タマゴのカラを割らないでっ! ―彼女づくりのサポートはしてくれるのにできなかったら皆殺しってマジ?― 作:すうどんたくろう
~結衣視点~
「刹那、ちょっと警戒しすぎじゃないですか?ハムさんだって、本当に嫌なことはしないじゃないですか。」
「まあそれはわかりますけど・・・でも・・・。林君と似たものを感じるんですよね・・・」
「ああ・・・」
といって、すぐ口を閉じた。私は生徒会長だ。メンバーのことを鬱陶しいだなんて、思うべきじゃないのに・・・。とはいえ、今はハムさんの鬱陶しさがいい方向に働いてほしい。喫茶店で舐め回すようにこちらをずっと見てきた男二人組が、ずっとこちらの跡をつけていたのだ。彼らの席の角度的に、顔が割れているのは静乃さんに刹那と私。たまたま帰り道が重なっただけだと思いたいけれど・・・
「ちょっ・・・そ、そこの美少女!!」
「キモタク先輩、それじゃ誰のこと言ってるかわかりませんよ?―――――すみません!白ニーハイの娘と黒髪ロングストレートのお姉さん!」
・・・嫌な予感は的中したみたいです。いやいやながらも足を止めて振り返ると、そこには喫茶店で見かけた男二人組が立っていた。片方は大柄な男。吹き出物だらけの顔、髪はパーマがかっていているように見えるが、容姿に金をかける人間じゃなさそうなので、天然パーマなのだろう。額には脂汗が浮かんでいて、Tシャツの脇周りと首周りは汗で変色していた。清潔感のかけらもない、そんな男。対してもう一人は、見た目は普通の青年で、なんとなく、お気楽な雰囲気を出していて絡みやすいように見える。相対的にマシに見えるだけ。でも、いずれも怪しいのは確か。
「・・・もしかして、私たちの事ですか?」
「はぅう!こ、声が凛々しくて・・・益々素晴らしさがま、増したんだなぁ・・・」
林が醸し出す面倒くささとは明らかに違ったベクトルだ。生理的嫌悪感を覚える、というのはこういうものなのだろうか。過去にナンパをされたことは何度あるけれど、ここまで不快な気分になったのは初めてだ。私と刹那に声をかけるなら、せめて身だしなみは清潔にしてほしいものですね。
「ど、どうかな?今から俺たちとお、お茶でもしない?」
刹那は彼らが現れてからびくついて私の後ろに隠れてしまっている。時間を稼ぐか、走って逃げるか―――――どちらもあまり得策とは―――――というかこの人、思ってた通りナンパ下手ですね。初めて挑戦したんでしょうか?過去にされた陽キャの人達って本当に上手だったんだなって思い知らされますね・・・。
「ええと、私たち先程お茶したばかりですので、更にもう一杯ってのは・・・。貴方方も二杯目は辛いでしょう?」
「そ、そういわれてみれば俺もさっきがぶ飲みしてたし・・・でも大丈夫なんだな!なあ、直紀?」
場に沈黙が広がった。刹那はびくついたまま、大柄な男はきょとんとしていて、細身の方は顔がひきつっていた。
「に、二杯目?なんのことっすか?俺達はまだ―――――――――」
「二人でナンパするなら、もっと連携してやった方がいいですよ。――――店内でずっと私たちのこと、見ていたでしょう?気付いてないと思ってたんですか?」
刹那は状況が読み込めてないのか、頭の上には疑問符が浮かんでいるように見えた。
「ゲゲゲ、直紀・・・気付かれてるぞ・・・ど、どうする?」
「どうする?じゃないっすよ!!何やらかしてるんすか!!」
「・・・では、私たちはこれで。」
踵を返して、刹那の手を引っ張って立ち去ろうとした。だが————————
「まってくれよお!」
刹那の手を引っ張って私が反対方向に向かったから、後ろに隠れていた刹那が出遅れてしまった。だからこそ、大柄な男に刹那の反対側の腕をつかませる隙を与えてしまった。捕まれた瞬間、握った手から彼女が震えるのを感じた。
「いっ・・・嫌です!離してください!」
「せめて・・・せめて立ち話だけでも!」
「先輩!いい加減にしてください!」
細身が、大柄な男の頭を思い切りはたいた。そうしてホールドが緩んだことから、刹那は解放された。すぐさま私は、刹那の前に立った。
「な、直紀・・・なにすんだよお!」
「見てわからないんすか?見てください、震えてるじゃないっすか!」
「・・・!す、すいませんなんだな・・・!」
大柄な男は流れるように土下座を決めた。明らかに癖になっている動き。心の底から反省しているとは思えませんね。
「ほんとうちの先輩がすいません・・・。お詫びといってはなんですが、なんか奢らせてください!ちょうどいいスイーツ売り場を知ってるんですよ。ね、ね!露店ならすぐ終わりますしどうでしょうか?」
細身の方、仲間の失敗を利用しましたね・・・。私は露骨に嫌な顔をして、刹那の手を取って踵を返した。すると、刹那の震えが止まっていることに気づいた。そして、ぎゅっと私の手を握り返した。キッと彼らをにらみつける刹那を見て、私は非常に嫌な予感がした。
「いえ、結構です。私たちが望むのは、今すぐあなたたちがこの場から消えてもらうこと、それに尽きます。」
刹那は本調子に戻るどころか、イライラが募り過激な言葉をぶつけていた。
「まあまあそんなこと言わずに――――」
「っ!私に近寄らないで!」
反射的に、刹那は細身の男の手を払いのけていた。これはまずい。相手を逆上させかねない―――――
「ちょっとかわいいからって調子に――――」
そうして細身の男は、腕を大きく上げたその時、
「少年に何をするかぁぁぁあ!!」
一人の男――――ハムさんが私たちの後ろから走って近づいてきた。私は刹那の肩をつかんで、無理やりしゃがませた。すると、ハムさんは私の思惑に気が付いたのか、そのまま細身の男に、ラリアットをかます。
「ひでぶっ!」
細身の男はそのまま真後ろに倒れ込んだ。それからピクリとも動かなくなった。
「よ、よくも直紀を!!」
ピザデブがハムさんに襲いかかる。私が助け船を出そうかと思ったけど、ハムさんがいるから、私はなにもしないことにした。好きな人が襲われているのだから、きっとなんとかしてくれる。
「しつこいっ!!」
ハムさんは大柄な男を軽く受け流すと、大柄な男は勢いよくこけた。
「少年はお前らのような雑兵には過ぎた宝だ!今すぐ少年から離れろっ!!」
ハムさんの剣幕にデブオタは尻餅ついたまま後ずさり、
「は、はいぃ!立ち去りますぅ!・・・おい直紀!起きろ!!に、逃げるぞ!!」
「・・・はっ!す、すいませんでしたぁ!」
彼らはその場から走り去っていった。
「さて、邪魔が入ったが・・・・・・あえて嬉しいぞ少年!!」
「あ、う、うん…」
ハムさんはいつものようだった。いつもなら刹那はここできつい言葉を投げ掛けるんだけど・・・それがなくて、彼女の瞳はどこか遠いところを見ていて、顔は僅かに紅潮していた。
「フフッ・・・いつもの威勢はどうしたんだ?そんなにあの雑兵が恐ろしかったのか?」
「いや、そういうわけではなく・・・」
「まあいい。兎に角、難は去った。安心するといい。・・・では少年、いつもであれば、もっと君と一緒にいたいのだが、如何せん私には外せぬ用事が控えている。名残惜しいが・・・さらばだっ!!」
ハムさんは踵を返し、その場から全速力で去っていった。姿が見えなくなるまで、刹那はずっと彼の背中を見続けていた。いや、もしかしたら、ただぼうっとしていただけかもしれない。
「刹那・・・まさか・・・」
「いえいえ、そんなことあり得ません!なんであんな男なんかに・・・」
「私、まだ何も言っていないですよ?」
刹那はみるみる顔を紅くして、黙り込んでしまった。どうしてハムさんが来ない道を選んだはずなのに、彼が来てしまっていたのかということには、最後まで突っ込みませんでしたね。――――にしても、ハムさん、あれはずるいです。彼にとってはいつも通りなのでしょうが、そのいつもに救われました。私も、刹那も。