弾丸1発で死ぬ先生   作:戦える先生ものが読みたかった

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信頼出来る人

 

 風紀委員会の行政官たるアコはイライラを募らせていた。以前よりキヴォトス中を股にかけ、風紀委員会を悩ませてきた便利屋68を捕縛しようとアビドスの学区内に一個中隊を差し向けたは良いが、その歩みが先ほどから止まっているからだ。現場司令官であるイオリからは理由の報告も無い。何度目かの催促を入れたところで、仕方なくアコは通信を繋げ、歩みが止まっている原因を確認しようと試みた。そして彼女はソレを見ることになる。

 

 頬を赤くしながら目の前を睨むイオリ、その足元には巨大な男性が蹲って謝罪をしている。補佐として付けたチナツは冷静さを保とうとしているが、口元はほんの僅かに歪みその目の奥には仄かに情欲の光が。その横に見えるのはおそらくアビドスの生徒だろう。マフラーを巻いた生徒を始めとして、蹲る男性を冷ややかな目で見つめている。アビドスの生徒か便利屋との武力衝突をしているかと思っていたアコの思考は一瞬フリーズした。よく見れば蹲っている男性は先日ゲヘナに来たシャーレの先生である。その情景を見たアコは理解する事が出来ず、思わず甲高い声で叫んでしまった。

 

「なっ、何をやっているんですか貴方たちは!?」

 

 

 

 

 時は少し遡る。片膝を付いた状態で目の前の少女に名前を聞く先生は、筋肉ダルマとも揶揄される身体を精一杯良く見せようとシャンとしており、その瞳は視線に圧力があれば穴が空いているだろうと思うほど、目の前の少女に熱く注がれていた。率直に言えば──物凄く気持ちが悪かった。

 

「ヒッ……」

 

 普段は勝気で活発な少女であるイオリは思わず悲鳴を飲み込んだ。突然得体の知れない男性からの熱烈な視線に耐えきれなかったらしい。思わず後退りをしながら、隣のチナツに助けを求める。

 

「ちっ、チナツ! コレがシャーレの先生なのか?! 聞いていた印象とはだいぶ違うんだが!?」

「えっ、ええ……お、落ち着いてくださいイオリ……先生? 先生、一体どうしたんですか?」

「ははっ、緊張しているのかな? だけど俺は、君の口から名前が聞きたい。教えてくれると嬉しいな?」 

 

 まるで会話が通じていないかの様に、目の前のイオリに再度尋ねる先生はにこやかな顔をしている。だが、正気を失っているとしか思えない振る舞いは、人を恐怖させるのに十分だった。重ねて言葉を紡ごうとする先生に、ようやくショックから抜けたシロコが横から肩を揺らし正気を取り戻させようと試みる。

 

「んっ! 先生! 私が初めて会った時はこんな風に情熱的に名前を聞かれなかった! ずるい!」

「シロコ先輩!? なんかそれはちょっと違くないですか?!」

「先生〜私にもお願いしたいです〜」

「先生のこんな一面初めて見ました……」

 

 肩を揺らしているシロコを見ながら困惑しているセリカ、羨ましがって一緒に先生の肩を揺らしているノノミ、遠隔から呆れたように呟くオペレーターのアヤネを前に、ガクンガクンと頭を揺らされた先生は、遂に正気を取り戻す。そして、自らがやった事を思い出し、冒頭の光景へ繋がるのであった。

 

 

 

 

「本当に……すまねえ……彼女を見たらなんというか……我を忘れちまって……」

「やっぱり先生は筋肉モリモリ、マッチョマンの変態だったんですね! あの時はヒナ委員長と一緒にいたから攻撃しませんでしたが、1発撃っておけば良かったです!」

「ま、まあまあアコ行政官、先生も反省している様ですしここは穏便に……先生も生徒に興奮するんですね……だったら私も……

 

 何やら不穏な事を呟いているチナツを横目に、アビドスの生徒たちは冷たい目つきで先生を眺めている。信頼がおける大人として見ていた先生の思わぬ一面を見て、軽くショックを受けた様だ。そして一番の被害者でもあるイオリは、銀色のツインテールを逆立たせる様にして先生を威嚇している。その姿はまるで縄張りに入った人間を警戒する猫の様で、気まぐれで軽やかなその姿はイオリにはピッタリだと考えていた先生は慌てて思考を打ち消した。

 

(本当にどういう事だ……彼女を見ているとおかしな事ばかり考えちまう。申し訳ねえから謝りたいが……)

 

 先生がスッと目線を上げると、その視線から逃れる様に他の生徒を盾にして警戒するイオリ。完全に警戒対象と捉えられてしまった様だ。このままでは良くないと考えた先生は、チナツやアコの助けも借り、なんとかイオリに謝罪するのだった。

 

 ようやく騒ぎが収まった一行は、改めて先ほどの件を確認する。アビドスの学区内にいきなり榴弾を撃ち込んだのは何故かと問いかけると、チナツとイオリは怪訝そうな顔をして上司のアコに問いかけた。

 

「アコちゃん? 便利屋を捕まえる為にアビドスに入る許可は取ったって言ってなかった?」

「今確認してますがゲヘナ学園からそう言った申し込みは頂いておりませんね……どなたに許可を取りました?」

 

 イオリとアヤネからの問いかけに、しばし無言となるアコ。だが、今のメンバーを見回して天啓を受けた様に叫んだ。

 

「そう! そうです! アビドスの小鳥遊ホシノさんに許可を取ったんですがええ今はいらっしゃらないみたいですねおそらく入れ違いになったものかと!」

「そんな話聞いてたかな〜おじさんもいい歳だし覚えてないな〜」

 

 話し込んでいる一同の背後から、ホシノが現れる。口ぶりは穏やかではあるが、おそらく話など来てないことを把握した一行はジト目で風紀委員たちを見る。風紀委員たちもアコが話を通していない事を理解したのだろう。現場には来ていない自分たちの上司にため息を吐きたくなる気持ちを覚えた。皆からの無言に耐えきれなくなったのか、アコは逆ギレをする様に怒鳴った。

 

「ええ! 確かに許可は取っていませんでした! 申し訳ございません! ですが最近万魔殿からの突き上げが激しくて忙しかったんですよ……! 便利屋を捕まえるぐらいなら後から言えば大丈夫だと思ってました! ……ふぅ」

 

 大声を出して気分が紛れたのだろうか、声の様子からどこか晴れやかな感じすら思わせる内容に、アビドスと風紀委員会の一同は思わず唖然とするのであった。なんだが急激にやる気が萎えた一行だが大切な事に気が付く。先ほどまでいた便利屋68がいなくなっているのだ。どうやら先生のおかしなやり取りを見ている間に逃げ出した様で痕跡が跡形もない。ゲヘナの風紀委員たちは来た意味が無くなったことを理解し、うんざりしながらも撤収の作業を進めるのであった。

 

 

 

「アコ、仕事が溜まって疲れてるのは分かるが連絡はすべきだぞ。今回は一歩間違えたら撃ち合ってもおかしくなかった。疲れてんなら俺を呼んでもいい。だから……」

「ええ、忠告ありがとうございます先生。……先生のイオリに対する態度のおかげで冷静に話し合いが出来てよかったです」

「ぐっ、うう……」

 

 アコを諭そうした先生は、イオリに対する気色の悪い態度という痛烈なカウンターを喰らい、思わず口を噤んだ。今まで経験した事がない感情に襲われたとはいえ、自らがやった事に間違いはない。深い反省に襲われつつ、風紀委員たちの撤収作業を手伝う先生の元に、風紀委員長のヒナがやってくるのだった。

 

「はぁ……アコが独断行動をしたって聞いたから急いで来たけど……何をやってるの? 先生」

「ん? ヒナか? 一応話は付いたから色々手伝ってるぜ。ちょうどいい、今回の件についてホシノと話してくれねえか?」

「小鳥遊……ホシノ……」

「どうしたの先生?」

 

 自分の名前を呼ばれたホシノは、先生とヒナの近くに寄ってくる。ヒナがホシノを見るが、その目には深い警戒の色があった。声に緊張を滲ませつつ、ヒナは風紀委員の代表としてホシノに話しかけた。

 

「今回の件、誠に申し訳ない。部下を御し切れなかった私の責任だ。叶う事なら寛大な処分をお願いできないだろうか」

「ん〜まあ榴弾で壊れたところの修理費用とかを貰えるんならいいかな〜幸いにも戦闘自体は発生しなかったし」

「そう……それならありがたい。……一年の時とはだいぶ違うようね」

「私を知ってるの?」

 

 一年の時の頃を聞かれたからだろうか、ホシノの眠たげな目が少し細くなる。空気が少し強張ったのを感じたのか、先生が再度二人の元にやってきた。

 

「おう、知り合いだったのかお前ら?」

「いえ、私が情報部にいた頃に各校の注意すべき人たちを調べてただけ。その中には……貴女の名前もあったわ」

「うへ〜おじさんの若気の至りだね〜 でもゲヘナの風紀委員長ほどの人にも知られてるなんて照れちゃうな〜」

 

 誤魔化す様なホシノの言葉に、じっと目を見るヒナ。だが、数瞬経つと目を逸らし先生を見上げる。補填については正式に書式でやり取りをすると告げたヒナは、少し先生と二人で話がしたいと連れ出すのだった。

 

「先生、今回はごめんなさい。迷惑をかけてしまったわね」

「いや……迷惑をかけたって言うなら俺の方こそ……イオリにはすまねえって言っておいてくれ」

「……? まあいいわ。先生、伝えたい事があるの」

 

 そう言うと、ヒナは周りに聞こえない様に声を顰め先生に伝える。

 

「先生はカイザーコーポレーションって知ってる?」

「ああ、今度ぶちのめす予定だ。……ヒナのところでもなんかあったのか?」

「いえ、そう言うわけではないのだけれど……これは万魔殿もトリニティのティーパーティーもおそらく掴んでいない情報だからよく聞いて。アイツらはアビドスの砂漠で何かやってるわ」

「砂漠でか? ……目的が読めねえ、調べに行くしかねえな。ヒナはこの情報を俺に教えても良かったのか?」

「本来ならば教えるつもりはなかった。でも、先生がアビドスの生徒を手伝ってると聞いて伝えた方が良いと判断した。生徒の為に頑張ってるんでしょ?」

 

 それを聞くと先生は、目を見開きヒナを見る。ユウカといい助けられてばかりだ。そう感じた先生は、以前と同様に無意識のうちにヒナの頭を撫でつつお礼を言うのであった。

 

「本当にありがとうな、ヒナ。俺は皆に助けられてばっかりだ。ヒナは最近どうだ? 万魔殿からの仕事は減ったりしたか?」

「心なしか少しは減った様に思えるわ。今回は予算を減らされない様にする為の実績稼ぎとしてアコが暴走しちゃったけど、前よりは楽になった……かもしれない」

「そうか、あんまり酷い様なら俺に言ってくれ。前はあんまり上手く言えなかったが、イロハあたりと相談してみっからよ」

「……ええ」

 

 会話を続けていた先生とヒナだが、先生はヒナを撫でていたことに気が付く。先ほどイオリにああいった態度をとったにも関わらず、セクハラとも取られない事をしていると考えた先生は、猛省しつつ手を引っ込めようとした。だが、手を引こうとする先生の手に合わせて、ヒナが頭を動かす。無意識のうちに先生の手を受け入れる様な行動を取っていたヒナは、自らの行いに気づきポッと顔を赤くする。されども先生の手を拒む様子はなかった。恐る恐る頭を撫で続ける先生と、それを受け入れるヒナは少しの間、無言の時を過ごすのだった。

 

 遠くからそれを眺める者がいた。金と蒼の瞳を持つ者は、大人の男が信頼に足りるかどうかを観察をするかの様に、二人を見つめ続けていた。

 

 

 

 

 ゲヘナの風紀委員たちが撤収し、柴崎の店長を病院に連れて行ったアビドスの生徒たちは驚愕する事を聞く。なんと店長は以前から退去を促されていたというのだ。アビドスの生徒会が土地を所有していたと考えていた一行は、土地すらもカイザーコーポレーションに奪われていた事実を知る。借金を減らすべく土地の売却をするが、価値が少ない土地を売ったところで二束三文。そしてまた借金の返済に充てるために土地を売る。その悪循環に陥ってしまった以前の生徒会は、おそらくカイザーの悪辣な罠に引っかかってしまったのだろうと話し合う一同は怒りを露わにする。先生もそれを聞き、先ほどヒナから聞いた砂漠でカイザーが何かをやっている事を伝える。そして一同は準備が出来次第、砂漠に偵察に行くと決断するのだった。

 

 

 

 

 

「ホシノ先輩」

「おっ、どうしたのかなシロコちゃん。おじさんに何か用でもあった?」

「これ……どういうことなの?」

 

 シロコが手に持っているのは、ホシノのバッグを漁って出てきた退学届だった。退学届を見たホシノは、されど動揺する様子もない。その態度を見て、シロコは噛み付く様に話す。

 

「ホシノ先輩はああいう事があった時に遅刻する様な人じゃない……! バッグを漁ったのは申し訳ないと思うけど、見つけたからには聞かせてもらう。これは、どういうこと?」

「ん〜、そうだね。ある意味お守りみたいなものかな。……シロコちゃんに持ってもらえるなら安心だ。使う予定は暫く無いけど、持っててもらえると嬉しいな」

「だから……!」

「ホシノ先輩〜、シロコ先輩〜どこにいるんですか〜?」

 

 ノノミからの呼びかけを聞き、口を閉じるシロコ。そんなシロコを見て、ホシノは温かさすら感じさせる視線で言葉を紡ぐのだった。

 

「帰ってきたら話すから。今は砂漠を調べに行こう。皆にはちょ〜っと黙っててくれると嬉しいな」

 

 納得はしていないと目で伝えてきたシロコをよそに、ホシノは歩き出す。誰にも見られることないその視線は、固く込められた決意が込められているのだった。

 

 見捨てられたアビドスの砂漠。そこで先生は、自らとは違う大人の姿を見る事になるのであった。

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