弾丸1発で死ぬ先生 作:戦える先生ものが読みたかった
アビドス市街地での戦いを終えた一行は、砂漠へと向かう。途中で散発的にPMCの兵士たちが襲ってくるが、今の一同の敵ではなかった。鎧袖一触と呼ぶに相応しい速度で蹴散らし、先へ進んで行く。
「そろそろ基地に着くな。市街地では結構な数を動員してただろうがここは向こうの本拠地だ。かなりの人数が待ち受けてるだろう。ホシノを助けるにはスピードが要る。シロコ、お前らは俺たちが真正面からぶつかってるうちにホシノを助け出せ、いいな?」
「先生、前にも言ったけど先生が正面から行くんじゃなくて私たちが正面、先生が裏からの方が良いんじゃないの?」
「今回はセリカが攫われた時とは状況が違う。向こうは俺を警戒してるだろうし、前回と風紀委員会や正義実現委員会の皆がいる。正面から当たってもぶっ潰せる戦力がいるんだ。派手に目を引くから頼んだぜお前ら」
「ん……分かった。警備が薄いところから入り込む。……怪我しないでね、先生」
シロコからの心配の言葉を聞き、心配は要らないとばかりにニカリと笑う先生。大体の方針を決めた一同は、本拠地へ乗り込もうとするが、何やら基地が騒がしい事に気が付く。どうやら既に戦闘が始まっている様だ。一瞬戸惑う一行の元に、トリニティからの連絡が入った。状況を聞こうと、一同は通信に耳を傾ける。
「皆さん! トリニティの……ファウストです! ティーパーティーの方から許可を得て砲撃の
「ヒフ……ファウストちゃん! 来てくれたんですね!」
「はい! 今、砲撃隊の皆さんと支援砲撃をしてます! 今のうちにホシノさんを!」
「ちょっと待て、トリニティが砲撃をしてるのは分かった。だが、それだけにしてはあまりにも兵が少なすぎる。どうなってんだ?」
「あれ……? ゲヘナの方らしきチームがかき回しているのを見たのですが……先生の指示ではないのですか?」
ファウストからの言葉を受けて、思わず皆は風紀委員会を見る。だが、皆からの視線を受けたヒナは怪訝そうな顔をしている。心当たりが無い様だ。では、誰がカイザーの基地を襲っているのか。その疑問を解消するかの様に、基地の通信から大音量で声が流れる。
『ええと……これで良いのよね……コホン……遅かったわねアビドスの皆と先生! あんまりに遅かったから先に始めちゃってたわ! 砲撃の支援もあるから今がチャンスよ! 私に続きなさい! 」
通信越しに高らかな声が響き渡る。自身の判断に何も誤りは無いと言わんばかりの声は、絶対的なカリスマを纏っていた。その声を聞いた皆は、思わずお互いの顔を見合わせる。アビドスと敵対しているはずの組織、便利屋68のアルの声が砂漠に響き渡ったのだった。
「ななな、なんでよー! どうしてここにヒナがいるのよ!」
「あはは〜 アルちゃんあんなにカッコよくて啖呵を切ったのにすぐ狼狽えちゃって……本当に可愛いなあ」
「あああ、アル様の為なら、私が囮になります!!」
「皆、そんな事より手を動かして。向こうから増援が来たから」
カイザーの基地の一角、便利屋68の少女たちはかしましく騒いでいた。彼女たちがどうしてここにいるかは時を少し遡る。
きっかけは柴崎ラーメンを爆破してしまった事だった。あの後、ロクな釈明も出来ないまま風紀委員会の出現により逃げてしまった便利屋一同だが、流石に一言謝罪をすべきだと考えていた。柴崎ラーメンの店長には先日拾った多額の金額を差出人が分からないように提供したが、アビドスの少女たちとはまだ会えずにいる。自らが目指す真のアウトローにとって、先日の件は意図したものではないと伝えるべく、便利屋68はアビドス高校の近くまで来たのだった。
「アル様……申し訳ございません……向こうが生贄を用意する様に言ってきたらわ、私が死んでお詫びをします!」
「ハルカ?! そんなことしなくて良いわよ! 私は社長だもの。部下のミスの責任を負うのは私だわ!」
「くふふ〜 社長の風格出てきたんじゃない? アルちゃん!」
「というか向こうもそんな事は要求して来ないでしょ……」
何を言うべきか決めてはいなかったが、少女たちはアビドス高校の目の前やってきた。朝早く来たからだろう。校舎には人の気配が無い。
そのまま誰か登校してこないか少し離れた箇所で様子を伺っていると、一台の黒い車が校舎の前に止まるのが見えた。訝しげに眺めていると、ピンクの髪をした少女が兵隊に連れられて出てくる。その少女はアビドスの校舎を眩しげに眺めると、そのまま車内へと姿を消すのだった。
(あれは……小鳥遊ホシノ? それに兵隊たちはカイザーのところよね? どうして敵であるカイザーのところにアビドスの生徒が?)
アルが訝しげに悩んでいる中、車にエンジンがかかる。咄嗟の判断だった。車のナンバーを控えたアルの目の前で車が発進する。アルは自らを慕う社員たちに車を追うと号令をかけた。そうして、見失いそうになりながらもなんとか砂漠の基地までホシノを追って追跡するのであった。
「社長、どうしてあの車を追う事にしたの?」
カヨコからの声に先頭のアルが振り向く。何故こんなところまでアビドスの少女を追って来たのか。先日の件を話すだけならば、他の生徒でも全く問題はない。わざわざ苦労しながら追いかけた理由は……
「その理由は……その方がアウトローだからよ!」
「理由になってないけど……まあ良いか」
カヨコが微笑み、納得する。こうして一同はカイザーの基地へと侵入するのであった。
何やら大勢で出て行ったのを確認した便利屋は、警備が薄くなる隙を突いて小鳥遊ホシノを探す。運が良く基地の中央付近に忍び込むと、何やら大人と言い争っているホシノを発見した。耳を澄ませると、途切れ途切れであるが内容が聞こえる。少女たちは隠れ潜みながら、状況の把握を行おうと試みるのであった。
アビドスに手を出さない事を条件にカイザーPMCに所属した事、だがその約束は破られ、今まさにアビドス自治区へ侵攻が開始された事、それを聞き絶望に打ちひしがれるホシノを見た便利屋一行は言葉を失う。そのままどこかへ連れ去られるホシノを横目に、少女たちはどうするべきかを話し合おうとした。だが、いち早く立ち直ったアルは部下たちに指示を出す。
「助けるわよ」
「さっすが〜アルちゃん! そう言うと思ってたよ。でも良いの? カイザーを敵に回す事になるけど」
「悪には悪の通すべき仁義ってものがあるわ。カイザーには仁義ってものが感じられない。こんな奴ら、敵に回したってどうって事ないわ。だから……ハルカ」
「はい! アル様!」
アルは信じていた。ハルカが潜入の際に爆発物を仕込んでいたと。そしてその予測は当たり、ハルカは恍惚とした目でアルを見つめている。いつもは裏目に出る事も多いハルカの癖だが、今回はそれが役に立った。ハルカはアルの命令を待ち、ムツキは楽しげに微笑んでいる。これからが大変だと考えるカヨコだが、その口の端は緩んでいる。皆を見回したアルは社長としての命令を下した。
「ハルカ! 派手に吹き飛ばしなさい!」
耳をつんざく様な轟音が基地に響き渡る。こうして便利屋68の孤軍奮闘が始まった。
「事情は分からねえが……便利屋が手伝ってくれてるみてえだな。よし! お前ら! さっきの話は無しだ! 混乱に乗じてぶっ潰すぞ!!」
はい、と大きな声で答えながら一同は進軍を開始した。指揮系統が麻痺し、統率を失った連中にとって、先生たちとの戦力差はあまりにも大きかった。
戦車やヘリ、兵士たちを動員するがそれでも勢いを止める事が全く出来ない。奥の手のゴリアテと呼ばれる機動兵器ですら、ヒナやツルギ、シロコたちの集中砲火には全くと言って良いほど役に立たなかった。紙切れの如く粉砕された兵器を前に、兵士たちは尻込みをする。そうして進撃を続ける一行の前に、便利屋68が飛び込んで来たのであった。
「先日ぶりね、先生。手短に要件を伝えるわ。小鳥遊ホシノが捕まっているのはあの建物よ。これで借りは返したわ」
「おう、すまねえなアル。後で礼はたっぷりさせて貰うぜ。でも良かったのか? カイザーに雇われてたんだろ?」
「そんな事はどうでも良いわ! 私は私が目指す目標のためにやっただけ! さあ、行きなさい対策委員会! ここは私たちが受け持つわ!」
コートを翻し、高らかに宣言をするアル。混乱こそしているが、敵の兵力はまだまだ多い。そんな中、自分たちが受け持つと宣言した便利屋を見て、アビドスの少女たちの見る目が変わった。自分たちの前に立ち塞がり柴崎を爆破した連中だが、心に一本の大きな芯を持っているのだと。便利屋にお礼を言いつつ、シロコたちはホシノを救うために駆け出すのであった。
「手助け感謝する……ありがとう」
「今度会ったらラーメンでも奢らせなさいよ!」
「怪我しない様に気をつけてくださいね〜」
駆け出して行った一同を見つめたアルだが、その背後から自分たちを呼ぶ声がする。恐る恐る振り向くと、そこには自分たちの天敵とも言える少女、空崎ヒナが立っているのだった。
(わわわ、忘れてたー! 思わず飛び出しちゃったけれどヒナがいるじゃない! でもここを受け持つと言った以上逃げ出すわけには……)
内心で泡を食っているアルを前に、ヒナがため息を吐いた。だが、アルにとって意外な事に、すぐさま捕まえようと動き出さない。それどころか先生たちについて行かず、アルたちを援護するかの様な陣形を作り始めたのだった。
「どういうこと……? 私たちを見逃すってわけ?」
アルからの質問に、顔を顰めるヒナ。不本意そうではあるが、それでも態度を翻したりせず、アルからの質問に回答した。
「今日、万魔殿の奴らから言われたのはシャーレの先生を手助けすること。違反者の捕縛は入っていない」
『ですが委員長、今捕縛しておけば後々の手間が減るのでは』
「アコは黙って」
オペレートをしているアコからの提案をピシャリと跳ね除けるヒナ。風紀委員会の中でも不満そうにしている者はいくらかいるが、それでもヒナは前言を撤回せず事は無く、こちらへ向かってくる兵士たちを銃撃し始める。最初は警戒していた便利屋一行もどうやら本当にヒナがこちらに手出しをするつもりが無い事が分かり、一時的に共闘を始めた。便利屋と風紀委員会、常ならば絶対に相容れないはずの両者は、カイザーという巨悪の前に手を組み戦い始めるのだった。
アルたちから言われた建物の前まで来た先生たちだが、向こうもホシノが目当てだと分かっているのか戦力を集中させていた。構う事はないと言わんばかりに飛び込もうとした先生だが、ついて来た正義実現委員会の皆が先生たちの前に出る。ハスミが先頭に立つツルギの意図を代弁するかの様に話しかけた。
「先生、道は私たちが切り拓きます。皆さんはその間にホシノさんの救出を。ゲヘナの連中には負けていられません」
ゲヘナへの対抗意識を付け足したハスミだが、その声色は今までとは違い、憎悪は感じられなかった。サンクトゥムタワー奪還の際のチナツとの会話や、市街地での風紀委員会の活躍、敵しかいない中孤軍奮闘をした便利屋68の活躍を見て、考えが少し変わったらしい。全員が憎むべき敵ではないという意識は、好敵手を前にした時の様に良い影響をもたらしていた。
「ケヒヒヒヒィ!! 突撃ィィィィィ!!」
何も恐れるものは無いと言わんばかりにツルギが突貫する。その姿を見た正義実現委員会の部員は、ツルギの後に続き敵へと向かう。ハスミのスナイパーライフルから放たれる弾丸は、的確に敵の指揮官を撃ち抜いた。敵の分厚い布陣に穴が空く。その一瞬の隙を突いて、先生とアビドスの少女たちは建物に侵入するのだった。
(ずっと、いつもこうだ。私は間違えてばかりだった)
暗く重苦しい部屋の中、過去を追想するホシノ。アビドスに入学した事、ユメ先輩と知り合った事、そして、喪ったこと──
(ノノミちゃん、シロコちゃん、セリカちゃん、アヤネちゃん、情けない先輩でごめんね。皆を守りたかったのに、結局どうにも出来なかった。どうか、無事でいて欲しい)
(そして、先生。今まで大人なんて信用できないと思ってたから信じきれなくてごめんなさい。あの時、先生を止めなければこんな事にはなってなかったのかな。きっとこれが私への罰なんだね)
深く思考の海に沈んでいたホシノの耳に微かに音が聴こえる。何やら慌ただしい音は次第に大きくなっていく。その音を聞いたホシノは、どうしても自分に都合が良い考えが浮かんでしまう事を抑えられなかった。頭を上げて目の前を見た瞬間、固く閉ざされた扉が吹き飛ぶ。光が差し込み、思わず目を閉じたホシノの前に立ったのは──
対策委員会の皆が、そこにはいた。砂埃で汚れていたが、大きな怪我は無く、ホシノの目の前に立っている。ノノミがホシノを抱きしめ涙を堪えている間、シロコが後ろ手の拘束を破壊する。目の前の光景が信じられず、呆然としているホシノの前にもう一人が加わった。何もかもが大きく、太い男。先生はホシノに笑いかけながら言った。
「おう、ホシノ。元気にしてたか?」
まるで普段の日常の様に声をかけた先生に、ホシノの緊張が解けた。ようやく現実を受け入れたホシノは、対策委員会の少女たちにもみくちゃにされながら笑うのだった。
「先生! その方は……無事だったのですね。良かった……」
ホシノを助け出した一行が建物から出ると、既に敵の殲滅を終えていたハスミから声をかけられた。見れば正義実現委員会だけでは無く、風紀委員会の皆も勢揃いしている。カイザーの方も夥しい数の損害に、戦力を追加するのを辞めたようだ。遠巻きにこちらを伺いこそしているが、手を出す様子は無かった。皆を見回していた先生だが、便利屋の皆が近づいてくるのが見え、視線を向ける。皆からの視線を受けながら、堂々とした態度でアルが先生に話しかけた。
「無事に助け出せたようね、先生。それと追加でおみやげがあるの。受け取ってくれるかしら?」
そう言うとアルは、社員に命じ、拘束された人物を持って来る。投げ出される様に放り出された人物、カイザーの理事は先生たちを憎々しげに見つめているのだった。
「戦場からヘリで逃げ出そうとしているのが見えたから狙撃して捕まえたわ。気に入ってくれたかしら?」
「ああ、ありがとうな、アル。最高の贈り物だぜ」
アルに向けて感謝の言葉を言い、先生が動き出す。言葉を発さないように口を塞がれ、身動きが取れないカイザー理事は逃げ出す事すら出来ない。理事の前に立った先生の顔は先ほどホシノに見せた表情とはまるで違く、能面の様であった。怒りが限界を超えたらしい。もはや鋭い刀の様にすら思える殺気を纏い、理事へと話しかけた。
「首を洗って待ってろって言ったのに、逃げようとするなんて酷えじゃねえか。──覚悟は出来たか?」
固く、硬く先生の拳が握りしめられていく。その力は前回より遥かに大きく、遥かに強かった。衝撃を逃さぬ様に、理事の身体に跨り、頭を地面に押さえつけ右手を高く上げる。さながら瓦割りの瓦となった理事は、自らの待ち受ける運命に絶叫しようとする。だが、口は塞がれ言葉は出ない。そして先生の拳が顔面に振り下ろされ──
「待って、先生」
振り下ろされる直前、ホシノが声をかける。拳を止めた先生は、ホシノに顔を向けた。その顔にはまだ何か脅されているのかと書いてあったが、ホシノは首を横に振る。そのままホシノは先生にお願いを口にした。
「そのまま押さえつけてて、先生」
そう言ったホシノは軽やかに跳躍する。タン、と重力を感じさせない様に跳んだホシノは、まるで天女の様ですらあった。だが、重力の檻からは抜け出せず最高地点から徐々に落下をしていく。落ちながら回転を加えたホシノは、柔らかな右手を硬く握りしめる。そして、全身の力を利用した拳をカイザー理事の顔面に叩きつけた。
キヴォトス最高の神秘、黒服からそう表されたホシノの力は体格からは想像も出来ないほど、重く、鋭いものだった。顔の中心ではなく、顎の付近を狙って放たれた一撃は、狙いを過たず、粉砕。あまりの威力に辺りの砂が舞う。砂が収まり、周りの人が見たカイザー理事の姿は悲惨なものであった。顎を砕かれ、頭は半ば地面に埋まっている。死んでこそいないが、重傷であることが一目瞭然な姿だった。
ホシノは意識が朦朧としている理事に、吐き捨てるように言葉を投げかけた。
「二度とアビドスに手出しをするな。……殺されないだけありがたいと思ってください」
そこには、一年の頃の様に冷たい目をした小鳥遊ホシノがいた。ホシノは刺し殺す様な視線を理事に向けた後、表情を戻す。唖然とする皆を見て、晴れやかな表情で心境を告げるのだった。
「いや〜 ムカつく相手を殴るとスカッとするね!」
スッキリした様子のホシノを見て、先生は笑いが堪えきれないという様に笑う。そのまま、ホシノに声をかけた。
「これは教育者としては言っちゃダメだろうが……良いパンチだったぜ、ホシノ!」
「うへ〜 先生に言われると照れちゃうよ〜 皆は真似しないようにね〜」
そう言ったホシノを見て、皆も笑う。こうして、アビドスを襲った大変な一日は、ようやく終幕へ向かうのであった。
古戦場お疲れ様でした(フライング)