タマゴのカラを割らないでっ! ―彼女づくりのサポートはしてくれるのにできなかったら皆殺しってマジ?―   作:すうどんたくろう

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2-3-2 「俺はあと何回、経験豊富な女性相手にピエロを演じればいいんだ?」

 とにかくその場から離れたい一心でトイレから駆け出した。しばらく走って、大きな通りに出ると、そこはスクランブル交差点。渋谷だ。本当に俺たちは東京に来たのか。立ち止まっていても仕方がないし、何より隣の怜は放心状態で、なすすべもない。俺は怜の手を引っ張って近くのスタバに入った。ドリップコーヒーのショートを二つ注文し、ゆったりと腰掛けた。改めて怜を見ると、まだ目は虚ろだった。

 

「・・・マジでヤリ場はヤリ場でも、ハッテン場のほうだったね。」

「・・・」

 

 返事がない。ただの屍のようだった。しょうがないから、例の眼前で手をひらひらとさせてみる。が、それでも反応がない。俺は席を立って怜の隣に立ち、肩をぐわんぐわんと揺らした。そこでようやく、ハッとしたようだ。

 

「あれ?ここはどこ?」

 

 あたりをキョロキョロと見渡したあと、店内に漂うコーヒーの香りに気が付いて、ようやく喫茶店だと察したのか、大きなため息を吐くとともに、椅子の背もたれに全体重を預けた。

 

「―――――ごめんなさい、切り替えるわ。」

「俺もだ。こんなことで出ばなをくじかれてたまるかよ。」

 

 そうして俺も席に戻った。ほどなくして、店員がコーヒーを二つ運んできた。その店員は綺麗な黒髪をもち、ふたつのお下げを肩に垂らし、黒基調の制服に身を包んだ清楚系美少女であった。ご丁寧なことに、胸元にはネームプレートをつけていた。

 

「お待たせしました、アメリカンコーヒーでございます。」

 

 彼女は俺らに背を向け、その場をあとにした。さっきまではテーブルが邪魔で見えなかったが、今は見える。膝丈スカートから伸びる黒パンストがたまらない。細めの脚に俺はただただ見とれていた。

 

「―――――あの娘の名前を早速書いてみたら?」

「ど、どうした急に?」

「明らかに挙動不審だったもの。なに、うまくいくにしろいかないにしろ、反応で分かるし、うまくいかなくてもノーリスクなんだから大丈夫よ。ただ、うまくいかないからと言って破かないでね。記憶破壊が起きちゃうから。」

「しれっと怖いこと言わんでくれよなあ。じゃあ怜、あの店員が近付いてきたら呼んでくれ。やっぱ砂糖とミルクほしいっていえばいいから。」

 

 俺はすぐさま渡されていた告白券を取り出し、彼女の名前をいつでも書けるようスタンバった。そしてちょうど、近くに例の店員が来て―――――

 

「あの、すみませんちょっといいですか?」

 

 怜が店員を呼び止めた。よし!今がチャンスだ!俺はすぐさま店員の名前を告白券に書き連ねた。

 

「あ、はーい。いかがいたしましたか?」

「やっぱり砂糖とミルクが欲しくなったからいただけませんか。―――――ねえ、遼の分もいる?」

 

 怜は俺に目配せをした。俺に彼女と話せということだな?任せろ!

 

「ええ、私の分もいただけませんか、平松さん?」

 

 俺は精一杯のキメ顔で店員の名字を呼んだ。もし告白券が効いているなら、ここで何かしらの反応があるはずだ――――――――

 

「え?――承知いたしました。少々お待ちください。」

 

 平松店員は足取りも特に変わりなく、バックヤードへと戻っていった。

 

「あれ?何も変化がなくね?」

「これは―――――」

「いや、怜、言わなくていいんだ。あんなに可愛いんだ、彼氏の一人や二人いてもおかしくない。きっと彼女を大切に思っているかっこいい彼氏さんがいるだろう。俺みたいなヘンタイ野郎が手を出していい女じゃなかったんだ・・・」

「こんなことで一々落ち込んでたらこの先辛いわよ。何回トライアンドエラーを繰り返すと思っているのかしら?」

 

 その言葉を聞いて、俺はげんなりした。わかってはいたし、ちょっとの覚悟もしていた。が、セックス経験の有無を嫌でもわからされるのは、下世話なことだし、いい気持ちはしないものだなあと思った。

 

 

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 あのあと平松店員は砂糖とミルクを持ってきたのだが、もちろん俺への特別なアクションはない。本当に空振りのようだった。悲しい気持ちで喫茶店を出た後、片っ端からショップやオフィスに入って気に入った女の名前を書きまくった。しかし、どれも空振り。そうして10回ほど空ぶったころには、時刻は正午になっていた。ちょっと気分を落ちつけたくて、近くにあった公園まで足を運んでいた。手には告白券とペンが握りしめられている。すぐ名前を書けるようスタンバり続けたなれの果ての姿である。

 

「怜、教えてくれ。俺はあと何回告白券に名前を書けばいい?俺はあと何回、経験豊富な女性相手にピエロを演じればいいんだ?」

 

 俺は公園の噴水前で、怜に嘆きを伝えた。

 

「うーん、成人女性はやっぱり厳しいかしら。あの年で可愛くて処女ってありえないわよねえ。」

「竜崎、俺の予想は当たっていたじゃないか・・・」

「まあまあそんなに落ち込まないで。まだまだ時間はあるじゃないか。」

「俺はさっさと終えてアキバに行きたいんだよう!」

 

 駄々をこねた後、疲れて俺は近くのベンチに腰掛けた。

 

「・・・とりあえず、ずっと飲まず食わずだったし、何か飲み物でも買ってくるわよ。これでも不憫に思っているのよ。誘ったのは私だし。これで慰めになるかはわからないけどね。飲み物のリクエストある?」

「じゃあキリンガラナで・・・」

「わかったわ。ちょっと待ってなさい。」

 

 怜はくるりと反転し、公園の出口へと向かっていった。そうしてぼけっとしてしばらくして、キリンガラナは北海道限定で、東京だとしっかり探さないとないことに気が付いた。やべっと思い、連絡しようとポケットのスマホを手に取ろうとしたとき、着信音が聞こえてきた。流石怜、判断が早いぜ。そうしてスマホを手に取ったが、画面は真っ暗なままだった。

 

「―――――国広君、着信音は下から聞こえるぞ?」

 

 竜崎は胸ポケットからベンチへ飛び下り、ベンチの下を指さした。俺はベンチの下をのぞき込むと、そこには別のスマホが落ちていた。右手に持っていたペンを置き、手を伸ばして取ってみる。画面上にはただの番号が表示されていたから、連絡先外の人が、このスマホにかけていたのだろう。明らかにこれは落とし物だ。もし俺がスマホを落としたらどうするだろうか、きっとだれかからスマホを借りて、電話をかけるだろう。それを踏まえると、俺がとるべき行動は―――――

 

「はいもしもし。」

「あ、やっとつながったー!」

 

 電話口から聞こえてくる声は、可愛らしいものだった。

 

「電話出てくれてありがとうございます!スマホ落としちゃって困ってたんですよー。」

「やっぱりそうだったんですね。逆の立場なら同じようにしてますよ。―――――それで、私はどうしたらいいですか?」

「ええとですね、今あなたがいる住所ってわかります?」

 

 俺は左手で握っていた告白券をいったん竜崎に預け、自分のスマホで現在地の住所検索をした。そしてその地点を伝えると、

 

「あーやっぱそこで落としちゃってたかあ。―――――そしたら、今からそちらに行きますので、そこで待っていてもらえます?多分10分くらいでつくので!」

「了解しました。噴水前のベンチでお待ちしています。」

「本当にありがとうございます!―――――そういえば、お名前をまだお聞きしていませんでした。私は戸隠桜子って言います。スマホを受け取るときに身分証も出しますね。だから、違う人にスマホ渡しちゃだめですよ?」

「ええと――――すいません、もう一度お聞きしてよろしいですか?」

 

 一気にいろいろ話してきたものだから、いろいろと聞き漏れが生じている。俺はスマホを左手に持ち替え、右手でペンをとった。メモしないと・・・。紙は・・・早くしないと・・・。そうしてきょろきょろしていたら、()()()()()()()()()()()()がちょうどよくそこにあったので、急いでそこにメモを取っていく。

 

「えっと、私はまず、戸隠桜子っていいます。網戸の戸に、隠れる、桜は簡単な方の桜で、子は子供の子です。今の服装は、簡単に言えば地雷系ファッションです。きっと見ればわかります。今から10分後くらいに、そちらに着きますので、私を見かけたらスマホをそれらしく見せてくれれば、話しかけに行きますので。一応証拠として身分証も見せますので、別人にスマホを渡さないでくれると・・・。」

 

 俺は言われるがまま、メモを取っていく。彼女の名前を書き、服装について、身分証に・・・

 

「――――了解しました。お待ちしております。」

「ありがとうございます!じゃあまた後程!」

 

 そこで通話は切れた。そうしてメモをまじまじと見て―――――――

 

「――――――やべ、これ告白権じゃん。」

「え?使う気なかったのに名前書いてしまったのかい?」

 

 俺は竜崎に引きつった笑い顔を見せた。竜崎は呆れてため息を吐いた。

 

「ちなみに、名前以外のことを書くとどうなる?」

「特に何もないから、そこは気にしなくていい。」

「おけ、それなら安心だ。―――――で、俺は電話口の戸隠桜子さんの名前を書いてしまったんだが、俺はこの人の顔を知らないんだ。こういう場合、どうなるんだ?」

「告白券の効力は、名前を書き、対象者が名前を書いた人間を認知したときに発揮される。視界に入るだけじゃだめだ。認知まで必要だ。―――――ちなみに、電話の内容は何だったのかな?」

 

 俺は事の顛末を竜崎に話した。すると竜崎は手を顎に当てて考えるそぶりを見せた。

 

「――――――それならば、その戸隠さんが国広君のことをしっかり見た瞬間に効果が出るだろうね。」

 

 なるほど、と俺は頷いた。ただ、午前中のことを考えると、今回も望み薄な気がする。それに地雷系ファッションとか言ってたな?これでヤバイおばさんだったらどうしよ。何かわからないかなと思って、俺は戸隠さんのスマホをまじまじと見てみる。透明なスマホカバーの裏側には、ステッカーが貼ってあって・・・

 

「え?これSnow Miku 2020の会場限定ステッカーじゃん!?!?」

 

 さっぽろ雪まつりの期間中に同時開催されるSnow Mikuのイベント、その会場内に入るともらえるステッカー。これがあるということは、道民か、札幌遠征までやれちゃうほどのミクオタ。同志というだけで、かなり気持ちが和らいだ。ヤバイおばさんだったとしても、話はできそうだ。スリープを解除すると、壁紙は・・・

 

「え?これマジカルミライ2019のミクの等身大フィギュアじゃん!?!?」

 

 これはただのミクオタだ。東京で道民に会うとは考え難い。ここの場所も、割とすぐ理解してたし、東京の人だとは思う。そうして、まだみぬ戸隠さんに心躍らせながら、ベンチに座っているのだった。ちなみに、怜は、いまだに戻って来ていない。

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