タマゴのカラを割らないでっ! ―彼女づくりのサポートはしてくれるのにできなかったら皆殺しってマジ?― 作:すうどんたくろう
~静乃視点~
後輩たちと怜を見送った後、残った四人は順番にシャワーを浴び、会長の部屋着を借りた後、食器を洗ったりといろいろしていると、時刻はもう10時を過ぎていた。なお、宮永部長は会長の家に私物を置きまくっているらしく、自分の部屋着を使っていた。人間、自分に関係の無いことは忘れてしまうことが多いせいか、あんな投稿があったのに、もう撮影会あたりのテンションに戻っていた。刹那は、昼間の暴漢に襲われたことが尾を引いていたのか、もうこっくりこっくりと船をこき始めていたので、一足先に寝ることとなった。会長の家でのお泊りを、口には出さなかったものの楽しみにしていたはずなのに、結局特に何かをするわけでもなく今日を終えたのだった。せめて少しでもいい思いを、と宮永先輩が計らったことで、刹那は会長のベッドで寝かせることとなった。なお、刹那は寝ぼけていたため、会長のベッドで寝ていることは理解していない。そして刹那を寝かしつけた後、会長と宮永部長はひとまずリビングに戻っていった。そしてぼくは、特にやることもなかったので、おそらく両親のものであろう、用意されたダブルベッドに寝転がっていた。寝てしまおうかとも思ったけど、まだ眠気は来ない。ベッドの上でゴロゴロしていると、卓上にスタンド式のカレンダーが置いてあることがわかった。いつもなら全く気に留めないのに、眠れず暇を持て余していたせいで、つい、そのカレンダーを手に取ってしまった。
「―――――――これって・・・」
そこには父親のだろうか、仕事の予定がびっしり書かれていた。そして気づいてしまった。
「・・・単身赴任にしては、家を空けすぎだよね・・・。」
これ以上考えるのも野暮だと思って、寝てしまおうと再度ベッドに戻ったが、一度じっくり思考を巡らせてしまったこともあり、脳がより活性化してしまった。眠れそうにもなかったから、リビングに戻って水でも飲むことにした。
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部屋を出てリビングに向かう途中、ちょうどリビングから出てくる先輩方に出くわした。
「あれ静乃ちゃん、まだ寝てなかったんだね。」
「まあ、眠くなかったですからね。でもやることないんで、頑張って寝ようとしてます。とりあえず、水分でも取ろうかと。」
「――――――やることないなら、ちょっとついてきてくれません?」
「え?結衣いいの?」
どうやら、先輩方はこれから何かするらしい。そして宮永先輩は、珍しく心配そうに蘇芳先輩を見ていたのだった。
「いいんです。私の素性は、彼女に割れてますからね。それに、近々この話はするつもりでしたので。」
宮永部長はその発言を聞き、なんで黙ってたのさ!と小言をつぶやいたあと、
「じゃま、静乃ちゃんもついてきて~」
と、手をひらひらさせたのだった。そして先輩方は、一番奥の部屋に入っていったのだった。扉を開け――――ようとしたが、想像以上に重かった。防音仕様になっている?―――――――そうか、そういうことか。てことは、
「これから、学園祭に向けたバンド構想を練ろうと思うんです。」
会長は部屋に入るなり、そんなことを言い出した。
「ああ、生徒会バンドですか?でもそれに我々は関係ないのでは?」
「いえ、そっちではないんです。」
会長は近くのギターのネックをなでながら、したり顔でこう告げたのだ。
「
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会長とは音楽でつながりがあった。ぼくは父親の影響でベースを趣味でやっており、かつ、中学時代の鬱屈した気持ちを発散するために、作詞をしていた。たまたま投稿した動画が、Suiというギタリストの目に留まり、一緒に動画投稿したりもしていた。Suiは弾いてみた動画が結構バズっていて、いろんなアーティストのギターを担当している。本人自身は作曲をしないから、Suiの名前は、他アーティストの動画のクレジットか、弾いてみた動画でしか見かけないだろう。表舞台には全然立っていなかったから、女性であることしかわからない謎のギタリスト、という知られ方をしていた。まさかSuiの正体が会長だったなんて、コラボしたときは思いもしなかった。
「ちょっ、ま・・・マジ?vanishって静乃ちゃんだったの?」
「え?ご存じなんですか?」
「ご存じも何も、vanishが作詞した楽曲に『嘔吐』ってあるじゃん?あれ作曲したの私だよ?」
「は?」
思わず普段出さない素っ頓狂な声が出てしまった。――――『嘔吐』と名付けられたぼくの書いた最初の歌詞、それが会長に見つかったとき、会長は「せっかくだから曲にしませんか?作曲できる知り合いがいるんです。」といったのだ。それで、火竜《かりゅう》というボカロPに歌詞提供とベースを担当して・・・・・・
「火竜って、龍華を逆にしただけじゃん!」
「そうだよ!てか結衣!なんでこんな大事なこと黙っていたのさ!」
「その時はまだ教えるタイミングではないと思ったからですよ。」
「なるほど、実はもう何度も曲作りしていたわけですね・・・」
火竜、というボカロPは、特定の音楽ジャンルを持たず、ラウドロックなど荒々しい楽曲から、リキッドファンクなど、しっとり落ち着いた楽曲を作ることもある。それゆえに、この人のファンは虫食いのように曲を聴いている。人で伸びる、というよりは、曲単体で伸びているイメージ。今回はどんなジャンルで作ったのだろうという物珍しさから一度は再生されるが、二度目からははまった人しか聴かない。ゆえに、再生数はyoutubeで10万再生が下限値、変にバズッたやつが50万~100万くらいまでいく。なお、『嘔吐』は20万再生くらいまでは伸びてくれた。
「世間は狭いですよね。―――――――で、どうでしょうか?一応今のところだと、既存1曲、新曲2曲を考えてますが、欲を言えば全部新曲にしたいと考えています。」
「3曲全部私が作詞やるのは正直ハードだと思ってたんだけど、静乃ちゃんが1曲作詞してくれたらなんとかやれそうかなって思ってる。」
「でもぼくは、あまり目立つことはしたくないというか・・・」
「あー身バレなら大丈夫だよ。当日は被り物とかもしてていいから。私も普段と違う格好でステージに立とうかなって思っていたわけだし。」
外堀がどんどん埋められていく。正直気乗りはしないけど、あの会長が頭を下げるのも珍しいし、何より宮永先輩が『嘔吐』を作ってくれた本人なのであれば、感謝の思いもあるから、期待に応えたいとも思う。
「・・・いいですよ。でもぼくが作詞するとなると、アングラな感じになりますが・・・」
「ありがとうございます!それも織り込み済みですよ。」
会長はぼくの手を強く握ってきた。温かい会長の手。自分の手がいかに冷えているか、その伝熱でよくわかった。
「じゃあ、具体的なスケジュールを考えていこっか!」
宮永先輩は、部屋の中にあったホワイトボードの前に立ち、意気揚々と進め始めていったのだった。今年の秋は、久々に青春ぽいことを楽しめそうだと、面倒がりつつも、ちょっと楽しみになってきた自分がいた。真っ黒だった中学時代に味わえなかった、青春を・・・。
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7/19(日)
目が覚めると―――――あれ、いつのまにか寝ていたのか。上体を起こそうとして―――――あれ、もう起き上がってる。―――――ああそうか、バンドの打ち合わせの途中で寝てしまっていたらしい。ぼくは座ったまま寝ていたようだ。先輩方は――――宮永先輩はみあたらず、会長だけがパソコンラックに突っ伏して寝てた。頭を横に傾けるタイプの突っ伏し方だったので、こちらからは寝顔が丸見えだった。学内で最高峰の顔面偏差値を持つ故、寝顔も美しい。ぼくはつい、ポケットからスマホを取り出し、写真に納めてしまった。
「―――――これはいつか会長に脅しをかけるときの材料にしよう。」
そのとき、ふとあることに気づいた。画面右上には現在の時間を表示している訳なのだが・・・
「8時半、まあ休みの日だからこんなもの―――――」
いやまて、この場を刹那に見られるとかなりまずくないか?会長の裏の顔がばれるのもそうだが、会長と同じ部屋に一晩いたってだけで、めんどくさいことになりかねない!
「先輩!起きてください!もう8時半です!」
ぼくは急いで先輩の肩を揺さぶった。先輩は重苦しく頭をあげ、後ろに大きく伸びをした。
「静乃さん・・・おはようございます・・・。って、どうかしましたか?珍しく焦った顔をして・・・」
「時間!時間を見てください!」
寝起きで意識が覚醒していないのか、欠伸を隠すため手で口を覆いながら自分のスマホに手をつけた。そして状況を把握したのか、眠そうな顔はみるみるうちにしゃきっとしていった。
「―――――まずは私が部屋を出ます。しばらくしたらスマホで呼び出しますので、その時に静乃さんが出て行ってください。これで刹那に変な誤解を持たれることはないでしょう。」
「了解です。ちなみに、宮永先輩は?」
「龍華は『寝るときはベッドでねるんだ!』と言いながら、静乃さんが寝落ちしたと部屋に戻っていきましたよ。」
「あ、ぼくが最初に落ちてたんですね・・・。」
「可愛い寝顔でしたよ。」
「よしてくださいよ。恥ずかしいじゃないですか。それにそれを言ったら・・・会長もかわいい寝顔でしたよ。」
「ふふっ・・・。私も投稿用の動画を編集していたら、そのまま寝てしまったようです。二人とも、やってしまいましたね。」
ばつの悪そうに会長は笑った。普段はキリっとしていたり、微笑みを浮かべたりと、校内では完璧超人感が漂っていたが、こんな表情もするんだな・・・。
「じゃあ、そういうことでいきましょう。刹那は人の嫌がることはしません。おそらく早く起きていたとしても、リビングでお茶でも飲んでいることでしょう。」
そういいながら、会長は部屋を出て行ったのだった。なお、その後すぐに会長から連絡があり、会長の読み通り刹那はリビングで報道バラエティ番組を見ながら紅茶をたしなんでいた。刹那が勝手に紅茶を淹れたわけではなく、リビングには宮永先輩もいたことから、宮永先輩が勝手にやったことなのだろうと解釈した。
ちなみに、泊まるきっかけとなった昨晩の不審者情報については、続報はなかった。RTも伸びてはいたけど、ついたコメントは目撃情報ではなく同情や怒りをぶつけるばかりで、役に立ちそうな情報はなかった。明るい時間だから大丈夫だろうということで、ぼくと刹那は二人で家に帰ることとなった。―――――――相手の同意を得ないまま、無理やり欲求を満たそうとするその傲慢さは粛清されるべきだ。一刻も早く、犯人を捕まえてくれ、と、ぼくは刹那と一緒の帰り道で、そう願うのだった。