弾丸1発で死ぬ先生 作:戦える先生ものが読みたかった
シャーレを出る直前、ホシノが失踪した事を聞いた先生は、自らを殴りつけたい気持ちでいっぱいだった。基地でホシノが自分を止めたのは、自分が犠牲になって物事を収めようとしたからだと察しを付けた先生は、深い後悔に襲われる。
(あの時、かすり傷一つ負わねえでいればホシノは信じてくれたかもしれねえ。つまるところ、俺の強さが足りなかったのが、ホシノがいなくなっちまった原因だ。生徒を不安がらせて何が先生だ、情けねえ……だが)
気持ちを切り替える。今こうして悩んでいる間にもホシノは苦しんでいるだろう。だが、急ぎアビドスへ向かおうとした先生の元へ、一本の電話がかかってくるのであった。
電話口の相手から指示された場所に向かった先生は、そこで異形の者と対峙する。黒い男だった。人間の顔に当たる部分は黒い煙のような物で形成されており、輪郭が定まらない。右目に当たる部分と口元は白く、ヒビが入ったようなラインで顔が形成されている。高級そうなスーツをピシリと着こなしているその姿は、人外である顔と相反して不気味な印象を与えていた。その男は机の上に肘を置き、手を組んで先生を待っている。そして、先生が目の前に来た事を確認した男は、黒い声で語りかけた。
「初めまして先生。私たちは“ゲマトリア”、このキヴォトスを観測し、神秘の探究を行う者です。私の事は……そうですね黒服、とでもお呼びください。小鳥遊ホシノからそう呼ばれていましたが、中々に気に入ってましてね。以後、お見知り置き……」
破壊音。黒服が肘を置いていた机が天井まで吹き飛ぶ。黒服の話を遮るように机を蹴り上げた先生は、怒りに満ちた目で眼前の男に話しかけた。
「お前らが何者かなんてどうでもいいんだよ。聞きてえ事は一つ。ホシノはどこだ?」
「おやおや、到底大人とは思えない対応ですね。私は話し合いをしに来たつもりなのですが……」
「聞こえなかったか? ホシノはどこだ。俺がお前から聞きてえことはそれだけだ。喋るつもりがねえんなら……」
無言で拳を固める先生だが、黒服はその態度が気に召さなかったらしい。辟易とした態度を崩さない黒服に対し、先生は一瞬で覚悟を決める。異形だろうが生きているのなら関係ない。死なない程度に殴り情報を聞き出そうと一瞬で判断した先生は、硬く固めた拳を眼前の男に叩きつけ──
空間に黒い線が
「失礼、争うつもりはありません。このままでは話し合いが出来ないと思い、やむを得ず手を出させて頂きました。まあ出したのは脚なのですが……」
「多少はやるみてえだな……それで、お前は俺に何を求めるんだ?」
「ああ、話を聞いて頂けるつもりになったのですね。でしたら単刀直入に言います。私たちに協力して頂けませんか?」
「……どういう事だ?」
「私たちゲマトリアが、低俗な企業であるカイザーコーポレーションに手を貸していたのは小鳥遊ホシノを手に入れるためだったのですよ、先生。彼女はこの広いキヴォトスでも最高の神秘を持っており、私たちはそれを研究したいと考えておりましてね。それでようやく手中に収める事が出来たのですが……」
黒服は話を切り、先生の様子を伺う。大人しく話を聞いている先生を確認した黒服は、話を続けた。
「小鳥遊ホシノがいなくなったと知れば、先生は助けに行こうとするでしょう。ですが、我々もようやく手に入れた彼女を手放したくは無いのです。ですので、先生には小鳥遊ホシノを見逃すという事で協力してもらいたいのですよ。無論、ただで協力して貰おうなどとは思っておりません。協力の暁には、アビドスが背負う借金を0にしましょう。小鳥遊ホシノ以外の生徒はこのままアビドスへ通い続けられる様に致します。カイザーからの手出しは一切させません。破格の条件だと思われますがいかがで……」
「断る」
黒服の話をにべもなく断ち切る先生。何か言いたげな黒服から言葉が発せられる前に、先生は言葉を発する。
「ホシノが今の状況を心から望んでるってんなら、俺はその意志を尊重するがそうじゃねえ。やりたくねえ事を強制させられてるのを見逃したら俺は俺じゃなくなっちまう。いいか、俺が聞きてえ事は一つだけだ。
先生の言葉を聞いても黒服の態度は変わらない。別の切り口から諦めさせようと、黒服は言葉を投げかけた。
「まだ確認はされていないでしょうが、小鳥遊ホシノは退学届を出しています。アビドスの生徒では無くなった以上、先生が手を出す理由は無いのでは?」
「ホシノが退学届を持ってるってのはシロコから聞いた。だが、俺はそれを受理してねえ。書類に俺のサインが無ければ受理する事はできねえとリンやアユム達からも聞いてる。だからホシノはまだアビドスの生徒だ」
「なるほど……学校の先生と生徒、それは厄介な概念ですね」
先生からの回答にしばし言葉を止める黒服。黒と白で構成された彼の顔色は変わらないが、放つ雰囲気は──疑問と興味。その疑問を解消すべく、黒服は先生に問いかけた。
「何故、先生はそこまでして小鳥遊ホシノを助けようとするのでしょうか。知り合ったばかりの生徒などどうでも良いでしょう。一体どうしてそこまで」
「俺が先生だからだ。それ以上の理由なんて必要ねえ」
きっぱりと言い切る先生に、しばし言葉を止める黒服。目の前の存在を観察するかの様に視線を向ける。だが、いくら考えても分からなかったのだろう。纏う雰囲気のまま言葉を発した。
「先生は……子供の様な考えなのに、大人として責任を取ろうとしているのですね。私が好む様な人物ではありませんが……これはこれで興味深い。いいでしょう、小鳥遊ホシノの居場所をお伝えします。彼女はPMC基地の中心にある実験室に囚われています。“ミメシス”で観測した神秘の裏側、つまり恐怖を……」
「そこまででいい、場所を聞ければ十分だ。今度は時間がある時にでも言え」
黒服からの言葉を切り、先生は背を向ける。黒服が襲ってくるかとも少々の警戒をしていたが、動くつもりはない様だ。先生の背中に向けて、黒服は最後の言葉を発した。
「ではまた、よろしくお願いします先生。次こそは敵対しない事を願っております」
こうして、先生と黒服の会話は幕を閉じたのであった。
「すまねえ、遅くなった。事情は大体分かってる。ホシノがどこに行ったかは聞いてきた。この前の基地に向かうぞ」
アビドスへ着いた先生は、少女達に対し言い放った。ホシノがいなくなった事を知った少女たちは、自分たちのためにカイザーの誘いに乗ったと知り、怒り、悲しんだ。だが、先生が来るまでに少しでも何かをしようと準備を済ませる。準備とはすなわちホシノをカイザーの手から取り戻す準備だ。アビドスのマップを最新に更新し、自らの愛銃の手入れを済ませ、補給を整える。そして、開口一番にホシノを取り戻す宣言をした先生に着いていこうとした。だが、オペレーターであるアヤネの元に、カイザーが市街地を侵攻しているとの情報が届いたのだった。
「先生! カイザーの軍勢が市街地にも無差別攻撃をしてます! 兵士数百名、戦車や戦闘ヘリも数えきれないほどいます! こんなのどうしたら……」
「あのクソ野郎が……!」
先生は迷う。手が足りない。市街地への侵攻をしてきたという事は正式に向かうの準備が整ったという事だろう。無視する事も出来なくはないだろうが、無視してホシノを救いに行けば、滅びかけのアビドスの街は再起不能の状態に陥る。かといってその間ホシノを放っておけば、取り返しのつかない状況になる事も考えられる。ここは無理をしてでも自分が市街地の兵を抑え、シロコ達にホシノを救いに行ってもらうしかない。そう考えた先生はシロコ達に指示を伝えようとした。だが、指示を口に出す瞬間、一本の電話が鳴り響く。先ほどの黒服からの再度の連絡かと思い、電話の相手を見た先生は、意外な相手である事に驚きながら電話に出るのだった。
『悪いユウカ、今忙し……』
『先生、今困ってますよね?』
先生の言葉を遮り、こちらの状況を知っているかの様な口調でユウカが告げる。そのまま先生の返答を待たず、ユウカは話を続ける。
『先生、最近お掃除や洗濯はちゃんとされてますか? 忙しいからといって疎かにしてはダメですよ?』
『ユウカ……? 急に何言ってんだ……? すまねえんだが今は……』
『疎かにしてるんですね?! そうだと思って、お節介かも知れませんが助っ人を手配してます! きっと彼女達なら先生の助けになってくれる筈です!』
先生の言葉をかき消す様な大声でユウカが畳み掛ける。そして、声のトーンを落として伝えたい事を告げるのだった。
『先生、ミレニアムとして正式に応援を送る事は出来ません。だけど、先生が困ってるのは嫌なんです。だから、どうか怪我だけはしないでください。言いたい事はそれだけです。そろそろ着く頃だと思いますので、後は彼女達に引き継ぎます。気を付けて、先生』
電話が切れる。ユウカが何が言いたかったのか疑問に思う先生だが、背後から話しかけられ、振り向いた。その瞬間、ユウカの真意を理解する事が出来たのだった。
「よお、
そこにはメイド服の上にスカジャンを着た生徒、ミレニアムの勝利の象徴ことコールサインダブルオー、美甘ネルが不敵な笑みを浮かべて立っているのだった。
「ネル!? お前、ここはミレニアムじゃ……そうか」
「そういう事だよご主人様〜!」
「手が足りないなら、お手伝いする」
「ええ、セミナーからの依頼を受けて馳せ参じました」
ネルの後ろからアスナ、カリン、アカネも姿を現す。ミレニアムのエージェント、C&Cが先生の手助けをすべくアビドスへ到着した。対策委員会の少女たちも、突如現れたメイド服の集団を見て驚愕するばかりだった。そんな少女たちを見ながら、ネルが再び先生に話しかける。
「ったく、カイザーと派手にやり合ったらしいじゃねえか先生。んな面白そうな事やってるんなら呼んでくれよ。先生には借りもあるんだからな」
「借りといっても……前回の模擬戦か? あの時も言ったがあれは」
「借りは借りなんだよ! あたしは借りっぱなしは気に食わねえ! だから今回の事は渡りに船だったんだよ! 感謝なんてする必要ねえからな!」
「リーダーは結構そわそわしててね〜」
「うわああああ! そんな事してねえだろ!! 適当な事言うなアスナ!」
いつも通りワイワイと騒いでいるC&Cを見た先生の元に、更なる電話が繋がった。無意識のうちに電話に出た先生へ、気品のある声が響き渡るのだった。
『ごきげんよう先生。今、お時間を頂いてもよろしいでしょうか』
『ナギサ……か? 今は……』
『ええ、存じ上げております。カイザーと敵対している事も、今アビドスの市街地へ侵攻されている事も。そこで先生には一つ伝えておきたい事がありまして』
無言の先生に、鈴を転がした様な可憐な声でナギサが続ける。
『近々、我がトリニティは演習を行なう事になりました。そちらの砂漠付近で、砲弾を使った演習をするつもりなのですが……昨今何かと物騒ですし、演習をする生徒へ護衛を付ける事にしたのです。アビドスの皆さんと敵対するつもりはありませんので挨拶に向かわせたのですが……』
「そこから先は私が引き継ぎます」
凛とした声が、電話の内容を引き継ぐ様に続けた。先生が目線を向けると、そこには正義実現委員会のハスミとツルギが立っている。予想だにしていなかった助けが来たのを見て、アビドスの生徒たちは理解が追いついていない様だ。優しく微笑む様にハスミは告げる。
「この前、阿慈谷ヒフミさんを助けて頂いた様ですね。ヒフミさんはあの後、ティーパーティーのナギサ様にアビドスの皆さんが置かれている状況を話して助けになれないかと相談していました。学校を上げて……とは行きませんが、私たち正義実現委員会の一部は、砲撃部隊が演習場所に着くまで先生とアビドスの皆さんのお手伝いをする事が出来ます。先生も久しぶりに会ったかと思えば無茶ばかりして……ツルギも心配しているんですからね」
「ゲヒ! ゲヘ、ゲヘヘヘヘ!!!
……心配しました」
ハスミの声を受けて、ツルギが叫び、一瞬でクールダウンした。先生の顔を見て急激に照れ臭くなったのだろう。くねくねと身体を動かすツルギの顔は林檎のように真っ赤だった。先生の目に力が戻りつつある中、最後の電話が鳴り響いた。
「キキキ、久しぶりだな先生。伝えたい事があるのだが」
「まさかマコトも応援を寄越してくれるのか?」
「なっ、何ィィ!? どうなっているイロハ! 我がゲヘナ以外にも応援に来ている者がいるらしいぞ?!」
「はいはい、ちょっと代わってくださいマコト先輩」
電話口の向こうで叫ぶマコトから、気怠そうな声に電話が代わる。イロハはマコトを無視する様に続けた。
「お久しぶりです先生。面倒なので単刀直入に言いますが、この前アビドスへ無断で侵入したお詫びとして風紀委員会を向かわせてます。適当にお使いください。それでは」
それだけを述べると、イロハは電話を切ってしまった。思わず閉口した先生へ、到着した小柄な少女が声をかける。
「万魔殿から急に言われたと思ったら……また厄介ごとに首を突っ込んでいるのね先生」
「ヒナまで……いいのか? 相手はカイザーだぞ?」
「万魔殿の奴らが何を考えているかは知らないけど、別に構わない。あれだけの相手ならすぐ終わるでしょうし」
三大校の一角、強者としてキヴォトス中に名を馳せる空崎ヒナも風紀委員達を伴って現れる。流石に全員ではない様だが、それでも相当な戦力だ。先生は改めて周りを見回した。
C&C、正義実現委員会、風紀委員会、キヴォトス三大校の中でも戦闘力の要となる一団が勢揃いしている。本来ならば絶対に協力し合うはずが無い集団であるが、今は先生を手助けするという目的の元、集まった。広い場所に出た先生は、皆を見回しながら声をかける。
「お前ら……改めて言うぞ。相手はカイザーコーポレーションだ。かなりの数の戦力が集まってるらしい。本当に良いの……」
「前から思ってたんだけどよ、先生は見た目とキャラが合ってねえ時があるよな」
神妙に話し始めた先生の言葉を遮り、ネルが言う。突然何を言い出すのかと周りがネルに視線を集めるが、ネルは全く気にしないで話を続けた。
「そんな豪快そうな見た目してて強いんだから、もっと強引にお前らグダグダ言わず着いてこい! とか言えば良いんだよ。いちいち許可なんて取る必要はねえ。ここまで来てる奴らなら今から引かねえって分かるだろ?」
「つまりリーダーって……そういう人が好みなの?」
「なっ?! バカ! 違えよ! あたしが言いたいのは……!」
アスナの言葉に俄かに辺りが騒がしくなる。またもや顔を真っ赤にして怒鳴っているネルを見て、周りの少女たちが大胆だと囁き合っている。今まで関係する事の無かった少女たちだが、皆年頃の娘だ。ツルギなどは自分の同志を見つけた様な顔でテンションを上げている。そんな姿を見て、最近険しい顔をしてばかりだった先生は、顔を緩めた。アビドスの皆もようやく心が追いついたのか、自分たちを手助けしてくれる人がこれほどまでに集まった事に感動している。だんだんと大きくなる騒ぎを前に、先生がその巨大な手をパンと打ち鳴らした。
急に静かになる一同を前に、先生が改めて言葉をかける。
「ありがとうな、お前ら。俺はお前たちの様な生徒を持てて本当に嬉しく思っている。敵は強大だ。怪我をするかも知れねえ。だけど、俺は小鳥遊ホシノを助けたい。だから……」
一度声を切り、皆の目を見た先生は、気合いを入れるかの様に大声を出す。
「カイザーをぶっ潰す!!
お前ら着いて来い!!」
強者たちは各々の言葉で返事を行なう。そこには緊張の色は皆無だった。皆を引き連れて、一同はカイザーの元へ向かう。
かくして、アビドスにおけるカイザーとの戦いは、最終局面に突入するのであった。
誠に恥ずかしながら、文章整形の機能を教えて頂きました…
今までより多少は読みやすくなってるかと思います。
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