弾丸1発で死ぬ先生 作:戦える先生ものが読みたかった
「あー、なかなかに新鮮な経験だった。書類ってのはああやって書くのか」
「最初の頃と比べるとだいぶ早くなりましたね、先生。私も書き方や注意点などは覚えましたので、次回からはアロナにも聞いてください!」
「ありがとなぁアロナ……迷惑をかけるだろうがよろしく頼むぜ」
リンに押し付けられた書類を終わらせ、先生は椅子の上で伸びをする。あの後、リンからは財務室の扇喜アオイを紹介してもらい、書類の書き方、経費の申請の仕方、やってはいけない注意点等を細かく教えてもらい何とか書類を捌き切った。
本来ならばキヴォトスの混乱に対応すべき時間を自分に割いてもらう事もあって、一言一句聞き逃さない様に集中して挑んだのが良かったらしい。本来アオイには書類の書き方といった初歩の初歩を説明する必要はなく、顔合わせの時は少々冷たい目で見られていたが、半日ほど経つうちに少し打ち解けることができ、何とか会話をこなせるまでには親交を結ぶ事が出来たのは幸いだろう。
ちなみに、なぜ政治的に対立しているはずのアオイを先生の元へ遣わしたのかというと、リンの負担を少しでも減らそうと思い、たまたま廊下であった際にアオイから志願したらしい。何でも二人は政治的には対立関係にあるが、私人としては先輩後輩の関係で仲が良い様だ。
「リン先輩は何でも自分で負担したがりなのよ」
とはアオイの言だ。そんな仲の良い先輩後輩達の手を今後も煩わせる訳にはいかないと、アロナにも一連の手続きを覚えてもらい、先生達はかろうじて仕事のやり方を覚えたのであった。
「ええ、これなら多少はできる様になったわね。正直言って意外よ。書類仕事を全然した事がないというのも驚いたけど、半日でそれなりに形になるんだもの」
「今回はまず理屈抜きでやり方を覚える、その後余裕が出来たら意味を考えるってやってるからなぁ……本来は良くねえんだが今は一刻も早く回せる様にと思ってよ」
「ああ、なるほど。とりあえずやり方を覚えることに専心したのね。先生、言うまでもない事かもしれないけど分からない事があったら勝手にこなしちゃダメよ。分からない時はしっかり他の人に聞く事、良いわね?」
「ああ、そこはもちろんだ。今日教えてもらったのはさわりの部分だけだってのは分かってる。分からねえ時は素直に聞くからよ」
先生の回答を聞き、アオイは微笑む。最初に会った時は筋肉ばかり大きく、仕事をこなせるか内心不安であったが、この人は馬鹿ではない、分からないことは素直に聞ける人だと分かったのは収穫だった。連邦生徒会長が任命したのだからおかしな人ではないと思っていたけど、これならばシャーレの責任者として務めることは出来るだろうとアオイは胸を撫で下ろすのだった。
「では、そろそろ失礼するわ。おやすみなさい、先生」
「おう! アオイもお疲れさん! 今日は本当に助かったぜ。何か困った事があったら遠慮なく言ってくれよな」
二人は挨拶を交わし、別れた。そうして先生のキヴォトス2日目は過ぎ去ったのであった。
数日後、ハスミから指定された日が来たのでトリニティに向かう。何でもトリニティの生徒会であるティーパーティーに先生が着任した事を伝えたところ、すぐに会いたいとの返答が来たので初めにトリニティへ向かう事となった。本来、トリニティは様々な派閥があり、意見がまとまるのは時間がかかる筈なのだが、今回は異例だと迎えに来たハスミに教えてもらった。
「ここまで早いとは想像していませんでした。先生、こんな事を言うのも何ですがお気を付けください。我が校は様々な派閥があり一枚岩ではありません。直接的な暴力に訴える可能性は少ないと思いますが、裏ではどう動いているものやら……一応、トリニティにいる間はできる限り私が付いておりますが、先生は銃弾一つが致命傷にもなり得るので危ういところには近づかない様にお願いします」
「おいおい、自分が通ってる学校をあんまり悪し様に言うもんじゃねえぜハスミ。それに俺としても好都合だ。元々全部の学園には挨拶に行きたいと思ってたからなぁ」
「先生はキヴォトス中の学園に挨拶に行くつもりなのですか?! 大小合わせていくつ学校があると……」
「でもシャーレの先生として任命されたからには挨拶に行かねえとなぁ。実際に会ってみないと分からない事や相談しにくい点もあるだろうしよ」
先生はハスミを真っ直ぐに見据えてそう言った。そこには先生としての強い意志が垣間見える。何と真っ直ぐな人なんだろうとハスミは胸を打たれるような気持ちを抱いた。自分より大きい生徒は見た事がないが、色んな意味で自分よりも遥かに大きいとハスミは内心、尊敬の念を抱くのであった。
「おう、そういえばハスミはシャーレに所属してくれるんだったな、良いのか? 所属してる部活との兼ね合いもあるんじゃねえのか?」
「はい、構いません。委員長のツルギにも相談して決めた事です。ですが、普段は正義実現委員会の仕事もあるので参加できない事もあると思うのですがそれでもよろしいのでしょうか」
「もちろん、そこは普段の生活を優先していい。手が空いた時だけでも手伝ってくれると助かるからよ」
「はい、でしたら喜んで参加させて頂きます。これからお願いしますね? 先生」
「ああ、こちらこそよろしく頼む」
移動中、ハスミのシャーレ参加について話をし、改めて協力に感謝をした先生であったが、トリニティに近づくにつれ、何やら騒がしい様子に気がつく。どうやらハスミにも何やら連絡が来ている様だ。
「先生、申し訳ないのですがゲヘナ校の連中が武装したトラックで突っ込んできた様でして、申し訳ないのですがここからはお一人で行って頂いてもよろしいでしょうか」
「そういうことなら俺の出番だろ。どこでやってんだ? 手伝うからよ」
「先生、何度言えば分かるのですか。先生は銃弾が当たったら致命傷になり得るのですよ。キヴォトスの生徒はそんなに柔じゃないので私たちにお任せくださ」
ハスミが諌める様な言葉を言った途中、ようやく見えて来た校門付近で爆発が起きた。どうやらゲヘナの不良生徒達が気前よく爆弾を使ったらしい。ハスミもにわかに表情を厳しくさせ、持っていたスナイパーライフルを構える。ここまでの規模とは想定していなかったらしい。正義実現委員会のナンバー2としての顔を見せたハスミは、先生を強制的に避難させようと隣を見た。だが、そこには誰もおらず、視線を戻すと不良生徒達に襲いかかる先生の姿があったのだった。
──疾走る 1秒にも満たない時間でトップスピードに達した先生は校門前まで刹那の間に到達する。見るとゲヘナ学園の制服を来た生徒らがハスミと同じ様な制服を来た生徒と撃ち合いを行なっている。ハスミが嘘を言うわけも無いので、ゲヘナ側の生徒がトリニティを襲っているのだろう。どちらに味方をするか瞬時に決めた先生は不良生徒達に襲いかかるのであった。
「なっ、何だこいつは! とんでもなくデケえ! おい! みんな撃……」
指揮官らしい生徒がこちらを向いて、射撃を指示していたが遅い。1番近くにいた生徒が持っていた銃器を蹴り飛ばし無力化。周りの連中もまだ何が起きているのか理解出来ていない様だったので素手で銃器の破壊。常軌を逸したスピードで制圧にかかっていく。5人ほど無力化した時点でようやく動き出した様だが、それは余りにも遅すぎた。
銃器を向けるスピードよりも速い速度で射線を外した先生は、先ほどと同じように一人一人武器を破壊していく。指揮官が必死に叫んでいるようだが、何が起こっているか全く把握出来ていないようだ。ただ、何とかしろと喚く間に一人一人戦闘ができる人員が減少していく。呆気に取られていた正義実現委員会の生徒も、ようやく彼が敵ではないと判断できたのか撃つ勢いを増していく。全滅は時間の問題だった。
「ちくしょう! 何だってんだよコイツは! こうなりゃヤケだ! トラックごと突っ込んで……」
指揮官が傍らの武装トラックに乗り込み、アクセルを吹かそうとした瞬間ドアが引き剥がされた。恐怖に歪んだ顔で横を見るとそこにはドアを捻り取った男の姿が。男はトラックが動かせない様に無理やりブレーキに足を捩じ込むとこう言った。
──まだ、やるか?
指揮官は人形の様にカクカク首を横に振ると涙を浮かべて降参するのであった。
ここに、戦闘は終結した。
「先生! だから何度言ったら分かるのですか! 一人で突っ込んでいってはいけないと! 先日ミレニアムのユウカさんに言われた事を覚えていないのですか!」
戦闘が終わり、イチカが下手人の元へ近づいていくとハスミが見知らぬ男性を叱っているのが見えた。先ほど、あれほど目立っていた巨躯の肉体は、今やハスミから叱責を受けるたびに縮んでいく様だった。周りには無力化された不良生徒達が恐ろしいものを見る様な目で二人を覗いている。
「お疲れ様っす。ハスミ先輩。そちらの方はどなたっすか?」
「ああ、イチカ。良くやってくれました。こちらは争いごとを見ると突っ込んで行ってしまうシャーレの先生ですよ」
「いや、言ってることはその通りなんだが言い方ってもんが……」
反論しようとした男性だが、ハスミからキッと睨まれるとまた口を噤んだ。初めて会ったばかりだが自覚しているなら直せば良いのにとイチカはぼんやり思ったが、このまま放っておくと更に口論を続けそうだと思ったイチカは先生に助け舟を出す。
「まあまあ、今回は先生のおかげであっという間に収まりましたし大目に見てあげましょうよ。人数多くて大変だったっすよ」
「…………まあ、それもそうですね。良いですか先生、今回はここまでにしますが、自分の身は本当に大事にしてくださいね! 分かりましたか!?」
「ああ、まあ、気をつける様にするからよ……」
げんなりした顔をした先生は、ようやく解放されたと顔に生気を戻した。ハスミがジト目で見ているが気がつかないフリをして伸びをする。そこで周りで怯えている不良生徒達を見回した。
「おうハスミ、こういった場合コイツらはどうなんだ?」
先生は周りの不良達を見ながらハスミに質問した。先日の不良達はヴァルキューレ管轄のため矯正局に送られたが、今回の様な自治区での諍いはどうなるのか知りたい様だ。
「この場合、彼女らはゲヘナ学園に所属なので向こうに引き渡して賠償金を払って頂く形になりますね。そのあとは向こうの風紀委員会等で取り締まると思います。これだからゲヘナは……!」
話している途中にゲヘナへの怒りを抱いたのかハスミの語尾が荒くなるが、先生はそれを横目に膝を折り、目線を合わせて不良達を問いかける。
「お前ら、何でこんなことしたんだ? 怒らないから正直に言ってくれ」
不良達はどうするか互いに目線を交わしていたが、諦めた様に先ほどのリーダー格の少女が答えた。
「私たちはゲヘナの中でも落ちこぼれで、生活が苦しかったりするんです。それでトリニティの生徒を2、3人誘拐して売っ払えば生活の足しになると思って……」
「そんなことのためにうちを襲ったのですか……! ふざけているにも程があります……!」
「ハスミ、ストップだ。俺が話す」
ハスミの言葉を途中で遮る。先生は今話したリーダー格の生徒にしっかり目線を合わせて言う。
「俺は連邦捜査部シャーレの先生になった大加美という。ここキヴォトスで先生をやらせてもらうことになった者だ。お前ら生徒達の悩みや苦しみを解消するためにここに居る。だから、今度からは何が困りごとがあったら俺を頼ってくれ。必ず解決できるとは言えねえが、一緒に考えてやれる。今回みてえな事はやっちゃダメだ。自分の苦しみを解消するために、他者に苦しみを強いる様な事はやっちゃいけねえ。どうか、分かってくれねえか?」
真っ直ぐな瞳で先生は彼女らを覗き込む。今言った事を伝えようと、目を見て話す先生に彼女らも少し感じ入るところがあったのだろう。先ほどまでの怯えは薄れ、少し項垂れる者も出てきた。彼女らに伝わったのだろうと先生は立ち上がり、いつもの調子で手をパンと叩いた。
「よし、これで一旦は終わりだ。やった事は償わないといけねえから一旦、ゲヘナにコイツらの処遇は任せる。だが、償い終わったら俺に連絡してこい。ハスミも、それで良いな?」
「えっ、は、はい……分かりました」
毒気を抜かれた様子でハスミも賛同する。先ほどまでの憎しみは無く、普段のハスミを知っているイチカも驚いた様子だった。
(この先生が変えてくれたって事っすかね〜)
イチカが内心で考えていると、ハスミが今気がついた様に質問してきた。
「そういえばイチカ、ツルギはどうしたのですか? ここまでの規模なら真っ先に来ると思うのですが……」
「ツルギ先輩なら別の入り口の方で対応してまして……」
キィィヒヒヒヒ!!!! キャハハハハ!!!!
イチカの回答の途中、天を劈く様な奇声が聞こえてきた。あらゆるものを薙ぎ倒し、最短距離でこちらへ向かってくる誰かがいた。ハスミは諦めた様に頭を手を当て、イチカの笑みは微妙に引き攣るのであった。
正義実現委員会、剣先ツルギ、現場へ到着す。