弾丸1発で死ぬ先生 作:戦える先生ものが読みたかった
「じゃあまたね〜先生、いつでも気軽に来てね」
C&Cの皆と離れ、先生とユウカはセミナーの部室へ向かう。生塩ノアというユウカの親友を紹介してくれる様だ。二人は並んで歩きながら会話をする。だいぶ長く居たからだろう。夕暮れが二人の影を伸ばしていた。
「ノアは凄いんですよ。すっごい記憶力が良いし、何でも出来ちゃうんです」
「ユウカがそこまで褒めるって事は相当だな。会うのが楽しみだぜ」
「そうなんです! たまに揶揄われたりしますけど、自慢の親友です」
「私にとってはユウカちゃんの方が凄いと思いますけどね」
不意に後ろから声が聞こえた。ユウカがギクリとした様子で振り向くと、そこにはユウカの黒いブレザーとは反対に白を基調とした制服を着た生徒がいた。淡い藤色の瞳を輝かせ、ニコニコと笑っている。その顔を見たユウカは、夕暮れよりも顔を赤くさせるのだった。
「ノア……いつから聴いてたの……?
「ユウカちゃんが私のことを凄いと褒めてくれてた時からです」
「ほとんど全部聞いてるじゃない!」
ユウカが悲鳴の様な声を上げ赤面する。何で教えてくれなかったのと会話をする二人を眺め、先生は顔を綻ばせた。今のわずかな会話だけで、二人の仲の良さを推し量られたからだ。白髪の少女は先生に向かい直ると、丁寧な所作で挨拶をしてきた。
「セミナーに所属しております、生塩ノアと申します。ユウカちゃんがお世話になっている様で」
「初めまして、ノア。俺は既に知っていると思うが大加美だ。いっつもユウカの世話になってんのは俺の方だぜ。ここ数日は独占しちまってる様で悪いな」
「ふふ、大丈夫ですよ先生。そのおかげでユウカちゃんの普段見れない様な顔をたくさん見る事が出来ましたから」
「ちょっ、ちょっと何言ってるのよノア! 別段、普段通りだったでしょ?!」
ユウカが慌てた様に返すも、ノアはニコニコと笑うばかりだ。ユウカの扱いに関しては熟知しているらしい。あれこれ言い訳をするユウカは、普段の冷静沈着な時よりも一段と可愛らしく映った。
セミナーの部室に到着する。広大なミレニアムをまとめる生徒会の役割を果たす彼女らの部室は、綺麗に整頓されており、彼女達の有能さの一端が垣間見えた。ユウカとノアの二人の机の他にもう二つほど空いており、他にも所属している生徒がいる様だ。おそらく一人は朝に説明を受けた生徒会長の調月リオだろうが、もう一人は席を外しているのだろうかと先生が考えていると顔から疑問を読み取ったのかユウカが回答してくれた。
「もう一人、黒崎コユキっていう一年生がいるんですけど……なかなかに問題児で、今はちょっと特殊な反省部屋に入ってもらってます」
「コユキちゃんは凄い才能を持ってるんですけど……ちょっと倫理観的な問題を抱えてまして……」
「倫理的な問題……っつーと、どんな感じなんだ?」
先生が二人の話を聞き、質問すると、二人は顔をあわせる。何でもコユキには天才的な解錠の才能があり、コンピュータ的、物理的問わず、見ただけで暗号や開け方が分かってしまうそうだ。更に、彼女はしてはいけない事の区別があまり出来ていない為、様々な問題を引き起こして来たらしい。矯正局につき出そうかと何度か議題に上がったのだが、あまりにもセミナーの情報を知りすぎている為に、外部に出すことができない様だ。
先生はその話を聞き、思わず唸る。倫理面での教育など、今まで行なった事などない。ましてや普通の教育すら覚束ないのだ。かつてない難問を抱えた先生は、厳しい顔で悩むのであった。
「先生、難しく考えなくても大丈夫ですよ。コユキちゃんはセミナーが責任を持って監視しますので」
「だが……そういった子をきちんと指導してこそ先生なんじゃねえかと思ってな……悪ぃ、今はその子にかける言葉が見つからねえ」
「私達も分かりかねる部分が沢山あります。だから、先生、一緒に探していきませんか? 先生一人が悩むんじゃなくて私達もお手伝いするので」
ユウカの言葉を聞き、ハッとした顔をする先生。どうにも気負いすぎていたらしい。筋肉も一日にしてはならず。長い鍛錬と弛まぬ意思によって作り上げるものだ。自分も先生になって、未だ未熟。地道な筋トレの様に、成長してゆこうと改めるのであった。
(ユウカちゃんが入れ込む訳が、少し分かった気もします)
ユウカに感謝を告げる先生は、裏表が無く真っ直ぐだ。ノアから見て、腹芸が出来るタイプとはかけ離れている。おそらく、今日一日で多くの生徒から関心を寄せられただろう。千年難題を追い求めるミレニアムの生徒にとって、混じり気なく応援してくれる大人はどれほど頼もしく映り、心の支えになるだろうか。いや、ミレニアムだけではない。キヴォトスの生徒にとって、先生は劇薬たり得る。自分の夢を応援し、困難を解消しようと親身になって相談できる相手。だけど完全無欠ではなく、適度な隙もある。これは、世話焼きな性格の持ち主にはたまらないだろう。少し俯瞰した様な感覚で、ノアは先生を分析するのだった。
「ノア、聞いてる? ノア?」
「おーい、どうしたノア? なんか悩みでもあんのか?」
二人の声を聞いて、意識を戻す。二人はすっかり意気投合したようで仲睦まじげな様子を見せた。それを見たノアは、心の奥底で何かが軋む様な感覚を覚えるのだった。それは嫉妬とも呼べない仄かで淡い感情で、本来であればすぐに忘れてしまうだろう。だが、全てを記憶するノアは、事あるごとに今の感情を回顧してしまうのであった。
「今日は、ありがとうございました先生。ミレニアムはどうでしたか?」
「礼はいらねえぜユウカ。そうだなあ、頭の悪い感想になっちまうが、頭が良い生徒が多い様な感じだった。勉強が出来るって意味じゃなく、地頭が良い生徒が多そうだ。俺はあんまり力になれねえかもな」
「そんな事はないですよ、先生。高度な知識を持ってなくても、一緒に居てくれるだけで解決することもあると思うんです。少なくとも、私はそう思います」
ミレニアムを出る直前、ユウカと最後の挨拶を交わす。先生の弱気な言葉に反応して、返した言葉は年相応に柔らかかった。先生もユウカの言葉を聞き、笑いながら気を引き締め直す。
「うしっ! あんまり行ったことがない場所だから柄にもなく緊張しちまってたみたいだな。俺は俺に出来ることをやればいい。それしか出来ねえしな」
先生は冗談めかして力瘤を作る。ユウカもその姿を見て笑みを浮かべる。先生が悩み、苦しむ姿は見たくない。今はそれだけで十分だとユウカは思うのであった。
「あと先生、もう少し経ってもダメだったらお願いしたい事があるんです。今日は紹介してませんでしたけど、ゲーム開発部という部活があって、このまま実績を出さないと廃部なんです。今日はゲーム作りをしてる様で、邪魔をしたくなくて案内しなかったんですが、あの娘達の事だから全然進捗してない可能性もありまして……後日、私が確認してダメそうならお手伝いして頂けませんか?」
「おう、任せろ! ゲームに関しては素人だが、発破をかけるのは少し自信があるからよ。その時は遠慮なく言ってくれ!」
先生は笑い、ユウカもまた笑う。ミレニアムの長い一日は、こうして幕を閉じるのであった。
「キキキッ! シャーレの先生か……どうやら頭の中までは筋肉では無さそうだ……強さも申し分ない。籠絡すれば我が校の勢力の拡大にもつながるだろう。イロハ! 奴が来たら色仕掛けで堕とし、籠絡するのだ!」
「まーたマコト先輩がアホな事言ってる……ちなみにどうして私なんですか?」
「決まっている! 先生はとても巨大で、巨大なものは小さいものが好きだからだ!」
「どういう理論で言ってるんですか……」
ゲヘナ学園の一室で、銀色の髪をした生徒が、傍らの鮮やかな赤い髪をした生徒に話しかける。二人とも軍服の様な制服を着ており、同じ所属であることを示している。銀髪の髪の生徒はなおも力弁するが、赤い髪の生徒は、聞く価値がないと判断し、サボりに戻った。熱心に話す彼女を横目に、赤髪の少女は心底面倒そうに欠伸をするのであった。
次なる訪問はゲヘナ学園。自由と混沌が支配する学園に、筋肉と暴力が吹き荒れる。