弾丸1発で死ぬ先生 作:戦える先生ものが読みたかった
ケヒャヒャヒャヒャア!! 敵はどこだああああ!!
さながら暴走特急の様な勢いで、正義実現委員会のトップ、剣先ツルギが走ってくる。途中にある物を薙ぎ倒し、最短距離で駆けてくるツルギだが、どうも様子がおかしいことに気づく。結構な人数が襲ってきたため戦闘が続いていると思ったのだが、敵はすでに鎮圧されている様だ。だが、思っていたより勢いが付いていたため咄嗟には止まれない。ハスミやイチカが見ている中、不良達に激突する──
「おっと、元気が良い嬢ちゃんだな」
とす、と軽い音のみを残し、ツルギが抱き抱えられる。ツルギが止まろうとしていた事もあるが、結構な勢いが出ていたのをこともなげに勢いを殺し、なおかつツルギが怪我を負わない様にする先生の技術にハスミは目を見張る。
抱き抱えられたツルギは、顔を下に向け動かない。先生も見知らぬ男に抱かれている状況は嫌だろうと考え、すぐさま身体を離し、気遣う様に声をかけた。
「おーい、大丈夫か? どこか怪我してないか?」
「キヒッ! あの……その大丈夫です……」
先ほどまで叫んでいた人と同一人物か、疑いたくなる様な声でツルギが返す。ツルギとの付き合いが長いハスミは、珍しいものを見た様な目で見るが、普段の付き合いがまだ短いイチカなどは驚愕していた。奇声、変顔、おどろおどろしいヘイロー等で有名な剣先ツルギだが、乙女の一面もあり、先生との触れ合いでその一面を皆に晒すことになったのだった。
「おま、いや違う、君は、ハスミが言っていたツルギで良かったか? 俺は大加美という。これからよろしくな」
「ケヒャア!? あの……その……よ、よろしくお願いします……」
驚いた様にツルギが叫ぶが、先生は気にせず笑いかける。ハスミから、誤解されやすいが優しい生徒だと聞いていたからだ。確かに威圧感を与える見た目だと内心思いながら話しかける。
「ハスミから聞いてるぜ、正義実現委員会のトップだってな。こっちの方が俺が話を付けた。急いで駆けつけてくれたところ悪ぃな」
「いえ!? その、こちらこそ……周りを確認せず申し訳ございません……」
「後輩達を助けるためだったんだろ? 立派なモンだ。それに……」
先生がツルギをジロリと見る。先生からの熱い視線を受け、ツルギが赤面するが気にせずに眺める。顔が茹蛸の様になったあたりでようやく先生が目線を外すが、緊張していたツルギはグニャグニャに蕩けてしまった。
「いやー、見て分かったが、お前はビックリするぐらい強えなツルギ! いつか模擬戦でもやってみてえもんだ!」
「先生も……とても強くていらっしゃいますね。キ、キヴォトスの外から来た人は皆こうなのですか……?」
「いや、俺は外から来た人間の中でも珍しい側に当たると思うぜ。俺より強え人間は何人か心当たりがあるが、大抵はキヴォトスの人間よりは弱え」
「そ、そうなのですね……安心しました。先生みたいに強くて優しい人が先生になってくれて、良かったと思います」
「まだまだ着任したばっかだからその評価は早いぜツルギ。まあ、頼ってもらえる様に頑張っから、改めてよろしくな、ツルギ」
「は、はい! 私こそよろしくお願いしま
キエエエエエエエエ!!!!!! 」
会話の途中で耐えきれなくなったのか、ツルギが奇声を上げる。だが、それを見ても先生は、元気が良いと微笑み、頷く。それを見たハスミもツルギが誤解されなかった事を喜んだ。
騒動もひと段落し、改めてハスミにトリニティを案内してもらう。ティーパーティーが待つ校舎に向かうまでに、物珍しい様子でトリニティ生から見られるが、先生は動じる様子も無い。それどころか、おう! 初めましてだな! と挨拶を交わす余裕まであった。お嬢様気質の生徒が多い中、少々浮いていたが、全く気にしない様子はハスミに大人の余裕を感じさせるのだった。
途中、自警団のスズミと再会し、後輩のレイサを紹介してもらったりと色々あったが、遂にティーパーティーがいる講堂へ到着した。講堂の中へハスミと共に入ろうとしたが、ここからは先生一人で来て欲しいとティーパーティー傘下の生徒に言われてしまい、ハスミは噛みつきながらも最後には渋々了承した。派閥についてかんがえながら講堂の中へ進む先生は、何も恐れる物は無いと、全身で示す様な歩みで先へ向かう。傍を歩く護衛達も、その歩みについ目を奪われるような堂々さであった。
明るい日が差し込むテラスに、紅茶を飲みながら待つ生徒が見えた。先生に気付いた様で、カップを丁寧な所作で置き、優雅に一礼を行う。
「ティーパーティーのホストを務めております、桐藤ナギサと申します。貴方は、シャーレの先生でお間違いないでしょうか」
「丁寧にすまねえな、俺は大加美という。今言ってもらったようにシャーレの先生として先日着任した。今日は時間を取ってもらってありがとな」
「いえ、こちらこそ、御足労頂き誠にありがとうございます。どうぞ、お掛けください」
ナギサが示した席に座る。規格外の肉体を誇る巨体のため、みしりと軋む音がしたが問題なく受け止めてくれた事に先生は内心安堵した。ナギサもくすりと笑い、次からは先生用の椅子を用意しますと言って紅茶とお茶菓子を勧めた。紅茶で軽く口を湿らせた先生はおもむろに切り出す。
「今日挨拶に来たのは、俺がシャーレの先生として着任したのを皆に知らせるためだ。最近キヴォトスでは色々問題が起きてると聞いてる。ここ、トリニティでもなんか困ったことはねえか?」
ナギサはしばし何かを考え込む様に口を閉ざしたが、数瞬後、微笑みながら回答した。
「いえ、お気遣いありがとうございます先生。ここ、トリニティはお聞きになったかも知れませんが様々な派閥がございます。故に互いが互いを監視しており、問題が起こりにくい学園なのですわ。逆に言うと何か問題が起こってもその派閥内で解決することが多く、ホストである私にも全ての把握は困難なのです。ですので、もし、何か派閥を超えた問題が起こった場合は、連絡させて頂いてもよろしいでしょうか」
「おう、マンモス校ってのは大変だな。まあ、問題が起こってねえんなら良いんだ。今日はあくまで挨拶だからな」
先生の回答を聞き、ナギサは薄く笑みを浮かべるが、その笑みを消すと声を顰める様にして付け加えた。
「強いて言えば……土地柄なのでしょうか、ゲヘナ学園の方に攻め込まれることが多く……。先生も今日、手伝って頂いたと聞き及んでおります」
「ああ、アイツらみたいなのが来るのか。なるほど、分かった。今すぐなんとか出来るかは分からねえが、今後ゲヘナにも行く予定だ。その件についても話してみるぜ」
「ああ、ありがとうございます先生。私どもの方でも対策はしようとしておりますが、他校のためなかなかに難しく……先生からも言って頂けると助かりますわ」
そう言うとナギサは今度こそはっきりとした笑みを浮かべ、安心した様に紅茶を飲んだ。相談したい事を言って安心したのか、先ほどまでよりリラックスした様子のナギサを見て、先生も笑みを浮かべるのだった。
しばらく取り止めのない話を行なったり、お茶菓子の美味さに先生が大声を出す事件などがあったが、幾分、和やかな雰囲気の中、会談は終了する事となった。見送りに来るナギサに先生は太い手を振って挨拶をし、テラスを離れる事となった。
先生が離れたのを確認したナギサが振り向くと、桃色の髪をした少女が椅子に座り、紅茶とお茶菓子を摘んでいるのが見えた。いつの間に来たのか、微塵も気配を察知させなかった幼馴染を見て、ナギサはため息混じりに話す。
「ミカさん、どちらに行っていたのですか? 今日はシャーレの先生が来ると話していたでしょう。貴女もティーパーティーとしての自覚を持ってください」
「アハハ☆ごめんねナギちゃん! こっそり見るのも良いかな〜って思って近くで覗いてたんだ〜 すっごいおっきさだったね!」
聖園ミカ、ティーパーティーの一人でパテル分派の代表者である彼女は自由奔放な性格をしており、ナギサの頭を悩ませる事も多い幼馴染であった。会談をぶっちした彼女はお茶菓子で口をもぐもぐさせながらナギサに話しかける。
「だいぶ真っ直ぐそうな人だったね! でも意外と脇も見えてる印象もあったな〜 ナギちゃん的にはどう思った?」
「私もミカさんとはさほど変わりません。少なくともトリニティに害を及ぼす様な人ではないでしょう。急ぎ今回の会談を開いた甲斐がありましたね」
ナギサたちの目的は先生の人となりの把握だった。ハスミからの報告を受け、わざわざ急ぎ会談の準備を行ったのは、まだ先の話ではあるが、とある“条約”に先生が邪魔をしないか確認を行なうためだった。先生の物理的な力も確かに強いが、シャーレの先生という立場が問題となり得る可能性がある。ゲヘナに肩入れする様な先生の場合、最終的には“処理”をしなくてはならない可能性も考えられる。そのために、どこよりも早く先生に接触する事を選んだのだ。
「いやー、でも中々強そうな人だったね。多分私が覗いてた事も分かってたと思うよ?」
「えっ、そうなのですか? 先生からは誰かが覗いている事などは特に言ってはなかったのですが……」
「ナギちゃんには分からない様に何回かこっちの方に顔を向けてたからね〜 何か事情があると思って話さなかったのかも☆」
ヘラヘラと笑いながらミカが言う。彼女が気がついたのは何回か視線が合ったからだ。簡単にはバレない様に少し離れた位置から覗いていたのだが、先生はさも当然かの様に視線を向けてきた。最後に手を振ったのはミカにも挨拶するためだろう。彼は理由こそ聞かなかったが、誰かに覗かれている事はしっかり把握していたらしい。ナギサは今の話を聞き、顔を少し引き締めた。
「思ったよりも手強そうな方かも知れませんね。これからも少し注意して見ていきましょう」
「私としてはかなりゴツいけど嫌いじゃないかも☆ゲヘナの奴らを蹴散らす時も結構カッコよかったし!」
「そこまで見てたんですね……とりあえずしばらくは静観するとしましょうか」
そう言うとナギサは今度こそ席を離れる。未だ先の“条約”に向けてやるべきことは沢山あるのだ。ナギサはティーパーティーのホストとして、先生をどう味方に付けるか考え始めたのであった。
「先生! 戻られたのですね……ティーパーティーの方との話し合いはいかがでしたか?」
「おうハスミか! まあ、難しいことはよく分からんが色々考えてそうな感じだったな」
ハスミと合流した先生は、ナギサについての印象を話す。こちらを観察するかの様な目線や、涼しい顔をしながら色々考えている彼女は何やら苦労している様だった。初対面で何やら聞き出すのも良くないと思って深くは踏み込まなかったが、目をかける必要があると先生は感じるのであった。
行きとは違い、特に問題が起こらないまま学園の出口付近まで着いた先生は、ハスミに見送りはここまでで良いと言い、別れを告げた。ハスミも当初はD.Uまで送るつもりだったが、わざわざ見送りに来ると二度手間になるとの先生の言に渋々従うのだった。
「先生、それでは気を付けてお帰りください。銃撃戦を見かけたとしても、キヴォトスでは日常ですので首を突っ込んではいけませんよ」
「まるで俺の母親みてえなこと言ってるな……分かったよ、今日はもう暴れる予定はないから大人しく帰るからよ」
最後までハスミに忠告を言われ、先生は帰路に着く。まだまだ未熟ではあるが、こうやって話すことは重要だと思いつつ、先生は次の学園の生徒に思いを馳せるのであった。
次の訪問は、ミレニアムサイエンススクールだ。