タマゴのカラを割らないでっ! ―彼女づくりのサポートはしてくれるのにできなかったら皆殺しってマジ?― 作:すうどんたくろう
3-1-1 「一目見た時から好きなの。会えてうれしい。」
7/20(月)
国広遼は小学生の時に萌えアニメにはまってしまったせいで、生粋のオタクとなってしまった。3次元より2次元といった生活をしていたせいで、女性からの好意には鈍感だった。アンテナを張っていないから、当然である。もっとも、アンテナを張っていたとしても、そんなキモオタ野郎に好意を寄せる相手など、いるはずもなかった。特に、小中学生から彼を知っている人は、そのキモさが積み重なっているせいで、なおさらそう思い難くなっている。顔自体は悪くないのと、高校生からはキモさが少しマイルドになったおかげで、黙っていればまだマシ、レベルにはなっていた。特に最近は、怜がきて強制的に恋人作りをさせられていたことで、無意識ながらも、キモオタから面白いオタへと変わり始めていたのだった。だからこそ、今の遼は話の面白いオタク男子がタイプって子には突き刺さってしまうわけだ。これが、神様である私、竜崎のプロファイリングだ。とはいえ―――――
「・・・どうしてそうなっちゃったかなあ・・・」
遼から事の顛末をすべて聞いたとき、フィギュアに憑依している身でありながら、起こりもしない頭痛がしてきそうなのであった。
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「一目見た時から好きなの。会えてうれしい。」
俺は神様である竜崎と、そのエージェントである怜から、「彼女を作らないと殺す」と脅されている。彼女づくりのサポートアイテムとして、渡されたのは告白券という小さな便箋。これは、名前を書いた相手を惚れさせる、というものである。ただ、うまくいかなかった場合、相手の記憶操作が起こるというデメリットのせいで、知り合いには使う気がさらさら起きていなかった。そんな告白券を使ってみようと、怜と東京での告白券の練習を行うことにした。地元の札幌よりは、知り合いの誰もいない東京なら、あとくされないだろうという判断のもとである。そして、その相手に意図しない形でなってしまった戸隠桜子さん、彼女だけが唯一、話が弾んでおり、最後には抱き着かれるほどの好意を向けられた。そして後から分かったが、これは俺が名乗らなかったことで告白券が不発であり、催眠なしで俺に好意を向けてきてくれたようだ。そんな彼女が、なんとこの北山高校に転校してきていたのだった。
その戸隠さんに階段の踊り場で抱き着かれて、俺は身動きが取れなくなっていた。アキバに行ったときに竜崎に一応確認すると、相手にされたことは、基本同じようにしても問題ない、とのことだった。だから、俺が抱き返しても何の問題もない。が!だが!東京で告白券(不発)を使った時とはわけが違う!こんな知り合いだらけの、かつ授業中で本来で歩けない時間帯でってなると、とんでもないことになっちまう!しかももうすぐ授業も終わるし、こんな光景見られでもしたら・・・
「ちょ、ちょっと待って!戸隠さん、ちょっと待って・・・いったん離れていただけると・・・」
俺は何とか戸隠さんの肩をつかみ、距離を取らせた。戸隠さんはぷくーっ頬を膨らませていた。かわいい。
「なんでそんなによそよそしいの?東京の時はあんなに饒舌だったのにー」
「さ、さすがに校内で抱き着かれるのは恥ずかしいって・・・」
「じゃあ校内じゃなければいいの?」
「や、そういうわけじゃ・・・」
俺が煮え切らない態度をとっていると、戸隠さんは指先を合わせ、人差し指をくるくるさせながら、
「ねえ、告白の返事、まだ聞いてないなあ。」
「ほわわ???」
この子、ガン攻め過ぎる。オタクは女体に弱いし押しにも弱いんだ。
「―――――と、友達からじゃダメでしょうか?あの数時間じゃ、お互いのこと知り切れないしさ・・・」
「・・・まあ、そんなことだろうと思ってた。―――――私のこと嫌い?好き?」
「そりゃ好きか嫌いかならめっちゃ好きだよ!オタトークできる女友達全然いないしさ。」
「なら、全然チャンスありそう!君―――――遼君のこと、その気にさせてみせるから!」
「ほわわ?????」
俺、わからないゾ・・・。女の子って、告白がうまくいかなかったときもこうして引き下がらずに―――――いや、これ五等分の花嫁で見たやつだな???俺、今フー君になってる???
なんてことを思っていると、終了のチャイムが鳴る直前になっていた。流石に授業ブッチするのは梓先生に殺される!
「――――とりあえず、俺はいったん教室に戻るかな。流石にトイレ長すぎて先生に疑われそうだし・・・。てか戸隠さんは?なんで授業中のはずなのにこんなところに?てかそもそも何組なの?」
「クラスは5組だよ。で、今ここにいる理由は遼君と同じだよ。ちょっとお手洗いに行ってて、ただ、転校したてだったからトイレの位置がよくわからなくて、ぐるぐるしてたんだあ。」
「お、それは確かに大変だな。」
「そうなんだよね。ほんと、転校するならせめて夏休み明けにしてくれれば――――――」
と、戸隠さんがぼやき始めたとき、ふと、彼女は何かを思いついたような顔をした。そしてこちらを笑顔で見つめてきた。
「な、何かな・・・?」
「改めてみると、やっぱり顔もタイプだなって。」
「ほわわ??????」
アカン、俺、好きになっていいか?もう振り向いちまいそうなんだが・・・。
「あはは、遼君って面白いリアクションするんだね。東京で話した時にもうすうす思ってたけど、結構いじられキャラでしょ?」
にやっとしながら戸隠さんは前かがみになってこちらを見上げてきた。
「なぬ!見抜かれるのが早すぎる。」
「わかりやすすぎるよ~。でね、生徒手帳なんだけど、これ、昼食後に取りに来てくれる?」
そういって戸隠さんは胸ポケットに俺の生徒手帳を
「え?今返してくれるものだとばかり・・・」
「私にこの学校を案内することと、交換条件ね。」
そ、そうきたか~~~~~!この女やりおるわ。
「それくらいなら全然いいよ。でもびっくりした。昼食一緒にとってとか言われるものだと。」
「もう約束しちゃってるからね~。」
「そっか、それならしゃーなしだな。」
「しゃーなしってことは、残念だって思っているってこと?」
「・・・さ!教室戻ろっか!」
「もう、しょうがないなあ。」
雰囲気で使っているだけだってことを追及されたくなかったから、俺はさっさとその場を後にした。戸隠さんと一緒にいる場を見られるとまずいから、彼女を置いて駆け足で戻っていった。
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「遼・・・さすがにクソ、長すぎ・・・」
教室に戻るなり、オタク仲間の伊藤修二が俺をいじってきたので、それに乗っかることとした。
「ちょっとお便秘がひどくて・・・」
「大丈夫・・・?下剤飲む・・・?」
「それは梓先生のためにとっておいて!」
「私は便秘で悩んでいません!」
ゲラゲラと教室内でまたも笑いが巻き起こった。
「てことは、快べ――――――」
「伊藤君?いっていいことと悪いことがあるの、わかっていますよね?」
現代文を担当している、学園のマスコットこと梓先生がぴしゃりというと、伊藤含め全員がそれきり黙り込んだ。梓先生をいじりすぎるとめんどくさいことになると、みんなもわかっているからだ。
「あはは、伊藤もアホな奴。」
俺は席に着きながら伊藤をいじっていると、ほどなくして、チャイムが鳴った。
「それじゃ、今日の授業はここまでね~。」
梓先生はそういって、出席簿を持って教室を出ていったのだった。授業が終わるなり、教室が活気づいてきた。先ほど怒られていた伊藤は俺のところに駆け寄ってきて、
「なあ遼っ・・・!例の転校生見に行かないかっ・・・!」
「えぇ・・・同じこと考えている人多そうだし、やめとくわ。」
俺は伊藤を無視して弁当箱を取り出した。今俺が戸隠さんに会うのはまずすぎる。なんてことを考えていた時、予想外の方から声がかけられてきた。
「・・・遼、質問していい?」
「ん?どうしたの?」
「後ろの席だから、アンタのこと嫌でも視界に入るんだけどさ。」
「うん、ごめんね、無理やり視界に入っちゃって。」
「今日現代文の授業始まる時、梓先生だからって調子こいて休憩ぶち抜いてずっと寝てたよね?」
俺のボケを完全に無視して、萩原静乃は話を続けていた。彼女は俺を詰ることに喜びを感じている生粋のサディストだ。頭もよく切れるため、下手に隙を見せると、そこを突いていじってくる。腐った魚の眼、地毛でホワイトアッシュの髪色のため、基本人は寄り付かない。小学生からの幼馴染のため、昔の彼女を知っているが、小学生の時はもっと明るくて、クラスの中心人物だった。小学6年くらいから、急にキャラが変わって、中学生はクラスカースト最下位にいるような人だった。高校では、割と復調して、今では独自のポジションを築いていたのだった。
「うん?そうだけど・・・」
静乃の質問の意図を汲み取れないまま、俺は弁当の米を口に運ぶ。
「転校生の話が6組に入ってきたのって、現代文の前の休憩時間だよ?なんでも、学校来たのが10時過ぎだったって話だし・・・
俺は口に箸を運んでいたのだったが、手が止まった。
「や、寝てるとはいえちょっと話が入ってきたからさぁ。それに可愛い子だってわかっているのなら、より男子たちが群がるじゃん。飯の食い時を逃しそうだしさあ。」
俺は苦し紛れの言い訳を静乃にしていた。ガチで寝てたからそんな噂が出回ってただなんて知らなかった。そりゃ、戸隠さんクッソ可愛いし、東京からきたとなれば、目立ちもするだろうさ。が、静乃は俺の言葉を聞くなり、ニンマリと不敵な笑みを浮かべるのだった。
「
や、やられた・・・。完全にチョンボだ。なんとか巻き返せないものか・・・?
「そ、そりゃ、女好きの朱鳥からのタレコミだよ。ほら、奴って5組じゃん?同じクラスに来た転校生じゃん?俺と朱鳥ってマブダチだから、情報も早く回ってくるんだよ。」
静乃は俺が弁解をとればとるほどニヤニヤ笑ってきた。
「今日朱鳥は欠席ですよ。公欠でいないから彼の仕事もやらなくちゃ・・・。てか彼女なら―――――」
その話を聞きつけた刹那が、弁当箱を持って空いている机に座った。彼女は生徒会役員であり、清楚な美少女ポジを確立している。中学からのなじみであり、静乃の親友である。
「
「あはは、あはは、あはははは・・・」
俺は乾いた、引きつった笑いをするしかなかった。だめだ、奴に嘘は通じない。てか、俺は追い込まれるとダメだ、思考が全くはたらいていねえ。
「遼っ・・・!どういうことだっ・・・!なぜ転校生が超絶美少女だと知っているっ・・・?」
「伊藤、これはだな―――――」
俺が必死で言い訳をしようとしていたその時、教室前方から、この学校の制服とは違うカラーの子がひょこっと視界に入ってきて・・・
「刹那ちゃん、お待たせー。ここでよかった――――――――」
俺はその声が聞こえた瞬間、反射的に頭を下げた。そして飯を一気に掻き込んだ。だが、そんな俺の挙動不審な態度を、静乃は見逃さなかった。
「あれ、遼、どうしたのかな?急に姿勢低くしちゃってさあ!ほら、背筋をピンとのばしなよ!」
静乃は席を立って、俺の裏に回り、背中をつつーっとなぞった。
「ひゃうっ!」
今度は反射的に背筋が伸びた。そして、弁当箱をもった戸隠さんと、目が合った。そして―――――
「え?遼君と刹那ちゃんって同じクラスだったの?なんて運命なんだろー!」
刹那と俺のいる席に向かって、手を振りながら近づいてきた。そして、刹那のいる席ではなく、俺の目の前に座ってきた。
「―――――え?遼君?桜子さんと遼君って知り合いだったんですか?」
刹那が純粋な興味で桜子さんに問いかける。やめろ刹那、戸隠さんじゃなくて俺に聞いてくれ!じゃないと――――
「えっとその――――」
「昨日東京でデートしたもんねー遼君?」
これまでの彼女の行動を見る限り、大胆かつ行動力がありすぎることがわかっている。けれど、有る程度の良識もあるっぽい。だからこそ、彼女自身も、この爆弾発言はまずいとわかったのか、数秒経ったのち、口を手で可愛らしくふさいだ。なお、その行為そのものが事実をイケないもの感を高めてしまった。そしてその話は、瞬く間に教室の内外に広がっていくこととなってしまったのだった。このことを皮切りに、俺の人間関係は、汚泥のようにずぶずぶと複雑怪奇なものへとなっていくのだった。