タマゴのカラを割らないでっ! ―彼女づくりのサポートはしてくれるのにできなかったら皆殺しってマジ?― 作:すうどんたくろう
7/19(日)
休日はアラームをセットせずに寝るし、平日は有希がブザー片手に起こしに来るものだから、あまりスマホのアラームをセットする機会がない。だからこそ、今日の朝は非常に強い違和感を覚えながら、けたたましく鳴るスマホを手に取ったのだった。
「・・・八時か。まあ、いつもよりは早起きさんかな。」
俺は体を起こして、さっさと顔を洗いに行った。
――――――で、だ。デート練習のために珍しく早起きしたのにさ。サポート役の竜崎はまだ寝てるんだ。顔洗って着替えに戻ったらこれだもんなあ。俺は竜崎が寝床としているハウスの前に立ち、やつを起こそう―――――としたとき、ふとあることが頭をよぎった。踵を返して部屋から出、隣の有希の部屋への前に立った。ノックをしたが、返事がない。
「おい有希入るぞー」
平日の朝はいつも俺を苦しめていた
「となると・・・」
有希の眠るベッドに目を向ける。ベッドの角に小さな棚がある。そこには目覚まし時計や貴重品がおかれているのだが・・・
「もしかしたら…いやほぼ間違いなくあそこにおいてあるか。でもなあ・・・」
いくら妹とはいえど、ここに手をかけるのはいささか踏み込みすぎのように思える。もしこの棚が、誰にもみられたく無い自分だけの空間だとしたら、そこに無断で手をかけるのはよろしくないだろう。てかそもそも無断でしかも女子の部屋をあさっている時点で罪人か。どのみち怒られるなら、やることをやってしまえ。俺は奥の棚を調べるため、有希のベッドに乗った。ギシッと軋むベッド。有希が寝ている以上、ここで起きたら、はたから見れば寝込みを襲うヘンタイそのものだろう。頼むから起きないでくれ!ゆっくりと移動したのち、奥の棚をみると、予想通りソレはあった。ご丁寧なことに目覚まし時計の隣に置かれていた。俺がソレに手をかけようとしたその時、
【ジリリリリリリリリリリリ!!!!!!!】
唐突に、本当に唐突に有希の目覚まし時計がなり始めた。慌てて時計を見ると、時刻は八時十五分、こんな中途半端な時間に設定するか普通!?急いで目覚まし時計の上のスイッチを押してアラームを止めたが、勢い余って体勢が崩れ、棚を置いているせいで生じたベッドと壁の間、隙間にひどい音を立てて頭から落ちた。そして、動けなくなった。今思い返せば、なんで有希をまたいで棚を調べようと思ったのだろう。ぐるっとベッドを回ればこんなことにはなってなかったろうに。現在俺の上半身は隙間にすっぽりはまり、下半身が宙ぶらりんとなってしまっている。第三者からしてみれば、さぞ異様な光景だろう。すると、発見した人間の行動は1つしかない。有希の絶叫が響き渡ったのは、予定調和と言えよう。
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「兄さんは一体何がしたかったの?」
有希はベッドに腰掛け手足を組み、俺は硬い床に正座させられていた。当たり前の結果だろう。
「悪気はなかったんだ。ただいつも俺を起こす時に使っているブザーを借りようと思ってさ・・・竜崎を起こしたかっただけなんだ・・・」
「兄さんのスマホでうるさい音楽爆音で流せばよかったじゃん。なんでそうしなかったのさ。頭いい癖にそんなこともわからないの?勉強しかできないの?」
「――――――そっか、その手があったじゃん。」
「もう勘弁してよ・・・昨日とっても疲れたのに、朝からまた疲れることを起こしてさあ・・・ほんとクソ野郎だよ兄さんは。・・・罰として、東京土産を買ってくること!」
「―――――ちょっと待った。なんで俺が東京行くことを知っている?」
それは怜と竜崎しか知らないはずだ。情報が洩れるとすれば、この二人以外ない。
「怜さんから聞いたよ。怜さんって株で一山あてて金が余ってるんでしょ?それで、兄さんが引越しの手伝いしてくれた時の借りを返すってことで、東京観光をプレゼントって・・・あれ?違う?」
「いや・・・・」
怜、お前はそんな説明をしていたのか・・・。まあ、確かにもし東京行っていたことがばれたとき、かなり弁解するのがめんどくさいことになるからな。こういう設定を作るのも、わかる気がする。
「――――――まかせろ、東京ばななと東京ラスク、どっちがいい?」
「そこは兄さんのセンスに任せようかなあ。」
ムフフ、と笑う有希を見て、だいぶ機嫌が戻ってきたようで安心した。そして時計を見ると・・・すでに八時半。
「よし、じゃあ俺は飯食って身支度するよ。お土産期待しててくれな~」
俺はすっくと立ちあがり、有希の部屋を出た。慣れない正座をしたせいで、ふらつきながらリビングへと向かったのだった。
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「遼の着替えも終わったことだし、東京に飛びましょうか。」
「おう。」
怜の家に着くなり、昨日見繕ったオシャレ着に着替え、髪もセットしたあと、怜に連れられて、とある一室に入った。そこは、俺が怜の家に初めてお邪魔させてもらった時、ふと入ってしまった、パソコンとプリンタがぽつんと置かれ、”unchanged_Please continue to carry out the project.”と羅列されたプリントが散らばっていたあの部屋だった。勿論、あの部屋に入ったことは怜たちに教えていないので、初めて入ったていである。なお、例のプリントは今日はなかった。
「じゃあこのアイマスクつけて。」
と、怜はポケットから真っ黒のアイマスクを俺に向けてきた。
「守秘義務があるので、私がいいと言うまではつけたままでいてね。」
“守秘義務”…か。本当、怜は社会人みたいなことを言うなあ。俺は言われるがまま、アイマスクをつけた。視界が完全にシャットアウト。全くと言っていいほど光は入ってこなかった。
「そのまま動かず待っていて。いい?絶対だからね?」
「お、おう。」
「じゃあ怜、始めてくれ。」
竜崎の言葉を皮切りに、足音が鳴り始めた。怜が移動しているのだろう。それから、ピピピとまるで空中に浮かぶキーボードをタップするかのような音が聞こえ、程なくして止んだ。それからはすぐ、《ヴヴヴヴヴヴヴヴ》と地響きのような音が聞こえてきた。しばらくするとその音も鳴り止み、再び足音が聞こえてきた。その音はこちらに近づいてきて、止まった。目は塞がれて何も見えないが、正面に怜が立っていることはわかる。輻射熱というやつだろうか。
「じゃあこれから東京へ移動するわよ。準備はいい?」
「ちょっ、ちょっと待ってくれ。」
俺は大きく深呼吸をし、大きく伸びをした。
「・・・オーケイ。――――――さあ、俺たちの戦争≪デート≫を始め―――――」
「はいはい、さっさと行くわよ~」
彼女は俺の手をとって、前方へ歩き始めた。
――――すべすべしてる、やわらけえ、女の子の手って、いいなぁ…
――――じゃなくて!そのまままっすぐ歩いたら壁にぶつかっ―――――らない?
視界がふさがれていても、今部屋を抜け出たことは、はっきりとわかった。部屋の中で靴を履いていたから、フローリングの上を歩くため、コツコツと音が鳴っていたのに、今はカンカンと音が鳴っている。気温も明らかに下がっている。これは明らかに、何かしらの建物内。怜の話だと、いったん神界を経由するから、ここはすでに神界、ということだろう。それか、神界にいたのは一瞬で、もう東京のどこかの建物内に入っているのかもしれない。
なんてことを思っているとき、怜は急に、握っていた俺の手をはなした。
「どうした?もうこのマスクとっていいか?」
何故か返事はなかった。だから、恐る恐る手をアイマスクに伸ばした時、
「っー!駄目ダメ!絶対ダメ!今とったら殺すわよ!」
「す、すまん・・・」
やけに迫った怜の声が聞こえてきた。なんかあいつ、ぜえぜえいってるし。空間を繋げることは、かなり体力を使うことらしい。
「ちなみにフリじゃないからな?」
「んなこたあわかってるわ!」
「はあ…………とりあえずここで待ってて。」
すると怜は何処かへ歩いて行った。竜崎と2人、この場に取り残された。2人、といっても片方はフィギュアだから、実質一人でいるようなもんだ。そう考えると、急に寂しくなって、よくわからないところに置き去りにされてると考えると、急に不安になってきた。ぶるるっと身が震える。武者震いだ、と自分自身に言い聞かせた。
「なあ、ここって東京なのか?それとも神界?」
寂しさや不安を紛らわすために、俺はいつの間にか竜崎に話しかけていた。ただじっとしているだけなのは恐ろしかったのだろう。
「そうだ。」
「でも、実感わかないなあ。」
「まあそうだろうよ。」
空気は・・・あるよな。呼吸できてるし。手を前に伸ばして、なにかあるか探ってみたけど、空を切るばかりだった。
「変に詮索しないで、じっとしていなよ。」
「だって気になるじゃん。異世界だぞ?アニメや漫画の世界みたいじゃん。」
「その気持ちは理解できる。けど、とりあえず落ち着け。」
「でも…」
「“今は見せることができない”んだ。逆に言えば、“今度見せることができる”かもしれない。」
「―――――マジで?」
「神様は嘘をつかないよ。」
そのセリフを吐いた竜崎の顔は、アイマスクでふさがれていて確認できなかったが、その言葉は真実だと思いたい。
「じゃあ存分に期待させてもらおうかな!」
なんてやり取りをしていたら、いつの間にか気が落ち着いてきた。そしてそのタイミングを見計らったかのようにカツカツと足音が聞こえてきた。
「じゃあ、今度こそ東京行くわよ。」
「おうっ!」
怜は再び俺の手を取り、俺からみて前方に足を進めた。
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「もうアイマスクとっていいわよ。」
俺は恐る恐る目を覆っていたそれを取り外すと眼前には―――――
「・・・トイレじゃないっすか。」
そう、トイレ。多目的トイレ。
「次元を開く瞬間みられたらまずいでしょ?大多数の人の記憶いじるのってものすごく面倒臭いし。だから、ひと気のないところにつなぐ必要がある。幸い誰かいても、一人だけなら記憶操作もたやすいのよ。」
「いやいや、多目的トイレってエロマンガじゃよくでるヤリ場というか・・・」
「思考が汚染されてるわ・・・」
やれやれと額に手を当てる怜。そして、二人して多目的トイレから出ようと扉の前に立ったその時、突然トイレの扉が開かれた。そして・・・
「あ、阿部さんっ・・・!僕っ・・・もう我慢できないっ・・・!」
「よしよし、思う存分気持ち良くなろうぜ・・・」
いかつい男♂2人が入ろうとしてきた。彼らの下腹部では大きなテントを張っていた♂
怜は完全に硬直して、動けずにいた。
「おっと、先客がいたようだね道下君。どうする?よけてもらうかい?」
「し、失礼しました~~!!!!」
道下と呼ばれる男の返答を待たないまま、俺は怜の手を取り、急いでその場から逃げ出した。なぜ俺が謝らなければならないのだ、と思う一方で、マジでエロマンガみたいなこと起っちまったじゃん!と思ったのは駆け出してしばらくしてからであった。