弾丸1発で死ぬ先生   作:戦える先生ものが読みたかった

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サンクトゥムタワーの奪還と筋肉では解決できない事

 

「なーにがあんのかねえここには」

 

 数多の不良生徒達を薙ぎ倒し、サンクトゥムタワーに到着した先生だが、目的となるものはシャーレの地下にあると聞き、独り言を呟きつつ階段を下っていた。ユウカ達も先生の護衛をすべく、先生に付いてきたがっていたが、地下で何が起こるか分からないため、無理やり地上での警備をお願いし、先生は更なる地下へ下るのであった。

 

 歩くこと数分、ようやく部屋に着くが、部屋には狐面をした不思議な少女がいた。降りてきた先生に気がついていない様で、何やらぶつぶつと呟いている。先生は一瞬声をかけるか迷ったが、このまま無視をする訳にもいかないと思い直す。生徒に挨拶をしない先生などいるわけもないと思ったからだ。少々の緊張を持ち、彼女に話しかける。

 

「お前、あー、いや、君はここで何してんだ?」

「あら、追っ手が来ましたか、これの壊し方がまだ分かっていないので少々静かにしてもらいます……」

 

 狐面の少女は振り返ると言葉を途中で切り、停止した。先ほどのリンやユウカ達の反応から察するに、先生の姿に驚いたのだろう。全身を隙間無く鍛え、太く、力強い筋肉を持つ先生の姿は、キヴォトスではさぞや奇異に映るに違いない。停止した少女からの返答を待っていた先生だが、狐面の少女は何やら急に慌てだし、あろうことか失礼しましたの一言を残し、飛び出していってしまった。先生は、逃げ出すほどに怖がられたのかと思い、内心傷つくのであった。

 

(なんですのあの殿方は……! 全身全てが鍛え上げられ、佇まいはまるで巌の様! 身体と同様にゴツゴツとした顔立ちですが、私を見る眼差しは穏やかな日差しを思わせる優しさ……こんな殿方がいて良いんですの!? ダメですわ話なんて出来ませんわ! こんな格好では失礼に当たりますもの一旦帰ってきちんとおめかししてそれから……)

 狐面の少女、キヴォトス七囚人の名を冠する狐坂ワカモは、この先訪れる幸せの予感を感じながらシャーレを飛び出した。彼女の波乱に満ちた初恋は、ここから始まったのである。

 

 

 

 

「お待たせしました先生。何かございましたか?」

「いやぁ、なんつったら良いんだろうな……まあ大事じゃなかったよ」

「……? まあ良いでしょう、先生、こちらを」

 

 地下に到着したリンは、先生に声をかけながらとある物を差し出す。先生がリンが差し出してきたものを見ると、見た目は普通のタブレットの様だった。これはサンクトゥムタワーの権限を回復させることが可能なタブレットで、連邦生徒会長が残した特別な物であるとの説明を受けた先生は、落とさない様に慎重な手つきでタブレットを受け取った。

 

「これが“シッテムの箱”です。普通のタブレットに見えますが製造会社、OS、システム構造のどれも不明のとなっています。これは先生の物で、使用すればタワーの復旧が行えると連邦生徒会長から聞いております」

「こんなもので出来るもんなんだなぁ……あー、リン、タブレットを起動する時ってどうすりゃあいいんだ……?」

「…………今の時代タブレットを起動したことが無い人がいるのですね。まずは側面のボタンを長押しして電源を入れます。その後にホームボタン、ああ下の丸いボタンに指を合わせて、そうです」

 

 リンの説明を聞き、分厚い指で苦労しながら先生がシッテムの箱を起動する。

 シッテムの箱は何事もなく立ち上がり、その後、パスワード入力画面が表示された。パスワードについては何も知らないと一瞬考えた先生だが、数瞬後、まるでそれが当たり前であるかの様に、脳裏に浮かんだ言葉を入力するのであった。

 

 ──我々は望む、七つの嘆きを

 ──我々は覚えている、ジェリコの古則を

 

 シッテムの箱が起動する。各種機能が立ち上がり、メインオペレータシステムのA.R.O.N.Aに変換される。

 

 

 

 

 部屋の一部が崩れた教室だ。空は澄み渡る青空で、見ているだけでも心が澄み渡る様な気分になれる。だが、何よりも目を引くのは教室の中で居眠りをしている女の子だ。水色の髪で左目を隠した少女は気持ちよさそうに眠っており、何やら寝言も呟いている。先生は、このままずっと見ていたいと一瞬思ったが、心を鬼にし、少女を揺らして起こした。数瞬ほどぼんやりしていた少女だが、こちらを見る目が焦点を結ぶと、慌てた様に話しかけてきたのであった。

 

「貴方が先生ですか……うわあ! マッチョですね!」

 

 少女の歯に着せぬ言い方に苦笑しながらも、先生は返答を返す。

 

「ああ自慢の筋肉だ、ところでここは何処で、おま、君は誰だ?」

「えっと、その、あの! わ、私はアロナです! このシッテムの箱のシステム管理者で、メインOS、そしてこれから先生をアシストする秘書です!」

 

 少女、アロナは小さい背を伸ばし得意そうにそう言った。子供が背伸びをしている様で微笑ましいが、先生にとって、少女が言った言葉には疑問点が多々あった。咄嗟に質問をしようとした先生だが、少女が満面の笑みを浮かべながら紡いだ言葉の前では、口を噤む事となるのだった。

 

「やっと会うことが出来ました! 私はここで先生をずっと、ずーっと長い間待っていました!」

 

 少女の目が、空をかける星の様に光り輝く。先生はどういう事情があるかまるで分かっていないが、どうやらアロナを待たせてしまったらしいと察した。ならば待たせてしまった詫びに、こちらも返答せねばなるまいと、アロナにも負けない様な大きな声で挨拶を交わすのであった。

 

「おう、俺は大加美だ。何やら分からんが待たせちまった様で悪いな。これからよろしく頼む!」

「はい、これからよろしくお願いします!」

 

 アロナは、弾ける様な笑みを浮かべそう言った。

 

 互いの挨拶が終わると、先生は先ほど思った疑問を改めて問うた。返答を行おうとしたアロナだったが、結局アロナ自身にもシッテムの箱がどういう理屈を持って人を中に招いているかは分からず、質問に回答する事が出来なかった。だが、生徒会長が残したオーパーツなだけあり、アロナの機能は凄いらしい。ありとあらゆる面でサポートする事が可能とのアロナの熱弁を聞いた先生は、細かな疑問を一旦全て棚に上げ、“そういうモノ”だと認識することによって現状を受け入れるのだった。

 

 

 

 

「先生! それでは形式的ではありますが生体認証を行います! こちらの方へ来てください!」

 

 アロナはまるで晴れ渡った青空の様な明るい声で先生を誘う。シッテムの箱の生体認証を行なうらしい。先生はアロナの指示に従うべく、近くに寄る。

 

「さあ、私の指に先生の指を当ててください!」

 

 先生が差し出した太く、厚い指は、幼い少女の様な姿のアロナの指とは比べ物にならない大きさだった。先生はゴツゴツした指でアロナを傷つけない様にと、慎重な動作で自らの指をアロナの指にそっと押し当てる。これで指紋を確認し、登録を行なうらしい。登録中、指紋を目視で確認するアロナは可愛らしい様子だが、少々気になる様な言葉を言っていたので、先生は若干不安を覚えた。うんうん唸りながらも無事に登録を終えたアロナは、得意げな顔をして先生へ笑みを向けるのだった。

 

 登録を終えたアロナに、先生は現状の問題を伝える。連邦生徒会長の失踪から始まったサンクトゥムタワーの制御権の喪失、それに伴うキヴォトス全土の治安の悪化など、ざっくばらんに話した先生は、これらをなんとか出来ないかとアロナに尋ねる。アロナは、連邦生徒会長の失踪については情報が無いが、タワーの制御権については対応できると自信満々に回答し、早速行動を開始するのだった。

 あっという間にタワーの権限を取得したアロナは、連邦生徒会に権限を移管していいか先生に尋ねてきたが、先生は悩む様子もなく承認を行なった。重ねて、リン達が困っている様だったので、なるべく早く権限の移譲を終わらせてほしいとアロナに頼むが、彼女が得意げな顔でもう終了したと回答するのを聞き、目を剥く事となる。あまりの早さに内心驚いた先生だったが、アロナの物欲しそうな目を見て、頭を撫でまわし、その仕事ぶりを褒め称えるのであった。

 

 

 

 

「制御権の確保が確認できた様です」

 リンからの声を聞き、先生は意識を浮上させる。どうやらアロナとの教室での会話は、リンには認識出来ていなかったらしい。

 リンはサンクトゥムタワーの権限を復活させた先生の苦労を労い、連邦生徒会を代表して感謝を述べた。更にそのお礼も兼ねて、今復旧したばかりの連邦捜査部シャーレの施設を先生に案内するのだった。

 

 

 

 

「リン、色々案内してくれてありがとな。それで、俺ぁ先生としてこれから何をすればいいんだ?」

「先生はシャーレとしての活動をお願いしたいのですが、シャーレとしての決められた業務はありません。シャーレはキヴォトスのあらゆる学園に出入りでき、生徒達を加入させる事も出来ます。ですので、先生は思うがままにやりたいことをやって頂く、という形になります」

「おいおい、そんなんで良いのかここは……」

「その権限があるので構いません。ですが、何故この捜査部を連邦生徒会長が作成されたかは不明です。ですので、先生には当分の間、キヴォトスで起きている問題の対応をお願いできないでしょうか。情けない話ですが、連邦生徒会長一人が失踪しただけでキヴォトスの治安は悪化の一途を辿っています。先生にはこの対応をお願いしたく……」

「リン、そんなに申し訳なさそうにする必要はねえ。俺は曲がりなりにも先生な訳だし、生徒達の問題を解消するのは当然のことだ」

「……ありがとうございます、先生。そう言ってくれると信じておりましたので、最近届いている苦情の数々は書類にして机の上に置いておきました。後ほどご確認ください」

 

 そこまで言うとリンは軽く微笑んだ。どうやら都合がいい様に使われたと気付いたが、どうせ生徒に関することだ。任命されたからには精一杯努めさせてもらおうと、先生はやる気を新たにするのであった。

 

 

 

 

「おお! お前ら、じゃない君たちも今日はありがとな! おかげで色々助かったぜ!」

「不良生徒達を制圧したのはほとんど先生がやったことですけどね……」

 

 駆け寄ってきた先生の言葉を聞き、ユウカがぼそりと呟く。サンクトゥムタワーが復旧したことを見届けたユウカ達は、それぞれの学園に戻ろうとしているところだったが、先生が走ってきたの見て、足を止めた。先生は走ってきた勢いのまま、彼女達に言葉を投げかける。

 

「シャーレの先生として正式に権限が付与されたみてえだから、改めてこれからよろしくな。ああ、それと近いうちにそれぞれの学園に挨拶に行かせてもらうつもりだから、後で都合が良い日を教えてくれると助かる」

「はい、かしこまりました先生。訪問に来られる際は、是非とも我がトリニティ総合学園に立ち寄ってください」

「ええ、先生でしたら歓迎します」

 

 ハスミとスズミが、トリニティへの訪問を歓迎する言葉を述べ、お辞儀をした。その二人に続いて、チナツも母校のゲヘナへ誘う言葉を投げかける。

 

「私も本日のことは風紀委員長にお伝えします。ゲヘナ学園にもいらっしゃってくださいね」

 

 筋金入りのゲヘナ嫌いであるハスミは、普段であれば、チナツの言葉に反論する様に、一言ゲヘナについての悪評を述べるところだったが、チナツがゲヘナの治安維持部隊である風紀委員会に所属している事、学園の統治機構である万魔殿に苦労させられていることを会話して知ったので、言葉を控えた。ゲヘナにも真面目な人間はいるとの知見は、今までの態度を改める一助になったのである。スズミは同じ学園に所属している事もあり、ハスミのゲヘナ嫌いについては軽く聞き及んでいたが、噂で聞いていたものとはだいぶ異なる態度に少し驚くのだった。

 

「あっ、ちょっと! うちのミレニアムサイエンススクールにも来てくださいね先生! 先生にはちょっと合わなそうなところかもですけど……」

 

 ユウカも慌てて先生をミレニアムに誘う言葉を言う。先生の屈強な肉体とミレニアムの風潮はミスマッチかもしれないが、キヴォトス全土を股にかけるシャーレの先生とのパイプは繋いでおくに越したことはない。暴力沙汰が得意なC&Cあたりを紹介すれば会話も弾むかも知れないと考えたユウカは、早速、今後の予定を組み立て始めるのだった。

 

 

 

 

 日が暮れ、今日協力してくれた生徒達の帰りを見送った先生は、シャーレの部室に戻ると深刻な顔でアロナに言った。

 

「アロナ、重大な問題がある、とても重要な事だ」

 

 先ほどまでの豪放磊落そのものな雰囲気をすっかり消し、深刻そうな顔をする先生を見て、アロナも気を引き締める。

 

「どうしたんですか、先生。アロナが何でもお手伝いするのでおっしゃってください」

「書類が……」

「はい?」

「書類の書き方が……分からん……」

「あー、その、アロナも書類については……ごめんなさい……」

 

 先生はリンに再び連絡をとり、呆れられながらも書類の作成方法について詳しい人物を紹介してもらった。本日は夜も更けて来たので、明日以降、詳しい人物が教えてくれるらしい。

 

「なあアロナ、俺ぁこんなにも無力だ……」

「先生……」

 

 類稀な筋肉を持ってしても、正しい書類の書き方を知らねば敗北せざるを得ない。筋肉で解決できない問題の前にして、先生は無力を噛み締めるのだった。

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