弾丸1発で死ぬ先生   作:戦える先生ものが読みたかった

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予想外に長くなりました…


ミレニアムへの学園訪問②

 

 ユウカに連れられて、先生は次の部室へ向かう。ヴェリタスといい、平たく言えばハッカーの集団らしい。セミナー非公認の組織であり、衝突することも多々あった。本来はユウカもあまり紹介するつもりは無かったが、先生の協力者は一人でも多い方がいいと思い、急遽予定を変更して会いに行くのであった。

 

「失礼します。チヒロ先輩はいますか?」

「ゲッ、ユウカじゃん……何しにきたの? まだ何もしてないんだけど……」

 

 ヴェリタスの部室に入ると、赤髪で派手な柄の銃を持った少女が嫌そうな顔をしてユウカを迎えた。彼女は小塗マキ、グラフィティを愛する1年生だ。彼女も本気でユウカを嫌ってるわけでは無いが、いつもユウカから小言を言われているので若干の苦手意識があるらしい。

 

「珍しいね、ノアじゃなくてユウカが顔出すなんて」

 

 奥から眼鏡をかけた真面目そうな少女が出てくる。彼女がユウカが言ったチヒロだろうと、先生は当たりをつける。ユウカも彼女がいるのを見て安心したように一息付いた。先生を紹介しに来た旨を伝えると、チヒロは先生を見上げ、挨拶をした。

 

「初めまして先生、ヴェリタスの副部長の各務チヒロと言います。本当は別に部長がいるのですが、現在違う部室に無理やり引き抜かれたので部長の代理もやってます。これからよろしくお願いしますね」

「ああ、丁寧にすまねえ。俺はユウカから紹介があったようにシャーレの先生をやらせてもらうことになった大加美だ。こちらこそよろしく頼む」

 

 チヒロとの挨拶を交わし、先生は部室を眺める。多数のPCやケーブル、キーボード、字高く積まれたエナドリの空き缶や壁に描かれたグラフィティなど混沌とした様子が見える。先生が見ているものを目で追ったチヒロは、少し苦笑いをしながらいつもこうなんだと答えた。問題児が多いと言われるヴェリタスをまとめる苦労が窺えるようだった。

 

「それで、ユウカ。なんで先生を連れてきたの? 失礼だけど先生はPC関連に得意そうって訳でもないし」

「おう……情けない話だが、ぱそこん関連に関しちゃ全然ダメでよ……いずれは勉強しないとと思ってるんだが」

「単刀直入に言うと、ヴェリタスの皆さんには先生の力になってもらいたいんです」

 

 二人の話を聞くと、ユウカが切り出す。これから先生は、キヴォトス中の問題を対応しないといけない。中には、インターネット関連の問題や情報についても対応しないといけないだろう。そんな時は先生に力を貸して欲しいと、真っ直ぐチヒロを見つめながらユウカは言った。チヒロは真意を探るべく、数瞬ユウカを見つめたが、裏がないと分かると微笑みながら答えた。

 

「もちろん、協力することに異論はないよ。……今日来たのは先生の為?」

 

 最後だけは声を顰めてチヒロは言う。先生はマキと意気投合したのか、グラフィティについてやハッキングについて教わっている様だ。のそのそと、寝ていたコタマも二人に合流する。

 ユウカは少し顔を赤くしながら、チヒロからの質問を肯定した。そんなユウカを見て、チヒロは少し悪戯っぽく笑って質問する。

 

「ユウカがそんな顔するなんてね……好きになっちゃった?」

「いえ、そんなわけじゃ……無くて……あくまで! 先生の力になってくれれば良いと思いまして!」

「分かった分かった。ただ、うちの子たちは問題児が多いから余計に面倒を起こすかもしれないよ? それだけは分かって欲しい」

「それは……何とか問題を起こさない様に、お願いします……」

 

 ユウカがお願いすると、チヒロは少し遠い目をして口を噤む。席を外していたハレも、先生達に合流して色々話している様だ。どうやら先生は気に入られた様だが、気に入った人にも面白そうなら悪戯をするのがヴェリタスだ。しっかりと皆の手綱を取れるか、チヒロは改めて不安になるのだった。

 

「それじゃあ先生! また時間ある時に来てね!」

「先生から頼まれれば、どんなところでもクラックするので」

「またお待ちしてます、先生」

 

 マキ、ハレ、コタマと挨拶を交わし、先生はこちらへ向かってくる。ヴェリタスとの顔合わせは成功に終わった様で、皆からはだいぶ気に入られたらしい。チヒロもユウカとの打ち合わせを切り上げ、先生に挨拶する。

 

「それじゃあ先生、今度からはよろしくね」

「おう、PC関連で問題が起きた時は相談させて貰うぜ。情けない話だが協力してもらえると色々とありがたい」

 

 先生はそこで言葉を切ると、腰を深く折り、これからよろしくお願いすると、真剣な雰囲気でヴェリタスの皆に挨拶する。そこには先生としてではなく、専門外の分野の専門家に依頼をする人の姿があった。ヴェリタスの皆は一瞬呆気に取られたが、すぐにクスクスと笑い出し、大船に乗ったつもりで任せてと答えるのであった。

 

 

「よう、探したぜ。時間通りに来ねえもんだから心配してよ」

 

 廊下を歩く先生達に後ろから声がかけられる。振り向くと、メイドの衣装を着た生徒達が並んでいた。その中でも、先頭に立つメイド服の上にスカジャンを着た生徒がこちらを睨む様にして立っていた。ユウカはため息を付きながら彼女に答えた。

 

「さっきC&C代表宛にメールを送ってたんだけど読んでなかった? 遅れたのは申し訳なかったけど……」

「ああ?! おい本当かアカネ!?」

「はい、先ほどメールにて遅れる旨がユウカから届いてましたね」

「おいなんだよ……じゃあ歩き損じゃねーか! なんで教えねえんだよ!」

「うふふ、ウロウロと歩き回るリーダーが可愛かったので……」

 

 なんだよそりゃとスカジャンを着た生徒が肩を落とす。どうやら彼女がリーダーの様だが、周りの生徒達からなかなかに愛されている様だ。先生はここ数日でしっかり身に付いた挨拶をそれぞれに行い、自己紹介した。

 

 C&C、ミレニアムきっての武闘派でありエージェントの集団でもある。なぜメイド服を着ているのか尋ねると、正体を隠す為らしい。先生は内心メイド服を着てた方が目立つのではないかと思ったが、本人達が気に入ってる様だったので良いかと思考を放棄するのであった。

 

 皆から弄られ終わったネルに、ユウカが改めて遅れたことへの謝罪を言うが、ネルが気にしてねえと答え、謝罪を受け入れた。アスナ、カリン、アカネからご主人様と言われ戸惑っている先生にネルが改めて声をかける。

 

「おう先生、一つ頼みてえ事があるんだがいいか?」

「ああ、どうした? 何でも言ってくれ」

「そうか、じゃあちょっとツラ貸してくれや」

 

 ネルは獰猛に笑いながら、先生に対してそう言った。

 

 

「リーダーはご主人様と模擬戦がしたいみたいだよ!」

 

 中庭に着くと、アスナが先生とユウカに先ほどのネルの言葉を翻訳して伝えてくれた。ネルは先生の強さの話を聞いた後、どれほどの強さなのか気になっていたらしい。

 アスナ達は先生と出会い、すぐにご主人様の認定を行なったが、ネルは先生として自分の上に立つからには、自分より強くないと認めないと駄々を捏ねたのだ。これが戦闘能力がない先生であればまた違ったのだろうが、戦える力があると聞いたので今回の提案を行なった様だった。

 ユウカはそれを聞き、もちろん反対しようとしたが、使う弾はゴム弾であること、怪我をしない様に他のC&Cメンバーも注意する事、何より先生が快諾したので、模擬戦を止める事が出来ず、二人を見守ることになった。

 

「タイマンだな先生、怪我すんなよ?」

「ああ! そりゃあ勿論だ。だが、挑まれたからには全力でやるぜ」

 

 二人は五メートルほど離れ、向かい合う。最初は先生が銃を持っていないので、もっと近距離で始めるかとネルが言ったのだが、これぐらいが丁度いいと先生は譲らなかった。舐められているかと思って怒りを抱いたネルだったが、相対して自分の甘い思考を考え直す事となった。

 

(強え……)

 

 二メートルの肉体に、硬く、巨大な筋肉が乗っている。指は長年の修行により、分厚く、太い。だが、それは鈍重である事とイコールでは無い。鍛え上げられた脚は金属製の丸太の様だが、その丸太には、凄まじい程のバネが仕込まれてるだろう。先生は構えていないが、既に臨戦体制だ。ネルは思わずゴクリと唾を飲み込んだ。

 

(はっ、いいねえ……! それでこそ戦り甲斐がある……!)

 

 ネルも構える。鎖で繋がれた二丁のサブマシンガンをダラリと下げ、自然体だ。油断は微塵もなく、何が起ころうと対処できる様に神経を張り巡らせる。元々鋭い目つきがさらに鋭くなり、視線に圧力があれば刺し殺されかねない。そこには勝利の名を冠したダブルオーに相応しい姿があった。

 

 事前に取り決めた勝利の条件は、有効打を与える事。

 二人は開始の合図を待ち侘びる。

 

「それでは、互いに正々堂々と戦いましょう! 始め!」

 

 アスナの声が高らかに響き渡り、対決の火蓋が、切って落とされた。

 

 

 開始の挨拶を聞き、コンマ何秒かでネルが両手のサブマシンガンを連射する。先生は生身だ。面での制圧であれば、当たるはずだ。仮に回避されたとしても対応を迫られるだろう。そこを崩していけばいい。ネルは冷静な思考で弾をばら撒く。だが、先生の対応はそれ以上だった。

 開始直後に動いたのは先生も同じだ。脚に溜めていた力を爆発させ、前進。五メートルの距離を三メートルまで縮めた。普通の生徒であれば、この距離であっても撃つ前に制圧出来かねない疾さだったが、ネルの銃口を見て前進を中止。銃口を向けられるより速く当たらない位置へと移動する。そのまま隙を見て更に距離を詰めるかと思考するが、避けられたと判断したネルの対応もまた速かった。両手のサブマシンガンを巧みに扱い、移動先、更にそこから回避し得る位置へと弾をバラ撒く。これにはさしもの先生も後退せずを得なく、再び五メートル付近まで距離を取るのだった。

 

 ネルの性格を表す様な苛烈な攻撃と、それを超人的速度で回避し続ける先生。奇妙な均衡が生じていたが、互いに均衡が崩れる瞬間が近いと感じていた。弾切れが近い。ネルのリロード速度は他の生徒と比べても速いだろうが、先生の前ではそれは致命的な隙になる。片方ずつ交換したとしても、制圧力が薄まった状態で、リロードに意識を割きながらの発砲は用意に回避されるだろう。

 

 右手のサブマシンガンの弾が切れる。

 その瞬間を見逃さず、先生は猛烈な勢いで前に出る。左手のみで射撃するがそれでも遅い。二人の距離が急激に縮まる──

 

 一瞬戸惑ったのは先生だった。ネルは右手の弾が切れると同時にこちらへ飛び込んできたのだ。目測より速い速度で接近した二人だが、先手を仕掛けたのはネルだった。弾切れのサブマシンガンを先生の顔目掛けて投げつける。当たってもダメージは無いだろうが、目線が一瞬塞がれる事を嫌った先生は、片手でサブマシンガンを受け止めた。急ぎ視界を確保すると、下から空を裂くネルの蹴り。腰を落とし、右手でガードしたが、ネルの体格からは想像も出来ないほどの重さが襲いかかる。キヴォトスの人間のスペックは見た目から想像も付かない事を思い知った先生だが、蹴った側のネルもまた同様に驚愕していた。

 

(揺らぎさえしねえ……見た目から分かってたとはいえ、あたしの蹴りで体勢を崩す様子も無いなんてな……!)

 

 蹴った感触はまるで聳え立つ巨岩に蹴りを入れたかの様。地面に深く根付いている様な感覚を得たネルは、次の攻撃をするべく、拳にて殴りかかる。接近戦が得意と豪語するだけあり、その動きは尋常では無い速度だった。だが、先生はその上を行く。先ほど受け止めたサブマシンガンの鎖を手に巻き付け、引っ張る。鎖で繋がれている事が裏目に出て、ネルの左手から体勢が崩れた。その隙を見逃す先生では無かった。

 

 疾ッ! 砲弾の如き右の拳がネルに襲いかかる。体勢が崩れた状態でガードするが、そのガードごとぶち抜き、ネルが吹き飛ばされる。意識が一瞬遠くなるが、根性で堪えたネルは空中で最後まで離さなかったサブマシンガンを撃つ。極度の集中下で放たれた弾丸は先生の心臓へと向かうが

 

(はっ、そんなんアリかよ)

 

 反応できるはずも無い距離で、先生は心臓への弾丸を手で逸らす。そしてネルが地面に落ちると目の前には先生の拳があった。

 

「勝負アリだな、ネル」

「ああ……あたしの負けだ、先生」

 

 ここに勝敗は決した。短くも濃い二人の濃密な時間は終わりを告げたのだった。

 

 

「だーかーらー! どう見てもあたしの負けだったろ先生?!」

「いや、今回はゴム弾だったから手で逸らせたが、あれが実弾だったら俺ぁ逸らす事が出来なかった。だからネルの勝ちだと俺は思う」

「それも込みでの模擬戦なんだからあたしの負けに決まってるだろ! 先生があたしを殴った時も手加減をしてたっぽいし!」

 

 模擬戦が終わり、先生とネルが勝敗について言い合っていた。どうも互いに自分の負けだと主張している様だ。それを遠目に見ながらユウカは最近多くなってしまったため息を付き、アスナ達はニヤニヤと笑うのだった。

 

「いや〜リーダーもだいぶ先生と仲良くなったね!」

「今回は引き分けで、良いと思う」

「あれが私たちのご主人様なのですね。仕え甲斐があって楽しそうですわ」

 

 アスナ達三人は、自分たちのリーダーと先生が仲良くなったのを見て嬉しそうに笑う。どうせ仕えるなら楽しそうな人が良い。その点では先生は最高に仕え甲斐のある人だ。これからの愉快な日々を考え、C&Cのメンバーは笑うのだった。

 

 

 

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