タマゴのカラを割らないでっ! ―彼女づくりのサポートはしてくれるのにできなかったら皆殺しってマジ?― 作:すうどんたくろう
対戦終了後、会場は大きな歓声に包まれていた。ハムはヘッドホンを外すのも忘れ、立ち上がって拳を天高く上げた。部長はヘッドホンをゆっくりと外すと、椅子の背もたれに体を預け、こめかみを抑えながら大きく息を吐いた。よほど神経をとがらせる必要がある試合だったんだろう。てか、部長無茶苦茶上手いじゃん。何が”一番うまいのは国広だし”だよ。なんか凹んでしまうな・・・。
「ともあれ、これであとは私たちが勝つだけですね!」
「ああ。あんなの見せられたら、ふがいないところは見せられないな。」
はは、と俺たちは笑いあった。会長の様子は、ちょうど筐体が死角となってよく見えないが、どんな表情をしているのだろうか。会長のことだから、きっとすっきりとした顔をしているのかな。そして刹那は何を思うのだろうか。憧れだった会長が、たかがゲームとはいえ、面倒と思っている奴に負かされてしまったのだから。――――まあ今の俺が心配することではないな。目先の試合に、集中しよう。そうして俺たちは、会長たちと入れ替わりで、筐体の前へと座るのだった。
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「じゃ、皆さん本日はお疲れ様!乾杯!」
「「「「「「「乾杯っ!!」」」」」」」
時刻は18時過ぎ、俺らはいま、怜の家に集まっている。どうしてこんなことになったのかというと、札幌地区予選が終わった後、「どこかで打ち上げしたいね!」と部長が提案し、部員みんなはもちろん賛成で、じゃあどこで打ち上げやるかってなったとき、なんと大会の終了時刻までラウワンに残っていた怜たち(食後の運動としてボウリングをやり始めたら、思ってたより白熱して長居したらしい)が、「場所なら提供するわよ。」と言ったのだ。一人暮らしというのもプラスに働いた。部長やハムにとっては今日が初めての怜とのまともな接触のはずなのだが、あの二人はなかなか図々しいところがあるので、無事その提案に乗ったというわけだ。ただまあ、いろいろと想定外なこともあって―――
「フフフ、まさか少年とともに喜びを分かち合える時が来るとはな・・・」
「何を馬鹿なことを・・・。私は会長をねぎらうために来たんです!」
「刹那は優しいですね。けれど、あの試合はこちらの完全敗北です。龍華にはしてやられましたね。」
「でへへ~」
なんとゲーム研究部と怜以外にも、刹那と会長もいるのである。当初は怜を含めた5人だけだったが、部長がその場にいた会長をしれっと誘ったことをきっかけに、刹那がそれに食いついたわけ。ハムがいることに難色を示していたものの、会長と一緒に居られる時間を優先したっぽい。そんで、余った静乃はというと・・・
「にしても、意外と面白かったよ。ゲーム実況でちょろっと見たくらいじゃ、そういうのわからないね。」
刹那のブレーキ役が必要だろう、という名目で、ついてきたのだった。だからこの場には8人いる。それだけいてもあまり窮屈さを感じさせないあたり、やはり怜の家は広いなあ一人暮らしだと持て余すよなあと思ったのだった。
「お、静乃もついにデビューするか?」
「地区大会準優勝チームが教えてくれるなら、心強いなあ。ちょっとだけならやってみたいかも。」
今回、ハムと部長が会長たちに勝った後、俺と柄谷は次の試合で辛勝することができた。気合を入れなおした柄谷には目立ったプレミもなく、俺のほうも敵のトラップ解除を上回る速度でトラップ設置を行えたことで、行動制限をつつがなく行うことができ、柄谷が仕留めきる、といった形だ。その後なんと決勝まで進むことができたのだが、別ブロックの有力候補<ペロペロハウス>にボコボコにされたのだった。とはいえ、全道大会出場は確定したので、ひとまず部の実績づくりの点では及第点といったところだろう。部長もすごく喜んでいた。
「そんな萩原先輩のために、実はあるんですね!家庭用版がここに!」
フンスと擬音が聞こえてきそうなくらい、食い気味で柄谷はカバンからゲーム機を取り出した。
「え?なんで持ってるの?」
「静乃よ・・・今の時代空き時間でもゲームはするものなんだ。俺もたまにゲーム機もって街に出るゾ。」
「はあ・・・でもテレビにつなげれるのこれ?」
「つなぐやつなら私持ってるわよ。」
コーラを飲みながら、怜が話に加わってきた。
「え?なんで持ってるの?」
ついさっき静乃がつぶやいた言葉を、俺も繰り返してしまった。
「暇つぶしよ。こっちに越してきたときに娯楽の類は一切持ってきてなかったから、空き時間が暇なのよね。遼が楽しそうにやってたから、きっと面白いのだろうと思って買って、そのまま積んでるのよね。」
「やってないんかい!でもまあ、道具があるなら準備すっかあ。」
俺は怜に案内されると、そこには明らかに新品と思しきゲーム機とテレビにつなぐコードがあった。神はゲームをお気に召さなかったようだ。俺はそれらを回収して、速やかにテレビとゲーム機をつないだ。
「お、静乃ちゃんもFLDデビューかあ。てか、怜ちゃん――でいいんだよね?遅れたけど、今日はありがとね。今月頭に転校してきたんだっけ?」
「ええ、ちょっといろいろあって・・・。」
「それで、国広君の隣の家に越してきた、と・・・。」
「え?結衣その話マジ?てか国広の家ここの隣なの!?どんなラブコメだよ~~~!」
先輩方、やめてくれっ!そこに突っ込まないでくれっ!マジでコメントに困るんだからさあ!
事情を大体知っている静乃は、そんな俺の引きつった顔を見て必死に笑いをこらえていた。こいつはマジでブレないな。
「にしても、四人だけならまだしも私たちまでお邪魔させてもらうなんて……」
手に持っているコップの方に視線を落とし、申し訳なさそうにする会長。
「いえいえ、気にしないでください。さっきも言った通り、この部屋には全然娯楽がないんです。人と話すことが今のところ一番楽しいので、こうやってワイワイできてうれしいんです。うわさに聞く蘇芳さんや宮永さんとお話ししたかったですし。ハムも観察してみたかったですし、いい機会です。」
そんな会長にフォローを入れる怜。てか、ハムの扱いもなかなか酷いな、動物じゃないんだぞ?
なんて話を聞いてるうちに、起動が完了した。画面にFLDのタイトルが表示された。
「にしても。会長がFLDやってたなんて・・・さらには去年いいとこまで進んでたなんて知りませんでしたよ。部長、なんで教えてくれなかったんですか!」
俺はかねがね気になっていたことを口に出した。
「まあ聞かれなかったし。それに聞かれても言うつもりなかったし。結衣に堅く口止めされていたからね。もし口が滑ってしまったら私の身が―――」
「―――龍華。」
会長が部長の話をさえぎった。びくっと部長の肩が震えると、部長はアハハ!と笑ってごまかしたのだった。―――まさか、会長にはマジで裏の顔があるのか!?!?
「だって皆さん私にいろいろなイメージを抱いているじゃないですか。その出来上がったイメージに、ゲームが好きだなんて情報を、そこに付け足す必要はないなって思っただけですよ。いろいろ考えているんですよ?会長職に就くというのは、大変なことなんです。」
会長からは珍しく愚痴のような言葉が漏れ、ぐいっとジュースを飲み干した。そしてその手を部長に差し出した。察した部長は、さっと二杯目を注いだ。
「会長も大変なんですねぇ。――――よし、準備ができたんでとりあえずやってみよっか、静乃。」
「え?いつぼくが遼に教えてくれって頼んだの?」
「ほわわ??」
せかせかと用意した俺に向けて、思いがけない言葉を吐いたもんだから、素っ頓狂な声が出てしまった。
「準優勝のチームに教えてもらえるなんて心強い、といっただけだよ?ぼくてきには蘇芳先輩に教えてほしいなあ~
静乃のその言葉に、FLDプレイヤー全員がピクついた。
「いやいや萩原先輩、相手を寄せ付けず遠くから狙い撃つ遠距離攻撃がいいですよ!先輩方のように激しい戦い方はすぐやられちゃってつまらないんですから!」
「何を言うか、物怖じしない圧倒的な攻めこそが戦いというものだ。蘇芳結衣のような逃げ腰の攻めでは勝利はつかめん。」
「ひどい言われようですね―――けれどまあ、龍華のアシストのおかげでそう認識できているんです。メタモンのようにプレイングを変えられるけど、突出したプレイングがない龍華に感謝することですね。」
「結衣、喧嘩売ってる?そうやって一つのプレイングに固執するから勝てないんだよ?柔軟に戦いが、盤石な勝利をつかめる。何よりゲームを楽しめるわけ。シード権持ってたのに初戦敗退してる原因を分析してみたら?」
四人の眼からは火花が散っているように見えた。そして、一斉に俺を見る。
「国広、確か家隣でしょ?」
部長がにっこりと笑顔を浮かべてそう声をかける。直前の流れもあり、俺は全然笑えなかった。
「え、ええまあ・・・」
「テレビとフルド、持ってきてください。」
食い気味に柄谷がそう投げかけてきた。
「え?」
「柄谷さんの言う通りです。今すぐ持ってきてください。誰のプレイングが一番いいか、ここで決着つけましょう。さあ早く!」
「は、はい!!!」
会長が語気を強めて命令するもんだから、思わず返事をしてしまい、そそくさとその場を後にして家に戻るのだった。なお、渦中の静乃はニヤニヤしていた。もしかしてお前、この光景を見たいがためにわざと・・・?