弾丸1発で死ぬ先生   作:戦える先生ものが読みたかった

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それぞれの戦い

 

「あっ、あの! 私たちからも言わせてください……! どうか、アビドスに力を貸して下さい! よろしくお願いします!」

 

 先生たちが歩き出そうとしたところ、ホシノを除いた対策委員会の少女たちは慌てて言った。助けなど来ないと考えていた少女たちにとって現状は夢を見ているかの様だった。どこか地に足が付かないような雰囲気で事態を眺めていた少女たちだが、今からカイザーと一緒に戦って貰う相手に失礼な事など出来ないと、慌てて頭を下げる。それを見た周りは笑いながら、頭を下げた少女たちに告げるのだった。

 

「気にしないでください。ティーパーティーのナギサ様からも許可は頂いていますので、今回は私たちの“正義”にかけて協力させて頂きます」

「私たちは、前回アビドスに不法侵入してしまった借りを返すだけ。むしろ万魔殿の奴らがろくでもない事を考えているかもしれないから気をつけてほしい」

「ご主人様の助けになるのはメイドの務め。そのご主人様から命令を頂いた以上、謹んで協力させて頂きますわ」

 

 ハスミ、ヒナ、アカネが礼は要らないと返答するが、その目線はどこか優しかった。それぞれの学校からカイザーの所業については軽く聞き及んでいるらしい。シロコたちはなんて人格が出来た人たちなのだと感動しつつ、重ねてお礼を述べる。市街地まではあと僅かだった。

 

「そうだ先生! エンジニア部から先生宛のプレゼントを預かってきたよ!」

「おう? 俺にウタハたちからか?」

「うん! 何でもパワードスーツはまだ出来てないけど、まずはこれをお試しで使って欲しいんだって!」

 

 アスナがそう言うと、先生に少し大きめの箱を手渡す。先生が中を開けて覗いてみると、そこには先生用に作られたグローブとシューズが入っているのだった。

 中にはウタハが書いた手紙も入っており、移動しながら読み進める。どうやらミレニアムの最新素材を存分に用いた逸品らしい。グローブは付けていることを忘れるかのような軽さかつ、衝撃を感知すると硬化するという代物だった。シューズも同様で、非常に優れたグリップ力を持ち、銃弾などにも容易に耐えられる性能の様だ。ウタハたちエンジニア部からの贈り物を早速身に付けた先生は、後日、直接お礼を言いに行くと決意を固めた。そうして一同は、遂に市街地に到着するのだった。

 

 

 

 アビドスの市街地は、カイザーPMCからの攻撃であちこちから煙が上がっている。前回の反省を生かしてか、最初から戦車やヘリなどが至る所に並んでいた。こちらが来たことに気がついたのだろう。兵士たちの銃口が一斉にこちらに向く。重々しい威圧感が立ち込める中、先生が一歩前に踏み出し、兵士たちに告げた。

 

「以前、俺一人を殺せなかったから今日は大層な戦力を用意してきたみてえだな。理事のやつは現場に来てねえのか? はっ、相当この前にぶん殴られたのが効いたみてえだな」

 

 声こそ軽い口調だが、威圧感は徐々に増していく。戦場の緊張は張り詰めた弓の様だ。何かきっかけがあれば戦闘という矢が放たれるだろう。各自の持つ銃に力が入っていく。静寂の中、先生は話を続ける。

 

「お前らがどんな理由を付けて、この街を攻撃してるかなんて興味はねえ。どうせ適当な理由でもこじつけてるだろうからな。はっきりしてんのは、お前らが俺たちの敵だって事だけだ。いいか、よく聞け」

 

 言葉を切り、息を吸う。そして決定的な言葉を吐き出した。

 

「俺の生徒を悲しませる奴に容赦はしねえ! 今からお前らをぶっ潰す! 皆、俺に続け!」

 

 背後から上がる鬨の声と共に、先生は駆け出した。戦闘が始まる。

 

 

 

「ああもう! なんで真っ先に飛び出すんですか! 各員! 先生を援護! ツルギ……ってもういない!」

キエエエエエエエエ!!!!!! 殲滅だアアアアアアアアア!!!! 

 

 先生の盾になるかの如く、既に飛び出していたツルギは自らの身体を盾にして銃弾を受け止める。ツルギを止めるか一瞬迷った先生だが、背後から弾丸の如く飛び出してきたツルギとすれ違う瞬間、ツルギが言った私が盾になりますとの囁きを信じ、その勢いのまま突貫。前線の兵士たちの蹂躙にかかった。

 

 二丁のショットガンを手足の如く用いて、次々に兵士を吹き飛ばしていくツルギ。そのおかげで切れ間ない射線に穴が開いた。弾丸の雨の中、僅かに開いた空間に飛び込んだ先生はツルギの背を守りつつ攻勢に移る。ウタハたちから貰ったグローブを付けた巨拳を放ち、兵士たちを吹き飛ばしていく。裸拳の時でさえ一撃で敵を行動不能に陥らせていた先生の拳が、グローブのおかげで更に強化される。兵士たち数人をまとめて吹き飛ばすほどの威力は想像するだに恐ろしい。背後からの援護射撃と合わせて、前線の兵士たちは瞬く間に数を減らしていくのだった。

 

 けたたましいローター音。武装ヘリが頭上から先生たちを狙っている。そのままガトリングガンを放とうとした瞬間、フロントガラスを突き抜け、運転手が狙撃される。いつのまにか近くのビルの屋上に潜んでいたカリンは、そのままローターの駆動部を撃ち抜く。一機撃墜。だが、武装ヘリはまだまだ数が多い。次なる獲物を探すべく、C&Cのスナイパーは戦場を俯瞰するのだった。

 

 随伴の歩兵を引き連れて、市街地の中をカイザーPMCの戦車が進む。正面から当たればいくら戦車といえども、キヴォトスの一部生徒たちの相手は分が悪い。正面からの陽動を餌に、背後を回ろうと市街地を走っていた戦車は、横合いから銃弾と爆発物で殴りつけられる。慌てて歩兵たちが排除しようとするが、その隙を付いてさらにその背後から銃弾が襲いかかる。罠に誘い込まれたと判断した頃には、戦車はスクラップになっているのだった。

 

「はあ……どうして私たちがこんな事をしないといけないんだ……」

『口だけではなく手も動かして下さいイオリ。ヒナ委員長が正面から敵を引きつけているうちに各個撃破しないといけないですからね』

「……万魔殿から今回の件を押し付けられたのは、アコちゃんのせいじゃなかったっけ?」

『うぐっ……さあ皆さん! まだまだ敵は多いですからね! 風紀委員会の力を他校に見せつけてあげましょう!』

 

 アコが気勢を上げるのを聞いたイオリは、ため息を吐きながら愛銃をリロードした。いくら気に食わないとしても、風紀委員会としての正式な仕事だ。アコが言うように、手を抜いて舐められては沽券に関わる。ましてや、今回一緒に戦う中には憎きトリニティの正義実現委員会もいる。気合いを入れ直したイオリは、再び敵を狩るべく、アコの指示に従うのだった。

 

「おーおー、アンタが噂に聞くゲヘナの風紀委員長か」

「ミレニアムのエージェントのトップ? 何をしに来たの?」

「そんなに睨むなよ。強えって聞いててな。本当だったらいっちょ手合わせでもしてえんだが、流石に今は出来ねえからな。そんな訳でちょっとした勝負でもしねえか?」

 

 正面からの戦車を受け持つべく、少々待機をしていたヒナは、近くに来たネルの言葉に耳を傾ける。無言で話を促すヒナに、ネルは笑いながら続けた。

 

「あっちから来る戦車を、どっちが多く倒せるかってのはどうだ? これならあんまり周りに迷惑もかけねえだろ」

 

 ヒナは興味がないと断ろうとしたが、ふと先生がゲヘナに来た時のことを思い出した。あの時の先生は、自分が目の前のネルという少女と肩を並べるぐらい強いと言っていた。そして、モチベーションがあれば、そういう同格の相手との競り合いに効いてくると。先生の言葉を信じるのであれば、モチベを上げればそういう状況下での動きが違ってくるらしい。滅多にない機会だし試してみるのも悪くはない。そう考えたヒナはネルとの勝負を受ける事にした。

 

(私のモチベーションが上がる事……あの時先生が言っていたのはご褒美を用意してみてはどうかと言う内容だった。今回の件、私にとってのご褒美は……)

 

 二度ほど撫でてもらった大きな手を思い出す。今頃はその分厚く、太い指を握り締め、敵を殴っているだろう。戦いが終わって熱を帯びた掌で自分の頭を撫でて貰う──実際にはおそらく難しいだろうが、自らが想像した光景でヒナは口元を僅かに緩めた。ご褒美としては悪くない。自らの心に少しだけ素直になったヒナは、その上向いた心のまま、ネルと共に戦車を叩きのめしにかかるのだった。

 

 

 

(どこまで……どこまで私の邪魔をすれば気が済むのだ!)

 

 部下からの報告を聞き、カイザー理事は怒鳴りたくなる気持ちを押さえつけるのに必死だった。対策委員会の要である小鳥遊ホシノを身柄を押さえた後は、全てが容易く終わるはずだった。前回の反省を活かし、先生を確実に始末できる戦力をわざわざ出した。廃校寸前の学校に対しては明らかに過剰であるはずだった。だが、それほどまでに出した戦力は、瞬く間に数を減らしていく。たかが辺境の学校を助けるために、三大校が戦力を派遣するなど考えもしなかった。その原因となるのはやはり──

 

(シャーレの大賀美ィ……! 私の顔を殴った事といい、どこまでも邪魔な存在だ……!)

「ふざけるな!!!」

 

 つい声に出して叫んでしまう。周りの部下がビクリと震え、会議室の空気がさらに重くなる。戦場をカメラ越しに眺めていた理事は、ふと一つのカメラを覗き込む人物がいるのを発見した。そのカメラに目線を向けると──目が合った。

 誰が覗いているかなど分かるはずもない。だが、戦場にいる先生は、カメラ越しに見ている存在が誰であるか把握しているかの様に殺意を込めた目線を向ける。そこで口を大きく動かし、メッセージを伝えた。その直後、砲弾が着弾したのだろう。カメラからの映像は途切れる事となった。

 冷や汗をかきながら、理事は先生が口に出していたであろう言葉を反芻する。あの時、先生が言っていた言葉は、

 

 ──首を洗って待ってろ

 

 

 

「雄オオオオオオオ!!!」

 

 雄叫びと共に戦場を駆ける。目についた敵を鎧袖一触で吹き飛ばす先生。その身体には、以前とは違い一つの傷も負ってはいなかった。ツルギたち正義実現委員会が身を張って先生を守っている事もそうだが、大きな違いは怒りに身を任せていない事だ。無論、怒りがない訳ではない。だが、頼りになる生徒たちの助けは先生にある種の冷静さを齎していた。

 単純な攻撃力だけなら、前回の基地で暴れていた時の方が大きかっただろう。だが、総合的な火力という意味では、生徒たちと協力し、エンジニア部からの装備を身につけた今の方が遥かに高い。全力で拳を叩きつけても壊れる気配が無いグローブのありがたみを噛み締め、先生は目の前の敵を的確に潰していくのだった。

 

 キュラキュラとしたキャタピラの音。爆発音が鳴り響く中、その人外じみた五感の鋭さで戦車の存在を察知した先生は、韋駄天の如く、戦車に向かう。砲身がこちらに向いているが一対一なら当たるわけもない。苦し紛れに発射された砲弾を余裕を持って躱した先生は、戦車の懐に飛び込んだ。

 硬いアスファルトの大地にヒビが入る。全力で踏み込んだ左脚を通じて莫大なエネルギーが身体を巡る。そして、強大なバネの如く引き絞られた力が全身を通り、右脚を通じて解放。戦場に響き渡る様な金属音が鳴り響く。その瞬間、多くの生徒たちは自らの目を疑う事となった。

 戦車が、蹴り転がされた。サッカーボールの様にとまではいかないが、二回ほど回転し、やがて止まる。戦車を撃破できる者はそれなりにいる。だが、戦車を蹴り転がす光景など、キヴォトスにおいても滅多にないものであった。思わず手を止める者すらいる状況で、先生が敵に向き直る。厳しい訓練を受けているはずの兵士ですらたじろいでしまうが、それは明確に隙だった。上空から爆発物が大量に落ちてきて、敵を吹き飛ばす。先生が上を見ると、メイド服の少女が微笑みを浮かべながら、手際よく爆発物を追加している。先生はアカネにあんまり市街を壊すなと釘を刺しつつ、考え始めたのだった。

 

 

 

 

「ネル! すまねえ頼みがある!」

「クソっ! 五対五で引き分けかよ……! ん? どうした先生?」

 

 ヒナとの勝負をしていたネルは、先生からの声に気が付く。勝負は引き分けだったらしく、両者とも不満そうな顔をしていたが、戦車が打ち止めになってしまったらしい。そのままヒナと共に先生の話に耳を傾けるのだった。

 

「そろそろ敵も打ち止めだ。俺はこのままホシノを取り戻しに砂漠まで行く。ネルはアビドスの学校を守ってくれねえか?」

「あん? 学校をか? あたしたちも砂漠に行くんじゃダメなのか?」

「砂漠には本隊がいるからネルたちにも来てもらいてえのは山々なんだが、アイツらの腐った様な手口からすると、おそらく部隊の一部がアビドスを襲ってくるはずだ。オペレーターのアヤネと皆が大事にしている校舎を守ってもらいてえ。これは少数精鋭のネルたちが最適だと俺は思う。どうか、お願いできねえか?」

「はっ、さっきも言ったよな先生。あたしらはメイドだぜ? 主人の命令には従うもんだ。遠慮なく言ってくれよな」

 

 ネルの言葉を聞き、一拍おいた先生は、ネルの瞳を見つめて命を下した。

 

「──任せた」

「──ああ、任された」

 

 そうして散らばっていたC&Cのメンバーに号令を下すネル。隣で聞いていたヒナは、どことなく羨ましそうに、先生とネルを見つめている。そうしてネルを見送った先生は、こちらを見つめているヒナにも目を合わせてお願いをした。

 

「ヒナ、もうちょっとだけ付き合えるか? さっきネルにも言ったが俺たちは今から砂漠に行く。ヒナはカイザーの兵たちを抑えて貰いてえ。……頼む」

「……さっきみたいに命令しないの?」

 

 ヒナは自分が無意識に放った言葉に少し顔を赤らめた。まるで自分が命令されたがっている様な言葉だったからだ。少々ドギマギしつつ頭上の先生の顔を眺めると、真剣な顔でこちらを見つめる顔があった。そして、先生は先ほどのネルに告げた様に言葉を発した。

 

「──任せた」

「──ええ、任されたわ、先生」

 

 ヒナが先生の言葉を返すと、他の風紀委員やアビドスの生徒、正義実現委員会の皆が駆け寄ってきた。集まってきた生徒を見て、先生が号令を下す。

 

「よし! 今から砂漠に行ってホシノを取り返す! お前ら行くぞ!」

 

 再び先陣を切って先生が動き出す。目指すは見捨てられた砂漠。前回の様な轍を踏まない様、一同は気合いを入れて砂漠の戦場へと向かうのであった。

 

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