弾丸1発で死ぬ先生   作:戦える先生ものが読みたかった

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激闘、そして休戦

 

「ウオオオオオオ!!!!!!!!!」

 

 熱砂の中に男の雄叫びが響き渡る。キヴォトスにおいて、素手での戦闘を好む者は少ない。一部の例外を除き、大抵の者は銃火器を用いて戦闘を行うだろう。だから、少女たちは見た事がなかった。素手での戦闘がいかに原始的で、いかに恐怖を煽るものであるかを。

 

 ──殴る、蹴る、脚を掴んで投げ飛ばす。先生がやっている事は言葉にすればこの程度だ。だが、その動作における破壊の規模が桁違いだった。

 カイザー理事を殴り飛ばした先生は、そのまま兵士たちを蹂躙にかかる。兵士たちが持っている銃を発砲出来たのは、普段の訓練の賜物と言えるだろう。だが、今回の先生に対しては余りにも対応が遅いと言わざるを得なかった。先生は一瞬でトップスピードに乗ると、地面と身を平行にするかの如く身を屈め疾走。尋常じゃなく鍛え上げられた体幹のおかげで、身を屈めながらの走りでもその足取りにブレはない。頭上を弾丸が通り抜けていくのを確認した後に身体を戻し、驚きふためく兵士たちへ真っ向から衝突をする。

 相手が生徒ではないからだろう。武器ではなく兵たち本人に拳を叩き込む。凄まじく太い腕から放たれる拳の衝撃は、先ほどのカイザー理事に喰らわせたものと比べてもその威力に遜色はない。まるで冗談かのように吹き飛んでいく味方の姿は、周りの兵たちの恐怖を煽るのには十分だった。

 ここで、一つの幸運が先生に味方をする。キヴォトスにおいての戦闘は銃火器がメインであると先ほど述べたが、それが故に超至近距離においての戦闘方法については詳しくないものがほとんどであったのだ。慌てて先生を狙おうと銃を向けるが、周りの兵が邪魔で上手く照準を合わせられない。または無理やり銃を撃ったはいいが、周辺の別の者に当たるだけで先生にはかすり傷すら負わせられない結果となるなど、兵たちの動揺が見て取れる。

 その好機を利用し、一人一人確実に兵たちを減らしていく先生だが、不意に頭を上げると兵たちが残っているにも関わらず退避。その一瞬後には、過剰なほどの弾幕が先生が立っていた場所を襲うのだった。

 

 分厚い装甲に身を固めた車からは複数の銃口が向けられ、先生を狙っている。脚を止めれば一瞬にして蜂の巣になるであろう事は想像に難くない。高い機動力を持つ装甲車だが、身を隠した先生の姿を追うため脚を止めてしまったのが悪手だった。

 遮蔽物を利用し、一瞬で車の横まで走った先生は、その勢いのまま横合いを蹴り付ける。生身と金属が衝突したとは思えないほどの轟音が鳴り響き、装甲車は横転。中に搭乗している者も何が起こったか把握出来なかっただろう。そのまま横転した車から這い出てくる兵たちを一人ずつ潰していく。戦闘の決着には未だ遠かった。

 

 

 

 

「何よ……アレ……」

 

 慄いた声でセリカが呟く。戦闘を開始した瞬間、ホシノの指示の元包囲に穴を開けるような形でなんとか脱出した対策委員会たちは、遠目から先生の戦いを見守っていた。いざとなったら助けに入ろうと思ったためだ。だが、先生の戦い方は少女たちの想像を超え野蛮なものだった。

 兵士たちも無能ではない。むしろ慣れない相手に対し、対応している方だろう。それでも数を減らしていくのは先生が余りにも強すぎたからだ。吹き飛ぶ兵士たち、飛び交う銃弾や手榴弾、先ほどは装甲車を蹴り転がしているのすら見えた。下手に手助けをすれば先生の邪魔になる。そう考えた一同は、遠目から様子を伺い続けているのだった。

 

「このままだとマズいね……自分たちの基地だからまだやってないけどヘリが出てきて爆撃されたら終わりだよ。それまでになんとか先生を……」

「ホシノ先輩……?」

 

 シロコはホシノの様子が先ほどからおかしいことに気が付く。普段の眠たげな様子とは違い、目つきや雰囲気が鋭くなっている。そのまま声をかけるか迷っていると、付き合いが長いノノミがホシノに声をかけた。

 

「ホシノ先輩、少しリラックスしましょう。今の貴女はあの頃みたいですよ」

 

 ノノミの穏やかな声を聞き、ハッとするホシノ。親しい人が死ぬことを考えてしまったからだろうか。昔の、あの頃のような自分に戻りつつあると指摘される。セリカやシロコ、オペレートをしているアヤネも動揺している中、曲がりなりにもリーダーをやっている自分が揺らぐわけにはいかない。そう考えたホシノは、普段の様子に戻ろうと務めるが、その目つきだけは鋭いまま戦場を俯瞰するのであった。

 

 

 

 

 敵が多い。かなりの数の兵士を薙ぎ倒した先生だったが、続々と湧いてくる兵士や装甲車を見て気合を引き締め直す。体力はまだまだ余裕があるが、少しずつ対応されつつあるのか弾丸が体を掠める事が増えてきた。この数相手に未だ弾丸を喰らっていない事が奇跡のようなものだが、目的はこの基地にいる敵の壊滅だ。生徒を脅かす障害を必ず排除すると思いつつ、先生は頭を右に避ける。遠くからの狙撃は、頭をずらさなければそのまま脳天を貫いていただろう。人間離れした感覚で狙撃手の位置を把握した先生は、そのまま排除にかかろうと駆け出す。だが、

 

(遂にヘリが来たか。爆撃されるのめんどくせえ、速攻で潰す)

 

 もはや基地に多少の損害が出ても、先生を排除すると決めたらしい。各種銃器やミサイルを積んだ軍用ヘリがヘリポートから飛び立つ。先ほどの狙撃手が先生の位置を伝えたのだろう。遠くからこちらに向かってくるのが見えた先生は、人智を超えた速度で駆け出した。危険だが手出しが出来ない高さのまま爆撃され続けてはなす術が無い。自らの身体を囮にして、最短速度で潰す。そう決めた先生は、ヘリがこちらに向かってくるのを走りながら確認するのであった。

 頭上からの銃撃を躱し、機が来るのを伺う。しばらく銃を撃っていたヘリだが、痺れを切らし遂にミサイルを放つ。着弾したミサイルは広範囲に爆風を撒き散らし、全てを吹き飛ばした。砂が舞い上がり、辺り一面が隠される。だが、それが先生の狙いだった。

 先ほど転がした装甲車の影に隠れ、身を低くする先生。常人であればそれでもかなりのダメージを受けたであろうが、鍛え抜かれた筋肉のおかげでかろうじて耐え切った。砂が舞い上がり、自分の姿が見えない事を確認した先生は、装甲車の扉を引きちぎり両手に持つ。そして、全身の力を使い回転。砂煙を引き裂くような速度で回る先生は、トップスピードに乗ったことを確認するとヘリのローター音が鳴る方向へ扉を投合するのだった。

 撃ち漏らしが無いことを確認するために低く飛んでいたヘリの運転手は、砂煙の向こうから何かが飛び出してくるのを確認し慌てて回避を行おうとした。だが、凄まじい勢いで回転する物体を躱し切る事は出来ず、ローターに物体が接触し、破壊。たちまちにバランスを崩した機体は、地上へ向け墜落する。先生を排除すべく出されたヘリコプターは、その役目を果たす事なくスクラップと化すのであった。

 

 

 

 想像以上に手強い。PMCの理事は、そう評価を改めざるを得なかった。あの場で殴られる事もそうだが、無手でヘリコプターまで落とすのを報告された理事は、シャーレの先生の戦闘力は予想以上であると評価を修正した。あの至近距離で挑発したのは、理性のある存在なら決して手出しはしないだろうと考えていたからだ。

 だが、先生は全く躊躇する事なく、理事である自分をぶん殴った。ロボットとはいえ、キヴォトスに存在する住人である理事は、なんとか衝撃に耐え抜く事ができたが、暫くは動く事ができず部下に救護される事になった。その後、臨時司令室で大言壮語を吐いた者が命を撒き散らす様を見ようとカメラからの映像を逐一確認していたが、かすり傷こそ負うものの全く疲労する気配すらない。自軍への被害を承知で出したヘリすらも撃墜される始末だ。

 兵力こそまだまだあるが、被害金額を考えると無尽蔵に使ってもいいものでもない。理事は殴られた箇所の傷の痛みに耐えつつ、頭を悩ませていたが不意に思い出す。自分と手を組んでいる黒服が小鳥遊ホシノをPMCに誘っていた事を。部下を呼びつけると、ホシノと連絡を取るように伝えるのだった。

 

 

 

 

(攻撃が止んだ……?)

 

 暴れ回っていた先生は、攻撃の手が緩まるのを感じ怪訝そうな顔をする。戦力が途絶えたという事はないだろう。ここの基地はかなりの規模であるし、あの時理事が言っていた言葉はフカシでは無いはずだ。何かを企んでいると考えた先生は、後手に回る前に叩くと脚に力を込めた。だが、ホシノがこちらに駆け寄ってくるのを見て、行動を中止するのだった。

 

「ホシノ! なんでまだアビドスに戻ってねえんだ! 他の皆はどうした!?」

「先生、他の皆は無事だよ。私がここに来たのはさっきの理事から連絡を貰ったんだ。先ほどの利子の件は申し訳ない。こちらの兵を引かせるので先生を説得してもらえないかってね。私たちのために怒ってくれたのは嬉しいけど、このまま続けたら先生が死んじゃうよ……だから」

「ホシノ、それは向こうのでまかせだ。聞かなくていい。俺はこのままアイツらを全員ぶっ潰すつもりだ。あんなヤツらに俺は負けねえ。俺を信じろ、ホシノ」

 

 先生の言葉を聞いたホシノは、一瞬グッと口元に力を込め何かに耐えるような顔をした。そして何かを告げようとしたが、その言葉は口から出る事はなく、俯いて表情を隠した。その二人を見て、遠くから声をかける者が現れるのだった。

 

「良くやってくれたようだなアビドスの副生徒会長。シャーレの先生も健在なようで何よりだ」

 

 顔を怪我しつつもやってきた理事を見て、先生は舌打ちをする。手加減は全くしておらず殺すつもりで拳を放ったが、キヴォトスの住人の例に漏れず頑丈な様だ。先生はそのまま刺し殺す様な目線で睨みつつ、理事に言葉を投げかけた。

 

「どういう風の吹き回しだ? また殴って欲しくてやって来たのか?」

「ふむ、先ほどの言葉を訂正しようと思ってね。いくら会社の決まり事とはいえ、相談も無しに急に利子を上昇させてすまなかった。古くから払われている金額についても早急に見直しを行なうつもりだ。君たちが怒るのも当然だろう。だが、私たちも兵に被害が出てしまっている。そこで、今日のところは手打ちにして後日改めて話合えないだろうかとそこのホシノくんと相談させてもらってね。どうだ、先生?」

「そんな回答をして信じるとでも思ってんのか?」

「無論、信じてもらえるとは思っていない。だが、先ほど殴られた私がこうして顔を出しているのだ。気に食わないならまた殴ってもらっても構わない。これが私が考える誠意の形だ。どうか納得して貰えないだろうか」

 

 理事の言葉を聞き、青筋を立てる先生。コイツらの言葉は全て出鱈目だ。今までの仕打ちを考えてみても、ここで引く意味は無い。そう考えた先生はもう一度、先ほどより強い勢いでぶん殴ろうとしたが、拳を止めるかの様にホシノが服の袖を引くのを感じた。見下ろしたホシノの瞳に浮かぶのは懇願の色。その瞳と視線を合わせた先生は、歯を食いしばりながら拳を放つのだった。

 

 放たれた拳は理事の顔を数ミリだけ外し、空を裂いた。理事も殴られる覚悟はしていると話したが、実際にまた殴られると思ったのだろう。拳が顔に直撃していない事を確認し、細く息を吐く。先生は地獄の底から轟く様な声で理事に声をかける。

 

「…………今日は引く。ホシノの温情に感謝するんだな。だが覚えておけ。さっき言った事を反故にする様な事があれば」

 

 今度こそ潰す。そう告げた先生の瞳は、煮え滾る溶岩が爆発する直前の様だった。無意識のうちに一歩後ろに引いた理事は、震える声で約束すると返した。その言葉を聞くと、先生とホシノは踵を返し基地から離れていくのだった。

 

 

 

 

「先生! 無事!?」

 

 皆の元に戻ると、真っ先に問いかけたのはシロコだった。他の三名も怪我はないかを先生に尋ねる。皆が心配する顔を見て、先生はようやく険しい顔を崩した。そして心配してくれた彼女たちを安心させようと笑いながら言葉を告げた。

 

「おう、あんなヤツらに怪我なんてさせられる訳がねえ。かすり傷こそあるが、こんなもん唾を付けとけばすぐ治る。心配しなくても大丈夫だ」

「先生……でも無茶ばっかりして不安です。セリカちゃんもずっと心配してましたよ」

「んなっ! いや! でも、そう、し、心配するわよ! あんな数相手に一人で挑むなんてバカじゃないの!? 先生はもっと自分の事を大事にしなさいよ!!」

「セリカちゃんの言う通りです! 私たちのために怒ってくれたのは嬉しいですけど、先生はもっと自分の事と見守る私たちのことを考えるべきです!」

 

 ワイワイと騒ぐ一行は、ようやく緊張が解けた様に笑い合う。一緒になって微笑んでいたホシノに先生は声をかけた。

 

「ホシノ、戻ったらお前が抱えてる事話してもらうぞ」

「う〜ん、おじさんが悩んでる事なんて無い……」

「嘘は付かなくていい、皆に言いづらいなら俺一人でも大丈夫だ。アイツらになんか言われてんだろ? 遠慮なんかしなくていいだ」

「…………うん、分かった」

 

 先生の言葉を聞いたホシノは、眩しげに先生を見上げる。まるで手の届かない太陽から言葉を言われたかの様に。そうして、激動の一日は終わりに向けて進んでいくのだった。

 

 

 

 

 数日後、小鳥遊ホシノは失踪した。彼女が書いた置き手紙は、先生に読まれるのを待つ様に、机の上に静かに佇んでいるのであった。

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