弾丸1発で死ぬ先生 作:戦える先生ものが読みたかった
アビドス砂漠。アビドスの市街地が砂に呑まれる以前よりあった砂漠だが、現在はドローンやロボットが闊歩する危険な地帯となっていた。そこでカイザーコーポレーションが何かをしているらしいが、何もない砂漠が故に目的が掴めない。先生と対策委員会は、カイザーの目的を探るべく、慎重に潜入するのであった。
「懐かしいな〜ここも」
「ホシノ先輩はここに来たことあるの?」
「うん、昔はこの辺り一帯はオアシスだったんだよ。アビドス砂祭りも開かれてたんだけどもうとっくの昔に干上がっちゃっててね。アビドスの生徒がもし増えたら再開できないかな〜」
シロコとホシノが喋りつつ襲ってくるドローンたちに銃撃を放ち、破壊していく。行く前に不穏な会話をした二人だが、今は一旦置いておくと考えたからなのか、その動きは普段と変わらずスムーズだ。一行は暫く襲い来るロボットの迎撃をしていたが、干上がったオアシスを抜けると不意に視界が開ける。そしてそこには、優に数キロはくだらない長さの有刺鉄線に囲まれた怪しげな基地があるのだった。
「何よこれ……こんなのが作られてるなんて聞いてない!」
「おそらくはカイザーの何らかの施設なんでしょうけど……やはり探るには中に入ってみるしかなさそうですね〜」
施設の大きさに驚愕するセリカ、間延びした口調ではあるが緊張を滲ませたノノミを始めとして、一同は気を引き締める。どんな用途であろうと、アビドス生が把握していない以上ロクなものではないだろう。慎重に足を踏み入れた一行は、基地の製品にカイザーPMCのマークが記されているのを確認した。カイザーの系列の民間軍事会社は、キヴォトスの生徒とは違い訓練を受けた軍隊の様なものだ。一同は何故民間軍事会社が砂漠に拠点を構えているかを探るべく、歩みを進めるのだった。
警告音、どこかにセンサーが仕掛けられていたらしい。耳をつんざく様な音と共に、基地がにわかに動き出すのを感じる。一旦引こうかと考えるが、向こうの動き出しは迅速であり、気が付けば、装甲車、戦車、武装ヘリ、パワードスーツを着た兵たちに取り囲まれる事態となる。無論、ただ取り囲まれるだけではなく、先生を始めとしたアビドスの生徒たちは一点突破を試みたが、向こうのホームグラウンドな事もあり、突破する事は出来なかった。周りを囲まれた状態で、皆は口を動かし打開策を話し合う。
「何なのよコイツら……! しつこい!」
「そこまで強くは無さそうだけど、結構粘るね。やりにくい」
「皆さん、完全に包囲されています……これは……」
「う〜ん、結構なピンチかも」
「どうしましょうかね〜 ……先生?」
先生はノノミからの問いかけに答えることなく、前を見ていた。砂漠に入った頃から口数が少なくなっていたが、今は完全に無言であり、何かを待つ様に前方を睨んでいる。先生の読みが当たったのか、前方からは赤のラインが入った黒いローブの様なものを着た恰幅の良いロボットの男性が現れる。その男性はこちらをジロリと見やると、ため息を吐くように話しかけてきた。
「どこの鼠が忍び込んだかと思ったがアビドスか。私も暇ではないのだが……まあいい」
声は重く、人を上から押さえつけるような響きがあった。対策委員会の少女たちは見覚えがなかったが、ホシノだけはその人物が誰か知っていた。だが声には出さず、向こうから話されるのを待つ。
「アビドスの副会長を除いては面識が無かったな。私は、カイザーPMCの理事を務めている者だ。まあ、PMC以外にもいくつかカイザーグループの理事を務めている。すなわち、君たちの借金の相手でもある。侵入して好き勝手やっているようだが、何の用かね?」
「アンタが……! 好き勝手やってくれたわね! 何様のつもりなの!!」
「ヘルメット団や便利屋を差し向けたのも貴方がやった事。許せない」
「ほう、最初に言う言葉がそれか」
セリカたちの視線と言葉を受けつつ、男はアビドスの生徒たちへ滔々と語る。私有地に入り込んで破壊行動を行ったのはアビドスであり、不法侵入であると。また、アビドスの自治区を金銭で購入したのは正式な手続きに則ってものである為、何も問題はなくやましい事もない。更にこの砂漠での目的は、古くから伝わる宝を探す事だと、男は彼女たちに告げた。だが、それだけにしては明らかに過剰な戦力を集中させている事実を少女たちは指摘するが、向こうは取りつく島もなく。意にも介さない。そして余裕ぶった振る舞いで男は何処かへ電話をかける。今までやっていなかっただけで、少女たちの事などどうとでも出来たと証明する様に大人の悪意を見せつけるのだった。
アビドスの生徒会室でオペレートをしていたアヤネにカイザーローンからの電話が繋がる。学校の信用が落ち、来月からの利息は従来の3000倍にもなると。呆然とするアヤネの返答を聞く事なく、電話が切れる。一瞬理解を拒んだ様に立ち尽くしていたアヤネだが、今起こった事を急いで皆に伝える。話を聞くにつれ、現場の四名の空気は重苦しくなるばかりだった。彼女たちは、目の前の男が自分たちを如何様にでも出来ることを心から理解するのだった。
「これで理解したか? 自分たちが誰に楯突いているのかを。……ああ、ついでに利息を払えるか心配になってしまってね。9億の借金の保証金として一週間以内に三億円を支払ってもらおう」
「そんな急に……払えるわけがありません! 利息だけでも精一杯……」
「ならば学校を転校でもしたらどうだ? この借金に塗れたアビドスに固執する理由などどこにもなかろう」
アヤネからの返答を遮る様に、カイザーの理事は言葉を投げかける。皆が怒りつつ反抗するが、カイザー理事は揺らぐ気配すらない。そうして皆からの反論を全て受け流し、アビドスの皆を追い出すべく兵たちに案内させようとするが、黙り込んでいた先生がカイザー理事の視線から皆を遮る様に立ちはだかる。先生は理事の目を見て、問いかけた。
「三つ、質問してえんだが、良いか?」
カイザー理事からの回答を待たず、先生は質問を口から紡ぐ。この声に感情は無く、どこか淡々としている様にさえ聞こえる口調だった。
「まず一つ。俺の生徒が調べてくれた結果、昔から払い続けている利子がおかしい様なんだが、その事については知っているか?」
「ふむ……急に出てきて何を言うかと思えば。借金の利子については、当時の生徒会と取り交わした書面がある。それに基づいての請求にすぎないのだから、調べる意味など無いと思うのだがね」
「……あくまでシラを切るつもりか?」」
「何を言っているか分からないが……そこまで言うならうちの税理士に調べさせるとしよう。時間はかかるだろうがね」
「そうか、分かった」
では二つ目と、先生は質問を続けるが、纏う空気は先ほどより明らかに重く、鋭くなっていた。アビドスの生徒たちは自ずと悟った。先生は完全にキレつつあると。
「二つ。さっきアンタの指示で借金の利子が急に増えたが、撤回するつもりはねえか?」
「しつこい男だな。貸し手が下した結論だ。アビドスという学校の信用が落ちてしまったのだから仕方がない。社内のルールに従った内容なのだから、撤回も何もないだろう」
「……そうか」
今や先生が纏う雰囲気は、黒くおどろおどろしい様を幻視するほど重くなっていたが、理事もさる者、威圧感など全く感じていないかの様に振る舞っている。そこには確かにカイザーグループのいくつかの理事を務めているだけの胆力があった。慌てつつあるのは少女たちの方だ。いくら先生が強いからといって、この基地の勢力は異常だ。正面からやり合ったら勝てるわけがない。そう判断した生徒たちは悔しい思いを飲み込みつつ、先生に今日は引こうと声をかけようとした。だが、それより早く先生が三つ目の問いかけを行なった。
「三つ、この程度の戦力で言う事を聞かせられると思ってるのか?」
「は?」
理事は思わず自分の耳を疑った。眼前のこの男は何を言っているのだ? 弾丸1発が致命傷になる脆弱な存在の癖に、大層な口を利いている。言葉の意味が脳に浸透していくにつれ、笑いを堪える事が出来ず、遂には理事は爆笑しながら返答を返すのだった。
「クッ、ククク、はあ〜っはっはっは!! それは非常に愉快なジョークだな! 噂はかねがね聞いているよシャーレの先生。生徒たちの武器を壊して先生ごっこをしていると! 確かにその膂力は目を見張るものがあるが、我がPMCは数百両の戦車! 数百名もの選ばれし兵士たち! 数百トンもの火薬に弾薬! と、先生一人殺すのに十分過ぎるほどの戦力がある! むしろ私が聞きたいものだ、この兵力に素手で何とかなると思っているのかね?」
「そうか、何とかなると思ってんだな」
返答を聞いた先生は、後ろを振り返るとホシノの目を見て、真剣に指示を伝えた。
「お前たちは一旦、全力で防御に徹せ。そして、隙が出来たらアビドスまで逃げるんだ。分かったな」
「待って! 先生! 勝てるわけがない! こんなのを相手にしたら殺されちゃう! お願い一緒に……」
いつもの様子をかなぐり捨ててホシノが叫ぶが、先生は嬉しげに微笑むと皆を頼んだと穏やかな口調で告げた。そして、先生は理事に向き直り、黒く溜め込んだ怒りを爆発させるかの様に解き放つのだった。
硬く握り締められた拳は、手のひらの中に鋼鉄があったとしても一瞬で圧縮されるだろう。拳に繋がる腕の筋肉は、それぞれが金属であると言われても納得できるほど、硬く滑らかで引き締まっている。鍛え上げられた上半身を支える腰は、直角に近いほど捻られ、込められた力が解放される瞬間を今か今かと待ち侘びている。腰に繋がる太ももや脚は、力を余す事なく全身に伝える為、地面を深く踏み締め、何があっても揺らぐことのない堅牢さを保っていた。
──そして、解放の時。音を置き去りにするかの様な拳は狙いを過たず、カイザー理事の顔面に吸い込まれ、破裂。至近距離から砲弾を直撃させた様な轟音が鳴り響く中、カイザー理事の全身は建物の壁を貫き、幾度目かの建物でようやく止まる。誰もが目の前の光景を理解できず、沈黙が流れるが、ようやく事態を把握し、銃を向けたPMCの兵士たちに先生は告げた。
「お前ら、ぶっ潰してやる」
目も眩む様な怒りの中、アビドスの生徒を守る為、先生の戦いの火蓋は切って落とされたのであった。
キヴォトスの生徒を騙す大人たちを真っ向からぶん殴りたい、そうした思いがこの小説の出発点です。