弾丸1発で死ぬ先生 作:戦える先生ものが読みたかった
「先生、防衛室から依頼が来ています! 確認しますか?」
ある日の午前、書類仕事が一段落した先生はアロナからの声に耳を傾ける。未だに顔を合わせたことがない連邦生徒会の防衛室から依頼が来ているようだ。アロナに返答をし、先生は内容を確認する。
依頼内容は、キヴォトスで指名手配をされている一味の捕縛を手伝って欲しいという内容だった。五人組で活動する通称“カイテンジャー”は寿司のネタを模したヘルメットを頭に被り、戦隊モノに出てくるようなスーツを着た連中らしい。だが、そんなふざけた格好とは裏腹に戦闘能力は高く、各学校はなかなかに手を焼いている様だ。
今回は学校の自治区の隙間に位置する箇所で暴れているらしく、ヴァルキューレ警察学校の警備局が担当する事となった。だが、相手の練度が高くあえなく撃沈。そこで現場に比較的近いシャーレに応援を要請したいと防衛室から来た様だ。生徒からの助けに応えないという選択肢は無い先生は、アロナに応援に向かうと返事をするようにお願いをした後、早速現場へ向かうのだった。
「わざわざ遠いところから応援、感謝します。私はヴァルキューレ警察学校、公安局長の尾刃カンナです。本日はよろしくお願いします、先生」
「おう、丁寧にありがとな。俺は大賀美だ。こちらこそよろしく頼むぜ」
現場に着いた先生へ声をかけた生徒、尾刃カンナは挨拶を返した先生を見上げる。本来ならば公安局が動くまでもない案件だが、どういうわけか現場へ出動し、シャーレの先生を監視する様にとの命令が下った。命令の背後にいる存在を思い憂鬱になったカンナだが、悲しいかな、組織に属する以上、上からの指示には逆らえない。そうしてカンナは、部下たちを引き連れて指名手配犯が暴れている現場へ向かうことになったのである。
「それでカンナ、今暴れている奴らはどういう奴らなんだ? 寿司……? の格好をしているって聞いたが」
「……ええ、奴らはカイテンジャーを名乗る五人組です。意図は正直に言ってよく分かりません。正義を成すなどと言ってはいますが、やっている事のほとんどは犯罪行為です。ですが、タチの悪い事に暴れる事に関しての実力は本物ですので、どうか気を抜かない様にしてください」
「ああ、銃撃戦が日常になってるキヴォトスの中でも指名手配されてる奴らなんだろ? 気を抜かない様にするぜ。お前らも気ィ抜くなよ!」
先生は背後に向けて喝を入れた。カンナが先生が引き連れてきた生徒を見ると、おそらくゲヘナ学園に所属すると思われる一団がいた。だが、どうにも彼女達の顔は青い。その中の一人がおずおずと前に進み出て先生に声をかけた。
「せ、先生……シャーレでバイトするとは言いましたけど、私たちはゲヘナでも落ちこぼれなんですよ……? 指名手配される連中と撃ち合うなんてとても……」
「ああ、心配すんな。何も前に出て撃ち合えなんて言わねえよ。お前らに今日やって欲しいのは住民の避難だったり終わった後の片付けとかだ。なにせ街中で暴れてる様だからな。暴れてる最中の最前線じゃなく、ヴァルキューレの皆の手伝いなどを任かせたい、頼めるか?」
「……そういうことなら、はい」
返答したのは以前にトリニティを襲撃したゲヘナ生のリーダー格の少女だ。先生がゲヘナに来た際にシャーレのバイトを勧誘したが、本日がその初日だった。だが、初日からまさか指名手配犯がいる現場へ駆り出されるとは思っておらず、腰が引けているのがほとんどだった。だが、先生はそんな彼女たちを見て、安心させる様に一人一人目を合わせて声をかけていくのだった。
その姿を眺めていたカンナは、先生に対する印象を改める。命令を下した上からは、あまり頭は回らないという話を聞いていた。だが、今の様子からはそれだけではないと感じさせる態度だとカンナは思考を深めた。
(思ったよりも人を見ているな。猪突猛進ではなく味方の被害を減らすためにあえて前に出ているのかもしれない。気配りも出来ている。なるほど……)
カンナは目の前の男の観察を続ける。すっかり緊張が解けた様子のゲヘナ生たちと笑い合う先生を見て、どこか胸の奥に忸怩たる思いを抱く事になるのだった。
「回り続けるレールはやがて……正義の未来へつながる!」
「無限回転寿司戦隊・カイテンジャー! 参上!」
現場へ足を向けた先生たちを待っていたのは、カイテンジャーの五人組とそれに従う不良生徒達だった。話に聞いていた通りの奇抜な格好を見た先生は、少し呆れつつもカイテンジャーに話しかけた。
「お前らがカイテンジャーか。俺はシャーレで先生をやってる大賀美だ。単刀直入に言う、武器を捨てて投降するつもりはねえか」
「投降だと!? 何をバカな! 私たちは正義を成しているだけだ! 捕まる様なことをしているつもりはない!」
「……話が通じねえな。交渉は決裂だ。おい! 俺は生徒に手を上げるつもりはねえが、悪い事をしたならそれ相応の態度は取らせてもらうぞ! 覚悟しておけ!」
交渉が決裂したと分かるや否や、銃を打ち始めたカイテンジャーに向け先生は巨体を躍動させ突貫。それを見たカンナと警備局の生徒も慌てて先生の後を追う。かくして市街地での戦闘が始まった。
カイテンジャーの五人は息のあった動きでガトリングガンを連射する。練度もそうだが威力もまた高い。先生も最近知った事ではあるが、キヴォトスにおいては武器の威力は撃った者の強さに応じて強くなるらしい。その事から考えるとカイテンジャーの撃つ弾の強さは、各学校の強者達と比べても遜色無かった。弾の直撃を喰らった生徒達が一時的な戦闘不能に陥る。
(だが、俺には関係ねえ。俺にとってはどれも等しく喰らったら終わりだからな)
思考を加速し、弾丸の雨を潜り抜ける。側から見れば転んでないのが不可解に見えるほど姿勢を低くし突貫。前を固めていた不良生徒たちの銃をいつものように破壊していく。
背後からは先生に当てない様、注意をして援護をするヴァルキューレの生徒達だが、装備があまり良くないせいか不良生徒を一人倒すのも時間がかかる。その間にもカイテンジャーの銃撃を受け数を減らしていくが、一人の女生徒が前線に出てから状況が一変する事となる。
公安局長尾刃カンナ、彼女が荒々しくも鋭さを感じる動きで敵に接近すると手に持つ拳銃を連射する。射撃の見本として使えるほど堂に入った姿勢で放たれる弾丸は、不良生徒達に直撃し瞬く間に戦闘不能に陥らせていく。慌ててカンナへ向けて銃撃を行なう不良生徒達だが、カンナの様相を見て思わず手を止める。狂犬の二つ名を頂くほどの凶相は、不良生徒達を瞬く間に震え上がらせた。そうした躊躇いの隙を見逃さず、カンナは一人一人を各個撃破していくのだった。
「おいカンナ! カイテンジャーは奥の方に逃げて体勢を整えようとしてる! 俺に続けるか?!」
「ええ、もちろん。お前ら! 先生に遅れをとるんじゃないぞ!」
逃げ出したカイテンジャーを追い、追撃に向かう先生について行くカンナ達だが、先生の脚の速さは尋常なものではなかった。一番手前にいた、タマゴを頭に乗せたカイテンジャーのイエローに追いつくと、一呼吸の間に武器を蹴り上げる。そのまま身動きが取れないように足を払うが、転んで怪我をしない様に気を使う余裕すらあった。身動きが出来ないように的確に関節を抑えるとイエローも観念したのか動かなくなる。そのまま追いついたカンナが手錠をかけ、確保を行なった。
(話には聞いていたが、凄まじい。これがキヴォトスの外から来た人間が出来る事なのか……?)
そのまま同じようにカイテンジャーを一人ずつ仕留めて行く先生を見ながら、カンナは驚愕する気持ちを抑えられなかった。カイテンジャーは決して弱敵ではない。キヴォトスで指名手配されているだけあり、その強さは本物だ。だが、先生はさらにその上を行く。連携の取れた動きで弾丸を放つカイテンジャーに対し、思考が読めているかのように回避を続ける先生。その挙動は恐ろしく早く、洗練されてすら見える動きだった。そうして考えている間にも一人、また一人と数を減らしていくカイテンジャー。全滅は時間の問題だった。
「追い詰めたぞ、まだやるつもりか?」
「ぐっ、くそう……正義は、正義は決して負けん!」
最後に一人残ったカイテンジャーのレッドは、今まで以上にめちゃくちゃに弾を撒き散らし始めた。だが、今さらそんな弾に当たる先生ではない。余裕を持って回避しつつ武器を取り上げようと脚に力を貯めるが、急に後方を向くとカイテンジャーを放っておき、そちらの方向に駆け出し始めるのだった。瞠目するカンナが思わず後方へと振り返ると、そこには避難誘導をするゲヘナ生と犬の老人の姿があった。
「あー、ええと落ち着いてください。もう少しで終わると思いますので」
「そうか、ありがたい事じゃのう。お嬢ちゃん達のおかげで助かったわい」
「いや……私たちは特に何もしてないというか。そう、あそこのシャーレの先生が」
二人の頭上にあった大きな看板が、カイテンジャーからの流れ弾を受けゆっくりと傾きつつあった。顔に陰がかかった事により気がついたゲヘナ生は思わず逃げ出そうとする。だが、犬の老人は上手く体が動かず咄嗟には動けない。その姿を見たゲヘナ生は思わず老人に覆い被さる様にして抱きすくめる。頭上からは看板が回転しながら落ちてくる──
「お前ら伏せろ!」
落下してきた看板がほとんど直角の真横に吹き飛ぶ。人外の速さで駆けつけた先生は、落下してくる看板を勢いのまま殴りつけた。かなりの重量があったはずの看板だが、先生の固く握り締められた拳の前には無力だった。哀れなまでにひしゃげた形となると、ゲヘナ生と犬の老人を傷つける事なく少し離れた位置へと落下し、停止した。
固く目を瞑っていたゲヘナ生だが、体を打ちつける衝撃がない事に気が付き恐る恐る目を開ける。すると目の前には、こちらを心配そうに見つめる先生の姿があった。先生が自分を助けてくれたと理解した生徒は、ゆっくりと体の緊張が解けていくのを感じつつポツンと呟く。
「先生、さっきまでカイテンジャーの前にいたのにこっちに来てくれたんですか……? あれぐらいならちょっとの怪我ぐらいで済んだのに……」
「今日お前らを誘ったのが俺なのに怪我なんてされたら立つ瀬がねえからな。……よく頑張ったな」
「へっ?」
急に褒められた事に思考が追いついてないようで目を白黒させるゲヘナ生に先生は続ける。咄嗟に人を庇うなんて本当に偉いと。普段褒められる様な事がない環境のため、どこか現実味を失ってほわほわしている様な心境のゲヘナ生の元に、庇ってくれた犬の老人もやってくる。
「お嬢ちゃん、さっきは本当にありがとうな。おかげで助かったよ」
「いえ……その結局先生が助けてくれたし……私はなんにも」
「お嬢ちゃん一人だったら逃げられていたじゃろう。それにも関わらず動けなかったワシを庇おうとしてくれた。優しいんじゃな」
「いえ……その……」
「胸を張れ! お前はめちゃくちゃ偉いことをしたんだからよ! お前らもそう思うよな!」
いつのまにか一緒に来ていた友達に囲まれていたゲヘナ生は、周りからの誉め殺しに遭う。その姿を見ていた先生の元に、カンナがやってきた。
「おう、フォローありがとな、カンナ。あそこから急に抜けてすまなかった」
「いえ、一人でしたので問題なく捕縛出来ました。……生徒想いなんですね」
「いや、そんなんじゃなく咄嗟に体が動いちまっただけだ。お前たちがそう簡単に怪我しねえってのは分かってるはずなんだがよ……」
助けた事を誇るのではなく、むしろ反省した様子の先生を見て、カンナは少し先生の事を把握した。生徒の為なら誰よりも早く駆け出し、助けようとする。その姿はヴァルキューレに入学した当初、在りし日に抱いた理想の姿にも少し重なり、カンナは思わず目を細めた。だが、だからこそ胸の中の忸怩たる想いは増していくのだった。
そんなカンナの姿を見て、何かを感じ取ったのだろうか。先生はカンナに声をかける。
「カンナ、お前らは何か困ってる事はねえか? この広いキヴォトスで治安の維持をしようとしてるお前らはすげえ立派だと思う。だからこそ、俺が何か助けになれるなら力を貸してやりてえ。どうだ?」
「──ええ、ありがとうございます、先生。今後も今日の様な事がありましたらお力添え頂けますか?」
「遜らなくて良い、こんな事で良いならいくらでも力を貸すぜ。遠慮もしなくていいからな」
「そう言って頂けると……恐縮です」
内心の想いを隠し、カンナは先生に建前を告げた。先生は少しの間カンナを眺めていたが、根掘り葉掘り聞くつもりは無いようだ。カンナからの要望に快諾すると、めちゃくちゃに盛り上がっているゲヘナ生の元へ向かっていった。その後ろ姿を見つめたカンナは、上への報告を考えつつ内心の想いを新たにした。
(その時が来たら、先生に何もかもを告げよう。そうしたら、先生はきっと──公正なる裁きを下してくれるだろう)
ヴァルキューレ警察学校はカイザーコーポレーションと密接に繋がり合っている。汚職を知りつつも見逃さざるを得ないカンナに取って、先生の立場は理想だった。特別捜査部シャーレ。連邦生徒会の中でも独立した勢力なら防衛室からの妨害も受けにくいだろう。想いを新たにしたカンナは、部下たちに今回の一件についての指示を出しつつ後処理を行なうのだった。
「へえ、そうですか。ありがとうございます」
ヘビが絡みつくような声で、今回の救援を依頼した不知火カヤが礼を言った。カイザーから提供された情報には先生の弱点が記されていた。先生の弱点は──生徒を助けてしまう事。貴重な情報を得たカヤはどう今後に活かそうかと策謀を巡らせる。カヤが望むその日に向けて着々と準備は進んでいくのだった。