弾丸1発で死ぬ先生 作:戦える先生ものが読みたかった
『先生へ、大変申し訳ございません。本日ゲヘナ学園を案内させてもらう予定でしたが、万魔殿からの妨害にあり案内をすることが出来なくなってしまいました。おそらく議長の羽沼マコトが何かを企んでいると思います。訪問の日を改めて頂けないでしょうか。〜チナツ〜』
チナツからのモモトークを見て、先生は怪訝な顔をした。今日はゲヘナ学園への訪問日だったが、どうにも案内が出来ないらしい。万魔殿とは何かをアロナに尋ねると、ゲヘナ学園における生徒会の役割を果たしているとの回答を貰う。チナツの所属している風紀委員会とは対立していると文面から読み取れるが、訪問日をズラす必要まであるだろうかと先生は少々悩んだ。だが、元々行く予定ではあるし、どんな者であれ生徒であることに変わりはない。チナツのモモトークに太い指でたどたどしく返信を行った先生は、D.Uを出てゲヘナ学園へ向かうのであった。
アロナのおかげでなんとか電車を乗り継ぎ、ゲヘナ学園の管理区に入った先生だが、早速噂に聞く治安の悪さを感じることとなった。
「ヒャア! ここを通りたければクレジットを置いていきなあ!」
「暴れ足りねえぜぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」
「食に対する冒涜とも言えるお店でしたわ……口直しにフウカさんのご飯を食べに行きましょう」
「ここから温泉が出る予感がするぞ!!! 早速掘削だ!!!!!!」
「へっ、アンタがシャーレの先生か! ここを通りたければ……うお……でっか……」
「そんなムキムキボディでシャーレの先生を名乗るなんて各方面に失礼だよね。ダビデ像」
歩いて僅か10分で、多種多様な問題児に遭遇する。こちらに絡んできた生徒に関しては武器を破壊し、指導を行なうが、果たして理解して貰えたかは甚だ疑問だ。先日トリニティを襲った生徒達は元気でやっているかと少々不安になりつつ、胴体付近に飛んできた流れ弾を回避する。流石、自由と混沌を体現した学校だけあると、先生がある種の関心をしていると、遠くからこちらを目指して戦車が走ってくるのが見えた。なんとなく、こちらが目当てだと思いながら歩みを続けると、予想通り、先生の目の前で戦車が止まった。ハッチを開け、赤髪の小柄な生徒が出てきて先生に話しかける。
「失礼、貴方がシャーレの先生ですか?」
「ああ、大賀美という。君は、迎えの生徒で良かったか?」
「はい、イロハと言います。先生を万魔殿までお送りするように言われて来ました」
言葉の節々から面倒そうな気配を醸しながら少女、イロハは言う。明らかに不本意な役割を与えられた様子の彼女を見て、先生は苦笑した。素直な子だ。万魔殿がどんな組織かはまだ分からないが、彼女はその中でも苦労している側だろうと先生は半ば確信するのであった。
イロハに従い、戦車に乗り込もうとした先生に問題が起こる。なんと先生の規格外の巨体のせいで、戦車内に入ることが出来なかったのだ。これにはイロハも想定外だった様で、先生の巨体を恨めしげに見て、ため息を吐く。いくらアホな先輩だと思っていてもマコトからの使命は先生の籠絡だ。無論、真面目にやるつもりは無く、自分がサボるいい口実になると思っていたが、生身の先生を歩かせ、自らが戦車に乗り案内するのはこれからの関係を考えるとあまりよろしくはない。戦車の上に乗せることも考えたが、銃弾が飛び交う中、遮蔽物がない車上は格好の的だ。戦車の主砲も撃てなくなるし、その状態でゲヘナの生徒が見逃すかと言われると答えはノーだろう。諜報部から先生の強さは規格外だと聞いた事もあり、何かあれば守ってくれるだろうと考え、イロハは2人きりで歩くことを渋々提案したのであった。
「あーめんどくさい……歩くのだるい……」
歩く事数分、イロハは早々に取り繕うことをやめ、面倒そうな気配を隠そうともしない。先生はあまりにも歩くのが怠いならおぶろうかと提案したのだが、いくら面倒でも会ったばかりの異性におぶられるのは恥ずかしいと判断したのだろう。だいぶ迷った気配はあったが、自らの脚で歩くことをイロハは選択したのだった。
「覇ァ!!」
先生が襲いかかってきた生徒の武器を破壊する。これで何組目だろうか。ゲヘナを初めて訪れた先生はこれが普通なのかと思っていたが、イロハは違和感を覚える。余りにも数が多すぎる。考え無しの生徒の多さは折り紙付きだが、流石に普段はここまで襲いかかってくることはない。イロハは武器を壊され項垂れている生徒に尋ねる。
「ねえ、どうして先生に襲いかかって来たんです?」
「ううっ、私の愛銃が……高かったのに……」
「ねえ」
頭に銃を突きつけながらイロハが再度質問すると、泣いていた生徒は慌てて答えた。何でも今日訪問する“先生”を倒せば何かしらの懸賞金が貰えるらしい。生徒自身も詳しく把握しているわけではなく、周りに流されて襲いかかって来た様だ。
(あー、多分マコト先輩の悪巧みですね……あの人はこういう事だけ頭が回りますし……こんなんで先生が怪我したら他の学園から反感を買うことは確実でしょうに。何が目的なんでしょうね……)
イロハが脳裏で裏について考えていると、先生はおそるおそるイロハに尋ねた。
「なあイロハ……俺ぁゲヘナに来たのは初めてなんだが、なんか悪いことでもしちまったか? まさか懸賞金をかけられるたぁ思ってなくてよ……」
「いえ、先生。おそらくこれは万魔殿の議長、羽沼マコトの企みだと思います。何が目的かは分かりませんが、あの人はアホな事ばかりするので」
イロハの辛辣な回答を聞き、先生は目を白黒させた。自分の所属しているグループの議長にここまで辛辣なことを言うと思っていなかったのだろう。だが、自分も面倒に巻き込まれている以上、イロハはマコトについての評価を訂正する気にはなれなかったのだ。
二人が話していると、何度目かの銃撃が襲いかかる。イロハを抱え、余裕を持って回避するが今までより数が多い。少々強引だが突破する覚悟を決め、先生は脚に力を溜めるのであった。
「委員長! 近くで騒ぎが起きているようです!」
万魔殿からの仕事に忙殺されている中、外に見回りに出ていた風紀委員から報告を受ける。胸の横が大きく開いた特徴的な服を着た生徒が噛み付くように答えた。
「騒ぎなんていつもいつもいつも起こっているじゃないですか! そんな事でいちいち報告に来ないでください!」
「ですが……今回はかなり大規模の様ですし……騒ぎの中心には噂のシャーレの先生がいるみたいなんです……」
「ハァ!?」
思わず仕事の手を止め、チナツは報告して来た者を見る。朝に既読がついた後、返信が来なかったのでモモトークを見ていなかったが慌てて開く。既読が付いた時間からかなり経ってから先生からの返答が来ていた様だ。近くまで来てたのでせっかくだから寄るとの返答を見て、チナツは顔を青くした。
「ヒナ委員長、朝に報告した後に先生からの回答が来ていた様です。おそらく騒ぎの中心に先生がいるのは確実です」
「そう、分かった」
大量の書類と格闘していた少女が立ち上がる。背は低いが、立派な角が二本生えており、頭上には王冠の様なヘイローが浮いている。慌てて他の風紀委員が止めに入るが、近くであり、一人で行った方が早く終わると、彼女は他の生徒を押し留める。外行きのコートを羽織り、自らの身長程もある愛銃、終幕:デストロイヤーを持つ。こうして、ゲヘナの生徒から恐れられる風紀委員長、空崎ヒナは騒ぎの中心へ向かうのであった。
(まったく……面倒くさい。シャーレの先生とやらも別の日に来てくれれば良かったのに)
チナツから話を聞いていたヒナは、面倒だという思いを隠さずに歩く。曰く、キヴォトスの外から来た人間。曰く、筋肉に包まれたバケモノ。曰く、逆らった者の武器を破壊する破壊神など。チナツからは生徒想いの良い人であるとは聞いているが、いくら強くても銃弾1発が致命傷になり得る人間が、キヴォトスを出歩くのは危険でしかない。ましてやこのゲヘナなどは最悪の部類だ。大人しくチナツの言うことを聞いて帰ってくれた方が何倍もマシだったと疲れた頭で考えながら歩き続ける。
思ったより近くに人だかりが出来ており、そこが騒ぎの中心だと判断したヒナは近くに寄った。そして彼女は“ソレ”を見た。
「キレてる! キレてるよ!」
「ナイスバルク! 素晴らしい!」
「肩にちっちゃい戦車乗せてんのかい!」
「うお……それは流石にデカすぎ……!」
「ヒューッ! 見ろよやつの筋肉を……まるでハガネみてえだ」
「失礼ですがご職業は男優か何かで?」
不良達が円になっている中心部、そこに彼はいた。上半身の服は自らの筋肉の膨張に耐えられなかったのだろう。内から弾け飛ぶ様にしてただの布切れへ変わり、周囲に散らばっている。彼は自らの肉体を誇示するかの様にポージングをキメ、その度に周囲はドッと沸く。そこには一つの世界があり、筋肉だった。彼を中心にした輪はドンドンと広がっていく──
「なにこれ」
理解が及ばず、ヒナは呆然と呟く。よく見ると、先生らしき人の隣には全てを諦めた様な少女がいた。不意に目が合い、ヒナは彼女の意思を受け取る。助けて──風紀委員会と万魔殿、対立を続けている二つの組織の一員達は、今ここで互いの想いを通じ合うことに成功するのであった。
「先生、生徒達を導く貴方が先頭となって騒ぎを起こしてどうするの?」
「ああ……その……申し訳ねえ……」
「先生、本当に反省してるんですか?」
「もちろんしているが……なんだ、その、アレでよぉ……」
「先生なのだからはっきり喋った方が良いと思いますが」
「ぐっ、その……なんだ、筋肉を褒められたのが嬉しくて……つい、続けちまって……すまねえ」
正座をしながら、二人の少女からの折檻を受ける。きっかけは、強行突破をする際に先生の上半身の服が破れた事だった。先日のネルとの模擬戦の時から怪しいとは思っていたが、過酷な運動に耐えきれなかったのだろう。銃弾を回避した際に上半身の服はいっそ哀れなほどに弾け、ただの布となった。気にせず突破しようとしたが、周りの生徒達の反応がどうもおかしい。それもそのはず、キヴォトスの女生徒は男性への免疫がまるで無いのだ。大人と呼べる存在はロボットか動物達、そんな環境下で急に現れた男性の大人。しかも動き回っていたこともあり、多少汗が浮いた筋肉……それが突然目の前に飛び出して来たのだ。生徒達の理性は一瞬にして飛び、先生の周りに群がる事となった。
先生も最初は戸惑っていたが、周りの少女達が自らの肉体に集まっていることに気が付いたのだろう。試しに筋肉を強調すると周りが沸き、褒め言葉が飛んでくる。先生自身も自らの鍛え上げた筋肉には自信があるため、褒められれば当然嬉しくなる。そして後は先ほどの通りとなった訳だ。その間、隣にいたイロハは死んだ様な目で先生を眺めていた。
ヒナが来ているのが分かると、周りを囲んでいた生徒達は蜘蛛の子を散らす様に逃げていった。ゲヘナの生徒で空崎ヒナの恐ろしさを知らない者はいない。自分たちに銃弾がぶち込まれる前に慌てて解散するのであった。
二人からの説教が終わり、先生が立ち上がる。説教中、ヒナが他の風紀委員を呼び出し、先生の着るものを手配していたらしい。服屋に駆け込んだ生徒は、1番大きい男性用のシャツを買ってきたが、それでもサイズが合わずにピチピチとなってしまった。だが、少なくとも上裸の状態から抜け出した先生はヒナともう一人の生徒にお礼を言う。シャツを買って来てくれた生徒は、他の風紀委員に対応が完了したことを伝えるために駆けていくのであった。
「色々とすまねえ、改めて、俺は大賀美だ。君は風紀委員長の空崎ヒナで良かったか?」
「ええ、先生。私は空崎ヒナ。ここゲヘナで風紀委員長を務めてる。ちょっと遅かったけど、チナツから今日先生が来るとは聞いていたわ」
二人が挨拶を交わした後、ヒナは隣のイロハに視線を向ける。イロハはどことなく気まずそうにしているが、先ほど想いが一致したおかげか、ため息を吐くだけに留めた。万魔殿が今日、山の様な雑務を押し付けて来たのはおそらく先生とイロハを合わせるためで、そこにイロハの意思は無いと感じたからだ。イロハもヒナに謝罪こそしなかったが、目で申し訳なさを伝えている。マコトに巻き込まれた二人は、多少仲を深めるのであった。
「それでは先生、先に万魔殿に戻ってますので後ほどお越しください」
「ん? ああ、色々巻き込んですまなかったなイロハ。だが、先に万魔殿に行かなくて良いのか?」
「ええ、良いんです。先生は風紀委員達と仲を深めてください。せっかく委員長がこちらに来ているので」
では、と挨拶してイロハが歩き出す。風紀委員の元へ行きたくないという気持ちも大いにあるが、一番の理由は疲労だ。サボるために先生のところへ行ったのに、これでは到底割に合わない。部室に戻り、イブキで癒されようとイロハは疲れた足を引き摺るのであった。
先生はヒナに連れられ、風紀委員会の部室へ向かう。道中は先ほどとは違い、ヒナの姿を見るだけで他の生徒は踵を返し、逃げ出して行く。最初からヒナと会いたかったと少し思っていると、歩きながらヒナが話しかけてきた。
「先生、その……ゲヘナをどう思った? 他のところとはだいぶ違うでしょう?」
「ああ。と言っても俺ぁまだトリニティとミレニアムしか行ってねえからその二つとしか比較できねえけどな」
先生が答えると、ヒナは憂いに満ちた表情をする。自分がいくら風紀委員長として頑張っていても、他の三大校とは民度が違う。そのことを突きつけられた感覚がしたのだ。自分のやっていることは本当に意味があることなんだろうかと疑問に思っていると、ポンと頭を撫でられる。驚いて隣を見ると、先生が安心させる笑みを浮かべた。
「俺は今会ったばかりだが、ヒナは頑張っていると思うぜ。そうでもなけりゃ、さっきみたいに大勢が襲いかかってくるだろうしよ」
「そんなの……私を怖がってるだけじゃない」
「怖がってるってこたぁ抑止力になってるって事だ。いくら強くても怖さのない人間じゃあ、悪事を犯す人間を思い止まらせる事は出来ねえ。だから、ヒナは頑張ってんのさ」
「そんな……適当な事を……」
それは先生の考えなしの理論かもしれない。しかし、歳上の男性に褒めてもらったからだろうか。先ほどまでより多少は気分が良くなったことに気がついたヒナは、自らの単純さに苦笑した。まだ会ったばかり、よく知らない人に褒められただけ。でも、そんな人からの言葉で、確かに気分が少し晴れたのだとヒナは感じた。先ほどの悪印象を打ち消すほどではないが、印象が多少良くなったと思ったヒナは、改めて先生へ会話を振ろうとした。だが、
「ヒナ委員長! 無事ですか?!!!?!! 委員長が筋肉モリモリ、マッチョマンの変態野郎に手篭めにされたと聞いたのですが!!!!!」
風紀委員を従えて、行政官、天雨アコがとんでもないことを叫んでいる。思い込みが激しいアコを説得することを考えて、ヒナはまた、気分がしおしおになってしまうのであった。