弾丸1発で死ぬ先生   作:戦える先生ものが読みたかった

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その日、運命に出会う

 

「はぁ……先生、カイザーコーポレーションっていえばここキヴォトスでも有数の大企業ですよ? そんなところに喧嘩売ろうとしてるんですか?」

「いや、まだ喧嘩を売ると決まったわけじゃねえ。というか早いなユウカ。まだ朝だぞ?」

「先生が気になる事言うから気になって来ちゃいました。全く……着任したばっかりだというのにとんでもないところに首を突っ込もうとしてますね……」

 

 朝方、アビドスの現状を打破するべくアロナと調べ物をしていた先生だが、通常の当番の時間よりかなり早く来たユウカに質問され、かなり話すか迷ったがアビドスの現状を伝えた。アビドスが背負ってる借金の大元がカイザーコーポレーションである事、ヘルメット団や便利屋68を雇いアビドスの生徒を襲撃させている事などをだ。その話を聞き、ユウカは眉を下げつつ先生に問いかける。

 

「穏便に済むならそれで良いんだ、気には食わねえけどな。だが、便利屋を退けた後でも妨害を続ける様なら俺にも考えはある」

 

 言葉を切った先生だが、その目は凝縮した怒りに満たされていた。その目を見たユウカは先生が何をしようとしているかを半ば察し、先ほどより深いため息を付いた。

 

「先生、初めて会った時の事を覚えてますか? 先生は弾丸1発が致命傷になるから前に出ないでくださいって話を。全く守るつもりが無いじゃないですか」

「うっ……だけどよぉ……情けねえ話だが、俺にはこういう事しか出来ねえんだ。それ以外、何もやり方が分からねえ……」

「先生は、もっと生徒を頼っても良いと思いますよ」

 

 はいと、ユウカが手渡してきたのはアビドスの金利の計算書と過払いである事を証明した書類だった。以前、アビドスの借金の金利について調べて欲しいとは頼んだが、過払いの証明までは頼んでいなかった先生は目を見張る。ユウカは照れた様にそっぽを向きながら、頰を掻いた。

 

「先に言っておきますけど、私だけでやった訳じゃないですからね。ノアとリオ会長にも手伝って貰いました。当時の法律と照らし合わせても、現在払ってる金利が違法な事はこの書類に書いてあります。これを元に相手と話せば、今までの過払い分も含めてだいぶ減らせると思いますよ」

 

 ユウカの献身に思わず言葉を失う先生だが、ユウカの頬が赤くなっているのに気がつく。ミレニアムの会計を司るセミナーの仕事で忙しかったはずだ。サラッと調べたと言ってはいるが、短い付き合いながらも、ユウカが頼んだ仕事に対して手を抜かないことは想像に難くない。先生は立ち上がり、ユウカの目をまっすぐに見てお礼を述べる。

 

「本当にありがとうな、ユウカ。恩に着るぜ。俺に出来ることなら何でも……」

「それよりも!」

 

 先生の言葉を途中で切るユウカ。恥ずかしさの許容量を超えたらしい。先生を見上げながら語気を強くするその顔は、熟れた林檎さながらの赤さだった。

 

「ここまでやってあげたんですから! 先生が前に出る様な事は極力避けてくださいね! じゃないと私たちが何のために調べたか分からなくなりますから!」

「…………ああ!」

「本当に分かってます?!」

 

 厳しい現状だが、頼りになる生徒たちが手伝ってくれる。ユウカから責められながらも、気分が少し上向きになった先生はユウカを褒め殺しにするのだった。

 

 

 

 

「はぁ……本当にカッコよかったわね……覆面水着団……」

「まだ言ってるのアルちゃん〜? それよりもアビドスの連中はどうしよっか?」

「幸いにも資金は沢山あるからね……もう一回傭兵でも雇う?」

「アル様のご命令なら……何でもやりますので……」

 

 ラーメンを啜りながら、便利屋一行が今後について話している。アルは柴崎に来るのは少々迷ったのだが、前回一杯の値段で大盛りのラーメンを恵んでくれた事もあり、借りを返す意味合いも込めて食事をすることにしたのであった。

 

「おう! 嬢ちゃんたち! また来てくれるとは嬉しいねぇ。今日はお金は大丈夫かい?」

「ええ! いや、いつもはこれぐらいあるのよ。前に来た時はたまたま! 手持ちが少なかっただけで!」

「ああそうかい。じゃあ今後もよろしく頼むよ。アビドスの皆とも仲が良いみたいだしな」

「仲が良いわけじゃないわよ! 何なのよ! …………ここみたいな素敵なお店にいると私たちの目指すアウトロー像がどんどんブレていっちゃうの! だから……」

「それは……こんなお店は要らないって事ですよねアル様?」

 

 突如として響いたアルの大声に会話が止まる。店主が驚いた様にアルたちを見ているの目の当たりにし、アルはやってしまった事に気がつくがもう遅かった。アルの言葉を曲解しがちなハルカは、目を煌めかせてアルの言葉に追従する。そして、いつの間にやら仕込んでいた爆薬の起爆装置を押し、店にいるアルごと全てを吹き飛ばすのであった。

 

 

 

 

「おう、すまねえチナツ。ちょっと聞きてえ事があるんだが、今いいか?」

「先生……申し訳ございません。現在、任務中ですのでまたの機会でお願いして良いですか?」

「ああ、仕事中か。急にすまなかったな。じゃあ時間ある時にでも頼むぜ」

 

 そう言って電話を切る先生だが、何やら連絡が来ている事に気が付く。アロナに確認してもらうと、なんと便利屋68が柴崎ラーメンの店舗を吹き飛ばした様だった。何がしたいのかさっぱり分からないが、おそらく陽動の一種だと考えた先生は急ぎ現場に向かうのだった。

 

 現場に着くと、怒り心頭のアビドスの生徒たちにのされている便利屋たちが見えた。全員がいる様だが、昨日まであった柴崎ラーメンの店舗は綺麗さっぱり吹き飛ばされている。カイザーからの命令にしては意味がわからない状況に、ひとまず先生は話を聞く事にし、目を回しているアルに尋ねてみる。

 

「お前、便利屋のリーダーだな? 単刀直入に聞くが何がしてえんだ? 便利屋を吹き飛ばせって雇い主から言われたのか?」

「ゲホッ……貴方は……シャーレの先生!? ええと……これには色々事情があって……」

「事情って何よ!? 私のバイト先を吹き飛ばすのが命令ってわけ?! アンタたち本当に許せないんだから!!!」

 

 怒髪天を衝くセリカのツインテールは、怒りで波打つ様にすら見えたが、一旦事情を聞くためだと先生が言うと渋々口を閉じた。普段温厚なノノミやシロコも険しい目つきで便利屋を睨んでいる。四方からの睨みを受けたアルは、観念した様に口を開く。

 

「実は……誤解なのよ。命令されたとかそういうのじゃなくただ間違ってというか……」

「間違って!??!!? いくらキヴォトスでも間違ってお店を吹き飛ばす事なんてある訳ないじゃない! 嘘をつくのはいい加減にして!!」

「嘘じゃないわよ! 本当に間違いなんだから! あとゲヘナだと店ごと吹き飛ばされるのは結構あるわよ!!」

「そこは反論しなくていいでしょ社長……」

 

 白い髪に前髪と後ろ髪に黒のアクセントを入れた少女、カヨコが間に入る。アルの言葉を誤解したハルカが勢い余って吹き飛ばしてしまったとの経緯を説明すると、アビドスの生徒の顔が次第に呆れ顔に変わっていった。ハルカはやってしまった事を理解しているのか虚な目でアルに謝っている。どうやら本当らしいと分かると、シロコが便利屋に今後についてを尋ねる。

 

「ん、それでこれからはどうするの? 柴崎ラーメンの店舗を賠償するのは当然だけど、アビドスにも手を出すのはやめて欲しい」

「それは……一度受けた依頼を断るのはアウトローじゃないから……」

「カイザーほどの大企業だもんね。違約金とかもあるんでしょ?」

「そうなの……」

「社長!」

 

 カヨコがアルの口を塞ぐがもう遅い。雇い主の情報を漏らしてしまったと周りを見るが、アビドスの生徒たちは疑惑が確信に変わっただけと言わんばかりに通常の様子だった。それを見たカヨコは元々カイザーからの依頼である事を確認するためだけにカマに掛けられたと理解した。そして、話をまとめるために再度話を行おうとしたが、近くに榴弾が着弾した衝撃で口を噤むことになるのだった。

 

 

 

 

「砲兵、確認」

「着弾良し。ターゲット沈黙しました」

「よし、歩兵、慎重に突入するぞ」

 

 ゲヘナの風紀委員会一員、銀鏡イオリは砲兵への確認を済ませると歩兵と共に進軍を開始した。狙うは以前から頭を悩ませている便利屋68だ。独自の情報網を元に便利屋がアビドスに潜んでいる事が分かったイオリたちは、アビドスへの許可を得ないまま武力制圧を行おうと一個中隊を引き連れ前進を行なう。脇に備えていたチナツは、イオリに何度目かの問いかけを行なった。

 

「イオリ、本当に大丈夫なのですか? 便利屋を捕えるためとはいえ、アビドスの学区に入ったりして……」

「くどいぞチナツ。いちいちそんな事を確認するな。それにアコちゃんも許可は取ったと言っていたぞ。だから問題はない」

 

 問答を終わらせたイオリは、そのまま歩兵と共に歩みを進める。榴弾が着弾した箇所は徐々に煙が晴れてきており、倒れている便利屋とダメージを受けたアビドスの生徒たちが見えてきた。外交問題にならないかと心配するチナツだが、先生が近くにいる事を確認し、慌てて皆に進軍中止を述べるのだった。

 

 

 

 

「ぐぅ……結構近かったな。おい、皆怪我はねえか?」

「ん、大丈夫。先生こそ大丈夫?」

「俺は服がちょっと破けたが問題ねえ。便利屋たちはどうだ?」

「アルちゃんが近くに着弾した衝撃で目を回してるみたい! というかこれって……」

「うん、ゲヘナの風紀委員だと思う。このタイプの榴弾をよく使ってたと思うし」

「アル様はだだだ……大丈夫でしょうか。…………許せない! アル様を傷付けた奴らを今すぐ打ち倒しにいきます!!!」

 

 皆に怪我はなかったが、アルを傷付けた風紀委員に復讐すべくショットガンを構え突撃しようとハルカは動き出す。だが、先生は後ろからハルカの腹に手を回す事によって動きを止め、諭す様に声をかける。

 

「落ち着け! アルに傷はねえ! それよりアイツらはゲヘナの風紀委員で間違いねえか? それなら俺が話を付けてくるからちょっと止まってろ!」

「アル様アル様アル様アル様……」

 

 それでも動き出そうとしているハルカをカヨコとムツキに任せ、先生は攻撃を仕掛けてきた風紀委員の方へ丸腰で歩き出す。煙が立ち込めている箇所を抜け出し、前を見る。チナツがいれば話が通じるかと思いつつ歩いていくと先頭で指揮をしている者が見えた。

 

 ──そして、先生は運命に出会う。

 

 可愛らしい。先生が抱いたのはまずその様な印象だった。長い銀髪をツインテールにしており、その豪奢な煌めきは日頃から丁寧にケアをしている様子が伺える。白のブレザーに黒のネクタイとミニスカートを合わせている姿は、勝気な表情と相まって見るものに活発かつ淑やかだという矛盾した印象を与えるだろう。だが、真紅のルビーの輝きを閉じ込めた様な瞳や、日に焼けた褐色の手足は蠱惑的な美しさで、先ほどの印象と合わさって、見る者の心を惹きつけてやまない魅力が醸し出されている──

 

(待て、何だこれは。俺が生徒にこんな感情を……? だが…………押さえられねえ! 一体どうしちまったんだ俺は……?)

 

 自らを諌める様に考えるが、身体は言うことを聞かず、まるで熱に浮かされた様なフラフラとした歩みが止まらない。何かがおかしいと感じ、チナツが先生に声をかけるが反応する様子もなく、ただひたすらにイオリに向かい足を進めている。以前に先生と会った事がある風紀委員の者も、チナツの呼びかけに反応が無い事にざわつき始めるが、先生は一切を気にせず歩みを進める。そして遂にイオリと向かい合う。

 

「何だこのデカブツは……チナツ! さっき進軍を中止させたのはコイツが原因か?」

「イオリ、この方はシャーレの先生です。先日、風紀委員会の部室に来た話は以前にしたと思いますが……どうも様子がおかしいですね。先生! 聞こえていらっしゃいますか!?」

 

 二人が話している姿をどこか虚ろな目で見つめた先生は、おもむろにイオリに向かい跪いた。ギョッとする一行を前に、言葉を発する。

 

「初めまして、俺は大賀美という。君の名前を教えてくれないかな?」

「は?」

 

 いくつかの声が重なった。それは隣で聞いていたチナツから発せられた声でもあり、先生を心配して近くにやってきたシロコの声でもあった。だが、一番困惑していたのは当事者のイオリだろう。見上げるほど図体のデカい男性が、いきなり目の前に跪いて名前を聞いてきたのだから。時が止まった様に静止を続ける一行の間に、アビドスの風が吹きすさぶのであった。

 

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