悪の手段に手を染める様になってしまう。だから、委員長としてこの金額に手をつける事は許さないと言ったホシノは、皆を見回した。セリカ、ノノミも理解した様だ。そうして彼女たちはその場に一億円を残し、去っていくのだった。
「はぁはぁ…間に合わなかったわ…アウトローの秘訣を聞こうと思ったのに!」
「アルちゃんが感動に打ちのめされてなければ追いついたのにね〜」
「う…うるさいわねムツキ!凄くカッコよかったんだから仕方ないでしょう!?ああ、もう次はいつ会えるか分からないのに…せめて感謝の言葉を伝えたかったわ…」
「あああ、あの…アル様の為なら私が不眠不休で探してきましょうか…?」
「そんな事しなくていいよハルカ…というかムツキ…」
カヨコは声を顰め、ムツキに尋ねる。
「社長に伝えなくて良かったの?さっきの銀行強盗がアビドスの生徒だって…」
「くふふ〜面白そうだからまた今度にしよう?」
「はあ〜…全く悪戯好きなんだから…」
「でも、カヨコちゃんもそういうアルちゃん見るの好きでしょ〜?」
声を顰め、言葉を交わす二人の声はアルの耳には届かない。目をキラキラさせて、覆面水着団の武勇を繰り返し語っているアルたちは、やがて置いてあるバッグに気がつく事になる。そして、バッグの中身を確認した便利屋68の社員たちは、大声をあげて驚く事となるのであった。
「銀行強盗をした!?おいおいマジかお前ら!」
「やむを得なかったんです…どうしても集金記録を確認しないといけなくて…」
ブラックマーケットを離れ、先生と合流した一行は先ほどのあらましを語った。さしもの先生も彼女たちが銀行強盗をするとは、全く考えておらず驚愕する。そして、彼女たちを叱るか悩む様に顔の表情をコロコロ変えたが、結局、ため息を吐き言葉をかけた。
「本来なら、俺はお前たちを叱るべきなんだろう。言うまでもなく、銀行強盗は悪い事だ。教師としてそこは言わなきゃならねえ。だが、金は置いてきて目的の物だけ奪ったって事なら…まあ、今回は見逃す。次からは決して無い様にするんだぞ」
「……………………ん。分かった」
「本当に分かってますかシロコちゃん!?」
アヤネの悲鳴のような声を受け、もちろん分かってると言わんばかりに頷くシロコ。セリカやノノミたちも巻き込み、騒ぎは大きくなっている。その様子を眩しげに見るホシノに、先生は声をかけた。
「ホシノもよく皆を諭したな。ノノミとセリカから聞いたぜ。ホシノが諭してくれなかったらそのまま現金を奪ってたって。そこでしっかりと線引き出来るホシノは本当にすげえ。俺より教師に向いてるかもな」
「うへ〜そんなに褒めると照れちゃうよ〜 まあ、可愛い後輩たちが悪の道に堕ちるなんて忍びないからね。委員長としてやるべき事をやっただけだよ」
「それでも偉いもんは偉い。胸を張れホシノ。お前のおかげで皆が道を踏み外さないで済んだんだ」
無意識のうちにホシノの頭を撫でる先生。おそらく、胸の内に大人への不信感を抱いているホシノにこの仕打ちは嫌だろうと、撫でた後に気が付いた先生は、慌てて撫でる手を止めようとするが、意外にもホシノが嫌がっている様子は無かった。撫でられた手の感触を感じるように目を細めている。ホシノの反応を確かめるかの様にゆっくりと頭を撫でる先生。こうして対策委員会の皆を眺める無言の時間は、しばし続いたのだった。
集金記録を確認し始めた一行は、衝撃的な事実を目の当たりにする。毎月払っている利子を回収した銀行の車は、なんとその足でカタカタヘルメット団への資金提供を行なっていたのだ。この事はつまり、カイザーローンの大元であるカイザーコーポレーションがアビドスを潰すための黒幕である事を意味している。黒幕の正体に言葉を失う一行だが、いち早く我に帰ったセリカが激昂して言葉を放った。
「何よそれ!!!つまり私たちはアビドスを潰そうとする集団にずっとお金を払ってたってこと!?ふざけないでよ!」
「セリカちゃん落ち着い…」
「落ち着いてなんかいられないわよ!私たちのやってきてきた事は無駄だったって事じゃない!!」
セリカの言葉に皆は沈黙する。余りにも巨大な敵の正体に、打ちひしがれる一行だが、落ち込みとは異なる目を見せる者が二人いた。ホシノはどこか遠いところを見るように思索し、物思いに耽っている。そしてもう一人、先生はアビドスを襲う黒幕がカイザーコーポレーションという“大人”である事を知った瞬間、感情を抑えるべく必死に自制心を保とうとしていた。だが、下を向いたその目には先日ヘルメット団に見せた怒りがそよかぜの様に思えるほど、激情が荒れ狂っていたのである。
失意に打ちひしがれる一行は、今日は解散にしようと会議を終えた。それぞれは今日一日付いてきてくれたヒフミに感謝の言葉を述べ、次にヒフミが困った際は必ず力になると誓うのであった。ヒフミもアビドスの現状をティーパーティーに伝えると言ってくれたが、おそらくトリニティという学校単位で動くのは難しいだろうというホシノの言葉に俯いてしまった。だが、再び顔を上げたその瞳には、新しく出来た友達を助けようという硬い意志が宿っていたのだった。
シャーレに戻った先生は、アロナにも協力してもらい、カイザーコーポレーションの情報を調べる。曰く、黒い噂もある多角的企業だが、その規模は非常に大きく、キヴォトスの生活に深く根付いているという内容だった。借金を踏み倒せないかとも考えたが、いくら暴利であっても交わした契約自体は本物だ。現在、ユウカに手伝ってもらい、過払い分の計算と減免を要求する書面を作成しているが、相手に主導権を握られている状況では最悪、こちらの要求自体を踏み倒されかねない。先生は頭を悩ませ、やがて一つの結論に達した。夜遅くに申し訳ないと思いつつ、連邦生徒会のリンに電話をかける。
「もしもし、こんな時間にどうしたんですか先生。急ぎでなければ明日にでもしてもらえると助か…」
「リン、連邦捜査部としてカイザーコーポレーションを相手取った場合、リンたちはどこまで動けるんだ?」
「…敵対しかねない、という事なんですね。結論を言うとこちらが強権を使っても全面的な対立は難しいでしょう。こちらも一枚岩ではなく、カイザーコーポレーションの手は多岐に渡って広がっているので、その恩恵を受けるキヴォトスの住人からも反対に会う事は想像に難しくありません。例え確たる証拠を握っていたとしても、連邦生徒会という組織では動けないと思います。…生徒会長がいた頃なら別でしたが」
「そうか、ありがとう。それともう一つだけ質問なんだが、シャーレの先生という存在はいなくなっても問題ないか?」
「っ、それは…」
電話口のリンは、思わず言葉を失う。先生の言い方はまるで、シャーレの先生である自分を切り離しても問題ないかとの確認に思えたのだ。しばし悩んだリンは、されど毅然とした声で回答する。
「ええ、問題はありません。先生が例え居なくなったとしても、キヴォトスは回るでしょう」
「そうか、…回答ありがとなリン、俺は」
「ですが!」
先生の回答を遮るように、リンは声を高める。不吉な予感を振り払うように、声を大きくして先生に告げた。
「貴方が着任して僅かですが、貴方を慕う生徒もいる事を忘れないでください!貴方は先生なんです。そう簡単に役目を放棄する事は許されません!最後の最後まで、そうはならない様に手を尽くすべきです!」
滅多に無いであろうリンの大声に、しばし呆気に取られる先生だが、内容が激励であることを理解したのだろう。リンの真摯な思いに返すべく、真の通った声で回答する。
「ああ、ありがとうな、リン。俺は先生だ。そこだけは最後まで諦めない様にするからよ。夜遅くにすまなかったな、おやすみ」
「…ええ、おやすみなさい。先生」
電話を切り、シャーレの部室で今の言葉を反芻する様に思考を深める先生は、一つの思いを固める。最後の最後まで、諦めない。だが、もしも、どうしても解決できなかった場合は──
どんな手を使ってもカイザーコーポレーションをこの手で叩き潰す。怒れる筋肉は、出番が待ち遠しいと言わんばかりにピクピクと動くのであった。