タマゴのカラを割らないでっ! ―彼女づくりのサポートはしてくれるのにできなかったら皆殺しってマジ?― 作:すうどんたくろう
7/13(月)
「ねえ、遼?」
「どうしたのさ。」
「動いてなさすぎじゃない?」
晩御飯を食べた後、俺のところに怜から急に呼び出しが入り、特に断る理由もなかったのですぐさま隣の家に向かった。怜は竜崎もつれてくるようにいるもんだから、胸ポケットには彼がすっぽり収まっている。
「というと?」
「あのね、一応念押しするけど、私たちがここにいる理由、わかるわよね?」
「竜崎は神様で、怜はそのエージェント。目的は俺の彼女づくりのサポートでしょ?年内に作れっていう。」
「あなたか、あなたの周囲の命がかかっているのは忘れてないわよね?」
「もちろん忘れてないよ~。」
と、俺は出されたコーヒーをすするのであった。うむ、このコーヒーは酸味が利いていてうまいな。目の前にいる金髪サイドポニーの女、榊怜《さかきれい》はこめかみを抑えながらしばらくそのまま黙っていた。
「あの激動のゲーム大会から、もう2週間特に何もなく過ごしているからね。怜もイライラするわけだ。わかってやれ。」
俺の胸ポケットから飛び出して、とてとてと俺が置いたマグカップの周りを、竜崎はくるくると回った。二頭身の女の子のフィギュアが、自分の意志で動いているのだから、見かけ上はとにかくかわいい。だが、中身はただのおっさんだ。下天できない立場の竜崎が、この世界で活動するための仮の器、それが目の前のフィギュア。なお、この個体は2体目である。竜崎が言うには、「夏だし、夏らしい格好になりたい!」というもんだから、7月入ってから怜が仕方なく別の体を用意したらしい。そんなとっかえひっかえできんのかよ!と、その時は思ったのだった。
「そんなこと言われても・・・。ギャルゲーみたいに明らかなイベントがあればね?そりゃ何かが起こるかもしれないけど、現実ではそんなホイホイイベントは起こらないでしょ。せめて時間がたっぷりとれる夏休みにでもなれば話は変わるかもしれないけどさあ。」
「――――怜、長期戦になるっていうのはわかっていたじゃないか。どっしり構えて、長期的に計画を立てていけばいい。国広君の言うこともわかる。イベントがなければ、サポートのしようがない。こちらからイベントを起こしてもいいが、やりすぎるのも考え物だしね。――――まあ、国広君に関して言えば、自分磨きをして少しでも相手の好感度を上げる訓練をすべきだとは思う。それこそ――――」
「――――そうね、告白券があったわ。」
怜は立ち上がり、俺の眼をじっと見つめてきた。眼光が鋭く、俺は委縮してしまった。
「遼、もしこの一週間でなにもイベントが起きなければ、告白券を使いに行くわよ。」
「ちょ、ちょっと待て。」
告白券、それは、相手の好感度を底上げするサポートアイテム。告白券に相手の名前を書けば、相手が処女に限り、自分のことが好きで好きでたまらなくなる。ただ、その効果は2週間しかない。この2週間でさらに好感度をあげられたら、自分のことを覚えていてくれるが、規定値に達しなかった場合、告白券適用後の自分に関する
「知り合いに使う気はないぞ?それに、知り合いに見られでもしたら変な噂になって、それこそフラグ管理がぐちゃぐちゃになるじゃないか。」
「大丈夫よ、神の力で東京に行って、いけそうな相手に使ってみるだけよ。1日デートでもして、女の子との距離感を知りなさい。2週間前あんなイベントがあったのに、遼は周囲の女の子との距離感が何も変わっていない。」
俺が懸念していた、知り合いに使いたくないという思いと、知り合いに見られたくもないという思いを、一挙に潰す提案に、俺はなにも言い返すことができなかった。だけど、肯定の返事をすることもできなかった。一歩踏み出す勇気がないんだ。
「――――国広君、君は2週間前言ったよね?『使うとしても、対象者との恋愛練習目的にとどめたい。』ってさ。これは恋愛練習が目的だから、問題がない。何がネックなんだい?どうせ勇気が出ないとかそんなところだろう?見知らぬ土地でやるんだから、腹くくって練習すればいい。」
竜崎の最後の一言を聞くと、俺はコーヒーをグイっと飲み干した。
「だな!それに東京でしょ?俺もシティーボーイに憧れがあるからなあ!ついでにアキバによっていいかな???」
「札幌に住んでおいて何をいまさら・・・まあ、寄るくらいならいいわよ。それに、半ば強制的に使わせようと思っていたけれど、遼にはニンジンをぶら下げておけば素直になることもよく分かったし。じゃ、今週の日曜に行きましょうか。これは決定事項だから。詳細は追って連絡するから。とりあえず今日は解散ね。」
こうして、イベントが起きようが起きまいが、俺の告白券使用(兼アキバ観光)が決まったのだった。なお、この行動が、のちにとんでもない展開を生むとは、その時はちっとも思っていなかったのであった。