弾丸1発で死ぬ先生   作:戦える先生ものが読みたかった

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強くなるということ

 

 理事の顔面が砕かれるのを遠目に見たカイザーの兵たちだが、先生たちを襲ってくる様子は無かった。誰もが理解していたのだ。基地の全戦力を動員したとしても目の前の相手に勝てるわけがないという事を。その様子を見た先生は、笑うのをやめて声をかける。

 

「おう、コレは返すぞ」

 

 半ば地面に埋まっていた理事を片手でぶん投げる。まるで軽いボールを投げたかのように理事が宙を飛び、兵士たちの近くに落ちた。グッタリとした様子の理事を慌てて兵士たちが回収、どこかへ連れて行く。一部の兵士が再度戦意を奮い立たせようとするが、先生からの問いかけが耳に入り動きを止めた。

 

「まだ、やるか?」

 

 纏う雰囲気を再び鋭くしていく先生、ホシノを取り戻した事により完全に復調した対策委員会、獣のようなツルギを援護する態勢に入った正義実現委員会、気怠さを隠していないが統制が取れた動きで構える風紀委員会、傲岸不遜の社長を筆頭とした一騎当千の便利屋68、キヴォトス全土でも有数の戦闘力を持つ集団が視線を向ける。兵士たちは一瞬で彼我の戦力差を理解した。──勝てるわけがない。自然に銃を下げ、道を開けていく。こうして先生が率いる一行は、悠々とした足取りで基地から離れていくのだった。

 

 

 

 

「先生、そろそろ私たちはゲヘナに戻るわ」

 

 アビドスへの帰り道、風紀委員会を率いるヒナが先生に声をかけた。皆と話していた先生は意外そうな顔で返答を返す。

 

「ん? 帰るのか? 今日はすげえ手伝ってくれたんだから俺の奢りで飯でも食わねえかと思ってたんだが」

「申し出はありがたいけどそこまで気にしなくていいわ。私たちはあくまで万魔殿からの仕事で手伝っただけ。どうせ帰ったら仕事が溜まってるだろうし、アコを仲間外れにするのも気が引けるから」

『ヒナ委員長ぉ……』

 

 ヒナに気にかけてもらっている事を聞き、思わず感動の声を漏らすアコ。軽くトリップ状態に陥っている彼女を無視し、ヒナが皆に号令をかけようとする。だが、ヒナが号令をかける前に、先生とアビドスの少女たちが深く腰を折って言葉をかけた。

 

「今日は、本当に助かった。仕事とは言うが、お前らがいなかったらホシノを救えなかったかもしれねえ。だから言わせてくれ。ありがとう」

「私たちも感謝してます! 本当に、本当にありがとうございました!」

 

 先生と対策委員会からの混じり気なしの感謝を聞き、動揺する風紀委員会。それもそのはず、普段無法が横行しているゲヘナにおいて治安維持をしていて感謝を言われる事は非常に少ない。そんな中、とても素直な感謝の言葉は風紀委員会の皆の心に染みていった。自然と口の端が緩んでいく皆を見て、代表してヒナが返答した。

 

「どういたしまして。……それと、先生

 

 返答を返した後、先生だけに届くように声を顰めるヒナ。それを聞いた先生は、少しだけ前に出る。声を顰めたままヒナが続けた。

 

今度ゲヘナに来た時でいいから、その……ご褒美が欲しい……

ん、ああ、前に話していたご褒美の話か。いいぞ、俺にできる事なら何でも言ってくれていいからな

そんな大層な事じゃないけど……うん

 

 大胆なことを言ってしまったとヒナが顔を赤らめるが、先生はヒナがわがままを言ってくれた事が嬉しいとでも言うように微笑む。小声で話している二人を見て、他の皆が怪訝な顔をしつつあるのを察した先生は、皆に大きな声で話しかけた。

 

「おう! お前らも今度俺がゲヘナに行った時は美味いもんを奢るからな! 楽しみにしとけよ!」

 

 先生の声を聞いた風紀委員会の皆は、素直に歓声を上げた。戦闘力こそあるものの年頃の少女である彼女たちは育ち盛りの時期だ。楽しみが増えた少女たちは、意気揚々とゲヘナに帰還して行くのだった。

 

 

 

 

「先生、そろそろ私たちもトリニティに帰ります」

「ハスミたちまで、いいのか? 世話になったってのに……」

「良いんです。今日は先生の力になれて光栄でした。それに……」

 

 言葉を切ったハスミは自分たちを見つめているアビドスの生徒たちを見て、改めて先生に声をかけた。

 

「私たちが目指す“正義”が何なのか、少し分かったような気がします。ホシノさんも無事で何よりでした」

「ケヒ……本当に、無事でよかった」

 

 ハスミに同調するようにツルギも声をかける。見た目こそ恐ろしいものの思慮深いツルギの姿を見て、再びアビドスの少女たちは頭を下げてお礼を述べた。ハスミとツルギも頬を緩め、少女たちの礼に応えた。

 

「あの! アビドスは……何もないところですけど、もし良かったら今度は遊びに来てください! 皆さんなら歓迎しますので!」

 

 アヤネからの呼びかけに微笑む正義実現委員会の少女たち。他の学区の生徒とはあまり関わり合いになる事は少ないが、それでも貴重な友人が出来たと素直に喜ぶ。その姿を見て、ノノミも言葉を付け加えた。

 

「後で直接連絡しますが、ファウストちゃんにもお礼を伝えておいてください。先生ではないですが、お困りの時は私たちが助けになりますので」

「はい、伝えておきましょう。それでは皆さんもお元気で」

「おう、またな! みんな!」

 

 大きく手を振る先生を見ながら、正義実現委員会もトリニティへと帰っていった。先生たちは彼女たちが見えなくなるまで、その姿を眺めるのであった。

 

 

 

 アビドス高校に着いた一行は、校舎を守ってくれていたC&Cと合流する。先生がネルたちに話を聞くと、やはり何度か校舎を破壊しようとカイザーが兵を差し向けてきた様だった。だが、ネルたちの相手ではなく、先生たちが基地を襲撃した頃からは援軍も来なくなっていたらしい。先生たちは今日何度目かになるお礼をするのだった。

 

「はっ、別に構わねえよ。今日はあくまでセミナーのユウカ個人からの依頼だ。依頼にはしっかり応えるのは当然だ。一つ残念なのが風紀委員会の白チビとの決着が付けられなかったことぐらいだな」

「ヒナと何か勝負でもしてたのか? それだったら今度ちょうど良い機会を作ってやるぜ。俺の見立てだと大体同じぐらいの強さだから良い経験になるだろ」

「ハッ、アタシの方が上だって事をはっきり分からせてやるよ。機会があるのを待ってるぜ先生」

 

 先生とネルが話しているのを横目に、アカネが対策委員会の少女たちの元へやってきた。朗らかな笑みを浮かべて話しかける。

 

「うふふ、リーダーはあんな事を話してますけど結構気を遣っていたのですよ。私たちは普段周りへの被害ってのをあまり考えた事が無くて、いつもセミナーの方に壊しすぎと叱られているのですわ」

「そうそう! でもリーダーが“今日は周りに気を遣え。先生から任されたからには完璧に遂行しなくちゃな”なんて言うんだからビックリしちゃったよ」

「結構大変だったけど……これはこれでやりがいがあった」

「おい! 何で言ってんだよ! 別にそういうんじゃねえからな!」

 

 顔を真っ赤にして怒るネルを見て、ホシノたちは思わずニヤニヤと笑う。だが、素直になれない少女のおかげで自分たちの大事な校舎が傷一つなく守られたのだ。ホシノたちは深い感謝を改めてネルに捧げるのだった。

 

「そうだ、おいそこのピンクチビ」

「ん〜? おじさんのこと?」

「おじさん……? まあいい。お前もすげえ強そうじゃねえか。今度タイマンして力比べでもしようぜ」

「うへ〜最近の若い人は元気だねえ〜 ま、今日はたくさんお世話になったし、今度時間があるときならいいよ〜」

「ヘッ、なかなか食えない野郎みてえだな。他の奴らもかなり強そうだしチーム戦ってのも悪くねえかもな」

「リーダーの悪い癖が出たね〜 まあ今日は疲れてるだろうからここらでお暇しよ?」

 

 そうアスナが言うのをきっかけにC&Cが撤収の作業に入る。メイドに相応しくあっという間に作業を終えたC&Cの一行は、ミレニアムに向けて発っていったのであった。

 

 

 

 

「……戻って、これたんだ」

 

 対策委員会の部室に入ると、ホシノがボソリと呟く。手紙を置いて出た時は二度と戻る事が無いと思っていた部屋。それがどうしてか再び皆と一緒にいれる事になった。どこか落ち着かない雰囲気でいるホシノだが、皆からの視線に気がつく。協力者を見送り、自分たちだけになった事を確認したノノミたちは、勝手に出ていったホシノを叱り始めるのだった。

 

「皆からの手前我慢してましたけど……今からい〜っぱい怒りますからねホシノ先輩」

「ん、勝手に出ていって退部までしようとした先輩には言う事が沢山ある」

「自分で勝手に決めて何やってんのよ! せめて先生には相談すべきだったでしょ!」

「私も今回は思う事が沢山ありますから容赦はしませんよ」

「ん、んん〜」

 

 助けを求める様に先生に視線を向けたホシノだが、先生は止めに入る様子もない。それどころか皆に同調する様にうんうんと頷いている。先生からの許可を貰ったと判断した一行は、二度と同じ様な事をしないで欲しいとホシノを叱り続けたのだった。

 

 

 

 ホシノが皆からの叱られている間、先生は柴関の店長に連絡をする。店は無くなったものの屋台を始めていた店長は、ホシノが無事に戻ってきた事に安堵した。そのまま先生のお願いを聞き、アビドス高校まで屋台を引っ張って来るのだった。

 店長からのラーメンを食べた少女たちは、お互いに労をねぎらい、笑い合う。苦しい状況下に置かれていた少女たちだが、ようやくひと段落が着いたと分かり、皆、輝くような笑みを浮かべていた。先ほどまで叱られていたホシノも、自分が皆から愛されている事をようやく自覚したのだろう。以前までより心の距離が近づいているような笑みを浮かべ、話をしている。

 一足先に食べ終えた先生は、少し遠目から彼女たちを見つめて微笑んだ。先生として、生徒を守る事が出来たからだろうか。その目つきは優しく、得難いものを得たかのように佇んでいる。ラーメンを振る舞い終わった柴関の店長は、先生に話しかけた。

 

「ありがとうございます、先生。ホシノちゃんたちを守ってくれて」

「礼なんて必要ないですよ。俺だけじゃアイツらを助けてやれなかった。手伝ってくれた生徒のおかげですから」

「それでも、他の学校の生徒が助けに来てくれたのは先生がいたからだと思いますよ。先生がいなかったら今のホシノちゃんたちの笑顔は無かった。それだけは事実です」

「そう……ですかね。それなら、良かった」

 

 柴関の店長から諭された先生は、ゆっくりと息を吐き出し微笑んだ。暴力を振るうことしかできない自分でも、生徒たちの手助けをする事が出来たらしい。そう考えた先生は心地よい疲労を感じつつ、しばらく少女たちを眺め続けるのであった。

 

 

 

 

 ご飯を食べ終わり、対策委員会の少女たちは帰宅していった。流石のカイザーも今日の今日では襲ってくることは無いと先生に言われると、疲労が溜まっていたのだろう。本日は解散して後日正式な話し合いに臨むと結論を出した。皆からの感謝を受けつつ見送った先生は、校舎へと入る。しばらく一人だけで佇んでいると後ろから声をかけられ、振り向いた。

 

「先生、何してるの?」

「おう、ホシノか。いや、ちょっと休憩でもしてから戻ろうと思ってな」

「そう言って一晩見回りをするつもりなんじゃないの? 皆も疲れてたみたいだしさ」

 

 図星を突かれたようで思わず黙り込む先生。可能性が薄いのは事実だが、一応は警戒しておくかと考えていたらしい。先生の表情を読んだホシノは呆れつつ話を続けた。

 

「そうやって頑張ってると倒れちゃうよ先生。先生もこの前みたいに前に立って戦ってたんでしょ? しっかり休憩を取らないといつかみんなを泣かせちゃうよ?」

「うぐっ。まあ……その通りだな」

 

 二人の間をしばしの沈黙が包んだ。椅子に座っていた先生は、ホシノが何かを言いたいのだろうと察し、そのまま待つ。少しの沈黙の後、ホシノが再度先生に話しかけた。

 

「先生、ごめんなさい。私、先生を信用してなかった。手紙にも書いたけど、私は大人を信用してなくてさ。でも、こんな私のせいで皆に迷惑をかけちゃって、だから……」

「ホシノ」

 

 言葉を続けようとしたホシノを先生が遮る。恐る恐る先生の目を見たホシノに、穏やかな目の光を浮かべた先生が言葉を続けた。

 

「いいか、ホシノ。信用なんてすぐ出来るもんじゃねえ。信用出来なかった事を謝る必要なんてねえんだ。俺からホシノに伝えたいのは一つだけだ。強くなれ、ホシノ」

「強く……なる……?」

「そうだ、この場合の強さってのは腕っぷしの話じゃねえぞ。頭の良さ、心とか人を信用する事も強さだ。ホシノが強ければ、カイザーの奴らも手出しを控えたかもしれねえし、話し合いのテーブルにも着くことが出来たかもしれねえ。セミナーのユウカに調べてもらったように、法律の方面から攻める事も出来たかもだ。色んな意味で強くなるに越した事はねえんだ」

 

 そう言った後、先生は少し自嘲の色を浮かべた。自分は腕力での解決しか出来ないのに何を言っているのだろうと考えたのかもしれない。だが、再びホシノを見つめ、話を続ける。

 

「基地でのあの時、ホシノは俺を止めたよな。カイザーから止めるように言われてたってのもあるだろうが、俺が怪我しそうだったから止めたのも理由の一つだろう? 俺がもっと強くて無傷かつ敵を倒す速度が三倍ぐらいあったら、大人を信用出来てなかったホシノでも任せられると思わせられたんじゃねえか? だから全部がホシノのせいって訳じゃねえんだ。俺が弱かったのが原因なんだからな」

「そんな、言ってることが無茶苦茶だよ……」

「いや、そう思ってくれていいんだ。俺もまだまだ未熟だ。生徒に心配される様じゃダメなんだ。もっと強くならないといけねえ。特に頭の方が致命的だ。いつまでも生徒に頼りっぱなしってのも格好が付かないからな」

 

 だから、と先生が続ける。ホシノの目を見て、真っ直ぐに伝えたい事を伝えようと心を込める。ホシノも無言で話の続きを聞く。

 

「ホシノ、俺と一緒に強くなれ。またカイザーみてえな薄汚い大人が立ち塞がっても、ぶん殴れる様に鍛えるんだ。心と身体、頭もな。俺が伝えてえのはそれだけだ」

 

 話し終わった先生を見て、少し唖然とするホシノ。この大人は何を言っているのだろう。強くなるのはいいが、さっき先生が言った様に強くなってしまったらもはや化物の類だろう。というか言ってることがめちゃくちゃすぎるなどと考えていたホシノだが、なんとなく先生の言いたい事が理解できた。

 

(自分は、弱かったのか。だから、鍛える。そういうことかな?)

 

 目の前を改めて見る。全身が巌のように鍛え上げられた身体。鋼のような肉体は、頑強な心も備わっている。先生を手本にして、始めればいい。そう理解したホシノは、先生に答えを返した。

 

「うん、分かったよ先生。私、もっともっと強くなる。だから……これからも見ていてくれる?」

「おう! もちろんだ! これからも頼むぜ、ホシノ!」

 

 ニカリとした笑みを浮かべた先生に釣られて笑ってしまうホシノ。今でも大人を信用する事は出来ない。だが、先生なら──その大きな身体と心に背中を預けても良いのかもしれない。そう心で感じたホシノは、先生としばし穏やかな時間を過ごすのだった。

 

 

 




次回でアビドス編は終わりです
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